チートあるけどまったり暮らしたい

なんじゃもんじゃ

134 僕は……

 




 気が付くととても綺麗な外人さんが僕を見下ろしていた。
 僕はいったいどこにいるのだろうか?
 たしか病院のベッドの上で息もするのが苦しくて体を少しでも動かすと激痛が襲ってくる、そんな苦しくて嫌な時間を何時ものように過ごしていた筈……。
 今でも体を動かすのも大変なのは変わらないけど、何でか痛みはないのか。
 あれ? 僕の手ってこんなに小さかったっけ? これじゃぁまるで赤ちゃんの手じゃないか。


「マイベイビー、パパがお帰りになるまで名前を付けられないの、御免なさいね」


 え? マイベイビー? パパ……? まさか……ははは、そんなわけ……えぇぇぇぇぇっ!


「ばぶぶあぁあ~」
「どうしたの? そんなにむずがるなんて、ケスラー子爵夫人!」


 僕は生まれ変わったのだ。それが分かったのは僕をマイベイビーと呼んだあの金髪の美人の女性、そして今僕を抱っこしているケスラー子爵夫人と呼ばれる女性が僕を軽々と抱き上げたからだ。
 僕は生まれながら病弱で体重も軽かったけど女性が軽々持ち上げるほど軽くはない。だから死んでしまい何故か転生をしたのだと思い至ったのだ。


 あれから数日が経った。
 ある程度の状況も分かった。何とここは地球ではないようで、魔法が普通にあるのだ!
 僕のママであるあの綺麗な金髪の女性、名前をドロシーというのだけどママが聖女と呼ばれ回復魔法の使い手だというのをメイド服を着た女性が話していた。
 前世では病弱だったので病院のベッドの上で過ごすばかりだったのでお母さんは毎日来てくれたけどお父さんは土日にしか来てくれなかった。仕事をしているのでお父さんが土日にしか来ることができなかったのは分かっているけど、やっぱり寂しかった。
 夜はお母さんも帰ってしまうので1人になってしまうのがとても嫌だった。
 今思えばお父さんやお母さんに何もしてあげられなかった。僕はいつもして貰う側で僕には何もできなかったのだ。
 だから僕は今のこの生を両親と楽しく過ごしたいし、過ごす為に僕に出来ることは何でもするつもりだ!


 どうやら僕の生まれた家は貴族らしくケスラー子爵夫人やメイドさんたちが僕のことを嫡男様とかいっている。
 確かに今僕が居る部屋はとても広く恐らく日本の標準的な一軒家が丸ごと一軒入れても余裕があるほどの広さだ。そんな広い空間の中に僕と乳母のケスラー子爵夫人、そしてメイドが2人の4人が居て、僕のママやパパのママである祖母のセシリアさんが毎日何度も僕の顔を見に来てくれる。
 セシリアさんは祖母と聞いたから分かったのだけど、普通に25歳といっても通じると思えるほど若く見えるしママと違った大人の魅力にとても溢れた綺麗な人だ。


 ママは毎日僕をあやしに来てくれ愛してくれているのがよく分かるけど、パパは一度も顔を見せてくれない。
 パパは貴族として戦争に行っているらしい。前世では戦争なんて遠い国での出来事で僕には他人事だったけど、この世界では戦争が身近にあるらしい。
 パパがどの様な人で僕を愛してくれているだろうか、と不安に思う。
 戦争に行っているので長い間帰って来れないのは僕にも分かるけど、未だに一度も顔を会わせていないパパが僕を愛してくれるか分からないのがとても不安だ。


 更に数日、ママが僕の顔を見に来てくれた。だけど何だかいつもと違う感じがする。


「マイベイビー、ママはパパの手伝いをしに行きます。貴方のことはセシリア様にお任せしましたから安心して下さいね」


 え、どういうこと? パパが危険なの?


「……ばぶ」
「……え!? 私の言葉が分かるのですか?」


 下手にママの言葉が分かることから僕が不安な表情をしたのがママに分かってしまったようだ。
 暫く様子をみてどうするか決めようと思っていたけど、こうなったらママの言葉が分かることをアピールして一緒に連れて行ってもらおう!


