チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
チート! 029 2人の行方は?
別れというものは唐突である。
スノーが苦しめられていた美の女神の呪いである【不幸の呪い】が解呪され、そしてスノーを奴隷として縛り付けていた『隷属の首輪』が外されたのは昨夜の事だ。
シローがいくら解呪できると言ってもスノーとしては今までできなかった事がシローだからと言って解呪できるとは思っておらず、一生この【不幸の呪い】と付き合っていくんだと思っていただけに全く理解できず放心して夜を明かすことになった。
何度も言うがスノーが呪われて以来幾度となく『解呪』が試みられたが成功はしなかったのだから諦めるのも仕方がない。
スノーは元々エルフの国の王女だった事から呪われたと分かった時点で最高の魔法使いや神官が呼び寄せられ『解呪』が試みられた。
しかしそんな魔法使いや神官も男性であれば呪いの効果によって不調を訴え、そして死んでいったのだ。
そして『美姫』と言われていたスノーはいつしか『死姫』と言われるようになった。
それでも父である国王はスノーを愛しておりスノーを庇い続けたのだが、婚約者であり国の重鎮の嫡男であった男が死ぬと息子を死に追い遣ったスノーを恨んだ重鎮がスノーを死罪に、と貴族たちに働きかけたのだった。
そして貴族たちの中にも被害者が多くいた事からスノーの父王も看過できなくなるほどの大事となってしまい、とうとうスノーは奴隷として売られる事になったのだった。
そして呪われたスノーを買うものなど現れるはずもなく、最後の望みとオークションに出され落札もないまま死地へ向うはずだったスノーはシローに買われたのだった。
誰もが諦めた『解呪』を行ったシローはといえば、いつもと変らぬ朝を迎えていたのだが、それはスノーの一言で混乱へと変った。
「私を奴隷にして下さい!」
昨夜のスノーは自分が奴隷ではなくなったのは分かった。
奴隷の印である『隷属の首輪』は既に首にはないのだから。
しかしスノーはまだ信じられないのだ。
自分を苦しめ続けた【不幸の呪い】が本当になくなったのか、鑑定系のスキルを持たないスノーには無理もない事である。
そして今後の自分の身の振り方について寝ずに考え朝を迎えたのだった。
「何を言っているか理解しているのか?」
「勿論です! 昨晩寝ずに考えた結果です!」
シローとてこのような事をスノーが言い出すとは思わず少し声を荒げてしまったが、それでも冷静に答える事が出来なかった。
「・・・俺は暫く迷宮都市ヘキサで活動する予定だ。だから1ヵ月後にもう一度スノーの考えを聞かせて欲しい。勿論、それまでしっかり考えて欲しい」
「・・・はい」
「それから俺の事をご主人様と呼ぶのは辞めて欲しい」
「しかし・・・」
結局、スノーはシローを『シロー様』と呼ぶ事にした。
シローにしてみれば『様』もいらないのにというのが正直な気持ちだ。
取り敢えずではあるが、スノーの決断を先送りにし頭を冷やす時間を稼いだシローであったが、まさかスノーがこのような事を言うとは考えも及ばなかった。
話し合いに思いのほか時間がかかってしまったがスノーの気持ちを良い方向に向かわせる為にも迷宮都市ヘキサに向かう事にした。
「じゃぁ、迷宮都市ヘキサに向けて出発するか!」
「「「はい(です)!」」」
因みに全員一致で宿には不満があるので迷宮都市ヘキサの郊外に家を建てて住むことになった。
そこは迷宮都市ヘキサから歩いて2時間ほどの場所ではあるが、森林の中なので人目には付かない場所だ。
そして簡易家を造る要領で長期に住めるように拘りをいれつつ家を造り、【空間魔法】と【暗黒魔法】によって丁寧に隠蔽し、シローはスノーとアズハ、クルル、ジーナを引き連れて迷宮都市ヘキサへ入るのだった。
迷宮都市と言われるだけあってヘキサには大小複数の迷宮が存在しており、街中には冒険者と思われる武器を携帯した者が多くみられた。
そんなヘキサのメイン通りに冒険者ギルドはあり、その横には冒険者ギルドより大きな建物の魔導ギルドが存在感をアピールしている。
「流石は魔導王国ってだけはあるね、冒険者ギルドより魔導ギルドの方がでかいよ!」
「このヘキサは魔導王国の副都なのですが、魔導ギルドの本部はここヘキサにあるのです」
アズハは奴隷として冒険者に買われ2年ほどアゼン村を拠点に活動していたのでアゼン村と程近い鉱山都市フリオムと回廊迷宮で繋がっている迷宮都市ヘキサには何度も訪れた事があるのでヘキサの事はある程度知っているのだ。
