チートあるけどまったり暮らしたい
セバン将軍の憂鬱2
セバン将軍は決断を迫られていた。
このまま篭城を続けるにも西部貴族連合軍の愚かな貴族達は初戦で兵糧を大量に奪われており、あと5日ほどで兵糧が完全に尽きてしまうのだ。
本来であればまだ60日以上の篭城ができる物資があったものを、と愚かな貴族を呪いたくなるセバン将軍であった。
あと数十日篭城すればボッサム帝国軍は引き上げる。
元々、防衛戦である事からベルデザス砦に篭っていれば味方に大した被害もなくかってに敵が疲弊して行くだけだった筈なのだ。
「まったく、野戦がしたければ何故全兵力を投入しないのか・・・」
西部貴族連合軍の貴族達が保有している戦力は15万を越える。
せめて10万の兵を投入すれば野戦も反対しなかっものをとセバン将軍は考えていた。
しかし貴族共は戦力を温存し、たった6万の兵しか率いてこなかったのだ。
それで野戦論を唱えるなど笑止の至りだとセバン将軍は思っている。
ボッサム帝国軍の主力は騎兵であり、その精強さは中央大陸一と言われている。
そんなボッサム帝国軍を相手に同兵力で野戦を行うなど愚の骨頂である。
勿論、野戦以外に選択肢がなければセバン将軍も野戦をする事に否もなかったのだが、この戦いは防衛戦でありベルデザス砦と言う守るに易く攻めるに難い砦がある以上、野戦を行い無駄に兵を損なう選択肢はない。
「援軍はどうなっているのか?」
来るかも分からない援軍を待つ指揮官というのは綱渡りの決断をしなければならない。
もし援軍が来なければ兵糧がつき、継戦能力はガタッと下がる。
そうなる前に決戦を挑むか、撤退するか、降伏するか、司令官はこれらの決断を下さなければならない。
「援軍が来ているならば、そろそろのはずです」
ベルデザス砦の周囲をボッサム帝国軍が包囲している為に外部との連絡もままならない状況は変らない。
一方、セバン将軍の対応に苛立っている西部の貴族諸侯は再び野戦をするべく準備をしていた。
セバン将軍には西部の貴族諸侯を抑えきれない状況になっているのだ。
「どうせならもっと早くに自殺をしてくれれば兵糧も食いつぶされずに済んだものを」
こう漏らすのは黒色軍の副司令官であるビターズ将軍である。
初戦で何をとち狂ったのか西部総督であるブレナン侯爵は多くの兵糧をベルデザス砦から持ち出しており、大敗のドサクサで殆どの兵糧をボッサム帝国軍に奪われた事への皮肉である。
セバン将軍もビターズ将軍の気持ちは痛いほど分かるので、敢えて窘める事はしなかった。
「あの者達もこのままでは自分たちの敗戦により兵糧が奪われ、兵糧不足によりこのデザス砦が落ちる事を恐れているのだろう。特に西部総督は後がないからな」
「それについてはボッサムの者共を応援したいと思わないでもないですな」
「滅多な事を言うものではない」
流石にこれは窘めておくセバン将軍だった。
その翌日、業を煮やしたブレナン侯爵率いる西部貴族連合軍は再びベルデザス砦を出てボッサム帝国軍に野戦を挑んだ。
ボッサム帝国軍はベルデザス砦を包囲していた事で南門から現れた西部貴族連合軍に対し数で劣っていた。
南門を包囲しているボッサム帝国軍は1万、対して西部貴族連合軍の兵数は3万5千でありブレナン侯爵を初めとした西部貴族諸侯は3倍以上の戦力で包囲を崩そうと怒涛の攻撃を開始したのだ。
「突撃ぃぃぃっ!」
『おぉぉぉぉっ!』
数で圧倒する西部貴族連合軍がボッサム帝国軍を押し込み、徐々にボッサム帝国軍は後退を行う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「隊列を崩すなっ!ゆっくり後退しろっ!」
ボッサム帝国軍の将であるクルム将軍は冷静に神聖バンダム王国軍の攻撃を受け、後退を指示する。
しかしこの後退の指示は当初からの予定通りであり、神聖バンダム王国軍をできるだけベルデザス砦から引き離すのが目的である。
そして持ちこたえてさえいれば、別の部隊が神聖バンダム王国の後背を突く事になっているのだ。
「敵兵の士気は低い。焦る事はない!訓練通り動けば問題はないっ!」
クルム将軍は歴戦の戦士であり、平民階級から一軍をあずかる将にまでなった叩き上げの指揮官である。
そしてこの程度の戦いはこれまでも何度もあった。
平民階級出身であるが故に貴族家出身の将兵を生き残らせる為に何度も死地へ赴いてきたクルム将軍にとって数は多いが士気も錬度も低い神聖バンダム王国の攻撃を受け続ける程度の事は雑作もない事だった。
「左翼をやや下げよ」
伝令兵を出す事も既に数度、神聖バンダム王国軍はクルム将軍が書き上げたシナリオ通りに演技をしてくれる。
「あまりに易い。まさかとは思うがこちらが載せられていると言う事はないか?」
「考え過ぎでしょう。バンダムの者共の精彩のない動き、あれは恐らくブレナン西部総督の指揮能力の欠如だけではなく総合的に軍とは呼べぬ状態なのでしょう」
今回、ボッサム帝国は東部方面制圧軍として7軍を用意した。
その第5軍の指揮官がクルム将軍である。
この第5軍の参謀長としてクルム将軍を補佐をしているのがイイヅカ将軍である。
イイヅカ将軍も平民階級の出身で、戦場を渡り歩きクルム将軍の下で働き出して4年になる経験豊富な軍師である。
「お主がそう言うのであればそうなんだろう」
イイヅカ将軍はその智謀によりこれまでにも何度となく劣勢を跳ね除けてきており、その実力はクルム将軍も信頼している。
戦局を見るにイイヅカ将軍以上の者は居ないだろうとも思っている。
クルム将軍に指揮された第5軍が巧みにバンダム王国軍を誘い込んだ事で第5軍の援軍として現れたボッサム帝国軍に後背を突かれる形となったブレナン侯爵率いる西部貴族連合軍は大打撃を受ける事になる。
しかし、これを好機と考えたセバン将軍が更にボッサム軍の後背を突く事でボッサム軍にも少なくない被害が発生した。
また、黒色軍の攻撃によりボッサム軍に挟撃を受けていた西部貴族連合軍は辛うじて撤退する事ができたが、多くの貴族が討ち死にしていた。
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