日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

68.さらば蓮実! (嬉し)涙のリリース

「お戯れは済みましたか?」
「おー、エヴァ!」

 相変わらず実にいいタイミングで現れる。
 運命操作チートを使った出待ちは便利だな。

「どうやらいつものマスターに戻ってくれたようですね」
「おうっ、おかげで完全に目が覚めたぜ」

 心底嬉しそうに微笑むエヴァには、全部まるっとお見通しだったようだ。
 確かに、いくら俺が純粋な願いの概念に弱いからって星の意思に干渉されるなんてどうかしてたわ。
 この世界に来たときも、俺のやり方で攻略してやるって意気込んでたのによ。

 さってさてさて、俺がやるべきことも見えたし。
 あのことを聞かないと……と目を向けた瞬間、エヴァが先読みで口を開いた。

「ああ、星の経絡は見つかりましたよ。というより、もうわかっていたんですがね。倒壊した塔の真下です」
「ああ、そりゃそっか。エネルギーを汲み上げるなら星の経絡の上がいいに決まってるわな」

 エネルギーの通り道に魔導炉を建設する。
 この辺もクソ神のアイデアなんかなー。

「んじゃ頼む」
「承知しました、マスター」

 軽い調子でエヴァに依頼したのはもちろん、星の意思の召喚だ。

「何をする気か知らんが、させると思うのか……」
「ほ、本当にやめておいたほうがいいって松田さん! そのスーツ、もうやばいよ!」

 蓮実が止めようとするが、松田は振り切って俺に駆け寄ってきた。

「お前の好き勝手になどさせるか、破壊者め! ナウロンがナロンと同一人物であるなどという話! そもそもそこからして怪しい! アルティメット・ファイナライズ!」

 自身の魂を右手すべてに込める松田。

「ぐうおおおおおっ! パールライザーを舐めるなああああああッ!」
「おいおい、あんまり無茶するなよ」

 普通に動くのとは比較にならない虚脱感に、松田が悶絶する。
 アレばっかりは俺もちょっと疲れるからな……最下位神に過ぎない松田には死に匹敵する苦痛のはず。

 それでも、なんとか俺の懐まで踏み込んで来た。
 構えるでも躱すでもなく、松田の未来を想像して瞑目する。

「ライザー・ゴッドフィス――」

 必殺の一撃を放とうとした瞬間、松田は自らの真珠の輝きに呑まれて跡形もなく消滅した。

「……欠陥だっつったろ」

 命を代償にすれば奇跡が起きるとでも?
 先に自分だけが無意味に燃え尽きず、敵を道連れにできる……そんなマンガみたいなことが起こるのは『補正』を受けられる間ぐらいだぜ?
 まあ、星におんぶにだっこしてた世界の創世神としちゃ、似合いの最期だったかもな。

「ま、松田さんが……」
「そんな……」

 松田の犬死に赤井とトパーズがへたり込んで、変身を解除する。
 どうやら、俺に向かってくることはなさそうだな。

「マスター、終わりましたよ」
「早っ!」

 どうやら一連のやりとりの間に星の意思召喚という重大イベントは何の盛り上がりもなく背景で済まされてしまったらしい。
 その証拠にエヴァが作り出した魔法陣の上で夢で見たのと同様の少女がふよふよと浮いていた。
 痛々しい虫食いも変わっていない。

 上空で魔導炉の破壊を終えた界魚たちが凱旋するように星の少女の真上を旋回し始める。
 そして、みるみるうちに小さくなったかと思うとミニサイズのちゃんと肉のある金魚になって少女に群がり、つつき始めた。
 回収したエネルギーを主人に分け与えているのだろう。

「にぃちゃ、助けて、あげて」

 星の少女が俺を見て嬉しそうに笑う。

「ごめんな。お兄ちゃんは」

 謝りながら、俺は優しく微笑みかけた。



「キミの願いを、踏みにじる」



「誓約。逆萩亮二は……星の意思を救う」

 ――召喚者の要請を破棄。代理の誓約を受け付けました。

「ど、して? にぃちゃ」

 俺の行為の意味を本能的に悟ったのか、少女の顔がくしゃっと悲しみに歪む。
 痛む胸を抑えながら、それでも俺は笑いかけた。

「それが俺の願いだからだ」

 最後の最後まで自分を犠牲にしてでも人間たちの味方であり続けようとした星の意思。
 残酷な話だが、この少女の身勝手が人間を滅ぼしたとも言える。
 それでも界魚たちが命令を受けていないのに必死に頑張ったのは、きっと星の少女のことが好きだったからだろう。今の界魚たちの慕い様を見ればわかる。

