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145 戦後・4章エピローグ●

 


 神聖歴516年11月、聖オリオン教国との戦いが終わった。
 事実上、聖オリオン教国が滅んだことになる。
 教皇のアブソーネ7世、聖クロス騎士団団長のエルラン・クベ、その他十数人の自称聖職者を捕縛している。
 今回のクリセント・アジバスダの戦いでは神聖バンダム王国側の兵だけで20万人以上も戦死した。
 聖オリオン教国が集めた奴隷たちを含めると50万人以上もの人が死んだのだ。
 その殆どが勇者たちを召喚するための生贄にされたのだが、その勇者たちも半数は死んでいる。
 狂っているとしか言いようがない。


 悪魔神を召喚するために勇者たちは与えられていた剣で自害をした。
 即死だった者もいたが、生きていたものもいたのでドロシーが回復魔法を施して一命を取り留めた者もそれなりにいる。
 勇者たちは50万人もの人を生贄にして召喚されたので膨大な力を得ていたはずだった。
 だが、俺が召喚魔法陣を弄ったことでそのエネルギーは一人の少年に集中し、俺がその少年を隷属の対象外にしたことから自害の命令は少年には効果がなかった。
 悪魔神は封印されていたようで、今回召喚された勇者たちを生贄にすることで悪魔神を強化したうえで復活させようとしたようだ。
 だが、自害した勇者が半数程度しかおらず更に50万人もの人を犠牲にしたエネルギーの多くは隷属下になかった少年に集中していたので自害などしなかった。
 そのおかげで悪魔神が復活するエネルギーが不足したのだろう、中途半端な復活となりカルラたちにボコられ完全に滅んでしまった。
 一番大きかったのは言うまでもなく、俺が勇者召喚の魔法陣を触り双葉颯太にエネルギーの多くを与えたことだ。
 自画自賛ではないが、これがなかったら悪魔神はもっと強大な力を得て復活していただろう。
 まぁ、あの悪魔神が完全復活していても八岐大蛇の方がまだ強かった。
 そんな八岐大蛇を倒した俺って凄い!


 捕縛した教皇たちは全員王都に護送されることになり、身柄はお爺様に預けることになった。
 護送車は俺特製の頑丈なものなので狂信者の生き残りが現れても奪還されないように考えてある。
 それからカルラにボコボコにされたワーナーも王都に護送する。
 彼は生き残った勇者たちの隷属主だったが、悪魔神を倒したことで神格を上げたドロシーが隷属化の術式を解除することに成功したので、今ではただの犯罪者だ。


 クリセント・アジバスダだが、悪魔神が復活したことで呪われた魔都と呼ばれ始めている。
 そして大神殿や教皇庁などに収められていた財宝などは狂信者たちがかなりの量を持ち出していたようだが、それでも民から搾取してきた歴史もありその量は膨大だ。
 それらの財宝は王都に持ち帰り出征した貴族に分け与えられることになるだろう。
 そんなクリセント・アジバスダをベセス伯爵に任せ俺たちは帰国することになった。
 その際、奴隷から解放された獣人、エルフ、ドワーフなどの人々が俺の領地に移住を希望したので希望者全員を受け入れることにした。
 文官たちがスマホの向こうで悲鳴を上げていたが、俺は何も聞かなかったことにした。


 キルパス川の北側ではリー・シーダイ殿が勢力を伸ばした。
 彼はブリジルド地域に地盤を築くために精力的に動き今ではブリジルド地域の全域を支配している。
 そしてホン王国からの独立を宣言し新しい国家を興した。
 その国の名がまた彼特有の冗談の利いたもので、思わず笑ってしまった。
 大日本帝国……リー・シーダイ殿が興した国の名前だ。
 帝国なので彼が初代の皇帝となり名をコウヘー・クドウ・シーダイ・ヤマトと改名している。
 日本名が最初にあることから彼の前世(日本)のころの名前が付けられているのだと思う。そして日本を思い起こすヤマトを最後に付けたのだろう。
 まさか彼が帝国主義者だとは思ってもいなかった(笑)
 俺は大日本帝国と国交を持ち交易を行う約束をしているので今後も付き合っていくことになる。


