日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
2.魔王退治のプロフェッショナル
魔王討伐のコツはいくつかあるが、その中でも重要なことがある。
ルールの確認だ。
魔王と呼ばれる存在にはいくつかパターンがあり、そいつを見定め損なうと余計な時間を喰うことになる。
一番単純でわかりやすいのが、モンスターの王とかのパターン。
魔族だとかの知的悪魔とかを統率する場合も、これに含まれる。
単純に力とかカリスマで統率してる魔王なんてのは、たいていは自称か、人間側からそう呼ばれ恐れられる存在とかだ。
俺的にはこれが一番ラクチン。サーチアンドデストロイ。捻り潰して終わらせる。
どんなに強大でもひとりしかいないっていうのが素晴らしい。
次にちょっと面倒くさいのが魔王と呼ばれる存在が複数いるパターン。
これは上の派生型で、我こそは魔王というヤツが何人もいるという群雄割拠型だ。
召喚者の願い事が曖昧に「魔王を倒して」とかだけだと、この該当魔王をすべて葬らない限り俺の御役目は終わらない。
実は魔王の息子とか娘だとかがいて、そいつが跡を継ぐなんてこともある。
いっぱいいるとはいえ魔王を全員倒すだけだから、難易度的にはそこまで上がらない。面倒くさいだけだ。
最後に不死身の魔王パターン。
殺すのにいくつか手順が必要だったり、特定の武器じゃないと死なないとか、心臓が別次元に保管されてるだとか、とにかく魔王が死ににくいパターンだ。
最もひどいケースでは、次の復活まで地下世界で100年眠るって魔王がいた。
うっかり魔王を倒した後、俺は理由もわからずその異世界で100年、無為に過ごすことになったのだ。
おかげでチートがあるのにスローライフってやつもそれなりに楽しみ、結婚なんかもしてガキもこしらえたりした。
あ、ちなみに俺、歳をとらない。つーか、とりたくてもとれないんだよ……嫁どころか子供に先立たれるってホントきつい……って脱線しちまった。
ちなみにガチで絶対死なない魔王とかもいて、魔王側について異世界を滅ぼすぐらいしか解決方法がなかったり本当にどうしようもない場合はクソ神が気を利かせて俺を他の世界へ送ったりもする……チッ!
今なら不死殺しチートがあるから、パターン3をそこまで気にする必要はないけどね。
他にもいくつかある気もするけど、概ねそんなもんかな。
魔王のテンプレートっていうのは大体はお約束に沿ってるから、そこまで細かく分類しなくていい気がする。
「さて、今回はパターン1っぽいかな」
魔王アクダーはひとりだけいるタイプの魔王で、今のところ不死身だとかいう話も聞かない。
仮にアクダーが実は真魔王によって操られる傀儡に過ぎないとかでも、殺す魔王がひとり増えるだけ。
誤差の範囲内だ。
「だが、魔王アクダーの城に入るには世界各地に散らばる結界の塔を攻略しなければならないらしいぞ」
「へー」
ある酒場でそういう噂を聞いた。
一見、遠回りをさせられそうな情報ではあるが、俺は全然悲観しなかった。
「まあ、結界っていうのはさ。結局のところ、敵を閉じ込めるか、外敵を近づけないためのもんなんだよな」
必要な情報を大方揃えた俺は、魔王城へと向かう。
そんでもって結界の縁に到着。
道中現れたモンスターは全部無視。
山とか海もあったけど、それも全部無視してまっすぐ突っ切った。
縮地のチートは移動に大変便利である。
「さて、どういう結界なのかなっと」
早速、鑑定眼を起動。
「王道の力場形成タイプか。で、やっぱりモンスターやら魔王の仲間は素通りできるようになってる、と」
さらに鑑定眼でもって精査した結果、人間とモンスターの魔力波動の差によって振り分けていることがわかった。
ここまでわかってしまえば、結界はもうないも同然。
たぶんこの世界だと魔力波動は生まれつき変わらないって思われてて、まったく気にする必要はないんだろうけど。
「魔力の波動を操作できる異世界、って珍しくないんだよな」
それどころか魔力波動を操作して魔法として使う異世界すらある。
学ぶ機会さえあれば、俺にだって習得できるチャンスはあるわけで。
魔法のレベルも千差万別だし、単にこの世界では発見されてないってだけだろう。
異世界ごとに常識は違う。
そして、その常識の差のおかげで自分の魔力波動をモンスターの設定値に変更し、難なく結界を突破できるというわけだ。
「さーて、と。ようやく魔王城攻略だ」
この異世界に召喚されてから4時間と33分。
俺は魔王城の門をぶち破った。
「バ、バカな! 結界が破られたというのか!」
「塔の反応は消えていないのに、いったいどうやって!」
「いいから、あいつを止めろ!」
混乱するモンスター達を尻目に、俺はどんどん進んでいく。
迷宮構造とか一切意味がない。必要なら壁はぶち破ればいいのだ。
たまーにゲーム模倣型の異世界で壁が破壊不可オブジェクトに設定されている場合もあるけど、そういう場合はコンソールコマンドで《消失》と入力して壁自体を消してしまえばいいから、やることは変わらん。
「我こそは第一の門番グランプス。ここは通さ――ペギッ!?」
「魔王四天王がひとり冥地のディスカオプス。この堕砕斧でもってお前を――プギャー!」
「私は魔王が娘シアンヌ! 父上をやらせは……ってキャー! 何をする!?」
そんな調子で攻略していく。
基本的に相手の言い分なんて聞かず、問答無用で制圧するのが俺のポリシーだ。
ちなみに魔王の娘は好みだったから、ちょっとからかってから眠らせて、封印珠にぶちこんでゲットだぜ!
