日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
48.知りたくもなかった宇宙の真実を知りました
散々迷いましたが、わたしは素直にサカハギさんにナウロンさんのことを話すことにしました。
「あぁ? クソ神の野郎、久々にちょっかいかけにきたのか。569年ぶりくらいか?」
サカハギさんがその辺にあるものを手当たり次第に破壊し始めるぐらいは覚悟していました。
だから人気のない裏通りで打ち明けたのですが、反応は意外にもドライです。
どういうことなのでしょうか?
「というかイツナ、手を出さなくて正解だったぜ。ナウロン・ノイエって名乗ったってことはクソ神の代行分体だ。めちゃくちゃ弱いから殺すだけなら簡単なんだが、それをすると縮退現象を起こして自爆、世界を道連れにしやがる。だからああだこうだと挑発してきやがるんだ」
なんてはた迷惑な存在なんでしょう。
やっぱりクソ神さんはとんでもなく悪い人でした。
「ま、今の俺なら縮退現象ごと殺せるし、顔見た瞬間に無力化できるけどな」
そしてサカハギさんも相変わらずデタラメです。
縮退現象っていうのが何なのかよくわからないですけど、知らない方がいい気がしたので黙っていました。
「あいつ、俺が手をつけられなくなったからか、すっかりツラ見せなくなったんだよなー」
そんなことを呟くサカハギさんは、かまってもらえなくなった子供みたいな顔をしています。
なるほど、やけに反応が薄かったのはそういうことだったのですね。
ふたりは殺伐とした関係ですけど、何千年ものくされ縁ともなれば、ただ恨むだけの相手ではないのかもしれません。
そう思ったときでした。
「あ」
「あ」
さっき別れたナウロンさんが角から現れて、サカハギさんとばったりと出くわしたのです。
その後に起こったことはわたしにもよくわかりませんでした。
サカハギさんが催眠魔法とか超スピードでは断じてなさそうなすごいことをして、ナウロンさんを地面に組み伏せたのです。
「よう、クソ神ぃ。会いたかったぜぇ……」
「あいたたた! やめて! 折れる、折れるから!」
「折れるんじゃないよ、折るんだよ」
なにやら拷問が始まってしまいましたので、目を覆うことにしました。
だから、この後起きたことは音声のみでお送りしたいと思います。
「ああやめて! なんだって痛みがあるんだ! しかも何故か即死できないし! また変な魔法やらチート能力を覚えたんだね! 僕の見てないところでまた!」
「痛覚付与魔法と延命チートだ。お前にも効いてよかったぜぇ……」
ボキボキィッと生々しい音が聞こえます。
「あいたぁぁぁっ!! 神である僕にこんな辱めを受けさせるなんて……くっ、殺せ!」
「お前がやると気持ち悪いんだよ!」
何かを踏みつけるような音とともに、ナウロンさんの苦悶が。
「ああっ! ひ、ひどいよ……両腕とも折るなんて! でもいいねぇ、この痛み! 久しくなかった充実感だ!」
「このドMが。そろそろ死ね!」
グシャッと何かが潰れる音がした後、しばらく聞いたこともないようなバキューム音が響き渡ります。
なんだかとても怖いことが起きてる気がして身を竦めていると、少しずつ音が鎮まっていきました。
「おうイツナ、もういいぞ」
目を開けると、そこには晴れやかな顔をしたサカハギさんがいました。
「ふぅ。いやー、これで本体にも痛みが伝わるはずだし久々にやってやった気分だぜ!」
まるで日曜大工で犬小屋を組み立てた近所のおじさんみたいにいい顔をしながら、汗を拭っています。
ナウロンさんの姿は影も形もありませんが、あの人のいたはずの地面には渦巻き文様の小さなクレーターが残っていました。
縮退なんとかというのの名残なのでしょうか。
「さ、行くぞイツナ。魔王の情報はだいたい集め終わったしな!」
「う、うん」
こうしてナウロンさんはあっけなく殺されてしまいました。
もちろんクソ神さんの本体が死んだわけではないのでしょうけど、サカハギさんはとても嬉しそうにしています。
これはわたしの勝手な想像なんですけど。
ナウロンさんはやっぱり、サカハギさんに会いにきたんじゃないかなって思います。
この世界でやることは終わったっぽいことを言ってたのに、こんなところをうろついて。偶然とは考えにくいです。
拷問された挙句に殺されるとわかっていたはずなのになんで出てきたのかは理解できません。
でも、そんな気がしました。
それからまた別の世界に行ったとき、晩ご飯の席でクソ神さんについての話題になりました。
サカハギさんは酔っているのか、饒舌にしゃべります。
「あいつはなぁ、俺達が巡る多次元宇宙の至高神なんだ。あんなヤツがと思うだろ? でも、俺やお前の地球だって遡ればヤツが起源にいるのさ。宇宙すべての神々との賭けに勝って、ヤツはすべてを手に入れた。そして神々に多次元宇宙を丸ごと貸し出すようになったってわけだ。場を提供する……とか抜かしてな」
