チートあるけどまったり暮らしたい

なんじゃもんじゃ

062 眷属

 


 神聖暦513年9月13日、ルイジ湖より王都の屋敷に帰ってから3日。
 のんびりと旅の疲れ(は無いけど)を癒し、母上の希望通りにあまり外に出ないようにしている。
 母上は来月が臨月となるし、俺は来月から再び寮で暮らす事になるので近くにいてほしいと言うのだ。
 そんなのんびりとした時間を過ごしていたが、今はブリュト商会の会頭として仕事をしている。
 明日から9月20日までの1週間、ブリュト商会は休店する事になっているからだ。


「予定通り明日からの収穫祭にあわせ1週間の連休にはいる。何をしても良いが喧嘩などで警備隊の厄介になる事の無いように。・・・特にそこの3人、いいね?」


 俺はクランプ、ベッケナー、ベネゼッタの3人の戦闘奴隷に視線を移し念を押す。


「ボス、俺達だってそれぐらい分かってますよ」


「「(コクコク)」」


 この3人は毎晩のように酒場に出没しては酒豪としての名を上げているそうだ。
 ボーナスとして金貨数枚を毎月与えている事から金には余裕があるので、この3人は金を貯めずに飲み歩いている。
 どうもこの3人は一生俺の奴隷でも良いと考えているようだ。


「まぁ、良い。フィーリア、後の説明を」


「はい」


 俺に促され前に出てきて奴隷達の顔を見渡すフィーリア。


「これより皆さんに収穫祭の特別ボーナスとして金貨3枚を支給致します。これは日頃、皆さんが頑張っている事に対してクリストフ様のお気持ちだと思って受け取って下さい」


「私達は毎月給金の他にボーナスも貰っています。その上、このような・・・」


 恐縮しているのはプリエッタだ。
 プリエッタの父親は病気だったので薬代でできた借金の為に奴隷になった。
 しかし奴隷になっても給金やボーナスをもらっており薬を買う事ができ、更にクリストフがブリュトゼルス辺境伯家出入りの薬師を紹介した事で最近では起きだすまでに回復している。
 俺ならば一気に全快させる事もできるのだが、それをすればプリエッタは俺に必要以上の恩を感じフィーリアのように俺に一生を捧げるなんて言い出す事になるだろ。
 俺としては信用のできる部下ができて良いのだが、それではプリエッタの幸せを奪う事になりかねないので敢えて俺は手を出していない。


「私も最初はそのように申し上げましたが、クリストフ様は奴隷である皆さんにしてやれる事はこの程度なのでと仰られております。私が言う事ではありませんが遠慮せずに受け取って下さい」


 フィーリアは皆に金貨を渡し、9月21日に無事に職務に復帰できるようにと念をおして解散とした。
 しかし、この中で1番若いフィーリアが最もしっかりしているってのは違和感がある。


「フィーリアにも色々と面倒をかけたな。1週間、しっかりと休んでくれ」


 俺はフィーリアの頭を撫でながらフィーリアを労った。


「クリストフ様はこの休みはどうされるのですか?」


「私か?明日はブリュト商会の帳簿の確認をして、あとは城での舞踏会が15日にあるが、それ以外は特に予定はないな。来月になるとまた寮生活となるので収穫祭云々は置いておいても母上の傍にできるだけいるつもりだよ」


「では、私はクリストフ様の身の回りのお世話をしたく思います」


 フィーリアには身内はいない。
 親しい者もいないので俺に依存するところが大きいのだ。
 店を開けていれば責任者として最善を尽くしてくれるフィーリアだが、休みになるとやる事がなくなってしまうのだ。


「そうか、では俺の手伝いをしてもらおうかな」


「はい!」


 フィーリアは嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。


 翌日は予定通り帳簿を確認して昼過ぎには終わったのでお茶をしているところだ。


 さて、俺にとってフィーリアは絶対の忠誠を誓ってくれている可愛い部下だ。
 このフィーリアであれば俺が神になったと知っても他言する事はないだろう。
 最初の出会いは瀕死のフィーリアを助けた場だった。
 その為か、フィーリアは俺が死ねと言えば躊躇なく死んで行くだろう。
 だが、俺はフィーリアには幸せになってほしい。
 俺が命を助けたとは言え、俺の為に身を粉にして働いてくれるフィーリアには幸せになってほしいのだ。
 だから俺の加護を与えようと思い、俺の事をフィーリアに話す。


「できる事なら眷属にして頂きたく思います」


 眷属か・・・
 眷属にすれば加護よりも強い恩恵を与える事ができるが、デメリットもある。
 もし俺が他の神と争う事になると真っ先に狙われるのは眷族である。
 何故眷属が真っ先に狙われるかと言えば、眷属が存在するだけで俺は神力を増やす事ができるのだ。
 眷属が多ければ多いほど俺はより強くなり神格も上げる事ができるのだ。
 しかし、もし俺が死ぬ事になれば俺との繋がりが強い眷属も一緒に死ぬ事になってしまうのだ。
 普通に考えれば俺が死ぬような事は滅多に起きないので眷属はその寿命をまっとうする事になるだろうが、万が一と言う事もある以上、簡単に眷属を増やすと言う選択はできない。