 他にはヒの国もキルパス川の北側の地域を手に入れている。
 大日本帝国は西側だがヒの国は東側を支配しているので住みわけはできている。
 ただ、今後両国が旧聖オリオン教国の各地に進軍するのであればもしかしたら両国の間にも紛争が勃発する可能性があるので、今のうちに同盟なり国交なりを結ばせておこうと思う。
 これに関してはクララに丸投げしておこう。上手くやってくれるだろう。


 今回のことでゲンバルス半島の勢力図も大きく変わっており、情勢不安となっている。
 なぜ情勢不安になっているのかと言えば、クリセント・アジバスダの戦いで戦功を競っていた国々の兵が勇者召喚に巻き込まれ全滅しているような状況となっており、今後の国防に不安のある国が多いのだ。
 最後の戦いだと思い戦功を立てようとしたことが裏目にでてしまった。
 だからお爺様は旧ベルム公国に信頼できる部下であるアカツキ子爵を配置し、ゲンバルス半島の治安の維持を命じている。
 しかしゲンバルス半島で弱肉強食の戦いが勃発する可能性は高いとエグナシオなどは考えているようだ。


 俺も軍を引く。
 要所に守備軍を配置して帰国する。
 ドロシーはリュートレクスを連れてアルーに乗って先に帰っている。
 護衛はジャバンの竜騎士隊だ。もっともドロシーとリュートレクスに護衛がいるとは思えないが、護衛もなしに帰らせると母上に叱られそうなのでそうした。
 この判断が正しかったと後日分かった時は俺ってスゲー!と思った。


 そして勇者たちだが、父上とお爺様、そして俺が話し合い陛下の裁可が下りるまでは俺が預かることになった。
 取り敢えず王都まで連れていき、そこで暫くは過ごしてもらうことになる。
 生贄となった人々のことは残念以外に言葉も出ないが、彼らが望んで召喚されたわけではないので裁かれるようなことにならないようにフォローすることにした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 神聖歴517年1月。
 激動の年が終わり、俺は今謁見の間で陛下と謁見している。
 聖オリオン教国を亡ぼした論功行賞がこれから行われるので俺の左には父上、右にはお爺様、その他参戦した諸侯が後ろにズラーっと並んでいる。


「戦功第一位はクリストフ・フォン・ブリュトイース公爵、公爵は前に」


 宰相が俺の名を読み上げる。


「此度の大勝、見事である。よってブリュトイース公爵には旧聖オリオン教国領の東部一帯を与えるものである。また今後は旧聖オリオン教国領を極南地域と呼称し、その極南総督の任を命じる」


 一歩前にでた俺を見た宰相が羊皮紙に書かれている内容を読み上げる。
 そして陛下が丸められてリボンで封がされている領地の目録を俺に手渡す。
 今回は聖オリオン教国の北側だけだが、それでも膨大な領地が手に入ったことで王家も大判振る舞いだ。
 俺は要らなかったのだが、何と聖オリオン教国の教都だったクリセント・アジバスダを含む広大な土地を俺に与えるというのだ。
 但しクリセント・アジバスダは悪魔神が復活したことから呪われた魔都などと揶揄され今では誰も住まないゴーストタウンになっている。
 しかし元々クリセント・アジバスダに住んでいた住民の多くは周辺の土地に移り住んでいるのでクリセント・アジバスダ跡地を除けば人口の多い肥沃な土地なのだ。
 因みに極南総督とは東西南北の各総督と同じ権限を持っている。
 つまり極南地域の盟主的な存在となる。


