異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

027_特別会員

 


 俺だってやれば出来る子なのだよ。
 と思っていた時期もありました。……ウルドラゴを倒した俺は鼻高々だった。それを見たリーシア、サンルーヴ、セーラの3人は何を考えたのか冒険者が居ようが、魔物が居ようが関係なく真っすぐ7層への階段を目指した。
 グラスリザードの群れの中に突撃していった時に俺は自分が愚かだったと後悔したが、後悔先に立たずとはよく言ったもので後の祭りだった。


 グラスリザードは体長2~3mほどの魔物でトカゲを大きくした感じの地球で言うコモドオオトカゲのような大きさと姿かたちをしているが、体の色だけは緑色の魔物だ。
 瞬間的な動きは速いが持続的なスピードはなく、攻撃手段は鋭い牙で噛み付き肉を食い千切ったり骨を砕いたりする。
 体長は2~3mと大きいが体高自体はそれほど高くないので草に隠れ冒険者を襲い少なくない被害を出している。
 そんなグラスリザードの群れにサンルーヴを先頭に突撃していった時、俺は死んだと思ったわけです。


「グローセさん、終わりました」
「え、あ、ああ、……ご苦労さん」


 周囲はグラスリザードの死体、死体、死体。死体の山だ。合計32体のグラスリザードの死体を回収した俺の顔色は蒼白だったと思う。


「主、大丈夫か?」
「かおいろわるいワン」
「ああ……いや、今後は魔物の群れに突っ込むのは止めてくれ」
「あの程度の魔物など主に指一本触れさせないぞ」
「ごしゅじんさまをまもるワン」
「2人とも今回は少しやり過ぎました。今後はグローセさんのことを考えて行動しましょう」


 セーラが2人を諫めてくれたが、そのセーラも嬉しそうにグラスリザードに魔法を撃っていたのをしっかり見ていますからね。


 その後、順調に進み7層を経て8層に到達した。ここで帰ろうとした俺の肩をガシッと掴み先に進むリーシアとそれに従うサンルーヴとセーラ。もう帰ろうよ……目標の8層を過ぎて9層そして10層に足を踏み入れたところで、説得に成功し帰ることにした。


 赤の塔から出ると空が赤く染まっておりもう直ぐ日が暮れる時間帯だった。
 この世界に飛ばされてから考えたこともなかったが地球と同じように太陽があり、夜には月が現れる。夕焼けを綺麗だと感じたのはいつ以来だろうか?
 夕焼けがアルビノのリーシアを照らしリーシアの肌や髪の毛が赤く染まる。綺麗だ。サンルーヴやセーラも綺麗だが、リーシアは全体的に白いので夕焼け色に染まり違った美しさを俺に見せてくれる。


 夕焼けが西の空に沈む頃家に到着した。もう店は閉まっているので家の玄関から入ると店員のデイジーが夕食の支度をしていたところだった。デイジーは【料理(C)】スキルを持っているので彼女の作る料理は美味しい。


「グローセさん、皆さん、お帰りなさい」
「「「「ただいま(ワン)」」」」


 店長のルルがデイジーの手伝いをしており、俺たちを見て迎え入れてくれた。
 外には相変わらず赤●が3つあるが、盗賊たちは動きを見せない。家を見張っているだけで何をしようとしているのだろうか?


「本日、商業ギルドのキャサリンさんと言う方がお見えになりました。グローセさんが不在だと言いましたら明日の朝またお見えになると仰りお帰りになりました」
「キャサリンさん、ですか? リーシア、誰だっけ?」
「さぁ、俺は知らん」


 サンルーヴは勿論、セーラも知らないようだ。


「明日の朝来ると?」
「はい」


 朝来ると言うのなら午前中は家でそのキャサリンさんを待つとするか。
 料理が出来上がり、俺、リーシア、サンルーヴ、セーラ、ルル、デイジー、アンナ、カンナ、イズナが勢ぞろいしてテーブルを囲む。


「デイジーの料理は美味しいね」
「うむ、美味い」
「おいしいワン」
「この魚なんか絶妙な焼き加減でとても美味しいですね」
「有難う御座います! 私、将来は自分の料理店を出すのが夢なんです!」


 デイジーは嬉しそうに将来の夢を語る。俺たちはそんなデイジーの笑顔を眩しく思うのだった。


「ルルは何か夢はあるのか?」
「私も自分の店が持ちたいですね」
「それなら2人ともグローセさんの店でしっかり働いてお金を溜めないとね」
「「はい!」」


 セーラが2人を応援し、俺たちも応援する。そんな2人を見る冒険者3姉妹に同じ質問を投げかけてみた。


「私たちは生きていくために冒険者になったので、今後の目標は幸せなお嫁さんになることですね」
「お姉ちゃん、無理っ!」
「我が姉ながら現実を見てっ!」


 極々普通の幸せを望む姉に対し双子の辛辣な突っ込み!
 アンナが可愛そう……双子の妹を追い回すアンナを見るとそう思わなくなってしまう。
 暫くして姉妹のじゃれ合いは終わり、食後のデザートを取り上げられた双子が土下座してアンナに謝っている。


 その夜は3人と一緒に風呂に入りベッドにも入ってハッスルしました。


 翌朝、朝日が黄色いことを再認識した俺が一風呂浴びてリビングに行くとそこには異質な光景が……固まる俺。


「あーら、ごきげんよう。貴方がグローセ・ヘンドラー様ですか? うっふん♡」
「……」


 何だこれ! 何で俺の家にこんなのが居るんだ!
 今、俺の目の前には筋肉ムキムキのくせにゴスロリ衣装を身に纏い、そして見るに堪えない化粧をしている化け物の男が存在している。俺、喰われるのかな?


