異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

043_武器商人

 


 よし、結婚式をしよう!


「というわけで3人と結婚式をしたいと思う!」
「「「え?」」」
「ほら、俺は異世界人だから」
「異世界のことは以前聞きましたが、結婚式とは何ですか?」


 どうもこっちの世界では結婚式はスタンダードではないらしい。
 結婚式の説明をすると3人とも嬉しそうにしている。
 こっちの世界では所属するギルドや役所に届け出ると夫婦として公式に認められる。
 それに結婚式を行う風習もないのだ。


 結婚式をするのは良いが会場がない。
 それなりに人が入れる大きな建物、そして食事などを提供できる設備、こういった施設が領主館や商業ギルド会館、冒険者ギルド会館程度しかない。
 だから私設を建てることにした。
 幸いなことに新しく土地を購入したので、そこに結婚式ができる建物を建てようと思うのだ。


 現在、購入した土地には古い建物が建っているので、これを解体するのに一ヶ月ほどかかるそうだ。
 その後、整地した土地の上に建物を建てるつもりだ。
 当然、建物は【通信販売】で購入する。建物を購入すると結構金額がはるのでランクアップに丁度良いだろう。


 建物の解体が終わるまでは3人のウエディングドレス選びだけではなく、何故かダンジョン攻略を進めることになった。
 まぁ、ダンジョン攻略は進めるつもりだったので良いけどね。


 12層ではミスリルゴーレムに大変お世話になったが、そろそろ次の13層に移動をしようと思う。
 と思ったらセーラがミスリルゴーレムとのタイマンを希望した。
 だからミスリルゴーレムがPOPする場所に向かうことにした。
 しかし俺たちは予想もしなかった事態に遭遇する。


 赤の塔の前には城のような冒険者ギルドのギルド会館が聳え立っている。
 その周囲には剣呑な雰囲気の冒険者たちが集まっていた。
 その冒険者の中にギルド長の姿を見て取った俺たちはギルド長に近づく。


「お久しぶりです。ギルド長」
「ん、おお、グローセ殿か、久しぶりだな」


 ギルド長は忙しそうだったので簡単な挨拶をし早速本題に入る。


「この騒ぎは何ですか?」
「うむ、実はな―――――」


 ギルド長の話で俺は現状を把握する。


「スタンピード……」


 赤の塔内でスタンピードの兆候が確認され、その後の調査でスタンピードが発生する確率が極めて高いと冒険者ギルドは判断したらしい。


「領主や商人ギルド、そして近隣の冒険者ギルドに応援の要請をしているところだ。だからグローセ殿にも要請が行くかもしれんぞ」


 スタンピード時には冒険者のバックアップをするために商人ギルドは物資面で冒険者を支える協定がギルド間で取り交わされている。
 だから商人ギルドに所属する俺にも何らかの支援要請があるかもしれないと言う。


 スタンピードの兆候がある赤の塔は立ち入り禁止になっていることから俺たちは一旦家に帰ろうと思う。
 リーシアはスタンピードと聞きウズウズしていたが、立ち入り禁止なのはどうしようもない。


「あれ、お兄さん?」


 どこかで聞いたような声が後方でした。
 その声の方に振り向くと、やはり見たことのある顔が視界に入る。


「久しぶりです。元気してましたか?」
「お兄さん、元気だった~?」
「元気してた?」


 二人の黒髪黒目の少女と金髪のエルフと思われる少女、その三人が立っていた。
 ハジメの町でスタンピードが発生した時、最前線で魔物と戦っていた日本人少女の三人。
 脳筋少女たちだ。


「お兄さんに置いていかれてから私たちも考えたんだ」
「そうそう、周囲を見ずにただ突っ走るだけじゃダメなんだってね」
「支部長に諭された」
「ちょ、カナミ何で喋っちゃうのよ!?」


 どうやら彼女たちは自分たちの向こう見ずな行動が周囲に迷惑をかけているのを悟ったらしい。
 それも冒険者ギルドハジメ支部の支部長であるゴウリキーに諭されたからのようだ。
 それでも自分たちのことが分かり改善できたのなら、彼女たちは成長できたのだろう。


「しかしこっちに着いてまだ三日なのにまたスタンピードに遭遇しちゃうなんてねぇ~」
「そうそう、お兄さんを探そうと思っていたところでスタンピードだし」
「探す手間が省けた」


 何故俺を探す?
 はぁ、分かり切っているか。彼女たちは俺を日本人だと思っているのだから。
 しかし金髪のエルフ、確かカナミ・サンジョウだったか、彼女は相変わらずぶっきら棒だな。


「私を探しておいでですか?何かほしい商品でも?」


 この際だからとことんトボケテやろうと思うが、三人は俺に頭を下げてきた。


「前回のスタンピードでは突出した私たちが孤立しないようにグローセさんがフォローして下さったと支部長から聞きました。有難う御座います!」
「「有難う御座います!」」


 ミホ・イナバが代表して謝意を述べると他の二人もそれに倣う。
 こういうところを見ると本当に成長したのだな、と思える。


「いえいえ、皆さん無事でよかったですね」
「そこで、もう一度私たちにチャンスを下さい!」


 チャンス?何で俺にチャンスを求める?そもそも彼女たちは俺とは関係のない人間なのだ、俺がチャンスを与えるということ自体が成立しないと思うが?