「そうなのか、俺はてっきり魔導王国セトマの首都ライベスに魔導ギルドの本部があると思っていたよ」
「このヘキサが初代賢者様の出身地だった事と迷宮が多く存在する事でこのヘキサに魔導ギルドの本部が置かれたと聞きました。それと魔導ギルドの本部長は賢者様か大賢者様がなるとも聞いていますが今は賢者様が居ないので大魔導師様が代理をしているようです」
この場合の賢者とは迷宮都市ヘキサを治める賢者という意味であり、他の都市を治めている賢者ではない。
そして今現在この迷宮都市ヘキサには賢者や大賢者は存在しておらず、大魔道師が代理として街を治め魔道ギルドも管理しているのだ。
魔導ギルドが設定している階級はこのようになっている。
魔導師系であれば、初級魔術師→中級魔術師→上級魔術師→魔術師長→魔導師→大魔導師→賢者→大賢者となっている。
対して魔技師系であれば、初級技師→中級技師→上級技師→技師長→魔技師→大魔技師→賢者→大賢者となっており、魔導師と魔技師を含む上位の地位は他国で言うところの貴族扱いとなる。
魔導師系は魔術や魔法の開発、魔物の討伐に功績があると階級が上昇し、魔技師系は技術開発、魔導具開発に功績があると階級が上昇していく。
多くの者は中級魔術師から上級魔術師、中級技師から上級技師で引退する事になるし、貴族待遇となる魔導師や魔技師になるには功績だけではなく、素行も良く清廉潔白でなければならないらしい。
とは言え、この世界で清廉潔白の者がどれだけいるのかはシローだけではなく多くの者が疑問に思っているところである。
アズハやクルルにより魔導ギルドの仕組みをレクチャーしてもらうシローであるが、シローは魔導具と言われるマジックアイテムを多く目にし自分やクルルでも作成ができるようになりたいと思うが、魔導ギルドに登録する気はない。
「取り敢えず、魔導具を売っている商店に案内してくれ」
「はい、こちらです」
呪われてよりスノーは自分の殻に閉じこもり、奴隷になってからは考える事を放棄した。
そしてシローと出会い奴隷になって放棄したはずの考えを求められ、呪われてより閉じこもった殻を割り出る事ができた。
シローは奴隷であるスノーを奴隷扱いする事もなく、更に呪いなど何処吹く風と言わんばかりにスノーに接してくれた。
そんなシローと分かれ、自分の好きに生きる。
スノーにとって人としての当たり前を再び与えてくれたシローと別れて生きるなど考えられなかった。
そんなシローに対してスノーはいつの間にか恋心を抱いていた事に気が付いたのだ。
しかし自分の気持ちをシローに打ち明ける事もできず、かと言ってこのままではシローと離れ離れになるのはとても出来そうにない。
最初は不安から奴隷に戻る事を望んだが、今はシローの傍に居たいが故に奴隷となる事を望む。
シローがこの事を知ったらきっと叱られるだろうなと思いながらもそれ以外の選択ができないスノーはシローとアズハの後に続き迷宮都市ヘキサの街中を歩く。
「流石は街一番の商店だ!」
シローはアズハに案内してもらった商店の中で所狭しと並べられた魔導具を見て子供のようなはしゃぎ様である。
実際、12歳なので子供と言われても違和感はないシローではあるが、既に成人である。
結局、シローは魔導具は買わなかったものの、多くの素材や生産活動に必要な道具などを購入していくことになる。
しかしこの時点でシローは知らなかったのだが、こういった素材は魔導ギルド員であればその階級の高さに比例した割引があるのだという事を。
迷宮都市ヘキサに到着してより1ヶ月。
シローは生産系スキルの取得とマジックアイテムの生産に精力的に取り組んでいた。
幸いな事に資金はたんまりとあったのでシローはその資金を食いつぶしながら日々引き篭もり的な生活を送っていた。
「シロー様、お食事の用意が整いました」
スノーが居なければ寝食を忘れ生産活動に没頭するほどである。
「ああ、今行くよ」
「クルルもね」
「はい、です!」
スノーはほぼ毎日迷宮都市ヘキサの冒険者ギルドでアズハとジーナの3人で依頼をこなしており今ではランクC-になっており、シローよりランクが上になっていた。
しかしシローはその事実も知らないし、冒険者のランクには興味がなかった。
暫くしてシローがテーブルに着くと、スノーが温かいスープが入った皿をテーブルの上に置く。
「今日も美味しそうな料理を有難う」
