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なんじゃもんじゃ

099 襲撃1

 






 クリオンス将軍はサガラシ王国国王とキプロン王国国王を伴い主であるアーネスト・フォン・ブリュトゼルスに謁見していた。
 当然ではあるが両国王とも捕虜である。
 アーネストは最大限の配慮と敬意をもって2人の国王を遇していた。


「我が国に降るのであれば領地は安堵するように陛下に上申しましょう。但し、神聖バンダム王国の一領主となる事が条件ですぞ。また、このまま敵対すると言うのであれば捕虜としてこのブリュンヒルで一生過ごして貰います。選択肢は二通りしか御座いませんぞ」


 他国を属国とするのに国王の許可も得ず約束する。
 大貴族とは言え、一貴族にそのような権限があるのか? と2人の国王は訝しげにアーネストを見やる。
 2人の国王の懸念は当然であり、タダの大貴族であれば越権行為を罰せられかねない行いなのだ。
 しかしアーネストは神聖バンダム王国の南部総督であり、南部に限らず東西南北の4総督には戦時下において国王に代わり外交交渉を行える権限が与えられているし、捕虜の処遇や切り取った領地などについても裁量権があるのだ。
 勿論の事だが、総督のこういった権限には国益を損なわない限りという誓約はある。


「私は陛下より南部総督を任されており、お2人の処遇は全て私の裁量に委ねられておりますので私の言葉を信じて頂いて構いません。決して悪いようにはしませんよ」


 そして決め手となったのはゴルニューが落ちたというアーネストの言葉だった。
 自分たちがこのまま捕虜として囚われていると言う事はあの光月の火力を背景に自国がゴルニューのように蹂躙される事を両国王とも分かっているのだ。
 元々聖オリオン教国に従属していたのは理知的で人道的な政策が目立つ神聖バンダム王国よりも狂信者の集まりである聖オリオン教国と敵対する方が危険であった為なのだから。
 神聖バンダム王国の武力が聖オリオン教国を圧倒するのであれば聖オリオン教国に従属する必要はないのである。
 問答無用で死罪となる可能性も否定はできなかった事を考えればアーネストの申し出は渡りに船であった。
 故に判断は早く、2人は神聖バンダム王国に降る事を了承するのだった。


 アーネストは2人の身柄を王都に移す事にし、両国の将軍を初めとした捕虜たちを監察官と共に国に戻すのであった。














 今は王都で陛下タヌキ主催の戦勝祝賀会が行われている。
 先ほど終わった論功行賞で、戦功第一は南部総督代理として全軍を指揮し、更にホエール級1番艦の光月を開発し戦場に投入し圧倒的な戦果を挙げた俺となった。
 俺は実戦には出ていないので賛否が分かれるところだが、論功については俺が決めた事ではないので仕方がない。
 尤も俺が総大将となった戦でこれまで落とせなかったゴルニュー要塞を陥落せしめたのは事実なので、その功について陛下タヌキが明言した事が最終的な決め手となった。


 そして第二の戦功はウレイモネン・レストスで、彼は聖オリオン教国軍の副司令官の首級を挙げており、その功績により男爵位に叙されそしてゴルニューに新設される総監庁の副総監の職が与えられる事になった。
 ベセス伯の孫ではあるが無爵で経験も浅い青年がいきなり男爵に叙されるだけでも十分な褒美であるのだが、更に新設されるゴルニュー総監庁の副総監という地位を与えるのだから諸侯からの異論がなかったわけではない。
 しかしウレイモネンが挙げた戦功は非常に大きく、本来であれば彼の主君であるベセス伯に対して褒美を与えるべきなのだが、南部貴族のナンバー2ともいえるベセス伯を陞爵させれば侯爵か辺境伯となる。
 だが、それをすればブリュトゼルス辺境伯家と同格の家が興る事になり南部貴族の分裂も危惧された為にウレイモネンに褒美を集中させる事にしたのだ。
 これはどちらかといえば国王派の思惑である。
 まぁ、ベセス伯を辺境伯に叙してゴルニューを治めさせるというのも良い案だと俺は思うし、父上もそう考えていたようだが国王派の上位貴族が増えることを懸念した貴族派からかなり抵抗があったようで国王派と思惑が一致した結果だ。


