チートあるけどまったり暮らしたい

なんじゃもんじゃ

065 舞踏会2

 




「ちょっと失礼・・・」


「おい、何をするんだ!」「押すなよ!」


 人垣を作る貴族の坊ちゃま達を掻き分け何とかドロシー様まで辿り着く。
 はぁ、来年以降は絶対に来ないからな!


「ドロシー殿下、クリストフ・フォン・ブリュトゼルスがご挨拶申し上げます」


 ドロシー様はいきなり現れた俺にビックリしているようだ。
 とりあえず、もう一言二言発言して撤退しましょうかね。


「本日はいつもに増してお美しく、夜空を照らす月もドロシー殿下のお美しさに恥じ入り隠れてしまいたいと思う事でしょう」


 自分で言っておいて何だが、センスの欠片もないな。
 まぁ、日本人だった頃を含め、女性を持ち上げるような言葉なんて言った事がないもんなぁ~。
 こんな事しか言えない俺ではこのヘカートと言う世界でも女性と付き合うのは難しいのだろうと悲しく思ってしまう。
 今のところは付き合ったり求婚する相手もいないけど、ナンパは無理だしなぁ~。
 ・・・サッサと帰ろう。


「クリストフ様もいつもと違う雰囲気でビックリしましたわ」


 クリストフ様?
 ・・・そう言えば、ドロシー様が俺の事を名前で呼ぶのって初めてか?
 どうでも良いか。


 それと俺の雰囲気が違うのは見た目が貴族貴族しているからで、所謂馬子にも衣装ってやつですね。


 よし、ドロシー様とも話したしお前たちそろそろ良いぞ!俺の前にくるんだ!
 って、いない!


 今しがた俺が掻き分けてきた貴族のボンボン共はどこに行った?
 このままドロシー様を放置するなんてできないよな・・・まずいぞ。
 このままではドロシー様と踊るはめになってしまう。


 ・・・結局、踊りました。
 しかもお暇するタイミングを逸してしまい3曲も踊ってしまった。
 ドロシー様の顔が赤いので踊り過ぎてしまったようだ。


「喉が渇きましたね。飲み物をもらってきます」


「はい」


 よし、これで一呼吸いれて帰ろう。
 挨拶だけではなく、ドロシー様と踊ったのだから父上も文句はないだろう。


「私は体を冷やす為に中庭にでも行きます」


 ドロシー様に飲み物を手渡し、俺はこの場を離れようとしたんだが・・・何でドロシー様がついて来るの?
 困ったぞ・・・主役のドロシー様を会場から連れ出すはめになってしまった・・・


 どんな会話をすれば良いのだろうか?
 学校ではいつも成績の事でライバル視されているから、下手な事を言って不興をかうのも面倒だしな。


「あ、あの・・・」「な、なんでしょうか?」


「え~っとですね・・・」「はい」


「そのドレス・・・綺麗ですね」


 おい、俺!
 もっと気のきいた事は言えないのか!


「有難うございます。母上に選んで頂いたのです」


「そうですか、王妃様に・・・」


 そう言えば、俺ってドロシー様とは従兄妹になるんだよな。
 ドロシー様の母である王妃様は母上の一番上の姉になるんだよ。
 って、事はもしかして・・・


「すみません。つかぬ事をお聞きしますが・・・」


「何でしょうか?」


「ドロシー様と私は王立魔法学校の入試以前にもお会いした事があるのでしょうか?」


「・・・」


 今までそこそこ機嫌が良かったドロシー様の顔が一瞬で曇った。


「やはり覚えてはいませんのね・・・」


 この回答って事は会った事があるんだ?


「申し訳ありません・・・」


「いいえ、クリストフ様が悪いのではありませんわ。それにお会いした事は3度しかありませんでしたので・・・クリストフ様はいつもベッドの上で本を読んでおられ・・・回復され良かったですわ」


 ベッドの上で病人ができる事っていったらそんなにないから本を読んでいたんだろう。
 覚えていないので悪い事をしてしまったな。


「クリストフ様、今度私に勉強を教えて下さらないでしょうか?」


「え?」


「クリストフ様に追いつく為にもクリストフ様の勉強の仕方を見てみたいのです」


「ええ、構いませんよ」


「宜しくお願いしますわ!」


 う~ん、いつものドロシー様だともっと挑戦的な話し方なので、どうも調子が狂うな。
 どっちのドロシー様が本当のドロシー様なんだろうか?
 でも、どちらかと言えばこっちのドロシー様の方が俺は良いと思うな。
 何より笑顔が可愛いよね。
 学校でのドロシー様は貴族達から舐められないように気を張っているのだろうか?


「今日はドロシー様とお話ができて、楽しかったです。もし宜しければまた昔の話を聞かせて頂ければ嬉しいのですが」


「はい、私は構いませんわ。宜しければ明日にでも如何ですか?」


 む!
 明日はダメだ・・・ベルデザス砦への物資を生産しないと・・・


「私よりお願いをしておいて申し訳ありませんが、明日は別の予定が・・・」


「そうですか・・・いえ、私はいつでも歓迎いたしますわ。気軽に声をかけて下さい」


 モジモジするドロシー様を見ていると、メッチャ癒されます。
 いつものドロシー様は気が強そうに見えるけど、こう言う場で話すと可愛いね。


「有難うございます」


 そこでタイミング良く、花火の打ち上げが始まった。
 王立魔法学校からも3組が参加しており、その中にはクリュシュナス姉様も含まれる。
 その他には宮廷魔術師や貴族が抱える魔術師の花火も披露される一大イベントだ。
 陛下よりお褒めの言葉をもらえればそれだけで箔がつくので皆さんの気合の入れ方は尋常ではない。
 一方では戦争しているのに呑気な事ですね。


「綺麗ですね」


 呑気と言われれば俺も人の事は言えないけどね。


「はい、皆さんこの日の為に努力してきたのですから思い残す事無く力を発揮され私達や民の目を楽しませてほしいものですわ」


 俺は失格になってしまったが、皆は切磋琢磨しこういうイベントに望むのだろうな・・・


「クリストフ様が出場されていれば間違いなく優秀作に選ばれるでしょう。残念ですわ」


「そのような事はありませんよ」


「謙遜も過ぎますと嫌味になりますわよ。ふふふ」


 ふ~、こうして話してみるとドロシー様も話しやすいお方のようだ。
 今後はドロシー様を見かけたら俺からも声をかけるようにしよう。
 どうも俺は無意識に人を遠ざけてしまう癖があるようだし、これを機会に少しでも改善するかな。


 今日は早々に舞踏会を逃げ出すと言う目標が思わぬ形で崩れてしまったが、ドロシー様と楽しく過ごせたし良しとしよう。


 ドロシー様と別れ、屋敷に戻ったのは夜中も近い時間だったが、母上やフィーリアたちは起きて待っていてくれた。
 勿論、家の殆どの者が起きていたのだけど、帰る馬車の中で父上はズーッと微妙な顔をしていた。


 ドロシー様に挨拶しただけではなく、踊りもしたし及第点は頂けるものと思いますよ。


「クリストフ、ドロシー様をどう思っているのだ?」


 まったく予想外の質問である。


「・・・どうと言いますと?」


「その・・・好きなのか?」


 ははは、何を言っているのでしょうか?
 俺がドロシー様を好き?
 綺麗なのは認めるし、笑顔も可愛い。
 だけどドロシー様は俺の事をライバルとしか見ていないのに・・・
 ・・・俺が・・・好き?


「・・・分かりません」


「そうか・・・」


 

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