「いえ、好きでしているのですからお礼など・・・冷めないうちにお召し上がり下さい」
「うん、いただきます」
「「「「いただきます(です)」」」」
シローからお礼を言われたスノーの後ろにはバラが見えるほどに幸せそうだとアズハとクルルは苦笑いをする。
しかし当の本人であるスノーだけではなく、シローはそういったバラ色のオーラを感じる事ができず、アズハは「鈍感!」と主人であるシローに対し頭を抱えるのだった。
この食事の後、シローはスノーと奴隷についての話が待っている事を覚えている。
スノーも同様でシローと奴隷についての話をする事を覚えている。
アズハは2人が話しやすいように食事が終わったらクルルとジーナを連れて自室に篭ろうと考えている。
シローとしてはスノーが再び奴隷になる事は拒否したいが、スノーは奴隷になる事を望んでおり、その時間が近付いてくるにつれ食事の味が分からなくなってきていた。
「お話があります」
食事後、スノーはシローに真剣な目で話しかけた。
シローはこの時が来たかと思いつつ、しかし避けては通れない話であるとも理解をしている。
2人の邪魔にならない様にアズハとクルルは音も立てずに自室へ下がる。
「うん」
短く答えるシローに対しスノーは1ヵ月前と同じように奴隷となりたいと伝える。
「決心は変らないのか?」
「はい!」
シローは暫く目を瞑りスノーへ一言告げる。
「・・・俺からスノーに頼みがある」
「どのような事でしょうか?」
シローとてスノーの事をこの1ヵ月の間考えていた。
そして徐々に自分のボッチ体質がスノーによって緩和されているのでは無いかと気付いたのは最近の事であった。
もしスノーが了承してくれるのであれば、シローはスノーを奴隷ではなく仲間として迎え入れたい、いや、できることなら恋人として隣に立って欲しいとも思っていた。
こんな感情を抱くとはシロー自身も思ってもいなかった。
「スノーには奴隷になって欲しくない」
「それは「まぁ、聞いて欲しい」・・・」
シローはスノーが拒否してくると分かっていたので、それを遮り自分の思いを伝えようとする。
「気をきかせた言い回しができないので許して欲しいのだけど、俺はスノーには奴隷ではなく近しい存在として傍に居てほしいと思っている」
「そ、それは・・・」
スノーにとって悪い話ではない。
今のシローの言葉でスノーはシローの傍に居られるのだから。
しかし、近しい存在という曖昧な表現はどう理解すれば良いのだろうかと、悩む事にもなる。
スノーが本来望むのは恋人であり家族となる事なのだ。
それが言い出せないので奴隷となり常にシローの傍に付き従う事を選んだのである。
奴隷となり行動の制限があればこそ自分の精神は保てると考えての事であり、シローが考えているのが近しい仲間と言う事であれば精神を安定できるのか?とスノーは葛藤するのだった。
勿論、シローはスノーに恋人になってほしいと遠まわしながら伝えたつもりでいる。
つまりお互いに魅かれ合っているのだが、正直に気持ちが伝えられない者同士なのだ。
「明日・・・ご返事は明日でも構いませんか?」
「ああ、今夜一晩じっくりと考えてくれ」
その夜、シローはもう少しまともな言い方があったのではと自己嫌悪するのだったが、それ以上の言葉が口を伝うことはなかった。
シローとスノーの求めるものは同じであり、それを素直に声に出す事ができない者たちのじれったい夜が過ぎて行く。
翌日、久し振りにシローは迷宮都市ヘキサの街中に姿を見せていた。
迷宮都市ヘキサは中心に向うにつれ高層の建物が所狭しとそびえたっている。
魔導王国セトマの副都である迷宮都市ヘキサは最先端技術の宝庫であるだけではなく、七大迷宮と言われる『炎の迷宮』が存在する都市として有名である。
(久し振りに来たけど、やっぱデカイね)
生産については取り敢えず一段落ついたので不足気味の素材を購入しに来たのだが、目的の素材が品切れで入荷は未定だという状況だった。
それならば自分で迷宮に入り素材を集めるかと考えてその準備を進める事にしたシローは食料などの買出しをする。
しかし今夜はスノーと大事な話があるので迷宮に入るのは明日以降になる。
「スノー、食料を購入したら少し街中を見て回って帰ろうか」
「はい、お供致します!」
相変わらず堅苦しい口調のスノーに苦笑いしながら、シローはスノーを連れて街中を歩く。
(何かデートみたいでチョット緊張するな。こう言うのは手を繋いでも良いのだろうか?)