「ばぶばぶ」
「ま……さか? 一緒に行きたいのですか?」
「ばぶ~」


 伝わったよ! もうひと押しだ!
 僕は自分の中にある魔力を動かし自分自身の体を空中に浮かせる。
 メイドさんたちが魔法の話をしていたので僕も魔法を使いたいと思った時に何故か僕の中にある魔力が認識でき、その魔力を動かすことができたのだ。
 ほんの数日だけど僕は僕の中にある魔力を操作する練習を行っている。ケスラー子爵夫人やメイドたちにばれない様に夜中に起きた時や皆が僕から目を離した隙を狙って練習をしているけど結構魔力操作ができる自負はある。


「うそ……」
「ばぶばぶばぶ~」
「わ、分かりました、一緒に行きましょう!」


 ママは僕の言葉になっていない言葉を理解し、僕を抱き上げ祖母のセシリアさんの処に行く。
 これで通じてしまうなんて何だか不思議だけど、今はそれが有り難いと思う。


「ばぶばぶばぶ!」


 僕は祖母のセシリアさんに必死に訴えた。パパの力に成りたい、そしてママを守りたい、と。
 少し時間は掛かったけど、宙に浮いた僕を見た祖母は眉間をほぐす仕草をしママと一緒にパパの所に行くことを許してくれた。
 その時に「やっぱりクリストフの子なのね……」と呟いていたのが聞こえた。小声なのでママには聞こえていないようだけど、僕にはちゃんと聞こえたから。
 そしてその「クリストフ」が僕のパパの名前なんだろう。やっぱり外人さんの名前だ。日本人的な名前はまだ聞いたことないのでこの世界は日本人が召喚されたとか日本人が転生したということはないのかも知れない。
 僕が初めての転生者なのかな……


 準備ができたのでママに抱きかかえられ家から出る。異世界の初めての外は広い庭と高い塀に囲まれていた。しかも家を見るととても家とはいえるレベルではなく、屋敷というよりももっと立派で宮殿レベルだった。そして更にその後ろには大きく光り輝く城がそびえ立っていた。
 貴族だから結構お金持ちだと思っていたけど金持ちのレベルが規格外だよ!


 ママに抱かれて何処かに移動しようとしていたら僕の乳母であるケスラー子爵夫人が絶対に付いてくとママを説得し僕はケスラー子爵夫人の胸に抱かれて移動する。
 ママの護衛の少女も居るしどうやって移動するのだろうと思ていたら……魔法がある世界だから僕の常識は通用しないと思っていたけど……こんな規格外な大きな生き物がいるんだね。


「アルー、元気にしていましたか? 今日は私の息子と彼女たちを乗せて飛んで下さいね」
「ガルゥゥ」


 ママがアルーと呼んだその生き物は恐らくだけど……ドラゴンだ。
 エメラルドグリーンの鱗が光り輝いてとても綺麗なドラゴン。全長は10メートルを超えていると思うし、二対四枚の翼がありその翼を伸ばすと15メートル以上はあると思う……ファンタジーです!
 多分だけどドラゴンといえば魔物の中でも最高峰の強さを誇るはずで、そのドラゴンをペット……テイムっていうのか、しているママは一体何者なんだろうか?
 聖女といわれているのは知っているけど、聖女だからってドラゴンをテイムできるのかな?


 アルーは僕をジーっと見つめるとペロリと頬を舐める。どうやら受けいれられたようだ。
 僕を抱っこしているケスラー子爵夫人は恐怖からか真っ青な顔をしてカチコチに固まっている。危うく落ちそうになったけど、ケスラー子爵夫人は何とか意識を保ち僕を抱き直した。


 アルーの背中に乗ると大きな翼を1度羽ばたかせあっという間に地上から離陸する。物理法則など無視したかのような非常識な離陸なのに体への負荷が全然ない。
 もう一度羽ばたくと一瞬で音速を超えた証拠の衝撃波が周囲に広がるけど僕たちには衝撃どころか加速の負荷もない。不思議だけどこれが魔法のある世界なんだと納得させるしかない。
 多分だけどマッハ1や2の速度ではない。アルーの飛行速度はそんなレベルの速度で表せないほどのものだと思う。


 暫く飛ぶと皮膚にまとわりつくような嫌な感じがしてきた。
 その不快な感じがドンドン強くなってきて今では気分が悪くなるほどだ。
 思わず声を出して泣いてしまったけど仕方ないよね?


 アルーが減速し高度を下げて行く。
 どうやら人が沢山集まっている場所に降りて行くようだ。
 もう直ぐパパに会えるのだと思うと気分が悪いのも少しはマシになる気がする。それにとても暖かな感じに近づいている気がするんだ。






 

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