「キミは本当によく頑張った。それに、こいつらにも休暇をやらないとだろ?」
「あーうー……」

 星の少女が納得してなさそうな顔でじーっと見上げてくる。

「だから、もうお休み」

 その瞳をまっすぐに受け止めながら、アイテムボックスから封印珠を取り出して小さな額にくっつけた。

「封印開始!」

 封印珠に星の少女が収納されると、界魚たちが慌て始める。

「界魚の皆さんはこちらです」

 エヴァが銀河の錫杖を掲げると、すべての界魚が星々の輝きの中へみるみる吸収された。
 誓約達成により召喚陣が出現したので、エヴァの肩を抱き寄せる。

「今のは……何をしたんだ!」

 俺達の行為を呆然と見ていた赤井が何かとんでもないことが起きていると直感したのか、こちらに駆け寄ってきた。

「この星の核にいた星の意思を封印した。だからもうじき、ここは人の住めない世界になる」
「そんな、じゃあさっき言ってた言葉は……」
「ああ、俺が助けるのは星の意思だけ。お前らのことは全員見捨てる」

 改めて、この異世界で起きていた事態をゆっくり、言葉を選びながら説明した。
 それを聞いた赤井は消沈するより、まず怒りに震える。

「ふざけるな! 女子供もいるんだぞ! その子たちは何も知らないんだ! せめて、その人たちだけでも」
「ルビー、よせ」

 そんな赤井の肩を叩いたのは、トパーズだった。

「トパーズ?」
「オレは……オレにはオニキスとマツダさん……どっちが正しいのかわからない。でも、さっきの子を見てるととても申し訳ない気持ちになった……」

 俯きながらしばらく大柄な体躯を震わせていたが、やがて踵を返す。

「どっちみち魔導炉がやられたんじゃ生きていけない。だからオレは、家族のところへ戻る。世界が最期だっていうなら、せめて一緒にいてやりたいからな……」

 先ほどまで世界を守るトパーズライザーだった男は、只の人間として俺たちの前から去っていった。
 その背を最後まで見送った赤井が、強い意志を込めた瞳で俺を見る。

「俺はこの世界に召喚されて、この世界を守るために戦ってきたつもりだった。でも魔導炉のエネルギーやスーツの力も全部、さっきの子から供給……いや強奪していたっていう話は、本当なのか?」
「ああ、本当だ」
「そうか……」

 赤井が俺の持つ封印珠に向かって何度も何度も頭を下げ始めた。

「ごめん、ごめんよ……知らなかった。何も知らずに力に頼って、世界を守る自分を特別だって……酔ってたんだ。本当にすまない」

 その儀式が一通り終わると、赤井も気を取り直したように俺に背を向ける。

「さっきの話が本当ならレフトーバーもいなくなったってことだ。それなら、何か手があるかもしれない。俺は諦めないぞ……」

 去りゆく赤井の背中を見送った。

 もちろん足掻くのは自由だ。
 早晩、氷河期が訪れる。水も空気も魔力もすべてがなくなっていくこの世界でどうやって生きていくか。
 これまでサボってきた分、存分に知恵を絞るといい……。

「ちょっ、ちょっ、ダーリン!」

 さて、と。
 いい加減、そろそろウザくなってきたぜ。
 なぁ、蓮実よ?

「ほ、ほらわたし、裏切ったフリをしてたの! もちろん、わたしも連れてってよね!」

 今更のように愛想よく振る舞い始めた蓮実に、エヴァが感情の籠っていない声で告げる。

「マスターへの利敵行為はそもそもルール化されておりません」
「えへへ、だったら――」
「ですが」

 冷徹な視線が蓮実の笑顔をまっすぐに見つめた。

「修行を脱走するときにイツナさんやシアンヌさん、そしてわたくしに対する度を越した罵詈雑言の数々はルール4に抵触していました。さらにルール2、3、6の曲解も見受けられます……よって」