 そしてアナも戦功が多大と判断され男爵に陞爵しゴルニュー総監庁の初代総監に就任する事が決定した。
 これは実質的に領地を与えたようなもので、更に言うとアナは総監として駐留軍の指揮権を与えられているので駐留軍の兵士30,000人と艦艇200隻を指揮下に置くことになった。
 男爵という決して高い位ではない貴族がこれほどの兵力を保持しているのは本来ではありえない。
 これもベセス伯の陞爵阻止に絡んだ人事の一環だ。


 その他にも陞爵や叙爵に金品の褒美が多くの者に与えられた。
 因みに俺への褒美は人的資源にしてもらった。
 つまり捕虜となった聖オリオン教国兵を戦争奴隷として俺の領地に連れ帰る事を認めてもらい、更に王国から優秀な文官を数人、それらの文官たちについては1年間の俸給を王国が負担し1年後に正式にブリュトイース伯爵家の家臣となる時に士爵に叙するというものだった。
 人材不足のブリュトイース伯爵家には今回の褒美が何より有り難いのだよ。
 だって、物質的な事は大概俺の力で何とかなるけど人材だけはそうはいかないからね。


 そして褒美ではないが、神聖バンダム王国が領有することになったゴルニュー要塞周辺から多くの元奴隷たちを受け入れる事になっている。
 これは不当に扱われていた獣人やエルフにドワーフなど聖オリオン教国では亜人や下等種族と言われ搾取され虐げられてきた者たちをオリオン教の呪縛から解放した事での副産物で、今まで自分たちを虐げていた者たちが没落し神聖バンダム王国の国民となった事で忌まわしき記憶の地を離れる者が続出したのだ。


 それから予定通りペロンが騎士爵に叙爵され俺の寄子としてブリュトイース地域に領地を与える事になった。
 とはいえペロンに与えた領地は未開発の土地なので早急に入植できるように手配をしてやらないとね。
 他にカルラとプリッツには金貨が褒美として与えられ、フェデラーは男爵に陞爵し、フィーリアとリリイアは奇襲作戦で獅子奮迅の働きをしたとしてフィーリアには槍、リリイアには剣が褒美として下賜された。
 それに加えブリュトイース家としてフェデラーを少将に、カルラを中佐、プリッツを少佐待遇、ペロンを少佐待遇と正式に家宰の役職を与えた。


 そして最後にドロシー様に挨拶をして屋敷に戻った。
 これ大事! とっても大事!
 今回の戦役でかなり心配をかけているからしっかりとケアしないと後がとても恐ろしい事になる。












 領地の開発は順調だ。
 聖オリオン教国の馬鹿共が攻め込んできてジルペン湖で戦いがあったし、その後の追撃戦もあったが俺の領地の開発に関しては大きな影響はない。
 領地の開発については騎士爵となったペロンを筆頭にウードなど古参の家臣に加え今回の褒美として与えられた人的資源を投入しておりかなり安定してきた。
 更に積極的に登用をしていた新卒者も3月に配下に加わったし6千人にも及ぶ戦争奴隷を開発事業に従事させた事でもともと急ピッチに進められていた開発が加速している。
 これらの戦争奴隷を運用管理するのに新人のエグナシオがその手腕を発揮している。
 エグナシオは身長2mの長身なのだが純粋、純血のドワーフだ。
 そんなエグナシオが『賢者の知恵』というギフトを有している事を知っているのは俺とフィーリア、リリイアの3人と本人だけだ。
 ギフトは隠しステータスなのでステータスプレートには現れない。
 なのでおりを見てエグナシオの隠しステータスに記載がある『賢者の知恵』を教えてあげたのだ。
 それを聞いた本人は至って冷静に受け止め、「そんな気はしていました」と呟いただけだった。
 あまりの反応のなさにガッカリしたのを覚えているよ。
 あ、あとフィーリアは兎も角、リリイアもエグナシオの『賢者の知恵』の事を知っているのは『天下の剣聖』のギフトを持っているから教えた。
 だって、『賢者の知恵』と『天下の剣聖』ってなれば勇者パーティーの定番じゃね?
 まぁ、定番じゃなくても普通に関係性がありそうだよね。
 話を戻すがエグナシオは筋肉質で逞しい体型をしているのだが、その外見に反してその知識はまさに賢者の名に相応しいし、俺が一言言えば十を知るって感じでとても心強い男だ。
 ただ、女好きなのが玉に瑕って感じだ。


