チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 023 旅の途中のとある街1

 


 その日は女性がすすり泣く声が聞こえた。
 その声の主は濃い紺色の上下に真っ白なエプロンを着けているが、そのスカートは超ミニで少し屈んだだけでも色々と見えてはいけないものが見えそうである。
 彼女は10畳ほどある部屋の片隅で体育座りをしているので本来隠すべき部分が見えている。
 見るものが見たらわかるが、超ミニのメイド服を着た彼女はそのグレーの髪の毛を後ろで結ぶポニーテール、そして尾骶骨あたりから生えているフサフサの尻尾は消沈しているのが直ぐに分かるほどに丸まっている。


「まさかメイド服を着させただけでここまで落ち込むとはな・・・」
「彼女にとってはあのミニスカートが屈辱のようです・・・」


 彼女は既に2時間近く部屋の片隅ですすり泣いているが、その部屋の入り口であるドアの傍で彼女を見つめる2人。


「いや、だって・・・アズハがそんなにミニスカートが嫌いだって思っていなかったんだよ」
「ミニスカートっていうか尻尾を服の外に出すのが苦痛のようですね・・・」


 アズハは狼人の黒狼族なのだが、髪の毛同様尻尾の毛も白に近いグレーなので黒狼族のアズハとしては見られたくないのだ。
 その故にこれまでアズハは尻尾を服の中に隠すように仕舞い込んでいたのだ。
 そんなアズハが戦闘中とは言えシローの命令を無視した事に対する御仕置きをシローが何が良いか考えていたのだが、たまたま前世の記憶で覚えていたミニスカートのメイドが頭に浮かんできたのでミニスカートの服を着させたのだ。
 シロー的にはこの程度の事では御仕置きにはならないだろうと思っていたが、当のアズハにとってはこの上ない御仕置きとなったようだ。


「取り敢えず、服を着替えさせようか・・・」
「それだと罰になりません」


 スノーは意外と厳しいな、と思うシローだった。


「・・・泣いていては話にならないのだが・・・どうすれば良いと思う?」
「・・・自分で立ち上がるのを待ちましょう・・・」


(そんなに尻尾を見られるのが嫌なのか? てか、パンツは普通に見えているのだが、あれは良いのかな?)


「・・・なぁ、スノー、やっぱり元の服に着替えさせよう。あんな風に泣かれると俺も憂鬱になってくる」
「・・・では、着替えさせますのでご主人様は部屋から出て行ってもらえますか?」


 スノーに部屋から追い出されたシローはリビングで2人の奴隷を待つ。
 暫くしてアズハを伴ってスノーがリビングにやってきたが、アズハの表情は先ほどとは打って変わり晴れやかとまでは言わないが、それでも意気消沈しているようには見えなかった。


「も、もうじばげありまじぇんっ!」


 アズハはシローもビックリするほどの勢いでジャンピング土下座をしてシローに詫びる。
 奴隷という立場上、シローにミニスカートのメイド服を着ろと言われれば拒否できない。
 それも尻尾を見られたくないというだけでミニスカートのメイド服を着たくないと我侭を言うのは許されない事だろう。
 シローは少し引き気味にアズハをこれ以上罰する気がない事を伝えるのだが、それではアズハの気もすまないと詰め寄る。


「ご主人様の命令はあのメイド服を着る事です。アズハが着れるようになったら着て差し上げなさい」


 スノーが諭すようにアズハを引きとめる。
 ここでシローがアズハを慰めてやれれば良いのだが、ボッチ体質のほぼコミュ障であるシローではアズハに掛ける言葉が浮かばないのだ。
 こんな感じで短い休暇を満喫?する3人だった。






 2日後、冒険者ギルドの出張所に顔を出したシローたちは受付嬢兼所長のアリシアーナより報酬の詳細を聞く。


「緊急依頼の参加報酬が1人大銀貨3枚、それからシロー様たち3人の魔物討伐実績としてゴブリン724体。ゴブリンメイジ35体。ゴブリンナイト41体。ゴブリンジェネラル1体。オーク311体。オークメイジ12体。オークウォーリア26体。オークバロン1体。オーガ33体。オーガストロング5体。ウォーパンサー12体。プリズムパンサー1体。ポイズンパンサー1体。アークパンサー1体。これらの討伐報酬が大金貨8枚、金貨5枚、大銀貨5枚、銀貨2枚となります。それとシローさんのパーティーは大量の魔物を討伐してくださったので討伐功労者として大金貨6枚が追加報酬となります」


