異世界転移者のマイペース攻略記
050_新婚旅行3
ダンジョン内での新婚旅行も二十層となった。
オカシイと思っているのは俺だけで、三人の新妻たちは嬉しそうに魔物を倒している。
やっぱりこの新婚旅行はオカシイよね?
二十層はランク6の魔物が闊歩するエリアだ。
赤の塔に向かっていた時に見つけた死者の迷宮にいたリッチがランク5だった。
あの頃はランク5の魔物を倒すのも命がけだったが、今はランク6の魔物を苦労をせずに狩れるようになってしまった。
これもあのリッチを倒したからなのだが、こうも容易いと何だか拍子抜けしてしまう。
ここで試しに10式戦車を投入してみた。
この10式戦車にもブローニングM2重機関銃が装備されているし、主砲は44口径120ミリ滑腔砲だ。
しかも装甲車以上の頑丈さもあり動く要塞と化した10式戦車が気炎を吐く。
「主、装甲車も大概だったが、この戦車は凄いな!」
主砲はまだ撃っていないが、ブローニングM2重機関銃も三段階の魔改造が施されているので威力や射程が向上している。
ここで主砲を一度撃ってみたいが、ブローニングM2重機関銃でさえあの威力なので主砲を軽々しく撃てるわけがない。
「操縦も大分慣れてきましたが、この振動は流石にキツイですね」
運転をしているセーラでも10式戦車の振動に辟易している。
まぁ、乗り心地より戦闘力の戦車だから仕方がない。
インスで対策できれば今度してもらおう。
通路は車幅ギリギリで運転のセンスが問われるが、セーラはそんな通路を難なく走破する。
今後は通常時に96式装輪装甲車で移動し、戦いとなったら10式戦車に乗り換える感じで運用しようかな。
取り敢えず主砲を試し撃ちしたら96式装輪装甲車に乗り換えよう。
『マスター、この先の開けた空間にアースドラゴンが待ち構えております』
『お、丁度良いところに、主砲を撃つ相手を探していたんだ』
『主砲ですとアースドラゴンでも大破してしまいます。素材が台無しになりますが、宜しいのですか?』
『素材もほしいけど、主砲の威力を確認しておきたいんだ』
こうして俺たちはアースドラゴンの待ち構える空間に10式戦車を進めた。
この10式戦車の主砲は走行中でも主砲が目標を自動追尾する機能があるので、これも試してみたい。
アースドラゴンを中心に右回りに移動を開始する。
こちらを警戒するアースドラゴンに照準を固定するとあとは自動で照準補正をしてくれる。
アースドラゴンも動き出し猛スピードで俺たちの搭乗する10式戦車に迫ってくる。
「総員、砲撃時の衝撃に備えろ!」
主砲を発射する。
腹の底に響く轟音と衝撃があり砲身の先に爆炎があがる。
セーラはそんな中でも10式戦車を安定して操縦している。俺の立場がないな。
アースドラゴンがどうなったか、確認する。
そこにはアースドラゴンだった肉の破片が……
アースドラゴンはランク7の化け物だけど、この10式戦車はもっと化け物だった。
いや、三段階の魔改造が10式戦車を化け物にしてしまったのだ。
主砲の威力は分かった。
96式装輪装甲車に乗り換えようかと思ったが、10式戦車の防御力を確認したくなった。
だからアースドラゴンを探して二十層を彷徨う。
流石にランク7のアースドラゴンはそうそういない。
しかし俺の【サーチ】の範囲は広大なので、ボス部屋を守るように存在する二体のアースドラゴンを発見した。
「今回は10式戦車の防御力を試すので皆は降りて待っていてほしい」
「グローセさん一人では戦車を操縦して攻撃はできませんよ」
「それに主を一人にするなどあり得ん!」
「いっしょ~ワン」
「何かあったらルビーが癒すっピー!」