『白海蓮実。花嫁源理ハーレムルールに基づいて汝を放逐リリースする』



 蓮実の肉体から光の玉のようなものがいくつも出現し、そのすべてがエヴァの錫杖に吸い込まれて消えた。

「え、ちょっと!?」
「神としての力、チート能力すべてを没収しました。これで貴女はただの人間です。どうぞお好きなところへ」

 これがエヴァのチート能力……絶対源理作成オリジンルールメーカーの一端。
 絶対源理オリジンルールとはチート能力を除いた宇宙を構成するすべての法則の大元……宇宙構成源理のことだ。物理法則はもちろん、異世界魔法の働きや属性元素が何故そのような性質を持つのかに至るまで、全ての概念を司る。
 エヴァの絶対源理作成オリジンルールメーカーは俺の法則無視や法則変更などでさえ侵すことのできない絶対源理オリジンルールそれ自体を新たに規定・作成するという反則最強チートのひとつである。

 俺たちの花嫁源理ハーレムルールはこの能力によって制定されていて、俺の嫁になることを承諾した女は自然、エヴァの管理するルールによって支配されるのだ。

 ゆえにその違反ペナルティも強烈無比。
 全能力の没収、及び放逐。
 即ち『リリース』だ。

「お好きなところへ……って! この世界は滅びるんでしょ! だったら!」
「だったら?」

 蓮実に絶対零度の視線を投げかけながら、エヴァが珍しく怒りの籠った声で断じた。

「わたくしたちの言葉を信じず自分の気持ちのいい未来だけを求めた結果です。受け入れなさい」
「冗談じゃないわよ! ねえ、ダーリン――」
「失せろ」

 そして俺も同じ気分である。
 問答無用で蓮実の発言を遮り、三下り半を突き付ける。

「エヴァにリリース判定を出された以上、どっちみち俺の転移についてくることはできねぇよ。だから大人しく死んでガフに魂を捧げろ」

 蓮実の次元楔を解除し、エヴァに目配せする。

「いやよ、いや! なんでよ! なんでわたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!! なんとかし――」

 するとダダをこね始めた蓮実の姿が光の中に消え去った。
 エヴァが部屋の掃除を終えたように爽やかな笑みを浮かべる。

「星の裏側に飛ばしました」
「うん、静かになった」

 これで後は次の異世界に召喚されるのを待つだけでいい。
 代行分体ことドレイク=オーヴァンとの約束は、これで果たしたことになるだろう。

「これであいつらの言う通り、俺は世界の破壊者ってわけだなー」
「いつものことではありませんか」

 まあ、そうなんだけど。
 ナウロンをぶっ殺して反省して以来、こういう完全破壊は久しぶりである。
 せいぜい種族淘汰とかで留めてたからなぁ……。 

「ところで、その星の意思……真名ステラさんですか。やはり嫁として連れて帰るのですか?」

 肩を抱かれる身を少し乗り出して、封印珠をまじまじと見つめるエヴァ。
 やはりお局様としては、そこが一番気になるらしい。

「まあ、そういうことになるだろうな」

 ルール1は原則だから例外が認められないわけではない。
 とはいえ、俺の我儘で連れていくわけだから……当然嫁にしてやらなきゃいけないだろう。
 もっともルール5は俺の任意だからイツナと同じくエッチなことはなしとして。

「では、次の異世界ではその子も含めて花嫁修業ですね」
「うひー。ま、いいんじゃないの」

 ちょっとかわいそうな気もするけど。

「断られてもリリースするのは、ちゃんと助けてあげてからな」
「当然です」

 ステラちゃんの封印珠をアイテムボックスに入れておけば、魂の損傷はじっくり回復してあげられる。
 時の止まった揺り籠の中で、ゆっくりと。

「待てぇ!」

 なかなか召喚されないのでなんとなくまったり会話していると、ビルの一角から声が上がった。
 俺達の前に飛び出したのは翠緑の影。
 エメラルドライザーだっけか?
 そういや最初に気絶させてたなぁ。

「俺は認めんぞ……今ここでお前を倒す! そしてこの世界を救ってみせる!」

 ビシィッと俺に向かって人差し指を突き付けると、裂帛の気合いとともに叫び始める。

「うおおおっ、世界よ……力を貸してくれ! ファイナライズ!」

 しかし、何も起こらなかった。

「なんでだ、力が出ない……! もう一度だ! ファイナ――」

 そんな小コントにエヴァと顔を見合わせてお互いクスッと笑った瞬間、召喚陣はようやく仕事を果たしたのだった。

「日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く