 大金貨は1枚10万レイルなので140万レイル超えの報酬だ。つまり日本円で1400万円以上をあの魔物集団暴走スタンピードで稼いだ事になる。
 ジャイアントモウの肉には遠く及ばないが、それでもたった1日で140万レイル、3人で均等割りしても1人頭50万レイル近くも稼いでいるのだから高ランク冒険者並みかそれ以上の報酬だ。
 しかもスノーとアズハはシローの奴隷なので傍から見ればシローの総取りなわけで、そうなると不届きな考えを起こす者もいないとは・・・言えない。


 アリシアーナから報酬を受け取るシロー。
 奴隷の報酬も主人が受け取るのは基本なので全てシローが受け取り冒険者ギルドの出張所をあとにする。
 向う先はあの新迷宮ではなく、この旅の目的地である迷宮都市ヘキサである。
 シローとしては新迷宮に向いたかったのだが、あの魔物集団暴走スタンピードがあった事もあり冒険者ギルドの厳しい管理下に置かれているので入る事ができない。
 やろうと思えば新迷宮の中に転移することはできるが、そこまでして探索したいとも思わないので旅の目的地である迷宮都市ヘキサへ向う事にした。


(はぁ、何で俺の旅にはこんな馬鹿ばかり集まって来るんだ?)


 現在、シローたちの前にはロープで縛られた6人の冒険者がボロボロの風体で気絶していた。
 この6人はアゼン村の冒険者ギルドから延々とシローたちを追跡してきたのだが、夕暮れ近くになりシローが簡易家を作るために森の中に入ったのを好機と考えて襲撃をしたのだが、当然それはシローに察知されており更にアズハにも察知されていた。
 シロー自身やスノーは今更人殺しを躊躇する事はないが、アズハは未だ人殺しを経験していないのでここで経験させるかどうするか迷った挙句にシローはアズハにはまだ早いと結論づけた。


「この冒険者たちをどうされますか?」
「ん~、そうだね、近くの街までは後2日ほどだっけ?」
「はい、普通に歩いて明後日の昼過ぎには着けると思います」


 強盗と化した冒険者たちについてシローの判断を確認するスノーに対し冒険者たちを冷めた目で見つめながら街までの時間的距離を確認するシロー。
 それに対しこの辺りの地理に明るいアズハは明瞭に答える。
 髪の毛の色の話をしなければアズハは非常に優秀なガイドであるし、斥候職としてのスキルも優秀だ。
 しかしコンプレックスを持ってしまっている髪の毛の色さえ彼女の誇りになりえたら、それは大きな力になり得るだろう。


(彼女のグレーの髪の毛は恐らくシルバーフェンリルの血を受け継いでいる為のものだろう。神狼化は封印されているからアズハは神狼化の事を知る事はできないが、【解析眼】を持っている俺には封印状態の神狼化が見える。神狼化の事を教えてやればアズハは自信を持つのだろうか?)


「―――様、・・・ご主人様」
「え?」
「どうかされましたか?」


 考えにふけっていたシローを心配そうな視線で見つめるスノーとアズハ。


「ああ、・・大丈夫だ・・・」
「それでこの冒険者らはいかがしますか?」


 犯罪者となった冒険者たちを冒険者ギルドに引き渡せば報奨金が得られるだろうが、その街まで2日もかかる。
 犯罪者と2晩も一緒に過ごすなど考えられないし、かと言って開放するのは論外である。
 もっとも簡単な解決方法はこの場で冒険者たちの命を奪う事だが、それでは安直な考えに過ぎるだろう。
 ではアゼン村に引き返すかと言えば、それは論外の話であり、そんな事をするのであればシローは冒険者たちを殺す事を選ぶだろう。


「じゃぁ、生き埋めにして放置かな?」
「「はい?」」


 シローの意外な判断にスノーとアズハはキョトンとし思わず聞き返す。


「首だけ出して埋めていこう。それともスノーとアズハはこいつらと一緒に寝たいか?」
「「っ!?」」


 シローの問いに絶句する2人だったが、次の瞬間にはどちらともなく行動を起こす。


「早速穴を掘りましょう!」
「ご主人様の仰る通りに致します!」


 スノーが【地魔法】で穴を掘りアズハが穴に冒険者たちを放り込んでいく。
 凄い勢いで6人を生き埋めにしていく2人はよほど冒険者と一緒に寝たくはないらしい。
 その後、生き埋めにされた冒険者たちを見た者はいないという。










