神様にツカれています。

こうやまみか

第一章 17

 ロクに読みもしないまま、署名と拇印を済ませた。
「契約は完了した!長い道のりだったが……」
 何やらフルマラソンを完走し切ったように疲れた表情を浮かべる神様だった。
「では早速、裏の空き地へと行こうか。あそこは以前から狙っていた土地での。ワシの司る植物には頃合いでな……」
 そそくさと席を立った神様を慌てて止めた。
 獣医学部新設が「モリソバ」とかいう問題でポシャった場所だ。いや「カケソバ」だったかな?根っからの関西人なので蕎麦よりもうどんの方が好きな誠司にはもはや政権や国会を揺るがした「モリカケ」問題が、蕎麦の話だと思い込んでいた。そもそも新聞もニュースも観ないし読まないだけに。そしてスマホは持っている上にインスタとツイッターは割と使うツールだったが、ニュースサイトは全く見ない誠司だ。
 そしてやっと気付いたが、この大学の学生だと言った時に神様の目が光ったのはそういう理由からなのだと。
「えと、一応立ち入り禁止になっているので、友達に聞いてみます」
 スマホを取り出して、幸喜にラインを送った。この時間なら何を言っているか全然分からない講義に出ていて暇だろう。直ぐに返事が返ってくるハズだ。
 一昔前の――ちなみに誠司には「一昔」というのが具体的には何年前なのか知らないし興味もなかった――私立文系学生は講義に出なくても単位は取れるシステムになっていたらしい。少なくとも誠司の父親世代はそうだった。
 しかし、今では学生証のカードリーダーを通してから講義室に入るので、出席状況はばっちりと大学側に分かる仕組みだ。だから、日本語とはとても思えない教授の難しい講義でも、カードリーダーを通すためだけに出席しないといけない。出席率が悪いとテストやレポートを受け付けて貰えないので必然的に単位はポシャる。だからワケの分からない講義にも出席しているというのが悲しい現実だった。誠司が急いでいたのもそのせいだった。神様に関わり合ってしまって今朝の早起きは無駄になったかと思ったが、プラチナ会員をゲットすればプラマイゼロどころか、人生は大きくプラスに転じるような気がした。
 ただ、そのためには神様の言う通りの植物を無事に育てるという、根っからの大阪生まれの大阪育ちで朝顔すら枯らせたという初心者以前の誠司が出来るかどうか分からない「難問」が待ち構えていたが。

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