チートあるけどまったり暮らしたい
092 働かせ過ぎにはご注意を
「この馬車だがな、3台譲ってくれ」
唐突の発言に俺も母上もビックリだ。
ただ、母上も父上と同じ考えのようだ。
「この馬車に乗ったら今までの馬車などもう乗れん。すぐにでも購入したい」
「確かにそうですね。クリストフ、私からもお願いします」
この馬車はブリュト商会の開発部が総力を上げて作った試作品だ。
俺が作った馬車をモデルに開発部が作り上げたもので、試作品なので採算度外視で作っている事から制作費には億を超える費用が投入されている馬車だ。
「これは試作品なので同じ物を作るとなると3億S近い費用が掛かります。現在、量産化に向けた改良を指示していますので暫くお待ち下さい」
「む、そうか・・・すまぬが、最優先で譲って欲しい」
「勿論です」
父上はとても残念そうな表情だ。
まぁ、無反動サスペンションによる乗り心地の向上、居住スペースの拡張によりゆうに10人以上が乗り込め、更に冷暖房と空気清浄機の空調完備である。
イグナーツに乳母がお乳をあげるスペースもあるし、マジックバッグの改良版のマジックボックスを備え付け予め料理していたものや冷やした飲み物を収納しておけばいつでも取り出せて口にできる。
そして旅する者が一番気にする安全性においても色々な効果を付与してある。
これまでの馬車の概念を覆す仕様になっておりますです、はい。
俺たちは順調に進みブリュンヒルの手前まできている。
ブリュンヒルはジンバル湖の畔に築かれた大都市で神聖バンダム王国の南部では最大規模の都市だ。
このジンバル湖は神聖バンダム王国最大の湖でジンバル湖からキルパス川と言う川を下るとジルペン湖と言う湖がある。
キルパス川はこのジルペン湖を通り小国を通って聖オリオン教国を横断し海まで続く大河なのだ。
そして神聖バンダム王国と聖オリオン教国の水軍は何度もこのジルペン湖で激戦を繰り広げている。
もし神聖バンダム王国と聖オリオン教国の仲が良ければキルパス川による海運で賑わっているだろうに、とても残念な状態だ。
聖オリオン教国は大水軍を編成し今回もこのジルペン湖に軍を進めてくる事になると父上は見込んでいるようだ。
ただ、ジルペン湖の畔には湖上要塞と呼称されるジルペン要塞があり神聖バンダム王国の南部貴族はこのジルペン要塞に戦力を集結させる事になる。
「では、私はここで」
「気をつけて行くんだぞ」
「クリストフ、早く戻って来るのですよ」
「父上と母上もお元気で」
イグナーツもな。
ほれ、ほれ、ういやつめ。
お前は可愛いなぁ♪
父上、母上、そしてイグナーツと別れフェルク砦を経由してイーストウッドに到着した。
道中は盗賊などの襲撃を受ける事もなく順調に進む。
俺の領内に再び盗賊などが現れないように日頃の警戒は厳重に行っている。
前回のオリオン教の盗賊たちはマジックアイテムで自分たちの気配を消していたのでイレギュラーであるが、既にあのマジックアイテムへの対処は済ませているので、同じような隠蔽をしても俺には効果はない。
イーストウッドは開発ラッシュで賑わっている。
最外層である生産層を覆う城壁の城門前では検問が行われており不審者の出入りに目を光らせているので入門待ちの商人や旅人が列をなしている。
俺は領主の特権で待たずして入門ができたが、この状態は商人や旅人の負担になるので今後の開発に支障が出かねない事からこの検問も改善しないといけないな。
ただ、治安を守ると言う観点からは厳重な警備は決してデメリットばかりではないので、やりようを考えないとね。
「お帰りなさい」
ペロンは少しやつれてはいるが笑顔で迎えてくれた。
「旅は如何でしたか? さぞ良い旅だったでしょうね」
前回会った時からは想像できないほど頬がこけてしまったウードは何だか刺々しいな。
「時間がかかり過ぎる。やはりあの案を実行しないといけないね」
「たしかにあの案を実行すれば時間の短縮は可能だけど・・・」
「分かっているよ、父上には根回ししておく。・・・それよりイーストウッドの開発状況はどうだ?」
俺の質問にペロンは苦笑いをするのだが、ウードは何で俺をジト目で見るんだよ?