「あら、どうしたの? もしかして、私に惚れちゃった?」


 いや、それは無いから!
 俺が何でゴスロリオカマに惚れなければならんのだ! 俺には可愛い嫁が3人も居るのだ!


「あ、貴方は?」
「あら嫌だ、私ったら自己紹介がまだだったわね。私はキャサリン! 商業ギルドの副ギルド長をしているわ、宜しくね♡」


 パチクリと音が聞こえてきそうなウインクをされたが、何故か俺の体が攻撃を避けるように左に避けてしまった。うん、俺は悪くない!


「おれ……私はグローセ・ヘンドラーです。今日はどの様なご用向きで?」


 普通に返事ができた俺は凄い! そう言うことにしておこう!


「あら、せっかちね。取り敢えずそちらに座って話しましょうよ、ウッフン♡」


 何であんたが仕切るんだよ、ここ俺の家だからな。
 まぁ、立ち話も何だからキャサリンさんの向かいに座るけど、しかし直視をするのにこんなに忍耐力がいるものだとは思っていなかったよ。
 てか、ルルやデイジーはキャサリンさんのこと敢えて黙っていたな、後から問い詰めてやる!


 いつの間にか現れたデイジーがお茶を淹れて俺とキャサリンさんに配る。


「あら美味しい。商業ギルドで扱っている最高級のお茶より上等なものじゃない?」


 俺は目の前の異質な存在、キャサリンさんが飲んでいるお茶と同じものを口にする。お茶と言っても日本茶ではなく紅茶で、【通信販売】で1箱20包の物を980円で購入した。そこそこ高いけど高級と言うほどの物でもない。そんな紅茶を最高級と言うキャサリン。そう言えばこの世界の人たちの食文化は地球に比べ遅れていると思うのは俺だけだろうか?


「このお茶がお気に召しましたか? 帰りにお土産として少しお分け致しましょう」
「本当にっ!? これだけのお茶、簡単には手に入らない品よ」


 幾らでも手に入るお茶だからそこまで大げさに喜ばれてもね。


「キャサリンさん、本日の用向きを伺っても?」
「え、あらやだ、御免なさいね」


 とても喜んでくれているところ、悪いけど彼? 彼女? が俺に会いに来た用件を聞きたいので話を戻す。


「我が商業ギルドはグローセ・ヘンドラーさんを特別会員として迎え入れたいと思っているの」
「特別会員?」
「特別会員と言うのは商業ギルドに対し多くの貢献をした方だけが成れる会員のことよ」
「多くの貢献? そんな記憶はありませんが?」


 商業ギルド向けに商品を卸したことは何度かあるけど、それだけだ。唯の商取引だ。


「あらやだ、グローセちゃんは自分が扱っている商品について過小評価しているのかしら?」


 グローセちゃん、って呼ばないでよ。背中がむずかゆくなるよ。


「過小評価ですか?」
「そう、例えば白砂糖、この地域では希少な砂糖をそれも最高品質の砂糖を大量に商業ギルドに卸し、更に貴重で高級な黒コショウや白コショウ、ワインに透明度が高いグラス。膨大な利益を商業ギルドに齎してくれたわ」
「なるほど……」


 考えても居なかったが、良い品を大量に商業ギルドに卸せば商業ギルドも膨大な利益を得る、ってわけだ。


「特別会員になれば一種販売登録者と同等の商取引ができ、それでいて取引時の税が免除されるわ。但し、商業ギルドとの年間取引を3億円以上行うのが義務となるわね」
「一種販売登録に3億円以上ですか?」
「ええ、グローセちゃんなら今まで通り白砂糖、黒コショウ、白コショウ、ワイン、ワイングラスを卸してくれれば3億円なんてあっと言う間よ」


 確かに3億円分の商品を卸すのは問題ない。一種販売登録ってことは無制限に商売ができるってことだよな?


「随分と優遇されていますね。しかし年間3億円以上の取引以外にデメリットは無いのですか? 免税まであるとなるとそれだけとは思えませんが?」
「そんなに身構えなくても良いわよ。特別会員にしてでもグローセちゃんを繋ぎ止めておきたいと言う商業ギルドの思惑もあるから」


 随分ぶっちゃけているけど、俺を繋ぎ止めておく為に優遇処置を、ってわけだな。一応は納得できる話だ。


「条件は2つあるの。でも1つは既に解決しているので問題ないわ。一応言うとね、1つ目が商業ギルドと年間3億円以上の取引をしてもらうこと。2つ目が商業ギルドがある街で店を最低1軒構えること。それ以外は特に無いわね。つまりグローセちゃんは2つ目の店を構えると言う条件は既に満たしているわけよ」


 魔物の買取店があるから店を構えるのは既にクリアーしているってわけだ。後は3億円以上の取引を商業ギルドと交わせば問題ないか。


「特別会員、なるわよね?」
「今聞いたこと以外で制約がなければ特別会員にならして貰います」
「そう、じゃぁ、これを渡しておくわね」


 キャサリンさんがドッグタグのような物を渡してきた。


「それは特別会員用の認識票になるわ。明日から1年以内に3億円以上の取引をお願いしますね、グローセちゃん♡」


 うっ、背中に寒気が!


 

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