過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか
25話 小悪魔は儚い
家に着いた時間は18時34分。
俺の帰りを待ち侘びていてくれた愛犬を散歩に連れて行ったあと、家で足を洗い餌をあげた。
この一連の流れで時刻は1時間ほど経っていた。
そして俺は動きやすい格好に着替えて外に出る。
可憐を探しに爆走したあの日から、体力の向上が必要だと思い、ちょくちょく走るようになった。
大量に汗をかいたその日は、布団に入るとすぐに意識を飛ばすことに成功する。
目が覚めてから学校に行くまで、頭に回っていた考え事
「あんまあの夢見なくなったな」
あの懐かしい夢。
見知らぬ女の子
その女の子は一体誰だったのだろうか。そしてなぜ懐かしいと思ったのだろう。
そんなことを考えているうちに学校に到着し、教室に入り席に着く。
朝のホームルームで担任が
「来週からテスト週間だから部活は無い。だからみんな勉強しろよー」
と言う。
部活動が無いことに歓喜する者もいれば、テストの到来に悲観的になる者もいた。
俺はというとどちらの感情にも共感はしなかった。
給付の奨学金を得たいがために、日頃から勉強はしている。ここ長嶺原高校のレベルのテストであれば高得点を叩き出すことは容易だ。
ホームルームが終わりトイレに行こうと廊下に出ると遥希が仁王立ちで待ち伏せていた。
「なんだよ」
「ねえ、今日も付き合いなさい」
「え、なんで直斗が遥希ちゃんと話してるんだ」「あいつあんな可愛い子と仲がいいんだよ。くそ…」「あの子って確か、女バスの子だよな?」
クラスメイトの様々な声音が聞こえたが、デジャブなのであまり気にならない。
「すまん、今日バイト」
俺は掌を合わせて軽く頭を垂れる。
「は?私とバイトどっちが大事なのよ」
「バイト」
「即答すんな!」
「じゃ、トイレ行くからまたな」
トイレに向かって走る俺の背中に怒気を荒げて遥希が何か言っているが無視する。
漏らしたら無視されるもん!
その後、毎時間授業が終わってからの10分間の休み時間に、遥希は教室にやって来た。内容は同じで、返す内容も同じだった。
そして放課後
「ねえ、何回言わせるの?」
「こっちこそ、何回言わせるんだよ」
遥希は駐輪場までついてきた。格好はバスケ部っぽく、やる気満々だ。
「というか、テスト近いだろ?勉強はいいのかよ」
「勉強はいいのよ」
「お前バカだろ」
「うるさい!」
「ともかく、俺は今日バイトで練習には付き合えない、というか今週全部バイト」
自転車にまたがりながら淡々と誘いを断る。
「………バイト先どこよ」
「あ?バイト先?あっちの家電量販店」
帰り道の方向を指差す。
そこの方向には家電量販店は1つしかなく、よく待ち合わせ場所などに使われるくらい有名なスポットだ。
「わかったわ」
遥希は素っ気なく返してから体育館へと向かった。
店が閉店して、残業を少ししてから上司に挨拶をして帰路につこうとする。
裏口を出た頃には21時を超えていて、少し肌寒い。
そして、見慣れない光景が広がっていた。
長嶺原高校の制服姿に、駐車場の街灯に照らされて強調される桃色の髪。学校指定の鞄を両手で手前に持ち、満月を見つめている。
その姿は、暗闇の中、照らされている一輪の花のような儚さがあり耽美的な光景だった。
「やっと出てきた」
「何やってんだよ、こんな時間に」
「何って、バスケしにきたのよ」
「は?」
俺は思わず頓狂な声を出してしまう。
こいつ、どんだけ執着心凄いんだよ。
できれば帰って飯食って風呂入って寝たい。だから何とかしてでもお引き取りして欲しかった。
「近くの公園にバスケットコートあるわよね、行くわよ」
「ちょ、ちょっと待て、お前、本気か?」
「当たり前じゃない」
「親に連絡は…」
「来るときに言ったわよ」
「そっか」
遥希の行動力に功罪を感じてしまう。
「てか、ボールは?」
「あるわよ、公園に行くときに家に寄って持って来るわ」
「お前の家って公園の通り道にあるのか」
「そうよ」
前に可憐が「家が近い」と言っていたが本当らしい。だから最初に過去に戻ろうと決めたあの日、可憐はそこにいたのだ。
