過去に戻り青春を謳歌することは可能だろうか

おざおざ@新シリーズ作成中

24話 小悪魔と過去の栄光

 
 自分で言うのも忍びないのだが、中学3年時は同じ世代の中3よりも輝きを放っていたと思う。
 
 当時の俺は、どんなものにでもなれる。そう思っていた。

 マルチタスクは人口の2パーセントほどの人でしかできないらしいが、俺はその2パーセントに入っている人財だと、本気で思っていた。


 同党どうとう中学校男子バスケットボール部は、県大会常連校ではあるがその先に行ったことはない。
 けど強豪と呼ぶには十分だ。
 部員数も60人近くで、試合に出られる選手は一握りだ。

 “楽しいから”。ただそれだけの理由で入部をして、やっていくうちに熱が次第に入っていった。

 小学校の頃は『水泳』『野球』『バレーボール』と様々なスポーツを体験してきた。けれど、中学校に入学するときには熱が冷めていた。

 ただ部活には入ろうと思っていた。

 部活選びに迷っているときに同じクラスのかけるからの勧誘を受けて一緒にバスケ部に入部することになった。

 俺はやがて、バスケにハマり、心から好きと思えるようになり、その感情と同等の努力を惜しまなかった。

 日々毎日欠かさず努力を重ね、2年生になったとき、努力が報われて“エース”という期待を背負い県大会を一位通過した。
 その努力が報われるには時間がかかり、すでに選抜選手の選考は終わっていたため、県の選抜には選ばれなかった。
 
 けれども、活躍していくうちにそれ相応の知名度が身についた。
 
 その年も、翌年も、北信越大会を勝ち抜き、全国大会に出場した。そこでは惜しくも敗北を着したが、異例のベスト16位内に入ることができた。
 同党中学校では歴代最高の成績で、周りからの評価も高く、高校の推薦もいくつか来ていた。

 実際にその推薦の中から1つ選び進学をした。

 けれど、そこからだった。

 そこから俺のプライドは壊滅し、自分らしさを見失い低迷した。

 遂には多くのものを捨て逃げ出した。


 「どうやら本当らしいね。その、疑ってごめん」
 「気にしてねーよ」

 バスケを辞めた理由などは話さなかったが、俺が中学時代どんな選手だったかをざっくり話した。
 
 遥希はるきは先の1on1で俺の技量からそのことを信じ、今こうして頭を垂れている。

 「だから直斗先輩は中学校の中で有名人だったんだよ!バスケの他にも…」
 「菜月なつきもルックスで人気だったじゃないか、特に先輩に」

 菜月の最後の言葉を遮るように俺は口を開いた。

 「そ、そんなことないですよ!」

 菜月は顔を赤く染めて慌てたように両手を振った。

 「…………」

 顎に手をやり遥希は何か考えている。

 「ん、どうした遥希」
 「いや…ちょっと菜月」
 「え、あ、ちょ…」

 強引に菜月は遥希に引かれ俺と少し離れた位置にまで持っていき、菜月に顔を近づけて何か言っている。

 「…………」
 「そ、そ、そ、そそそそそそそそんなことないよ!」

 菜月は遥希から一歩引き再び顔を赤らめた。その姿を遥希はじーっと見て蠱惑的に微笑み

 「なるほど…分かったわ」
 「遥希ちゃん怖いよ…」

 菜月にそう言われた遥希は微笑みだけを返して、近くに落ちていた女子用の6号球を拾い上げ俺に歩み寄る。

 「ねえ、直斗、その“停滞期”ってやつから抜け出すれるように手伝いなさいよ」
 「手伝えって言っても練習しまくって自信を持つしかねーぞ」

 「はあ?さっき『力になる』ってキザっぽく言っていたじゃない」
 「う…」

 あれはよくあるスポーツ漫画のカッコイイシーンを自分なりに演じただけであって、深い意味は…

 「ま、まあ、遥希はシュートが入らないのが問題なんだろ?」
 「そうよ」
 「それ以外は?」
 「問題ないわ」

 よかった。ドリブルや判断力の停滞だったら俺は専門外だ。 
 俺がやっていたポジションはパワーフォワード。けれど中学校の時はセンターを中心にやっていた、だからドリブルはそこまで使わなかった。練習したけど

 結局その日はシュートの入る感覚を復習させた。

 18時を過ぎた頃に小体から出る。

 「その、今日はありがとう」
 「まーお前の停滞期はなんとかなるだろ」
 「かもね。じゃ…」

 遥希はそう言って再びシュート練習を始めた。

 結果、遥希はシュートを連続で決められるようになった。
 やはり停滞期は気持ちの問題でしかなく、容易たやすく抜け出せるのだ。でもここまでシュートが上達するとは思わなかった。

 「2人はまだ練習していくのか?」
 「はい!していきます!」

 入り口に残った菜月が元気よく答える。

 「そっか、頑張れよ」
 「はい!ありがとうございます!それと…」
 「どうした、菜月」
 「えっと…何か困ったことがあったら言ってくださいね…」

 俺は菜月のその言葉に、まるで嘘を見抜かれたかのような感覚に襲われる。
 
 やっぱり、過去に戻ったとしても俺と関わっていた人はある程度記憶が残るのかもしれない。
 
 「どうして?」

 その疑問を少しでも正確なものに近づけたかった。

 「んー…よく分からないんですけど、直斗さんが疲れ過ぎて保健室で倒れるように寝ている光景が頭に広がったというか…」
 
 おそらく、確信しても良いのだろう。

 「そっか」
 「い、いや、なんか変なこと言ってすみません!」
 「そんなことないよ、心配してくれてありがと、何かあったら言うよ」

 「そうですか…よかった…」

 俺は「じゃあ」と言ってきびすを返した。

 「あ、まだ待ってください」

 この子に引き止められるのは何回目だろうか。
 
 「ん?」
 「そ、その…」

 可憐はポケットからスマホを取り出し、少し大きく膨らんだ胸の前に持ってきて、モジモジしている。

 「何か…あったとき…には遅いかなって…」

 その姿に俺は懐かしい記憶が蘇る。
 中学生のとき、菜月はこんな感じで俺に相談に乗って欲しいと頼みに来たっけ

 「何かあったらじゃ遅いから連絡先でも交換しとくか」

 今回は俺がその役を引き受けよう。

 「は、はい!交換しましょう!」

 『新しく追加された友達』という欄に“高春菜月たかはるなつき”という表示がされた。


 

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