皆の気持ちが嬉しい。
インスからの情報でもアースドラゴンの体当たりやブレスに十分に耐えられるらしいから、一緒に10式戦車に乗り込む。
先ずは体当たりだ。
こちらに突っ込んでくるアースドラゴンと真っ向勝負でぶつかり合う。
ゴンッという音と共に物凄い衝撃がある。
10式戦車は無事だったが、俺が衝撃で吹き飛んだ。
鉄帽を被っていなかったらヤバかった。
「いたた……」
「しっかり掴まっていないからだぞ」
脳筋リーシアに窘められる。屈辱だ。
アースドラゴンとのぶつかり合いはほぼ互角。
いや、すこしこっちに分があったようで、アースドラゴンが顔面から血を流している。
セーラはアースドラゴンと力比べと言わんばかりにエンジンをふかす。
キャタピラが地面を掴んだり空回りしたりするが、力比べでも10式戦車に分がある。
力比べをしていると横から衝撃を受ける。
もう一体のアースドラゴンが突撃してきたのだ。
流石の10式戦車も横に数メートル引きずられるが、複合装甲も魔改造されている10式戦車に大きなダメージはないようだ。
そこでセーラは10式戦車をバックをさせアースドラゴンから距離をとる。
防御力が高いのは分かった。
だが、二体のアースドラゴンを相手にするのは良くないな。
主砲の照準を最初に衝突したアースドラゴンに固定し、俺は叫ぶ。
「主砲、撃つぞ!」
爆炎があがりアースドラゴンを肉片に変える。
残った一体のアースドラゴンはその光景を見て恐怖したのか、それとも怒ったのか、首を大きく上に向ける。
『ブレスです!』
「ブレスだ、衝撃に備えろ!」
アースドラゴンが首を持ち上げる動作はブレスの予備動作だと聞いていた。
そして数秒の溜めの後に大きく口を開き勢いよく首を振り下ろす。
口の中から大量の石の塊が放出されるとそれは10式戦車のボディーにガンガンと当たる。
アースドラゴンの間抜けな顔を見せてやりたかった。
ブレスによって石に埋まってしまった10式戦車のエンジンが気炎をあげ、石を押しのけ動き出したのだから無理もない。
ブレスにも耐えきれる防御力も確認できたので主砲の照準をアースドラゴンに合わせ発射する。
動いていても自動で照準補正をしてくれるのでマジ便利!
二体のアースドラゴンを倒した俺たちはそのアースドラゴンが守っていたボス部屋の前で休憩をする。
冒険者ギルドではボスの情報を得ることはできなかった。
それもそうだろう、このダンジョンは十三層までしか冒険者が足を踏み入れた実績がないのだから。
しかし俺には分かってしまう。
俺には【サーチ】があるので、ボス部屋の中でどんな魔物が待ち受けているのか分かるのだ。
これまで前人未踏のエリアでも魔物の配置から罠の場所までこの【サーチ】は全て教えてくれるのだ。
休憩は96式装輪装甲車の中で取った。
10式戦車の防御力を確認する為にわざとアースドラゴンの攻撃を受けたことから、ボス戦の前にしっかりとメンテナンスをするために10式戦車をストレージに収納したからだ。
ストレージに収納してしまえばインスがメンテナンスをしてくれる。おまかせコースだ。
一代目の96式装輪装甲車もメンテして新品同様にできた。
ただ、居住空間の拡張もあったが何よりも【通信販売】の取引額を稼ぎたかったので新品を購入した経緯がある。
最近の俺はお金を使い過ぎている気がするが、それほど儲けているというのも事実だ。
仮眠を交代でとり、軽食を摂った。
そしてリーシアがボス部屋の扉を開け放ち俺たちは歩いてボス部屋の中に入っていく。
ボス戦はリーシアが10式戦車や96式装輪装甲車ではなく、肉弾戦で勝負したいというのでそれを聞き入れた。