 それとドラガンも家臣に加わっているので早速ブリュト島に送り込んでマジックアイテムのテスターをさせている。
 ドラガンは戦闘向け試作品のマジックアイテムをテストする場合には実際に魔物を相手に戦闘を行っている。
 この行為には俺も苦言を呈したが、ドラガンは実際に命を懸けてのテストでないと真価が分かりません故にと真剣に反論してきたのでそれ以来放置をしている。
 職務に忠実で真剣なのは良い事だ・・・


 それにペロンの領地となる土地にも戦争奴隷を投入して開発を進めている。
 ペロンに関しては自分の領地の開発を優先させるように命じているのでイーストウッドの開発はウードとエグナシオが主となり進めている。
 ペロンの領地はイーストウッド川を西に遡りブリュトゼルス辺境領との領境に近い場所にある。
 この地をペロンに与えたのは今後水上輸送が本格化する事を見越した港の整備もあるが、何よりこの地には大規模なミスリルの鉱脈があり開発すれば領地が富む事が分かっていたからである。
 俺の直臣の筆頭格であるカルラと俺の親友であるペロンがいずれ結婚し治める領地なのでできる限りの厚遇をもって報いたいと思っての事だ。
因みにフェデラーは男爵になったが領地はいらないと言っていたので陞爵と金品の下賜にとどまっている。


 今回の戦いで小国のサガラシ王国とキプロン王国は正式に神聖バンダム王国に帰属し、両国の国王であった2人は陛下タヌキから侯爵に封じられ神聖バンダム王国の貴族となった。
 そして聖オリオン教国の最前線たるゴルニューはベセス伯爵率いる神聖バンダム王国軍によって陥落しゴルニューと周辺4郡、そして都市ダズムと周辺2郡が神聖バンダム王国の勢力圏となった。
 これらの土地は長い年月に渡って聖オリオン教国が治めていた土地であり領民はオリオン教徒ばかりなのでいきなりやってきた神聖バンダム王国の支配に当初抵抗していた。
 ゴルニューに関しては設置した総監庁に赴任したアズバン男爵が総監として何とか治め徐々に落ち着きを取り戻していると聞いているし、都市ダズムの方も貴族や代官たちが何とか治めていると聞いている。


 ゴルニュー総監庁の役割はサガラシ侯爵とキプロン侯爵の監視、そして聖オリオン教国の押さえだ。
 初代総監となったアズバン男爵はブリュトゼルス辺境伯の騎士団出身で元は騎士爵家の次女であったが、その才を認めたお爺様が騎士爵としてブリュトゼルス辺境伯家の騎士団の重職に就けた女性である。
 ゴルニュー総監には政治家としての手腕だけではなく軍事面にも長けていなければならないのだがアズバン男爵は長年ブリュトゼルス辺境伯家で文武において実績を残してきた事に対しての恩賞を含めた抜擢になっている。
 それでもこういう事に対しては実力主義の父上なので適切な人選なのだろう。










「それは事実ですかな?」


「嘘を言っても仕方がないでしょう?」


 冒険者ギルド王都本部のグランドマスターの執務室において俺は部屋の主であるグランドマスターと対している。
 このグランドマスターは大柄で厳つい容姿であり元は冒険者として名を馳せていたそうだが、現在は既に還暦は越えている。
 ただ、この世界には還暦という風習というか考え方はない。
 しかしその存在感は年齢による衰えはない。
 そんなグランドマスターが眉間の皺を更に深くし俺の言葉と証拠の真贋を図っていた。


「探索者ギルドと取引がある商人に対し冒険者ギルドが圧力を掛けている証拠はここに。冒険者ギルドが我々に敵対するのであれば私の方でもそれなりの対応をします」


 簡単に言えば冒険者ギルドだからって調子にのるなよ! って殴りこみはしていないけど先ずは苦情を言いに来たのだ。
 どうもグランドマスターは今回の圧力の件には絡んでいないように見受ける。