「とりあえず行くか」
歩いている最中、必死にこの場を切り抜ける策を頭の中で巡らせていたが、妙案は浮かばず、時期に高級マンションに着いた。
「これ…お前ん家かよ…」
見上げるほどに大きくそびえ立つマンションは神々しく、芸能人が住んでいるような気がした。
「まってて」
俺の呆気に取れた声には耳を傾けることはなく、遥希はそのマンションに入って行った。
数分が経ち、遥希は運動ができる格好に着替えボールを持って出てきた。
「着替えてバイト先来ればよかったじゃん」
「制服姿なら、あんたはドキッとして引き受けてくれると思ったのよ」
遥希はそう言いながら俺の前を歩く。
確かにドキッとした。
でもどうせコイツならそんな感情を抱かなかったとしても俺を連れて公園に向かっただろう。
たまにボールをつくせいで、閑静な住宅街に跳ね上がる音が響いた。
「そんなに焦らなくても停滞期なんてすぐに抜けられるぞ」
遥希は、公園のゴールに向けてボールを黙々と放る。
その姿は、昨日とさっき、俺が教えた基本的なポイントをしっかりと抑えたフォームだった。
「それじゃダメなのよ」
「なんでだよ」
「それはあんたには関係ないでしょ」
あると思う、こんな時間に公園に連れてきているのだから十分に。
「あるだろ」
「……………」
結局その日、遥希が躍起になる理由を聞くことはできなかった。
次の日のバイト終わりにも、遥希は待ち伏せを決め込んでいた。
何を諦めたのか、待ち伏せをしている時の格好は制服ではなく、バスケをする格好だった。
そして次の日も同じだった。
—コーン
篭ったような音とともに、ボールはゴールリングから弾き飛ばされた。
「おーい、そろそろお前が躍起になる理由教えろよー」
今日も俺は、遥希に聞く。
「別に、あんたには関係ない」
「またそれか」
何度聞いただろうか。
その言葉に少し腹が立った。
「お前さ、人をこんなにも引っ張り回してそれはねーだろ」
「うるさい」
遥希は再びシュートを外した。
「その理由に停滞期を抜け出せるヒントがあるかもだぞ」
俺の計算は間違っていた。
最初に遥希のシュートを見たときに、停滞期を2日くらいで抜け出せると思っていた。けれども真逆でどんどん成功率が落ちている。
だから遥希が躍起になる理由の中に、少しでものヒントを見出そうとしているのだが、頑なに遥希は話さない。
「あのさ、あんたって私の何?親でもない、友達でもないでしょ、だから私の私情ズケズケと踏み込まないで、躍起になる理由は私情よ、だから聞かないで」
遥希は背を向けたままそう言う。
そんな姿を、俺は知っているような気がした。
いつもの俺だったら、そこまで言われたら引き下がる。けれども、何かが引っかかり食い下がることができなかった。
「それはそうだけど、俺はお前の停滞期からの抜け出すために手伝ってるわけであって、色々考察を練って1日でも早く抜け出せるようにしてるんだよ、だから聞く義務ってもんがあるんじゃないのか」
気づくと俺は立ち上がっていて、少しだけ声量をあげていた。
「うるさい…ないから…」
「でも…」
「無いって言ってるでしょ!しつこいのよ!私は停滞期から抜け出したくてあんたに頼んだの!相談事をしたくてここにいるんじゃない!」
怒気を荒げ、勢いよく踵を返す遥希の目は涙で溢れ出していた。
「ごめん…」
そして、遥希はそのまま走り出し、公園を出ていった。
「相談事をしたくてここにいるんじゃない」か…やっぱり何かあるんじゃねーか。
そのとき、走馬灯のように流れる光景に俺は総毛立った。
ああ、分かった…
あれは昔の…
—冬森直斗と一緒だ。
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コメント
おざおざ@新シリーズ作成中
ノベルバユーザー267389さん
的確なご指摘ありがとうございます、もう一度練り直しますね!ありがとうございます!
ノベルバユーザー267389
上から目線ですいません!!
一度作品構成等を全て練り直してみたらどうでしょうか?自分でマインドマップなどを利用してみたら書きやすくなると思います!