あ、別にエロ目的で拉致したわけじゃない。
実娘だと魔王を継承するかもしれないから、他の異世界に行ってリリースするのだ。
気が向いたら嫁のひとりにするかもしれんけど。
「お、意味ありげな禍々しい門、発見」
たぶんあそこが魔王の間だ。
ぶち開ける。
すると、その先には暗闇と、ドクロの燭台で不気味に灯る無数の蝋燭。
「よくぞ来た勇者よ。数多の我が配下を突破してきたこと、褒めてやる」
そして最奥の玉座に。
「余は魔王アクダー。この世界を闇に覆う者なり」
ゆっくりと歩み寄る。
「汝は勇者か?」
「そうだ。この世界にお前を倒すものとして召喚された」
歩みを止めることなく宣告する。
喜悦に浸りながら殺意をたっぷり纏っていく。
「見えるぞ……お前の心の闇が。お前は勇者などではない」
「へー、わかってるじゃん」
そのとおり、俺は勇者などでは断じてない。
「お前のような殺戮者ならば、むしろ我らと共に歩めるはず。なにゆえ、愚かな下等生物どもの肩を持つ?」
魔王が語る。
魔王が騙る。
精神に揺さぶりをかけ、勇者を惑わせ、その支柱を砕きにかかる。
「なるほど、古典的なタイプだな。アンタ」
俺が勝手に大魔王型と呼ぶタイプの魔王だ。
こいつらは醸し出すオーラがそこらの木っ端魔王とはワケが違う。
ただ単に強いだけでなく、いやもちろん圧倒的に強いのだが……その上で泰然とした余裕があるのだ。
力を背景として、言葉を弄したり、余興を愉しむ。
底知れなさが生み出すカリスマで他者を従えるのだ。
実のところ、この手のタイプは嫌いじゃない。
大人物というのは得てして考えることが壮大で、こちらの軽口に応じるだけの器量があり、会話を楽しめる。
俺が出会い頭に魔王の頭を即刻潰さなかったのは、たまにいるこういう魔王との会話を愉しむためだ。
「俺はこの世界の住民がどうなろうが知ったことじゃない。ただ単に、お前を潰す方が早く帰れる気がするから。理由はそれだけだ」
「帰郷のため。なるほど、理には適っている」
魔王アクダーが眼を細め、笑った。
「だが、その願いは叶わん。余は世界に闇がある限り蘇る。何度でも」
あー、パターン3でもあるのか。
本気で大物だな、コイツ。
「闇あらば蘇る。なるほど、魔王というよりは邪神に近いな」
「然り。定命の下等生物が理解するとは思わなんだが」
理解できんでか。
闇なんてどこにでもある概念を依代に蘇るなんてのは、もう神と同じだ。
不死殺しぐらいじゃ殺しきれないかもしれない。
まあ、神なら神でやりようはあるけど。
「それ以前にお前は余に殺される」
「ほざいたな。やれるもんならやってみな」
こうして俺達は凄絶に笑い合った。
勝負は一瞬で着いた。
「か、は……何……?」
魔王アクダーが吐血し、信じられないものを見るように己の胸元を凝視する。
そこから生えているモノは剣の柄。刀身は魔王からは見えず、背中を貫通して玉座に魔王の体を縫い付けていた。
「はい終了」
宣言と同時、俺は肩を竦める。
「お前が邪神レベルだろうが、その剣は確実にお前を殺しきる。なぜなら、お前が闇を司る存在であるっていう概念理由自体を殺しきったからな。闇があれば蘇る? なぁ、そんなことは有り得ないんだぜ?」
「バ、バカなッ……!?」
自らを貫く刃が致命的であることを俺以上に悟ったのだろう。
魔王アクダーの表情からは、あらゆる余裕が消え去っていた。
「神を、概念を殺せるだと! 貴様、一体!?」
「べーつにー? だいたい俺のいた世界じゃ神殺しなんてのは、かなりチープな題材でね。ブームっていうより、テンプレの領域に達してて、ああ今日も神がバラバラになったねーなんて女子高生が話してるぐらいさ」