「そもそも、冒険者ギルドは我が領地に関与しないという約定があった故に態々探索者ギルドを組織したのです。今更利益があるからと言って横槍を入れてくるのは余りに常識知らずであり恥知らずな行為だと思いますよ」


「当然じゃ。今更ブリュトイース地域へ進出など言えた義理ではない」


 グランドマスターは苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を見せる。


「それでは速やかな対応をお願いしたい。そうですね、3日。3日後に事の顛末についてご報告を頂きたい」


「・・・了解した」


 グランドマスターはこめかみ辺りに青筋を浮かべているが、その怒りは俺に向けてではないだろう。
 これ以上は追及する必要もないし、グランドマスターにはしっかりとプレッシャーを与えておいたので早々に引き上げる。


「あの程度で宜しかったのですか?」


 フィーリアの他に俺の護衛としてリリイアを連れてきていたのでリリイアがグランドマスターへの追及について疑問を投げかけてきた。


「グランドマスターを追い込む必要はないさ。あの人は約束を守る人だし態々敵にする必要はないよ」


「そのようなものですか・・・」


 リリイアは盗賊に捕まっていた小人族の女性だが、聖オリオン教国軍との戦争以降俺の護衛部隊に正式に配属している。
 ブリュトイース伯爵領での盗賊退治の後に俺に仕官してきた時はフィーリアの部下にしてお爺様に預けて鍛え上げて貰っていたのだが、流石は『天下の剣聖』様だけあってアッと言う間にお爺様のお墨付きが出た。
 その時のお爺様は「フィーリアといい、リリイアといい、クリストフの元にはこのワシを超えるものが2人も集まるとわな」と嬉しそうに話していた。
 因みに総合力でお爺様を超えている者はカルラを筆頭にした俺の旧学友4人衆もいるが、お爺様が言うのはあくまでも剣の腕・・・でと言う事だ。
 それで今回は俺の護衛としてリリイアも連れてきたのだ。


 と、そこで急に馬車が止まる。
 俺の馬車の周囲は護衛たちが守っているし、動く要塞と言っても過言ではないこの馬車に対して襲撃があっても心配はしていない。
 敵意が感じられればフィーリアが真っ先に動くからフィーリアが警戒をしていないって事は襲撃ではないと思うが、護衛たちに報告をさせる事にする。


「馬車が横転しており道を塞いでおります」


 ふむ、こんな街中で横転とは穏やかではないな。


「怪我人はいるのか?」


「どうやら奴隷商人の馬車だったようで荷台に詰め込まれていた奴隷が数人怪我をしているようです」


「クリストフ様・・・」


 悲しそうな目で俺を見てくるフィーリアは自分が奴隷だった時の悲惨な記憶が蘇ったのだろ。
 そんな悲しげな目で俺を見るなよ。


「フィーリア、護衛はリリイアだけで事足りるから馬車を片付ける手伝いをしてきてくれ」


「は、はい!」


 フィーリアなら部位欠損でもなければ回復魔法で怪我を治せるだろうし、襲撃を受けても大事はないだろう。
 しかしフィーリアが俺の傍を離れるなんて珍しいな。
 それだけ奴隷になった者たちの事が気になるのだろうか。
 怖かった、寂しかった、悲しかった、何より親と死に別れ世の中に絶望したのだろう、あの時の自分が思い出されるのだろう。


「お館様、フィーリア様は・・・」


「暫く好きにさせてやればいいよ。その間は私の護衛をしっかり頼むよ」


「はい!」


 っ! ・・・何だ? この不快な感じは・・・
 はっ!


「フィーリアっ!」


 俺は叫んだ、そしてそれと同時に奴隷たちを積んでいた馬車が爆発した。
 爆発の衝撃で馬車が少し揺れたが俺は馬車に乗っていたので被害はない。
 しかし馬車の外は爆煙で視界が悪くなっている。


「お館様、なりませんっ!」


 ドアノブに手を掛けた俺を引き止めるリリイア。


「放せ! フィーリアが」


「フィーリア様よりお館様の安全が優先されます」


「くっ!」


 だからと言ってフィーリアや護衛の騎士をこのまま放置する事はできない。
 周辺には俺に敵意を持つ存在は確認できない。
 だが、どうやった・・・嫌な感じはしたが、近くに敵はいない・・・どうやって爆発させた? ・・・まるで時限爆弾・・・いや、遠隔操作のようだ・・・