サカハギさんがグビグビと何杯目になるのかわからないエールジョッキを煽り、中身を飲み切るとプハーッと息を吐き出しました。
「ガフの部屋の魂魄回収システムやチート能力、この世界の物理法則やらなんやらもアイツが許可した上で回ってる。でも、ヤツ自身はほとんど管理なんかしちゃいない。自分では全部を手放してるからアイツ自身にもチート能力や魔法が効くし、殺されれば魂をガフに回収される。自分自身をシステムに組入れることで、宇宙を司る法則を絶対のものにしているんだ」
だから殺せるんだと。
いつかクソ神の下にたどり着いて殺すのだと、サカハギさんは力強く宣言します。
「アイツが管理神として唯一果たす役割が、粛清だ。イツナ、あいつに消されたヤツらを見たって言ってたな? そいつらはクソ神のシステムを利用して力を手に入れようとした神が粛清されたから起きたことだ。この多次元宇宙で神が信仰を集めればガフの部屋の魂をもらえる。神が自分の世界を創世するのに必要なエネルギーだ、いくらあっても足りない。だから、信仰の数を誤魔化す神々が出てくるってわけだ。クソ神が消した連中、そいつらは信仰を偽装するための神の駒だ。空虚に見えたのは神が消された後だからだな。魂も何もない、ただの人形になってたんだろう」
確かに生きている人間にしては存在が希薄に思えました。
死んだというより、元々いないのが自然という印象でしたし。
「クソ神本体の真名は『ナロン』。権能は『未知と道』。伝承名は『未知に満ちた道なき神』。ヤツが目の前に現れたとき、そいつの歩いていた道はなくなる」
俺のようにな、とサカハギさんは自嘲気味に続けました。
道はない……確かに、そんなようなことを言っていた気がします。
「だが、ヤツが閉ざした道なんてどうでもいい。俺の道は自分で切り開く。そして必ずヤツの下へ辿り着いてやる」
うんうん、それでこそサカハギさんです。
その後もクソ神さんの話が続いたのですが、聞けば聞くほどとんでもない存在でした。
全知全能どころか無知無能。最小最弱であると同時に最低最悪。
自分が楽しいと思えることのためなら手慰みに世界や宇宙を滅ぼすこともいとわず、時には自分自身の存在すらも平気でドブに晒す。
まさにサカハギさんにとっての宿命のライバルといった感じです。
今後も姿形を変え、あるいはその身を見せることなく、わたしたちの障害として立ち塞がるのでしょう。
でも、サカハギさんがあの人に負ける気は不思議としません。
強さとか弱さは関係なく、いつか必ずクソ神さんに引導を渡す。
なんとなーくそんな気がしつつ、わたしもジュースを飲み干したのでした。
「あぁ? クソ神の野郎、久々にちょっかいかけにきたのか。569年ぶりくらいか?」
サカハギさんがその辺にあるものを手当たり次第に破壊し始めるぐらいは覚悟していました。
だから人気のない裏通りで打ち明けたのですが、反応は意外にもドライです。
どういうことなのでしょうか?
「というかイツナ、手を出さなくて正解だったぜ。ナウロン・ノイエって名乗ったってことはクソ神の代行分体だ。めちゃくちゃ弱いから殺すだけなら簡単なんだが、それをすると縮退現象を起こして自爆、世界を道連れにしやがる。だからああだこうだと挑発してきやがるんだ」
なんてはた迷惑な存在なんでしょう。
やっぱりクソ神さんはとんでもなく悪い人でした。
「ま、今の俺なら縮退現象ごと殺せるし、顔見た瞬間に無力化できるけどな」
そしてサカハギさんも相変わらずデタラメです。
縮退現象っていうのが何なのかよくわからないですけど、知らない方がいい気がしたので黙っていました。
「あいつ、俺が手をつけられなくなったからか、すっかりツラ見せなくなったんだよなー」
そんなことを呟くサカハギさんは、かまってもらえなくなった子供みたいな顔をしています。
なるほど、やけに反応が薄かったのはそういうことだったのですね。
ふたりは殺伐とした関係ですけど、何千年ものくされ縁ともなれば、ただ恨むだけの相手ではないのかもしれません。
そう思ったときでした。
「あ」
「あ」
さっき別れたナウロンさんが角から現れて、サカハギさんとばったりと出くわしたのです。
その後に起こったことはわたしにもよくわかりませんでした。
サカハギさんが催眠魔法とか超スピードでは断じてなさそうなすごいことをして、ナウロンさんを地面に組み伏せたのです。
「よう、クソ神ぃ。会いたかったぜぇ……」
「あいたたた! やめて! 折れる、折れるから!」
「折れるんじゃないよ、折るんだよ」
なにやら拷問が始まってしまいましたので、目を覆うことにしました。
だから、この後起きたことは音声のみでお送りしたいと思います。
「ああやめて! なんだって痛みがあるんだ! しかも何故か即死できないし! また変な魔法やらチート能力を覚えたんだね! 僕の見てないところでまた!」
「痛覚付与魔法と延命チートだ。お前にも効いてよかったぜぇ……」
ボキボキィッと生々しい音が聞こえます。
「あいたぁぁぁっ!! 神である僕にこんな辱めを受けさせるなんて……くっ、殺せ!」