ケラケラとジョークで笑う俺に、魔王アクダーがありったけの憎悪を込めて睨んできた。
「そんなはずはない……、余が、このようなカタチで、終わるなど」
「……どんなヤツにも終わりは来るんだよ。突然、なんの覚悟もできてないときにもおかまいなしに」
「なぜ、だ。どうしてお前は神を殺せる武器を持っていた」
ああ、コイツ……そこにちゃんと気づくのか。
神殺しっていうのは、理由もなく持ってたり、できるようになってるもんじゃないしな。
そこには必ず逸話があるもんだ。
こういうカタチじゃなければ、いろいろもっと語れたかもしれないなぁ。
まあいいか、餞別に教えても。
「そいつは、神滅刀っていってね。どうしても殺してやりたいヤツを殺るために、手ずから鍛えた自慢の一品なんだよ」
神殺し。
俺が音を上げずにこうして今も異世界を旅し続ける最大のモチベーションのひとつ。
誰を殺す気なのかは言うまでもない。
……いや、実際にはVRMMOで試しに生産職やったら、なんかできちゃったんだけどね。
魔王は何も応えない。
もはや語る力すら失ったか。
ほどなくして跡形もなく消えるだろう。
それが油断だった。
「むスメ、を……」
「あん?」
「娘ヲ……タノム」
最後の最後、魔王はそんなことを言い残し。
よりにもよって俺が断るより先に、完全消滅しやがった。
「クソッ……」
別にあの魔王は俺を召喚したわけじゃないから、誓約じゃない。
だけど、ああいう遺言はずるい。
何度やられても慣れるもんじゃないのである。
その僅か数分後。
俺の足元に魔法陣が出現した。
ルールの確認だ。
魔王と呼ばれる存在にはいくつかパターンがあり、そいつを見定め損なうと余計な時間を喰うことになる。
一番単純でわかりやすいのが、モンスターの王とかのパターン。
魔族だとかの知的悪魔とかを統率する場合も、これに含まれる。
単純に力とかカリスマで統率してる魔王なんてのは、たいていは自称か、人間側からそう呼ばれ恐れられる存在とかだ。
俺的にはこれが一番ラクチン。サーチアンドデストロイ。捻り潰して終わらせる。
どんなに強大でもひとりしかいないっていうのが素晴らしい。
次にちょっと面倒くさいのが魔王と呼ばれる存在が複数いるパターン。
これは上の派生型で、我こそは魔王というヤツが何人もいるという群雄割拠型だ。
召喚者の願い事が曖昧に「魔王を倒して」とかだけだと、この該当魔王をすべて葬らない限り俺の御役目は終わらない。
実は魔王の息子とか娘だとかがいて、そいつが跡を継ぐなんてこともある。
いっぱいいるとはいえ魔王を全員倒すだけだから、難易度的にはそこまで上がらない。面倒くさいだけだ。
最後に不死身の魔王パターン。
殺すのにいくつか手順が必要だったり、特定の武器じゃないと死なないとか、心臓が別次元に保管されてるだとか、とにかく魔王が死ににくいパターンだ。
最もひどいケースでは、次の復活まで地下世界で100年眠るって魔王がいた。
うっかり魔王を倒した後、俺は理由もわからずその異世界で100年、無為に過ごすことになったのだ。
おかげでチートがあるのにスローライフってやつもそれなりに楽しみ、結婚なんかもしてガキもこしらえたりした。
あ、ちなみに俺、歳をとらない。つーか、とりたくてもとれないんだよ……嫁どころか子供に先立たれるってホントきつい……って脱線しちまった。
ちなみにガチで絶対死なない魔王とかもいて、魔王側について異世界を滅ぼすぐらいしか解決方法がなかったり本当にどうしようもない場合はクソ神が気を利かせて俺を他の世界へ送ったりもする……チッ!