大盾と斧を構えボスと対峙するリーシアの後ろ姿を見ると凛々しいなと思う。
「さぁ、殺ろうか!?」
リーシアが気合を入れるかのように大声を出す。
それに合わせてセーラが魔法を撃つ。
セーラの魔法を受けてボスが苦しそうな声をあげる。
ボスはカオスドラゴン。アースドラゴンより上位のランク8のドラゴンだ。
そのカオスドラゴンに風の渦が襲い掛かり幾つかの鱗を剥がした。
リーシアがカオスドラゴンの目の前に立つ。
トカゲのようなアースドラゴンと違いカオスドラゴンはティラノサウルスのような体に二枚の翼が特徴なので後ろ足で二息歩行をしている。
翼があるということは飛ぶこともできることから、リーシアとカオスドラゴンが向かい合ったらサンルーヴが翼を切り落とす段取りになっている。
「ギャァァァァァァオォォォォォォォッ!」
音もなくカオスドラゴンの背後に現れたサンルーヴが翼を切り飛ばしたのでカオスドラゴンは悲鳴をあげる。
その悲鳴と同時にリーシアの斧が鱗がはがれ落ちてむき出しになった皮の部分に叩き込まれる。
怒りの形相のカオスドラゴンが体を大きく振り尻尾でリーシアを薙ぎ払おうとする。
リーシアがカオスドラゴンの攻撃を受けて後方に弾かれる。
流石の脳筋リーシアも体重差はいかんともしがたい。
しかしその隙を突いてサンルーヴがカオスドラゴンの後ろ足にダメージを与える。
少しグラついたカオスドラゴンにリーシアが走り寄り体当たりをすると巨体のカオスドラゴンが後方に倒れる。
恐らく後ろ足の踏ん張りがきかなかったからだろうが、体格差がある相手に体当たりをするリーシアの脳筋ぶりが際立つ。
俺もただ見ているだけわけではない。
地面に三脚を立てバレットM82A1のスコープを覗く。
弱点は首の後ろにある逆鱗らしいので、首に狙いをつける。
起き上がったカオスドラゴンが怒り狂いブレスの予備動作に入ったのを見た俺はトリガーを引く。
カオスドラゴンの首に穴が開く。
そしてその穴から黒い炎が洩れカオスドラゴンを包む。
苦しそうにするカオスドラゴンだが、首に穴が開いているので声を発することもできずに倒れ息絶える。
暫く黒い炎がカオスドラゴンの死体を焼き、肉の焦げたような臭いがボス部屋内に立ち込める。
「殺った……か?」
「うむ、殺ったぞ!」
「ランク8のカオスドラゴンを倒すなんて夢のようです!」
「かった~ワン!」
「まさかの出番なしーっピ!」
確かにルビーの出番はなかったな。
まぁ、ルビーの出番はない方が良いだろう。
そんな感じでのほほんと笑いあっていたら床が光り出した。
眩しくて目が開けていられない。
これは!?
「おめでとう。ソナタらはこの『龍神の迷宮』のダンジョンマスターを見事討伐した」
「……貴方は?」
俺の目の前にはカオスドラゴンなどちっぽけな存在だと思えるほど強大な存在感を持った龍がいた。
カオスドラゴンがティラノサウルスだったら今目の前位にいる龍は蛇のように長い胴体の東洋龍だ。
「我はこの『龍神の迷宮』を創りし龍神である」
予想はしていたけど、龍神様のようです。
しかしツキヨミ様は名前があったけど、目の前にいる龍神様には名前はないのだろうか?
「ソナタらにダンジョンボスの初回討伐特典を与える」
俺がどうでも良いことを考えていると話が進む。
今回で二回目なので段取りは何となくわかる。
だから日本に帰る手段をもらえるのかインスに聞いてみたら、やっぱダメなんだって。
インスは言わないが、赤の塔を踏破までお預けらしい。
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