元賢者の最強剣士 〜二度目の人生は自由に冒険者ライフを送る〜

愛犬ロック

第6話 パーティに勧誘された

 女風呂から逃げてきた俺は男風呂の方を覗いてみた。


 ガラガラっとドアを開け、中に入る。
 湯気が立ち昇っていて、少し暑い。
 大きな浴槽があり、そこで冒険者は疲れを癒しているようだ。
 湯船に浸かっている冒険者は、服を着ている俺のことを不思議そうな目で見ている。
 確かに服を着て来る場所じゃないな。
 また後で来ることにしよう。


 そして俺は風呂場を後にした。


 食堂に戻ってきた俺は料理を頼もうとカウンターに向かった。
 カウンターには若い女の子が立っていた。
 俺より少し年下ぐらいでまだ成人していなそうである。
 カウンターの横に置いてあるメニューを見ると、見慣れない料理がたくさんあった。
 その中からとんかつ定食を注文することにした。


「とんかつ定食一つ。あとサービス券って使えるか?」


「使えますよ!えーと、半額になりますので200ペルになります!」


「はい、じゃあこれ200ペルね」


「ありがとうございます!では、料理が出来次第運びに行きますので、席に座って待っていてください!」


「分かった」


 そういう訳で言われた通り席に座って待っていようと思ったのだが……。


「空いてないな」


 テーブル全てに料理が置かれていて、空いているテーブルが見つからない。
 困ったな。
 既に食べている人たちの中に混ざる他ない……か。
 その中で男2人、女1人で食べているのを見つけた。
 歳が近そうだし、何となく優しそうだ。
 そこに混ざることにしよう。


「なぁ、ここ座ってもいいか?」


 ここではテーブル1つにつき、4つの椅子が設けられている。
 俺は、空いている1つの椅子を指さし食事中の3人に座っていいか聞いた。


「俺は別に構わないぜ。2人はどうだ?」


「いいね!面白そう!」


「私もいいよ」


「って訳で大歓迎だ。俺の名前はアルレ。よろしくな」


「僕はレン!よろしく!」


「私はスズナ。よろしくね」


 3人は凄く好意的に受け入れてくれたようだ。
 アルレは俺より少し身長がでかく、金色の髪がよく似合っている。
 この3人の中のリーダー的存在だろう。
 レンは少し小柄だ。
 茶色い髪にニコッとした笑顔が特徴的だな。
 スズナは黒色の髪が特徴的だな。
 黒色の髪のやつなんてあまり見た事ないし、300年前も少なかったな。
 この街を歩く人も茶髪や金髪がほとんだ。


「俺はノアだ。田舎の村からやってきて友達がいないからよかったら仲良くしてくれ」


「おう、もちろんだぜ」


 程なくして、俺が注文したとんかつ定食が運ばれてきた。
 運ばれてきたのは、見たことない茶色の硬そうなものと白米。
 300年前ではあまり見かけなかった白米も今ではこうして一般的な食事として親しまれている。そして、この茶色の物体がとんかつと言う奴なのだろう。
 果たして美味いんだろうか……。


 ナイフとフォークを使い、一口サイズに切ってから口に運ぶ。
 すると、サクッとした食感にジューシーな肉の旨味が口いっぱいに広がった。


「うめぇ!!!」


 口の中の物を飲み込んだ俺は、この感動を口に出して叫んだ。
 3人はキョトンとした顔をした後にプッと笑い出した。


「アハハハ、そんなに美味かったのか」


 笑いながら喋るアルレ。
 レンは腹を抱えて笑っており、スズナは顔を下に向けて手で口を隠して笑っている。


「ああ、この街は美味いものがいっぱいあるな」


「ん、なになに。他に何食べたんだ?」


「たこ焼きだ」


「プッ、とんかつやたこ焼きって結構有名な料理だろ」


「そうなのか?俺が住んでいた村では食べた事なかったな」


「へぇー、なんて村なんだ?」


 村の名前は、シェロブ村だったな。
 ブラントの先祖がつけた名前らしい。


「シェロブ村という村だな」


「あー何か聞いたことあるかも」


 レンがそう呟く。


「ここから少し離れたところにある村だよな」


「うん、そうだったと思うよ」


 3人共少し知っているようだった。
 村を訪れる冒険者はそれなりにいたので、3人が知っていても不思議じゃないな。


「そんな田舎から来た俺にとっちゃ見るもの全て新鮮に見えるのさ」


「なるほどなぁ。俺たち3人はこの街で育った幼馴染なんだぜ」


 さすがリーダーアルレ。
 自分達の紹介も忘れないその姿勢、素晴らしい。


「そーそー。3人とも15歳になって成人したから冒険者になってパーティ組んでるんだ」


「私は結構無理矢理誘われたんだけどね」


 アハハと笑うスズナ。


「仕方ないだろ。俺が戦士として前衛を勤めて、後衛のレンが魔法を使って強力な攻撃をしかける。で、回復役にスズナが必要だったんだよ。めちゃくちゃバランスの良いパーティだと思わないか?」


 俺に問いかけてくるアルレ。
 確かにバランスの良いパーティだ。
 しかし、前衛がアルレだけで務まるか少し疑問ではあるが。


「そうだな。仲も良さそうだし、連携もしっかりとれるだろう」


 まあ、せっかくテーブルに混ぜてもらったんだしそんな事を言うのは失礼なので俺は無難に返す。


「だろだろ?でもさ、前衛が俺だけってのが少し心許ないんだよな」


「そうだよなー。まだ弱い魔物しか倒してきてないけど、少し強くなると不安だよなー」


「うーん、それはちょっと同意かも。そういえば、ノア君の職業は?」


「俺か?俺は剣士をやっている」


 そう言って俺は腰に携えている剣を見せる。
 村から持ってきた安物なので、あまりカッコつかないのが難点だな。
 だが、それは俺の容姿でカバーする事にしよう。
 イケメンに産んでくれた両親に感謝だな。


「おお!めっちゃ丁度いいじゃん!ノア、よかったら俺たちとパーティ組もうぜ。丁度後1枠欲しかったんだよ!」


 ガバッとテーブルに手をつき俺に顔を近づけるアルレ。
 言っておくが、キスをするような至近距離まで近づけている訳ではないからな。


「おう。別に良いぞ。ちなみに俺は今日、冒険者になったばっかりだけどな」


「全然いいさ!むしろそっちの方が気が楽だ」


「僕らも最近冒険者になったばかりなんだよね。だから一緒に頑張っていこう!」


「うんうん。ノア君は悪い人じゃなさそうだし、仲良くやっていけそう」


 スズナがそう言うと、アルレは悪そうな笑みを浮かべて、


「ほほう。さてはスズナ、ノアに惚れたか?」


 と言うのだったが、


「そ、そんなわけないでしょ!」


 あっさり否定されてしまった。
 俺と言えどもちょっとは傷つくぞ。
 プププと楽しそうにアルレとレンは笑っている。


 ……楽しいな。
 転生して正解だった、今世で出会う人達は良い人ばかりだ。


「……そんな訳でこれからよろしくな!ノア!」


 アルレは俺に向かって手を差し出す。
 俺はその手を握り、


「ああ、よろしくな!」


 と笑顔で返すのだった。





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