今なら不死殺しチートがあるから、パターン3をそこまで気にする必要はないけどね。
他にもいくつかある気もするけど、概ねそんなもんかな。
魔王のテンプレートっていうのは大体はお約束に沿ってるから、そこまで細かく分類しなくていい気がする。
「さて、今回はパターン1っぽいかな」
魔王アクダーはひとりだけいるタイプの魔王で、今のところ不死身だとかいう話も聞かない。
仮にアクダーが実は真魔王によって操られる傀儡に過ぎないとかでも、殺す魔王がひとり増えるだけ。
誤差の範囲内だ。
「だが、魔王アクダーの城に入るには世界各地に散らばる結界の塔を攻略しなければならないらしいぞ」
「へー」
ある酒場でそういう噂を聞いた。
一見、遠回りをさせられそうな情報ではあるが、俺は全然悲観しなかった。
「まあ、結界っていうのはさ。結局のところ、敵を閉じ込めるか、外敵を近づけないためのもんなんだよな」
必要な情報を大方揃えた俺は、魔王城へと向かう。
そんでもって結界の縁に到着。
道中現れたモンスターは全部無視。
山とか海もあったけど、それも全部無視してまっすぐ突っ切った。
縮地のチートは移動に大変便利である。
「さて、どういう結界なのかなっと」
早速、鑑定眼を起動。
「王道の力場形成タイプか。で、やっぱりモンスターやら魔王の仲間は素通りできるようになってる、と」
さらに鑑定眼でもって精査した結果、人間とモンスターの魔力波動の差によって振り分けていることがわかった。
ここまでわかってしまえば、結界はもうないも同然。
たぶんこの世界だと魔力波動は生まれつき変わらないって思われてて、まったく気にする必要はないんだろうけど。
「魔力の波動を操作できる異世界、って珍しくないんだよな」
それどころか魔力波動を操作して魔法として使う異世界すらある。
学ぶ機会さえあれば、俺にだって習得できるチャンスはあるわけで。
魔法のレベルも千差万別だし、単にこの世界では発見されてないってだけだろう。
異世界ごとに常識は違う。
そして、その常識の差のおかげで自分の魔力波動をモンスターの設定値に変更し、難なく結界を突破できるというわけだ。
「さーて、と。ようやく魔王城攻略だ」
この異世界に召喚されてから4時間と33分。
俺は魔王城の門をぶち破った。
「バ、バカな! 結界が破られたというのか!」
「塔の反応は消えていないのに、いったいどうやって!」
「いいから、あいつを止めろ!」
混乱するモンスター達を尻目に、俺はどんどん進んでいく。
迷宮構造とか一切意味がない。必要なら壁はぶち破ればいいのだ。
たまーにゲーム模倣型の異世界で壁が破壊不可オブジェクトに設定されている場合もあるけど、そういう場合はコンソールコマンドで《消失》と入力して壁自体を消してしまえばいいから、やることは変わらん。
「我こそは第一の門番グランプス。ここは通さ――ペギッ!?」
「魔王四天王がひとり冥地のディスカオプス。この堕砕斧でもってお前を――プギャー!」
「私は魔王が娘シアンヌ! 父上をやらせは……ってキャー! 何をする!?」
そんな調子で攻略していく。
基本的に相手の言い分なんて聞かず、問答無用で制圧するのが俺のポリシーだ。
ちなみに魔王の娘は好みだったから、ちょっとからかってから眠らせて、封印珠にぶちこんでゲットだぜ!
