【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

初めての魔法取得




「――ッ」

 頭が割れるように痛い。
 額を押さえながら上半身を起こそうとすると両腕から重みを感じた。
 
 ――よくよく見ると江原が右手を、佐々木が左手を抱き枕のようにして寝ている。
 いったい、どうしてこんなことになったのか……、まったく覚えてないぞ?

 疑問を呈した瞬間、視界内に半透明なプレートが拡大されログが流れる。



 ――アルコールにより二日酔いを確認しました。



「ふむ……、なるほどな……」

 俺は、部屋の隅に転がっている札幌ビールを見て溜息をつく。
 たしか、付き合いで1杯目を飲まされた記憶がある。
 そのあとは、何杯か飲まされたような……。
 駄目だ……、思い出せないな。

 まったく、俺としたことが何て無様な――。

 ――だが!

 たとえば、佐々木相手なら、お前ひとりでビールでも飲んでおけと突き放すことができた。
 でもアパート管理人であり杵柄さんの孫にあたる江原に対して同じような態度で接することはできない。
 まったく、困ったものだな。 
 
 二人が起きないように立ち上がる。
 それにしても二人ともどういう格好をして寝ているのかと俺は突っ込みを入れたい。
 半分、下着姿で寝ている様子から、もう少し恥じらいというのを持ってほしいものだ。
 俺じゃなかったら襲われているところだ。
 江原の部屋から外へ出る。
 その際にも扉が音を立てないように静かに閉めることは忘れない。

「昼くらいだと思っていたが……、そうでもなかったようだな――」

 肌を刺すような寒さから、早朝だと言うのが何となく察せられる。
 江原の部屋は101号室。
 道路側に面している階段も近いということもあり、すぐに2階へと上がることができる。
 階段を上がろうとしたところで、一人の女性がコンビニ帰りだろうか? 目が合った……。
 初めてみる女性だ。

「はじめまして」

 一瞬、女性の目が見開かれたのを見てとったが、何が予想外のことでもあったのか……。
 それよりも、一つ気になったことがある。
 女性は、アパートの敷地内に立っていることだ。
 昨日、江原が言っていた。
 アパートには、俺と佐々木と江原しか暮らしていないと――。

 ――なら、この女性は誰だ?

 不思議に思いつつも「はじめまして」と、俺は女性の挨拶に言葉を返す。
 挨拶は社会人の基本だからな。
 一応、念のために「解析LV10」で、ステータスだけは確認しておく。



 ステータス

 名前 藤堂(とうどう) 茜(あかね)
 職業 軍人 ※陸上自衛隊一等陸士、内閣情報調査室所属
 年齢 24歳
 身長 152センチ
 体重 47キログラム
 
 レベル118

 HP1180/HP1180
 MP1180/MP1180

 体力27(+)
 敏捷29(+)
 腕力23(+)
 魔力 0(+)
 幸運 6(+)
 魅力22(+) 

 所有ポイント117



 …………陸上自衛隊、しかも内閣情報調査室所属というのは以前にも見たことがある。
 たしか山根も同じ所属だったような……。

「どうかしましたか?」

 無言になった俺を気遣ったのか彼女は語り掛けてくる。
 俺も、不審に思われないように言葉を選ぶ。

「――いえ。管理人から、アパートに住んでいる住民は3人だけと聞いていたので――」
「ああ――、私は、ずっと海外に仕事しに行っていましたので、アパートを借りていても住んではいなかったのです。おそらく、それでかと思います」
「なるほど……」

 辻褄は合っているな。
 まぁ、陸上自衛隊の人間が同じアパートに偶然住んでいたとしてもおかしくはないだろう。

「今日からは、こちらで住むことになりました。104号室の藤堂茜といいます。よろしくお願いします」
「こちらこそ。204号室に住んでいる山岸直人と言います」
「すごく奇遇ですね! 私の上の階に住んでいらっしゃるなんて!」
「ええ、まあ……」
 
 本当に奇遇だ。
 まるで誰かにお膳だてされているくらい……。

「山岸さん、良かったら今度一緒にパスタでも食べにいきませんか? ほら、同じアパートの住人として! どうでしょうか?」
「いえ、結構です」

 即答する。
 明らかに話が上手すぎる。
 裏があるとしか思えない。
 俺のような中年に、年若い女性がアピールしてくるわけがない。

「そ、そうですか……。それなら、今度、うし屋のキング牛丼でも奢ります!」
「分かりました。すぐに行きましょう! いまからでもOKですよ? 自分も牛――じゃなくて、藤堂さんとお話をしたいと思っていましたからね」

 やはり、女性からのアプローチを断るのは男としては良くない。
 それに人を疑ってはいけないと言うのは世の中の常識。
 美しい女性にデートに誘われたのなら受けるのが紳士の嗜みだろう。
 裏があるとかそういうのを考えて断る男など底が浅い! としか思えない。

「――そ、そそ、そうですか……。それではお昼に、アパート前で落ち合いましょう。車を用意しますので」
「分かりました!」

 キング牛丼のやくそ――、じゃなくて藤堂との約束を取り付けた。
 これは、お昼が楽しみだな。

「それでは、失礼します」
「はい」

 彼女と別れたあと、俺は階段を軽やかに上がっていく。
 食べそびれた牛丼よりも、さらに上のランクの牛丼が食べられるのだ。
 しかも無償で!