実を言えば、スノーも同様の事を考えており何とかシローと手を繋げないかと考えていたのだ。
しかし、2人の考えは実行に移される事もなく夕方近くに家に辿り着くのだった。
そして夕食をスノーとアズハが、風呂をシローが担当し、クルルとジーナは2人が作った食事をテーブルに並べていく。
実を言うとジーナは料理がまったくできないので出来た料理を並べたり洗い物をして手伝いをしている。
そして5人で夕食を摂るのだった。
「返事を聞かせてもらえるかな?」
食後、昨夜のシローの頼みに対する返事を促す。
アズハはクルルとジーナを連れてそそくさと自室に引き篭もり、そっとドアの影からシローとスノーのやりとりを見守る。
スノーも決意したようでしっかりとシローの目を見つめ返す。
「私は・・・」
スノーがユックリと口を開き、シローに自分の意思を伝えようとする。
「私は、シロー様をお慕い申しております・・・」
「・・・へ?」
スノーの口から発せられた言葉はシローの思考を停止させるに足るものであった。
一方、スノーはと言えば、真っ赤な顔をして両手で顔を覆っており、言ってしまったと1人身悶えていた。
「あ・・・有難う・・・」
そんな2人自室のドアの影からのぞ・・・見守っていたアズハはスノーの勇気を称賛し、シローのヘタレさにガッカリするのだった。
(ラブラブモードに突入ですかっ!です)
(勇気を出したスノー殿に幸あれ!)
アズハと共に2人を覗いていたクルルは恋する乙女であるスノーを応援し、シローを主としては最上であっても恋人や男としては二流だと評した。
2人の間に沈黙が流れどれだけ経ったのか、声を発したのはシローでもスノーでもなかった。
「あっ、そうだ! 洗物をしまわなきゃ!」
シローもスノーも沈黙が数年、数十年のような長さに感じれていただけにアズハの場違いな発言に吹き出すのだった。
「ぷっ、・・・スノーさえよければ一緒に暮らして欲しい。・・・その、俺もスノーの事は好きだ」
「っ! あ、有難う御座います!」
スノーがその言葉を聞き大粒の涙を流し、それをどうすれば良いのか分からずオロオロするシロー、共に立ち直るのは数十分先の話であり、洗濯を取り込んでから台所で2人の動向を見守るアズハ、クルル、ジーナであった。
その夜、シローとスノーは2人の気持ちを確かめあうように床をひとつにした。
「お、おはよう・・・」
「お、おはよう御座います」
「「ご主人様、奥様、お早う御座います(です)!」」
「っ! お、お、お、お、お、ぉぉぉぉ~おくしゃま・・・」
「シロー殿、奥方殿、おはよう!」
「おおおおぉぉぉぉおくしゃま」
アズハとクルル、そしてジーナの爆弾が投下されスノーは顔を真っ赤にし意味不明な行動をする。
昨夜のうちにアズハたち3人は相談をしシローの伴侶(候補)であるスノーを今までのように「スノーさん」と呼ぶわけにもいかないので「奥様」や「奥方」と発言したのだが、それがスノーの琴線に触れたのか真っ赤な顔のスノーが手足をバタバタさせていた。
朝の挨拶をした時は緊張というか気まずい雰囲気のシローであったが、顔を真っ赤にしてアタフタするスノーを見ると緊張が和らいだ気持ちであった。
ただ、スノーの歩き方がぎこちない以外は。
「朝食はできていますので座ってください」
「ああ、有難う。スノーも座りな」
「ひゃ、ひゃい!」
未だ復活しないスノーを椅子に誘導して座らせたシローは自分も椅子に座りアズハとクルルが用意してくれた朝食を摂るのであった。
(スノーがこんなに慌てるなんて、初めてみたよ。いつもはクールビューティーって感じだけど、こんなスノーも可愛くて良いな)
「今日は迷宮に入ろうと思う。スノー、アズハ、ジーナも一緒に来てほしい」
「ひゃ、ひゃい! ご、ご一緒させて頂きます!」
「ご主人様のお心のままに」
「心得た!」
「クルルは家で留守番な。偶には鍛冶の事は忘れてゆっくり休むと良いよ」
「有難う御座います、です!」
アズハは奴隷という立場なので堅苦しい言い回しをするが、これは2年前に奴隷商人に買われた時に教育されたもので本来の喋り方ではない。
ジーナは騎士の家の生まれなので元々が堅苦しい喋り方で、シローの仲間になったからといって簡単には喋り方を変える事もできない。
シローはアズハの喋り方もジーナ同様に元からだと思っているのだが、ここでもシローのボッチスキルはコミュニケーション能力の欠如を露呈させており本来のアズハの喋り方を知らないでいる。