 堅牢なる山肌にポッカリと開いた大穴は鉱山都市フリオムの出入り口である。
 幅15メートル、高さ10メートルはある大穴は人口的につくられその出入り口は常に人の出入りで混雑している。
 この街は魔導王国セトマが誕生する以前より存在し、賢者が治める街としても有名である。


「この魔導王国セトマには『爆炎の賢者』『氷水の賢者』『暴風の賢者』『大地の賢者』が存在します」


(『氷水の賢者』と『大地の賢者』は兎も角、『爆炎の賢者』と『暴風の賢者』は随分と物騒な称号だなっ!)


「そして魔導王国セトマの鉱山都市であるこのフリオムは大地の賢者が治めており、この街に限って言えば国王よりも大地の賢者の権威の方が高いと言われています」


 魔導王国セトマの政治体制は国王の下で内閣が政治を取り仕切っている立憲君主制を取っているが、4人の賢者は国王に匹敵するほどの影響力を持っている。
 但し、賢者たちは滅多な事では政治には口出しをしない。
 所謂、浮世の事には興味がないのだ。


 自分の知識で少しでも役に立てればとアズハは魔導王国セトマや鉱山都市フリオムについて一生懸命説明をする。
 そんなアズハの姿を微笑ましく見守るシローとスノー。


「随分と人の出入りが多い街だな」
「この街は鉱山だった坑道にドワーフが住み着いたのが始まりと言われています。それ以降拡大につぐ拡大でここまで大きくなっております。今は鉱石の売買だけではなくドワーフの作る金属製品が名産となっており、その売買によってこのフリオムは繁栄しております」
「アズハはフリオムに来た事があるのか?」
「はい、何度か御座います。内部の居住区は人口も多く大変賑わっています」


 未だシローの奴隷に慣れていないアズハの受け答えはどこか機械的で余所余所しい。
 シローはそんなアズハに不満がないと言えば嘘になるが、それでも最初はこんなものかも知れないし、何より前の主人を亡くして間もない事を考慮し何も言わないようにしている。


 シローはアズハに内部の案内を頼むと直ぐに冒険者ギルドに向う。
 坑道の壁をくりぬいた入り口を入ると冒険者ギルド仕様の受付フロアーに入る。
 入り口の正面に受付嬢が鎮座するカウンターがあり、依頼が張り出されている掲示板も同じフロアーにあるし、冒険者が屯する飲食フロアーもしっかりとある。
 シローたちが入り口を入ると幾人かの冒険者が視線を送るのが見えた。
 シローの後ろには超絶美人のスノーと可愛い系美少女のアズハが控えているのでシローに対する嫉妬とスノーとアズハへの好奇の目に曝されている。
 スノーを奴隷にしてからこう言う視線に曝される事に慣れてしまったシローは視線を無視し受付嬢の前に立つ。
 時間が昼過ぎという事もあり受付は空いておりシローたちは待たされる事もなく受付を済ませる事が出来た。
 シローは魔物からドロップした大量のアイテムを換金する為に提出したので受付嬢は対応に四苦八苦する事になる。
 この時シローが換金したアイテムは魔物集団暴走スタンピードの時に狩った魔物から得たものだが、アゼン村の冒険者ギルド出張所ではこれだけの量を一度に処理ができないと言われ大きな街に持ち込むように言われたのでここで換金する事にしたのだ。
 幾つかレアドロップのアイテムもあったが、ゴブリンやオークのレアアイテムなのでそこまで高額にはならなかった。
 それでも量が多いのでそれなりの金額にはなったし、それを見ていた冒険者から粘りつくような嫌な視線を受けたのも確かである。
 そんなわけでシローたちが冒険者ギルドを後にし街中で人気がない場所を通りかかった時にお約束のように襲ってくる者たちがいたが、当然のように返り討ちにし街中だったのでギルドに引き渡すのだった。


「災難でしたね。彼らは犯罪奴隷になりますのでこちらが彼らの販売額から諸経費を差し引いた額になります」


 シローは眉一つ動かさず対応する受付嬢をある意味尊敬すると共にもう少し愛想良くすれば美人がもっと引き立つのにとも思うのだった。




 

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