 牛丼が好きな人間には悪い奴は居ないというのが俺の持論だ。
 つまり藤堂は良い人ということか。
 ふむ……。
 
 さてと……、あとは……。 
 
「ご褒美は、後に取っておくとしよう。まずは、お昼まではレベル上げでもするか……」

 そう、まずは魔法が覚えられるレベル500が目標だな。



 自宅に戻ったあとは、出しっぱなしであった妹の分のフライドチキンやケーキなどを冷蔵庫に仕舞う。
 そのあと、部屋を片付けデスクの引き出しを開ける。

 相変わらず、ミニチュアダンジョンが存在しており、無数の1センチから2センチの置物が動いている。
 
「――さて……」

 台所で、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出しキャップを開けてから、そのまま飲む。
 部屋の中は寒いが、それ以上に水は冷えていて冷たいが――。
 アルコールが入った飲料を飲んだあとは丁度いい。
 まだ、頭がくらくらする。



 ――スキル「アルコール耐性LV1」を手に入れました。



 良いスキルが手に入ったな。



 「アルコール耐性LV1」(ON/●OFF)→ 「アルコール耐性LV10」(●ON/OFF)



「――まだ頭が痛むな……」

 アルコール耐性を上げれば、二日酔いがすぐに改善すると思っていたが、どうやら違うようだ。
 念のため、どういうスキルなのかチェックしておく必要があるか。
 


 ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 71キログラム

 レベル1(レベル449)
 HP 10/10(4490/4490)
 HP 10/10(4490/4490)

 体力17(+) 
 敏捷15(+) 
 腕力16(+)
 魔力 0(+) 
 幸運 0(+)
 魅力 2(+)

 ▽所有ポイント 372



 続けてスキルをチェックする。



 スキル

 ▽「ロリ王LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「JK交際LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「隠蔽LV10」(●ON/OFF)
 ▽「ポーカーフェイスLV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「#JWOR」
 ▽「ZH)N」
 ▽「大賢者」(●ON/OFF)【出張中】
 ▽「アルコール耐性LV10」(●ON/OFF)
 ▽「救急救命LV10」(●ON/OFF)
 ▽「限界突破LV10」(ON/●OFF)
 ▽「バーサクモードLV10」(ON/●OFF)

 ▽所有ポイント 372



 スキル「大賢者」が出張中?
 なんだ、この出張中というのは……。
 
「大賢者、反応をしろ」

 うんともすんとも反応しないな……。
 いったい、どうなっているんだ?
 この、大賢者の出張中の意味合いが理解できない。
 
「――仕方ないか……」

 次に、スキル「アルコール耐性」を選ぶ。


 
 ▼「アルコール耐性LV10」

 アルコールを飲んだ時に、アルコール成分を瞬時に分解することができる。
 
 ※飲んだ後に、スキルをONしても意味はない。



 なるほど……。
 つまり、アルコール飲料を飲んだあとにスキルを発動させても、効果は得られないということか……。
 これは、常時発動状態にしておいた方がいいな。
 とにかく、二日酔いは改善されないと――。

 まぁ、仕方ないな……。
 とりあえず水を飲みながら、レベル上げをして魔法を覚えるとするか。
 デスク前に座り、引き出しの中のミニチュアダンジョン内の人形へと視線を向ける。

 とりあえずコイツからだな。
 黒い1センチほどの人形を指先で潰す。
 すると、半透明のプレートが視界内に表示される。

 

 ――レベル779 ブラックダイアモンアイズドラゴンを討伐しました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。



 やはりと言うかログが高速で流れる。
 俺はログを閉じたあと、次々と人形を潰していく。
 プチッ、ミシッ、メキッと多種多様な音が耳に聞こえてくる。
 それと同時に、さらに「――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。」というログが流れ続ける。



 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――LV500に達しました。個人の資質により魔法の種類が解放されます。ログから1つを選択してください。



 魔法が解放されたな。
 それよりも、個人の資質で魔法の種類が解放されるということは、才能によって魔法の種類が決まるってことか?
 視界内のログに表示されている魔法を見る。
 5つの項目が表示されている。



 ――魔法を一つ選んでください

 →1、アイテムボックス
  2、履歴書が綺麗に書ける
  3、印鑑を綺麗に押せる
  4、牛丼が50%引きになる
  5、牛丼に毎回、トン汁がつく


    
「なるほど……、これは迷うな……」

 履歴書が綺麗に書けるだけでも、就職にはかなり有利だ。
 それに毎回、トン汁がつくのも大きい
 ふむ……。
 俺は迷わず牛丼50%引きを選ぶ。
 毎回、牛丼50%引きということは、キング牛丼であっても並みの料金で食べられるということだ。
 かなり、すばらしい魔法ではないだろうか!



 魔法

 牛丼半額 MP消費1



「すばらしい……」

 これで、これから毎日、牛丼を食べにいっても安くて済むな。 





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