『マスター、彼女たちは日本に帰りたいのです。ですから必死で帰る方法を探しているのです』
『帰りたいのは分かるが、だからと言って俺に何を求めているのだ?』
『マスターが持っている力がとても凄いものだと思っているのでしょう』
『だから俺に協力を、と言うわけか……』


 俺に頭を下げたままの三人を見る。
 彼女たちが本当に帰りたいと言うのであれば協力しても良いだろう。
 以前の彼女たちは危なっかしくて正直言って協力して巻き添えを食うのが嫌だったが、今はそれが改善されたと言うのであれば協力も吝かではない。


「貴方たちの言うチャンスとは何を指しているのですか?」
「わ、私たちは故郷に帰りたいのです!」
「だからお兄さんに協力をしてほしいのです!」
「お願い。協力して」


 ミホ・イナバ、アサミ・タナカ、カナミ・サンジョウの三人が必死で訴えているのが分かる。


「おい、グローセ殿。理由は知らんが彼女たちもここまで必死に頼んでいるのだ、グローセ殿に出来ることなら協力をしてやったらどうだ?」


 まだいたギルド長が助け舟を出す。
 正直言って、俺もどうやって折れようかと思っていたので助かる。
 そう言えば、このギルド長の名前を知らないな?自己紹介をされた記憶がない。名も知らないギルド長に感謝だ。


「恩のあるギルド長にそう言われては彼女たちの申し入れを無碍に断るわけにもいきませんね」


 三人娘がガバッと顔を上げる。
 その顔は喜色満面といった感じだ。


「「「有難う御座います!ギルド長も有難う御座います!」」」


 俺たちはこの後家に戻ることにしたので、彼女たちはスタンピードの後に家に訪ねてくることになった。


 家に帰る途中で商人ギルドに立ち寄るとギルド会館内が騒然としていた。
 スタンピードの対応で職員が大忙しのようだ。
 こんな状況で特に用もない俺がキャサリンさんを呼び出すのは申し訳ないので、日を改めることにした。
 しかしギルド会館を出ようとしたところで、物凄い力で肩を掴まれた。
 何というか、まるでゴリラにでも掴まれたような錯覚を起こさせる力だ。


「グローセちゃん、良いところにきたわ♪」


 相変わらずこの人のアップはキツイ。
 そしてリーシアやサンルーヴが俺の護衛をしているのに、その二人を掻い潜って接近するこの人は凄いと思う。
 二人が「負けた」といった表情をしている。
 セーラは急に現れたキャサリンさんにビックリしていた。
 しかしルビーが俺の肩に乗っているので、反対側の肩で良かった。
 もしルビー側の肩を掴まれたならルビーがペシャンコになっていただろう。
 そんなわけないか、ルビーはこれでもランク5の魔物だし。


「キャサリンさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。早速で悪いのだけど私の部屋まで来てくれるかしら?」
「お忙しいようですが、大丈夫なんですか?」
「その忙しさの原因のことで相談があるのよ」


 パチクリとウィンクされる。
 至近距離だったので避けきれず直撃を受けてしまった。
 俺の精神力が九割ほど減った!


 キャサリンさんの部屋でソファーに座ると音もなくお茶が出される。
 お茶を出してくれた女性職員が退室するとキャサリンさんが時間が惜しいから本題に入ると言う。


「スタンピードのことは知っているかしら?」
「はい、先ほど冒険者ギルドの前でギルド長からお聞きしました」
「なら話は早いわね。スタンピード発生時は商人ギルドとしても全面的に冒険者を支援することになっているの、だからギルドは武器、防具、食料の在庫を放出するし、各商人にも協力をしてもらっているの」
「当然ですね。冒険者がスタンピードを抑えないと街にまで被害が出るでしょうから」


 キャサリンさんは鷹揚に頷くとお茶を口に含む。


「それでグローセちゃんにもお願いがあるのよ」
「出来ることはしますよ」
「有難う、助かるわ」


 そう言うとキャサリンさんの目が鋭くなる。
 獲物に狙いを定めた猛禽類のようだ。


「ぶっちゃけるけど、グローセちゃんは武器も扱っているわよね?」


 食糧の供出かと思っていたけど、武器の方か。
 しかし何でキャサリンさんが知っているのか?キャサリンさんの前で武器を出したことはないと思うけど?
 しかしハジメの町のスタンピードの時には冒険者ギルドの支部長にも見られているし、商人ギルドのアンブレラさんも……この辺りから情報を引き出したのかな?


