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なんじゃもんじゃ

089 盗賊退治2

 


 盗賊のアジトになっている洞窟の前には林が広がっており、その林の中に常時数人ほどの見張りが陣取っている。
 こんなところにこれだけの規模の盗賊団のアジトがある事自体驚きだが、俺の魔力感知に引っ掛からない隠蔽手段がある事にも驚いた。


「お館様、援軍を要請するべきと私も思います」


 援軍を待っている間に移動でもされたら目も当てられないので、俺は部隊を前進させる決断をした。


「本来であればそうすべきだが、時間が惜しい。今であれば盗賊の殆どがここに集結しており一網打尽にできるチャンスだ。それに――――――」


 見張りだけでも5人もおり、更に洞窟の中には40人以上の盗賊がいるので兵からは援軍を要請するべきだと言う意見が多くあった。
 こっちは俺を合わせても12人で普通に考えれば奇襲をしても俺たちが数的に不利だと考えるのは当然だ。
 ただ、総勢50人ほどの盗賊程度ならフィーリア1人でも殲滅できるとジャバンにこっそり教えてやったら、ジャバンもやる気になってくれたよ。
 向上心と言うのは刺激してやるに限るね。
 そして、そのフィーリアは俺の横で愛用の槍を肩に担いで俺の指示を待っている。


「盗賊は手足を切り捨てても構わんが、できる限り殺さず生け捕りにしたい」


「できうる限りご命令を遂行いたしますが、部下たちの命を優先させて頂きます」


「ああ、できる限りで良い」


 ジャバンも言うようになった、1年前なら何をおいても俺の命令を最優先させただろう。
 部下を持った事による責任感であり、成長なんだろう。


 先ずは見張りの盗賊たちを無力化する。
 てか、こいつら、俺の命令はほぼ無視で見張りの盗賊たちを絶命させてるよ。
 そりゃ~、生かしていたら大声を出して仲間に連絡されるかも知れないけどさ・・・


 しかし見事だ、ある者は弓を引き絞り矢を放ち盗賊の心臓を貫き、ある者は盗賊の後ろから忍び寄り口を押さえ首を短剣でかき切り、ある者は投げナイフを首元に投げ刺す。
 手際が良いところを見ると、そう言う特殊訓練をしている部隊のようだ。
 確かに色々なシュチエーションに対応できるように兵らに訓練を施すようにフェデラーには命じたが、こんな特殊部隊のような動きをするとは意外ですね。


 見張りを無力化した後は洞窟内へ突入だが、問題は捕らえられている人質だ。
 人質は檻に入れられており、その前には2人の見張りがいる。
 幸いな事に盗賊たちの生活エリアと檻は離れたところにある。


「洞窟に入り30m行くと分岐がある。その分岐までの間に小部屋が2つありそこに3人、分岐を左に行くと檻があり見張りが2人と檻の中に周辺から集められた民が63人いる。分岐を右に行くと30人ほどが大きな空間におり、その空間に繋がっている個室に11人が休憩しているようだ」


「相変わらずお館様の索敵は素晴らしいですね」


「これだけでも私が出張った甲斐があっただろ?」


 ジャバンは苦笑し頬を指でかく。


「第一優先は民を無事に確保する事だ。次いで盗賊たちの無力化、できる限り捕らえろ」


 簡潔に目標を指示して後はジャバンに任せる。
 俺やフィーリアなら1人でも盗賊を無力化できるが、それをすればジャバンたちの面目が立たないからね。


 俺と俺の護衛のフィーリアにもう1人兵を残してジャバンは洞窟へ入って行く。
 だから千里眼で状況を見させてもらう。
 即効で小部屋に居た3人の盗賊を音も立てずに無力化し、分岐に差し掛かると3人が檻の方へ移動する。
 獣人が2人とエルフが1人の3人だ。
 3人は夜目が利くらしく暗い洞窟の中を松明もなしで進み、見張りの盗賊2人を暗殺者も真っ青になって逃げ出しそうな技術で無力化する。
 因みにここまでジャバンたちの無力化はイコール『死』って言う意味になっている。
 俺は捕らえろって言っているのにね。


 3人は檻の中の民たちに「シー」っと口の前で指を立てる。
 それでもザワつくのが人の性で、檻の中は一瞬だが騒然となる。
 だが、幸いにもその一瞬が盗賊たちに届く事はなく、大きな空間では盗賊たちが酒盛りを続けている。
 その後はまさに蹂躙劇であり、盗賊たちはジャバンが率いる兵たちにバッタバッタと切り伏せられていく。
 生きて捕らえようと言う気がないのが良く分かるジャバンたちの行動である。
 まぁ、生け捕りにしようとして兵に被害を出すわけには行かないから目を瞑るけど。














 見慣れない女性を形取った水晶の像がボワッとした光を放ち、周囲の空間を威圧している。
 この像が置かれている場所の周囲200mほどが魔力隠蔽の範囲となっている。


「この像は何だ?」


「・・・」


 捕まえた数少ない・・・・盗賊の中に頭が居たので尋問をするが、答えは返ってこない。
 不適な笑みを浮かべるだけだ。
 俺が子供だと思って調子に乗っちゃってくれてるよ。
 俺が盗賊に手心を加えるとでも思っているのかい?
 甘いぜ!自分の置かれた立場を認識させてやろうじゃないか!