「お前がやると気持ち悪いんだよ!」
何かを踏みつけるような音とともに、ナウロンさんの苦悶が。
「ああっ! ひ、ひどいよ……両腕とも折るなんて! でもいいねぇ、この痛み! 久しくなかった充実感だ!」
「このドMが。そろそろ死ね!」
グシャッと何かが潰れる音がした後、しばらく聞いたこともないようなバキューム音が響き渡ります。
なんだかとても怖いことが起きてる気がして身を竦めていると、少しずつ音が鎮まっていきました。
「おうイツナ、もういいぞ」
目を開けると、そこには晴れやかな顔をしたサカハギさんがいました。
「ふぅ。いやー、これで本体にも痛みが伝わるはずだし久々にやってやった気分だぜ!」
まるで日曜大工で犬小屋を組み立てた近所のおじさんみたいにいい顔をしながら、汗を拭っています。
ナウロンさんの姿は影も形もありませんが、あの人のいたはずの地面には渦巻き文様の小さなクレーターが残っていました。
縮退なんとかというのの名残なのでしょうか。
「さ、行くぞイツナ。魔王の情報はだいたい集め終わったしな!」
「う、うん」
こうしてナウロンさんはあっけなく殺されてしまいました。
もちろんクソ神さんの本体が死んだわけではないのでしょうけど、サカハギさんはとても嬉しそうにしています。
これはわたしの勝手な想像なんですけど。
ナウロンさんはやっぱり、サカハギさんに会いにきたんじゃないかなって思います。
この世界でやることは終わったっぽいことを言ってたのに、こんなところをうろついて。偶然とは考えにくいです。
拷問された挙句に殺されるとわかっていたはずなのになんで出てきたのかは理解できません。
でも、そんな気がしました。
それからまた別の世界に行ったとき、晩ご飯の席でクソ神さんについての話題になりました。
サカハギさんは酔っているのか、饒舌にしゃべります。
「あいつはなぁ、俺達が巡る多次元宇宙の至高神なんだ。あんなヤツがと思うだろ? でも、俺やお前の地球だって遡ればヤツが起源にいるのさ。宇宙すべての神々との賭けに勝って、ヤツはすべてを手に入れた。そして神々に多次元宇宙を丸ごと貸し出すようになったってわけだ。場を提供する……とか抜かしてな」
サカハギさんがグビグビと何杯目になるのかわからないエールジョッキを煽り、中身を飲み切るとプハーッと息を吐き出しました。
「ガフの部屋の魂魄回収システムやチート能力、この世界の物理法則やらなんやらもアイツが許可した上で回ってる。でも、ヤツ自身はほとんど管理なんかしちゃいない。自分では全部を手放してるからアイツ自身にもチート能力や魔法が効くし、殺されれば魂をガフに回収される。自分自身をシステムに組入れることで、宇宙を司る法則を絶対のものにしているんだ」
だから殺せるんだと。
いつかクソ神の下にたどり着いて殺すのだと、サカハギさんは力強く宣言します。
「アイツが管理神として唯一果たす役割が、粛清だ。イツナ、あいつに消されたヤツらを見たって言ってたな? そいつらはクソ神のシステムを利用して力を手に入れようとした神が粛清されたから起きたことだ。この多次元宇宙で神が信仰を集めればガフの部屋の魂をもらえる。神が自分の世界を創世するのに必要なエネルギーだ、いくらあっても足りない。だから、信仰の数を誤魔化す神々が出てくるってわけだ。クソ神が消した連中、そいつらは信仰を偽装するための神の駒だ。空虚に見えたのは神が消された後だからだな。魂も何もない、ただの人形になってたんだろう」
確かに生きている人間にしては存在が希薄に思えました。
死んだというより、元々いないのが自然という印象でしたし。
「クソ神本体の真名は『ナロン』。権能は『未知と道』。伝承名は『未知に満ちた道なき神』。ヤツが目の前に現れたとき、そいつの歩いていた道はなくなる」
俺のようにな、とサカハギさんは自嘲気味に続けました。
道はない……確かに、そんなようなことを言っていた気がします。
「だが、ヤツが閉ざした道なんてどうでもいい。俺の道は自分で切り開く。そして必ずヤツの下へ辿り着いてやる」
うんうん、それでこそサカハギさんです。
その後もクソ神さんの話が続いたのですが、聞けば聞くほどとんでもない存在でした。
全知全能どころか無知無能。最小最弱であると同時に最低最悪。
自分が楽しいと思えることのためなら手慰みに世界や宇宙を滅ぼすこともいとわず、時には自分自身の存在すらも平気でドブに晒す。
まさにサカハギさんにとっての宿命のライバルといった感じです。
今後も姿形を変え、あるいはその身を見せることなく、わたしたちの障害として立ち塞がるのでしょう。
でも、サカハギさんがあの人に負ける気は不思議としません。
強さとか弱さは関係なく、いつか必ずクソ神さんに引導を渡す。
なんとなーくそんな気がしつつ、わたしもジュースを飲み干したのでした。
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