「着いて早々に仕事の話ですか? まぁ、良いでしょう。能力にもよりますが、働かない領主よりは働く領主の方が領民からの受けは良いですからね」
「棘がある口ぶりだな。何かあったのか? ウード」
「何もありませんよ。貴方の忠実な部下が毎日睡眠時間を削って街の発展に貢献しており、食事にだって時間をとることができずに掻き込むだけ。ほかには「もう良い」・・・いぃえ、聞かせてあげます。これが極めつけです!」
ウードは不満タラタラで俺に嫌味を含めた忙しさの苦情を言ってくる。
「私には生まれたばかりの娘がいますが、この1ヶ月で会ったのは2回だけ! この10日ほどは会う事も出来ていませんよっ!」
「あぁ、悪かったよ。ウードに仕事をさせ過ぎてすまなかった」
お怒りごもっともです。
お前ののりが良かったから仕事を任せ過ぎたんだよ。
ペロンもかなり疲れているようだし、休憩が必要だな・・・と言っても今この2人を休ませると業務が回っていかないだろうな・・・ハァ。
「悪いと思っている。だから王都から人材を連れてきた。入れ」
俺の許可と共に3人の男性と1人の女性が俺の執務室に入ってくる。
今のウードの声が室外に漏れていたのは間違いなく、4人は苦笑いをしていた。
「彼らをウードの下に付ける。自己紹介を」
俺が4人に自己紹介を促すと男性の中でも一番小柄な者が最初に口を開いた。
「私はベドマスと申します。財務に長けていると自負しております――――――」
他には熊の獣人のデリマン、細身のファイマン、エルフの女性でニキータ。
「彼らは王都で私がスカウトしてきた。ウード、これで機嫌をなおしてくれ」
「よしっ、お前たち、今直ぐ行くぞ! ほれ来い! 俺の代わりに寝ずに働け!」
哀れ4人はウードに骨の髄までしゃぶられそうだ。
捨てられた子犬のような眼差しで俺を見るなよ。
ガンバレよ、君たちの骨は・・・残っていたら拾ってやるぞ。
ペロンも4人を哀れむ目で見送っているけど、これでペロンも少しは楽になるだろう。
そんなウードたちと入れ替わりでフェデラーとレビスが入って来た。
「ウードの目が逝っていますね・・・」
「最近は毎日泊りで、家にも帰っていないようでしたからね」
「ウードには優秀な部下を付けた。で、フェデラーとレビスは何をしに来たんだ?」
「お館様がお戻りになったのに軍の首脳陣が忙しいと顔を見せないなんてあり得ないでしょ? 反乱を考えているのかって言われますよ」
「レビス少佐も睡眠時間を削っているのか?」
「お館様、レビス少佐はしっかり睡眠をとっていますし、食事も楽しくとっていますよ」
「ほう、それは軍部が落ち着いたと理解して良いのかな? フェデラー司令官」
俺とフェデラーはレビスを半眼で見つめる。
「いいえ、軍部も人手不足なので人材が欲しいですね。私も司令官という職責を担うためとは言え、何日も徹夜していますからね」
レビスが目を泳がせている。
「ほう、司令官が何日も徹夜しているのに補佐をすべき者は充分な睡眠をとっているのかな?」
2人の視線に耐えられなくなったのか、額に大玉の汗を浮かべるレビスの顔色は優れない。
そんなわけで、王都から連れてきた人材の教育はレビスに任せて本来レビスを連れて行こうと思っていたブリュンヒルへはフェデラーと精鋭たちとした。
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