「勘違いをしているようだから1つ言っておくが、頼んでいるわけではないぞ。知っている事を話せと命令しているのだ。・・・分かってないようだな・・・カーススピリッツ」


 カーススピリッツ、『呪われた心』、簡単に言えば隷属魔法なのだが、一般的に使われている隷属魔法の上位の魔法になる。
 このカーススピリッツは強力な隷属魔法で、魂の繋がりにより本人が知りえない情報でも引き出す事もできるのだが、長く術下にあると副作用でこれまで自分がしてきた悪事により心が蝕まれ悪人ほど廃人になり易いのだ。
 だが、そんな事は知った事ではない。
 調子くれてる盗賊に情けなどかけるつもりはない。
 さて、芋づる式に黒幕を暴くとしますかね。


「この像は何だ?」


「主神オリオン様の像です」


 目から生気が失われた盗賊の頭は俺の問いに素直・・に答えてくれます。
 口から涎が垂れて苦しそうにしているのは気にしない。
 それに対し周囲で縛られている盗賊からは怒号が飛んでいるが、ジャバンに黙らせるように指示をする。
 どうやって黙らせたかは見ないようにしましょう。


「この像の効果は何だ?」


「魔力の隠蔽と魔物避けになります」


 分かっていたけど、ジャバンたちに聞かせる為の質問だ。


「この像をどこで誰から手に入れた?」


「聖オリオン教国のベルザイム司祭より手に入れました」


 予想通りの答えで面倒事が増えたのが確定した。
 聖オリオン教国とは4大国の1つでブリュトゼルス辺境領の南側に隣接する小国を挟んで睨み合っている国だ。
 つまり神聖バンダム王国から見れば敵国で、それは向こうさんから見ても同じって事だ。
 ブリュトゼルス辺境伯家は聖オリオン教国を抑えるのが主目的の南部総督と言う役職に就いている。
 つまりブリュトゼルス辺境伯家は聖オリオン教国に対しての抑えであり、紛争時にはスムーズに対応できるように南部の領地を拝領したいる貴族の全てを指揮下に置く軍権を与えられているのだ。


「お前たちは聖オリオン教国の者か?オリオン教の者なのか?」


「お、俺たちは聖オリオン教国の国民ではありませんが、オリオン教徒ではあります」


 盗賊なのに神を信奉するのかよ。
 ん?と言う事は・・・


「お前たちは聖オリオン教国とどのような関係で、ベルザイム司祭はどのような目的でこの地にお前たちをよこしたんだ?」


「俺たちはベルザイム司祭よりブリュトイース伯爵領を荒らし奴隷を集めるように依頼されました。報酬の前金としてその像と金を貰いこの地にやってきました」


「奴隷を集めてどうするのだ?」


「聖オリオン教国へ連れて行き戦闘奴隷にしたり性奴隷として従軍させる予定です」


 最悪だ。
 戦闘奴隷や兵の相手をさせる性奴隷が必要になると言う事は兵を長期に動かすと言う事だ。
 つまり戦争を起こす可能性が高いってことだ。
 問題はその戦争をどこの国とするのかって事だが、聖オリオン教国の周辺で可能性が最も高いのは言わずと知れた神聖バンダム王国で、狙われたのが俺の領地だから聞くまでもなさそうだな。
 俺は盗賊からジャバンに目を移すと溜息を吐く。


「聖オリオン教国はどの国と戦争を起こそうとしているのだ?」


「神聖バンダム王国です」


「奴隷を連れてどうやって国境を越えるつもりだったのだ?」


「それは後日指示がある予定でした」


 まったく、何で無用な戦争を起こすのか・・・気が知れん。
 狂信者の考える事は俺には理解ができないな。
 その後も尋問を続け聞きたい事は聞いたのでカーススピリッツを解呪してやる。
 短時間なので精神崩壊は起こしてはいないが、暫くは倦怠感が続き悪夢が睡眠を妨げるだろう。


 盗賊の生き残りは13人。
 13人全てが瀕死の状態だったが、俺が回復をしてやった。
 殺すのは簡単だが、生かして地獄を見て欲しいと思って、全員を犯罪奴隷としてイーストウッドでこき使ってやる事にした。
 犯罪奴隷の使い方は色々あるが、戦争などの最前線に出したり、ダンジョンで罠を見つける為に突撃させたり、魔物をおびき寄せる餌の役目だってあるし、鉱山のような危険な場所で働かせるのもある。
 俺は奴隷だからと言って酷使したいとは思わないが、自分たちが攫った人たちを性奴隷として売ろうなんて考えをしている奴らに容赦などする気はない。


 今の自白で聖オリオン教国のベルザイム司祭という奴が神聖バンダム王国にチョッカイを出してきた事は確定したし、それが俺の領地であったので俺個人として報復はさせて貰うつもりだ。
 無辜の民に手を出した事を後悔させてやる。




 

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