 俺の後に続いて父上、そしてお爺様が呼ばれ褒美を与えられ、更に続々と諸侯の名が読み上げられる。
 今回、褒美を与えられる諸侯の中にはフェデラー、ゲール、レビス、ペロン、プリッツなど俺の配下もいる。
 フェデラーは伯爵、ゲールは子爵に陞爵し領地も与えられ俺から独立することになる。
 それからペロンはカルラと夫婦なので褒美は一括でペロンが子爵に陞爵し、俺に与えられた土地に隣接する土地を加増された。
 そしてプリッツも子爵に陞爵させ俺とペロンの領地に隣接する領地を拝領している。
 更にプリッツはヘカート家から独立し、新しい家を興すことになった。
 ヘカート家の領地は東部にあるのでそこに隣接する土地を加増する案もあったが、クララから自分の恩賞は不要だからプリッツに新しい家を興させてヘカート家はプリッツたちの弟に継がせてほしいという要望があったのでこうなった。
 今のヘカート家はプリッツが家督を継いだ時に男爵が約束されていたが、今回のこの処置の関係上、現当主(クララ・プリッツの父親)が男爵に陞爵することも決定している。
 プリッツがヘカート家の分家ではなく、新興貴族となり実家は弟が継ぐことでヘカート家は勢力を伸ばすことになった。
 もしどちらかのヘカート家の後継ぎが無くなってもどちらかから養子を迎えることで家の存続が図れる。
 騎士爵家や男爵家では分家を多く抱えるのが難しいのでクララにしては良い考えだろう。
 問題はクララだ。現在士爵のクララはこのままでは婿を取っても士爵家でしかない。
 男爵程度ならいずれ俺の権力と財力で引き上げてやれるが、それなりの実績がないと家内の不和になりかねない。
 クララに働きの場を与えるのが俺にとっての課題でもあるが、その内ヒの国と大日本帝国の同盟を成功させるだろうからその実績を口実にしよう。


 それからレビスやウィックたちも子爵に陞爵したが、領地はなく恩賞として金貨と宝剣をもらっている。
 他の俺の家臣たちにも男爵や騎士爵、士爵を与えることになっている。
 下世話な話だが男爵位や騎士爵位は金で買える。子爵になると流石に厳しい審査のようなものがあるが、男爵程度なら伯爵以上の上級貴族なら買えるのだ。
 だから上級貴族は爵位を金で買って家臣に与えることで家臣の忠誠を得ているのが現実としてある。
 時々、大商人が上級貴族経由で爵位を得ることもあるが、その時には大商人から上級貴族にそれなりの金やそれに準ずる何かが動いている。
 こいうのが腐敗の温床になっていることもあるが、対策は遅れている。


 勇者たちの処遇だが、かなり温情のある裁可が下りた。
 先ず希望する者は国に仕えることが許された。
 日本で高度な教育を受けていた彼らは計算も高い次元ででき、勇者召喚の恩恵で読み書きも問題ない。
 他には貴族の家に仕えることを希望した者はそれも許されている。
 貴族の間では勇者のような能力の高い家臣がほしいと獲得合戦が起こったが、俺はそれに参加しなかった。
 膨大な恩賞をもらった俺が勇者を多く囲うのは不和の元になりかねないからだ。
 俺には既に神格を持った仲間がいるし、魔族やエルフ勇者のビザズドル・ムスクルスたちがいる。
 それに賢者や剣聖もいるので態々召喚された勇者を獲得する必要がないのだ。
 だが、双葉颯太と佐々木恵、その他に数名の召喚勇者が俺のところで保護をと申し入れてきた。
 家臣ではなく保護というのが彼らの思惑なのだろう。
 俺も元は日本人だから条件付きで彼らを保護することにした。


 最後に捕虜の処遇だが、教皇であるアブソーネ7世は斬首となった。
 まぁ、想定されていたことだ。ドロシーの実母である王妃様や王太子たちの暗殺を指示した罪は消そうと思っても消えるものではない。
 教皇にたかっていた自称聖職者たちも全員処刑されることになった。
 ただ、教皇の子で聖クロス騎士団団長であったエルラン・クベは奴隷に落とされ旧聖オリオン教国の悪辣さを世に知らしめるために旧聖オリオン教国領を巡ることになった。
 そしてワーナーだが、彼は教皇並みに罪が重いとされ四肢を牛に引かせる処刑法である八つ裂きの刑に処せられた。
 惨い処刑法ではあるが、エルランの証言によって彼が行ってきた所業が分かると斬首よりも惨い死を与えよとの声が大勢を占めたのだ。
 彼は処刑される時まで自分が正しいと信じそして神聖バンダム王国を呪ってやると叫びながら死んでいった。
 俺も彼に関わった者の1人としてその処刑には立ち会ったが、ああいうものは見ていて気分が良いものではない。
 だからと言ってワーナーのしたことを許す気もない。彼があんな死に方をしたのは彼自身の業の深さによるもので、泣こうが叫ぼうが俺が何かをすることはない。
 寧ろ彼がここまでネジ曲がってしまったことに驚きを覚える。
 貴族社会がそこまでワーナーを屈折した性格にしたのか?それとも彼に屈辱を与えた俺のせいなのか?
 彼が化けて出てこないことを祈ろう。


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