「素材集めなので魔物を倒すのはLUKの値が高い俺が攻撃してからにして欲しい」
「「はい!」」
今回シローが行こうとしているのは『炎の迷宮』と言われる迷宮都市ヘキサができる切欠となったヘキサ最古の迷宮である。
もともとこの炎の迷宮があった場所に冒険者が集まり、その冒険者目当てに宿屋ができ、冒険者が迷宮から持ち帰る素材を目当てに商人が集まりと言った感じで集落ができ、集落が村になり、村が街になり、街が都市になったのだ。
ヘキサが迷宮都市と言われる様になるまでに多くの時間が流れたが、その間に『炎の迷宮』以外にも『回廊迷宮』をはじめ大小複数の迷宮が出来てしまっていた。
炎の迷宮とは炎系の魔物が多く棲息している迷宮であり、その最深部には火竜が棲んでいると言われて居る。
言われている、つまり過去に誰かが火竜を見たのかと言えば、それは違っており誰も火竜の存在を確認した事はない。
しかし、冒険者たちからは火竜がいると信じられている。
「迷宮に入る前に矢やポーションを購入したいのですが構いませんか?」
「ああ、それなら俺の方で用意しておいたよ。それと俺とクルルで新しい装備も用意した」
そう言うと、シローはスノー、アズハ、ジーナ用の装備と矢弾やポーションのような消耗品を机の上に置き出した。
それを見ていたスノー、アズハ、ジーナの3人の頬は僅かに引きつっていたが、シローはそれに気づかず装備の説明を開始する。
「先ずはこのスノー用のローブだけど、これは『吸魔のローブ』と言って物理防御はそこそこ高い程度だけど魔法攻撃を受けた時には威力を1/3に減じ、減じた2/3の魔力を吸収する。更に魔法攻撃力のブーストが半端なく良いんだ」
シローは薄いブルーのローブを手に持ち自慢げに説明をする。
次に白色のインナーを手に取る。
「これは『ベルベンドの革鎧』と言うんだけど、見た目は布のように見えるけど革鎧なんだ。効果は魔法攻撃のブーストだけど実は物理防御がとても高いんだ。あ、ベルベンドは知っているかな? 芋虫なんで見た目はちょっとアレだけど皮はとても良い素材だよ」
同様に白色のミニスカートやニーハイソックスの説明を終え、次に武器の説明を始めるシローの目は買ってもらったばかりの玩具を見る幼児のものだった。
今回のスノーの装備は白色で統一されており、傍から見たら某白魔導師であるが、スノーは回復系の魔法は水系の僅かしか使えないのだ。
そんなシローはスノーが今回の新装備を身に着けた姿を想像しほくそ笑む。
「この杖はエルダートレントの枝にA級魔石を混ぜて脈動を作ってあるんだ。この脈動のお陰で魔法の威力が3割は上がるはずだよ。それにこっちの弓は水竜の髭で作ってあるんだ。矢に水属性を付与できるので付与能力を使わなくてもとても強力な弓だよ。こっちの矢は魔力を込めれば込めるほど着弾した時の貫通力が上がるし、こっちの矢は着弾時に爆発するものだよ。共に戦況に応じて使ってね」
矢弾を除けばどれも市場に流せば数百万レイルはするマジックアイテムである。
勿論、矢弾も1本数千レイルと言われても不思議はないものだった。
因みにアズハは『摩鉄強化のワイバーン革鎧』が良い物なので主に武器や装飾品が用意されている。
「アズハには軽魔銀の双剣だ。この双剣は片方が雷属性を付与してあって追加ダメージ効果と麻痺効果があるし、こっちは暗黒属性を付与してあり追加ダメージは無いけど高い確率で暗闇の効果を与える事になる。あ、切れ味に関しては今の短剣より遥かに良くなっていると思うよ」
嬉しそうに説明をするシローを引きつった顔で見ているスノーたち。
「それとこれは投擲武器だ。風属性を付与してあるので投擲できる距離も長くなっているよ!」
次は、とシローは大きな盾や金属の鎧をストレージから取り出す。
「ジーナにはこれだ! 鎧は赤に拘って作ってみたよ、見てくれこの美しいフォルムをっ! 火炎鋼とミスリルの合金で耐火性能が半端ないし防御力も極めて高い! それだけじゃないぞ、この大盾は防御だけじゃなくこの竜の口から炎を吹き出して攻撃もできるんだ!」
それからもハイテンションでジーナ用の槍などの説明をするシローにスノーは自重するようにと説教をするのであった。
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