あ、別にエロ目的で拉致したわけじゃない。
実娘だと魔王を継承するかもしれないから、他の異世界に行ってリリースするのだ。
気が向いたら嫁のひとりにするかもしれんけど。
「お、意味ありげな禍々しい門、発見」
たぶんあそこが魔王の間だ。
ぶち開ける。
すると、その先には暗闇と、ドクロの燭台で不気味に灯る無数の蝋燭。
「よくぞ来た勇者よ。数多の我が配下を突破してきたこと、褒めてやる」
そして最奥の玉座に。
「余は魔王アクダー。この世界を闇に覆う者なり」
ゆっくりと歩み寄る。
「汝は勇者か?」
「そうだ。この世界にお前を倒すものとして召喚された」
歩みを止めることなく宣告する。
喜悦に浸りながら殺意をたっぷり纏っていく。
「見えるぞ……お前の心の闇が。お前は勇者などではない」
「へー、わかってるじゃん」
そのとおり、俺は勇者などでは断じてない。
「お前のような殺戮者ならば、むしろ我らと共に歩めるはず。なにゆえ、愚かな下等生物どもの肩を持つ?」
魔王が語る。
魔王が騙る。
精神に揺さぶりをかけ、勇者を惑わせ、その支柱を砕きにかかる。
「なるほど、古典的なタイプだな。アンタ」
俺が勝手に大魔王型と呼ぶタイプの魔王だ。
こいつらは醸し出すオーラがそこらの木っ端魔王とはワケが違う。
ただ単に強いだけでなく、いやもちろん圧倒的に強いのだが……その上で泰然とした余裕があるのだ。
力を背景として、言葉を弄したり、余興を愉しむ。
底知れなさが生み出すカリスマで他者を従えるのだ。
実のところ、この手のタイプは嫌いじゃない。
大人物というのは得てして考えることが壮大で、こちらの軽口に応じるだけの器量があり、会話を楽しめる。
俺が出会い頭に魔王の頭を即刻潰さなかったのは、たまにいるこういう魔王との会話を愉しむためだ。
「俺はこの世界の住民がどうなろうが知ったことじゃない。ただ単に、お前を潰す方が早く帰れる気がするから。理由はそれだけだ」
「帰郷のため。なるほど、理には適っている」
魔王アクダーが眼を細め、笑った。
「だが、その願いは叶わん。余は世界に闇がある限り蘇る。何度でも」
あー、パターン3でもあるのか。
本気で大物だな、コイツ。
「闇あらば蘇る。なるほど、魔王というよりは邪神に近いな」
「然り。定命の下等生物が理解するとは思わなんだが」
理解できんでか。
闇なんてどこにでもある概念を依代に蘇るなんてのは、もう神と同じだ。
不死殺しぐらいじゃ殺しきれないかもしれない。
まあ、神なら神でやりようはあるけど。
「それ以前にお前は余に殺される」
「ほざいたな。やれるもんならやってみな」
こうして俺達は凄絶に笑い合った。
勝負は一瞬で着いた。
「か、は……何……?」
魔王アクダーが吐血し、信じられないものを見るように己の胸元を凝視する。
そこから生えているモノは剣の柄。刀身は魔王からは見えず、背中を貫通して玉座に魔王の体を縫い付けていた。
「はい終了」
宣言と同時、俺は肩を竦める。
「お前が邪神レベルだろうが、その剣は確実にお前を殺しきる。なぜなら、お前が闇を司る存在であるっていう概念理由自体を殺しきったからな。闇があれば蘇る? なぁ、そんなことは有り得ないんだぜ?」
「バ、バカなッ……!?」
自らを貫く刃が致命的であることを俺以上に悟ったのだろう。
魔王アクダーの表情からは、あらゆる余裕が消え去っていた。
「神を、概念を殺せるだと! 貴様、一体!?」
「べーつにー? だいたい俺のいた世界じゃ神殺しなんてのは、かなりチープな題材でね。ブームっていうより、テンプレの領域に達してて、ああ今日も神がバラバラになったねーなんて女子高生が話してるぐらいさ」
ケラケラとジョークで笑う俺に、魔王アクダーがありったけの憎悪を込めて睨んできた。
「そんなはずはない……、余が、このようなカタチで、終わるなど」
「……どんなヤツにも終わりは来るんだよ。突然、なんの覚悟もできてないときにもおかまいなしに」
「なぜ、だ。どうしてお前は神を殺せる武器を持っていた」
ああ、コイツ……そこにちゃんと気づくのか。
神殺しっていうのは、理由もなく持ってたり、できるようになってるもんじゃないしな。
そこには必ず逸話があるもんだ。
こういうカタチじゃなければ、いろいろもっと語れたかもしれないなぁ。
まあいいか、餞別に教えても。
「そいつは、神滅刀っていってね。どうしても殺してやりたいヤツを殺るために、手ずから鍛えた自慢の一品なんだよ」
神殺し。
俺が音を上げずにこうして今も異世界を旅し続ける最大のモチベーションのひとつ。
誰を殺す気なのかは言うまでもない。
……いや、実際にはVRMMOで試しに生産職やったら、なんかできちゃったんだけどね。
魔王は何も応えない。
もはや語る力すら失ったか。
ほどなくして跡形もなく消えるだろう。
それが油断だった。
「むスメ、を……」
「あん?」
「娘ヲ……タノム」
最後の最後、魔王はそんなことを言い残し。
よりにもよって俺が断るより先に、完全消滅しやがった。
「クソッ……」
別にあの魔王は俺を召喚したわけじゃないから、誓約じゃない。
だけど、ああいう遺言はずるい。
何度やられても慣れるもんじゃないのである。
その僅か数分後。
俺の足元に魔法陣が出現した。
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