「リリイア、私はこの馬車の中にいれば安全だからフィーリアと騎士たちの確認を!」


「了解しました」


「・・・気をつけるように」


 俺は外に出ようとするリリイアの腕を掴み引きとめ、一言だけ告げた。
 リリイアは頷き馬車から外に出る。
 恐らくこれ以上の攻撃はないだろう、この周辺は少なくとも安全だ。
 俺が外に出てフィーリアたちの安否を確認できれば良いのだが、立場が許さんだろう。
 俺がこんなに落ち着いているのもフィーリアは少なくとも命に別状はない、護衛たちも死者はないだろうし重傷者も出ていない。
 フィーリアは俺の眷属だから感覚的に分かるし、護衛たちには障壁の腕輪があるのであの程度の爆発では爆心地にいれば兎も角、やや距離があったので吹き飛ばされる可能性はあるが、大怪我をする事はないだろう。
 問題は積まれていた奴隷たちと周囲にいた一般人だ。
 これだけの爆発なので死者も出ているだろう、重傷者もいるだろう、怪我人は数え切れないだろう。


「お館様、フィーリア様はご無事でした。護衛たちも軽傷は負っているようですが皆無事です。ただ、ざっと確認しただけですが死者が十数名・・・重傷者も多数出ています」


「そうか、ではフィーリアを呼んでくれ」


 リリイアに簡単に指示を出しフィーリアを呼びに行かせる。
 そして俺の元にやってきたフィーリアは涙と鼻水と・・・そして血で酷い状態だった。
 血と言ってもフィーリアの血ではなく死者や重傷者を助けようとしていた為についたものだ。


「・・・どういう事だ?」


「・・・申し訳ありません」


 俺は怒気を含んだ声でフィーリアに聞いたが、帰って来た言葉は一言だけだった。
 そして俺は謝罪を要求しているのではない為、余計に苛立つ。
 そんな俺の苛立ちを感じたのか、フィーリアは俺と目を合わそうとはしない。


「・・・申し訳ありません」


 再びフィーリアは俺に詫びてきたが、俺が聞きたい言葉は違う。


「そんな事を聞いているのではない」


 そう、俺が聞きたいのは無事な事を何故直ぐに報告しなかったのかと言う事だ。
 勿論、無事なのは分かっていたが、それでも顔を見て無事を確認したいのが主の、いや俺の気持ちだ。


「ど、どれい・・・奴隷たちが殺されました・・・私の前でまるでゴミ屑のように吹き飛ばされました・・・ヒック・・・私のまえで・・・ウッウウウゥゥゥ」


 フィーリアは涙を堪え、感情を押し殺そうとしている。
 いつも感情を表さず冷静なフィーリアの姿に後ろに控えていたリリイアは少し驚いている。


「こっちへ」


 フィーリアを馬車の中に呼び込むも、フィーリアは首を横に振り馬車が汚れると断る。
 しかし、俺は命令として強制的に馬車に乗せ、そしてフィーリアを抱き寄せる。


「フィーリアのせいではない。自分を責める事はないんだ」


「で、でも・・・私は・・・」


 そう、フィーリアのせいではない。
 俺を狙ったのか、それとも別の目的があったのか、いずれにしても犯人のせいなのだから。
 俺は暫くフィーリアを抱きしめて落ち着くのを待ち、リリイアは周辺を警戒する。
 護衛たちは馬車の周辺確認と馬たちの状態を確認している。


「あ、も、申し訳有りません! クリストフ様のお召し物が汚れてしまいました」


「構わないさ。それよりも落ち着いたかい?」


「はい、もう大丈夫です。取り乱してしまい申し訳有りません」


 その後、フィーリアは馬車から降りて行き怪我人の治療を行う。
 本来であれば俺の安全が優先されこの場を離れるのだが、フィーリアの気持ちを考え怪我人の治療を指示し、護衛の騎士たちには現場の保存を指示する。
 しかし俺が通行するタイミングで奴隷たちを載せた馬車が大爆発をする・・・偶然ではないだろう。


 そして王国騎士団が駆けつけてきて現場を引き継ぐ。






 

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