「……多少は扱ってますね」
「それを売ってほしいのよ」


 そうすると手榴弾かサブマシンガンのMP7あたりか。
 MP7は弾幕をはるには良いけど、射撃スキルがないとそれなりの熟練度が必要だから手榴弾だけにするか。


『インス、手榴弾を改造するとどの程度の威力になるかな?』
『はい、二段階改造しますと爆心地でランク4の魔物に致命的なダメージを与えることが可能です。ランク5でもかなりのダメージを与えるでしょう。また爆破時の効果範囲も広がりますので密集隊形で猛進する魔物には効果抜群だと思います』
『購入して二段階改造に掛る時間は?』
『百個を購入して改造を施すのに凡そ三十分が必要です』
『千個なら三百分、五時間か、取り敢えず百個を早速購入し改造しておいてくれるかな』
『畏まりました』


「私が販売できる武器は手榴弾という爆発する球になります。キャサリンさんでも見たことのない武器でしょう」
「そのシュリュウダン?というのはどのような武器でどれほどの威力なのかしら?」
「直撃であればランク5の魔物にもそれなりのダメージを与えることができると思いますよ」
「ランク5!」


 驚いている。オカマではなく綺麗な女性なら眼福なのだけどな。
 ランク3の魔物を単独討伐できれば下級貴族になれるのだから、ランク5の魔物にダメージを与えることが出来ると聞けば驚くのは無理もないか。


「実際にお見せしても構いませんが、街中で使えるような武器ではないので……」
「それなら、冒険者ギルドに向かうわよ!あそこなら広大な訓練場もあるから」
「分かりました」


 先ほど訪れたばかりの冒険者ギルドに再び行くことになる。
 しかもキャサリンさん専用の馬車ハイヤーで行くので乗合馬車よりも座り心地は良い。


 しかし商人ギルドの職員が忙しくしているのに出かけて良いのか?
 まぁ、この人に文句言える人なんて殆どいないだろうし、手榴弾を購入する段取りをすれば文句も出ないだろう。


「ん?グローセ殿か、先ほどぶりだな」
「先ほどぶりです、ギルド長」
「グラガス、訓練場を貸してちょうだい」
「唐突に何だ?訓練場なら開いていると思うが?」


 このギルド長の名前はグラガスというらしい。
 何度も顔を会わしているのに初めて知った事実だ。


 俺とグラガスさんはキャサリンさんに連れられて訓練場に向かう。
 訓練場では数人の冒険者が訓練をしていた。
 今は赤の塔のスタンピードの警戒と対応の為に多くの冒険者が一層に詰めているので訓練場にいる冒険者はあまり多くないそうだ。
 その数人の冒険者を訓練場から追い出すキャサリンさん。
 文句を言おうものならキャサリンさんによって物理的な説得が行われる。
 この人、冒険者より強いよね?何で商人ギルドの副ギルド長なの?


「グローセちゃん、お願い」


 今、ここにいるのはキャサリンさん、グラガスさん、俺、リーシア、サンルーヴ、セーラ、ルビー、そして冒険者ギルドの職員が二人だけだ。
 マジックバッッグから二段階の魔改造を施した手榴弾を取り出す。
 既にインスの手によって魔改造が施されている手榴弾が百二十個ある。
 二十個はハジメの町の時に買った余りだ。それも魔改造がされている。


「リーシア、頼む」
「任せろ!」


 俺は全員にヘッドホンとゴーグルを渡し目と耳を保護するように勧める。
 そしてリーシアがピンを抜いて手榴弾を投げる。
 訓練場のほぼ中心に投げられた手榴弾は以前見た時よりも派手に爆発して爆風が五十メートルほど離れた俺たちのところにも到達する。


「え?」
「凄い!」
「なっ!」
「うそ……」


 手榴弾を見たことのないキャサリンさん、グラガスさん、そして冒険者ギルドの職員二人は一様に驚いている。
 そして煙が晴れると地面に大きな穴が出来ており、その威力を物語る。


「凄いわね、そのシュリュウダンをどれだけ用意できるのかしら?」
「明日の朝に引き渡せるのは千個ですね」
「せ、千個っ!」


 グラガスさんが上ずった声を出す。
 グラガスさんの反応に気をよくしたキャサリンさんは商談をまとめる為に冒険者ギルドの一室を借りることにした。
 そして明日の朝一番で千個の手榴弾を納品することが決まった。


 

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