「眷属とは私は一心同体だと言っても良い。万が一、私が死ねば眷属も死ぬ事になる。それでも私の眷属になってくれるのかい?」


「私はクリストフ様に助けて頂かなければ死んでいたでしょう。ですからクリストフ様の眷属となりこの身を賭してクリストフ様のお役に立ちたいと思います」


 フィーリアならそう言うと思っていた・・・
 フィーリアが眷属になると言い出すのは分かっていた。
 俺も最初の眷属はフィーリア以外にいないだろうとも思っている。
 この忠誠心は言い換えれば信仰心となる。
 しかもこれ以上ない程に強い信仰心だ。
 信仰心は強ければ強いほど俺の神力が増えるのでフィーリアこそ俺の眷属筆頭になりえる存在だ。


 しかし俺が死ねばフィーリアも死ぬ。
 こればかりは簡単には良い事だとは言えない・・・


「・・・俺が死ねばフィーリアも死ぬ事になるのだぞ、本当に良いのか?」


「クリストフ様の為でしたら、この身も心も、そして命を捧げます!」


 ちょっと違う気がしないではない・・・


「・・・有難う、フィーリア」


 俺はフィーリアを抱き寄せ、眷属とした。
 ・・・なんか生贄っぽく聞こえるけど、普通に眷属にしただけだから。








 フィーリアを眷族にした日の夕方、父上が城から帰ってくると直ぐに俺を執務室に呼び出した。
 ノックをして入室許可を得て執務室に入っていくと、そこにはブリュトゼルス辺境伯家の騎士団長であるケットール・フォン・ベールと魔術師団長のロザリア・フォン・エクセルの姿があった。


 この2人はブリュトゼルス辺境伯家の軍事における重鎮である。
 ブリュトゼルス辺境伯家には当主とブリュトゼルス辺境伯家の者を守る騎士団、軍事だけではなくブリュトゼルス辺境伯家の内政でも力を発揮している魔術師団、そして今はここに代表者はいないが攻めの要となるブリュトゼルス辺境伯家の私設軍がある。
 騎士団は5千人ほど、魔術師団は100人ほど、私設軍は常備軍3万人と予備軍7万人が存在する。


「クリストフか」


「父上、お帰りなさいませ」


「うむ」


 3人は一様に渋い顔をしている。


「何か面倒事ですか?」


 俺はベール団長とロザリア団長に視線を送り再び父上に目線を移すと、父上に促されロザリア団長の横に座る。
 現在、父上が執務用のデスク、その前にある6人用の応接セットの上座は父上の席なので空席で、上座の右にベール団長、左にロザリア団長が座り、俺はロザリア団長の下座側に腰掛けている。
 勿論、ロザリア団長は俺に席を譲ろうとしたが、俺はそれを制止し下座に座った。


 父上がソファーセットの上座に座るとそれを狙ったようにノックがありハンナがお茶をいれにきてサッと退室していく。


「クリストフ、重要な話がある」


 改まって何でしょうね?


「先日来、西部の貴族連合軍とボッサム帝国軍がベルデザス砦付近で衝突したのは知っているか?」


「ええ、それなりには」


 嘘です。
 千里眼を使えばバッチリ見えるのでチョクチョク覗いています。
 しかし、ベルデザス砦の戦いの話となると面倒事が決定ですね。


 現在、ボッサム帝国が神聖バンダム王国の西部に軍を進めている為に、西部の貴族はベルデザス砦に軍を集結させていた。
 このベルデザス砦は神聖バンダム王国の西部の守りの要所であり、ボッサム帝国との国境沿いに築かれていた要塞とも言える堅牢な砦である。


「戦況が思わしくないと陛下に報告があったそうだ。そこで援軍を出す事に決定したのだ」


 ふ~む、この話の流れだと選択肢は幾つかに絞れるな。


 先ずは援軍だが、これにブリュトゼルス辺境伯家の戦力をと言う話だ。
 これは可能性的には低いだろう。
 ブリュトゼルス辺境伯家は南部方面の守りを担っているので、戦力を西部に回せば南部の守りが薄くなり、他国に付け込まれる可能性があるし、まだ成人もしていない俺を態々呼ぶ必要はない。


 次は最も可能性が高いと思われるのだが、俺のマジックアイテムを大量に供給しろって話だ。
 これだと父上が俺を呼んだ事の説明がつく。


 最後は俺の魔法の才能を軍事利用したいって話だ。
 しかし未成年で学生の俺に頼るほど切羽詰った戦局ではない筈だ。
 いくら何でも俺を前線に出すとかは流石にないだろう。


「そこで陛下よりブリュト商会のマジックアイテムを大量に用意できないかと持ち掛けられてな」


 無難なところに落ち着いたな。


 

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