職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第十三話 契約

 

  「ここは何処だ?」


 優の眼前には真っ白な何もない空間が広がっていた。


 「おはよう。 それにしても人の事を性悪だなんて失礼しちゃうわ」


 そう言ったのは先程まで優と殺し合いをしていた堕天使ルシファーである。
  

 「お前はこの空間がどこか知っているのか?」
 「当然よ。 だってこの空間は、 私の心の中を表した場所だもの」
 「心の中?」
 「そう。 心の中」
 

 優はルシファーの言葉の意味をよく理解できなかった。
 ただルシファーがこの場で嘘をつくメリットは見当たらなかった為、 その言葉を認めざるを得なかった。


 「仮にお前の話が本当だとしてなんで俺はお前の心の中にいるんだ?」
 「それは、 あなたが私の契約者になったからよ!」
 「なるほど。 すべて繋がった」


 この時優の中ですべてが繋がった。
 そんあ優の口は嬉しさのせいか口の口角が少し上がっていた。
 

 「ちょっと何一人で納得してるの! 私にも説明しなさいよ!」


 ルシファーは地団駄を踏み、不満をあらわにする。


 「まあ落ち着けよ。 ちゃんと説明してやるから」
 「なら早く説明しなさい」
 「わかったよ。 まずお前と俺が契約できている状況にあるのは俺の禁呪が関係する?」
 「禁呪? でもあれって魔法陣を書く必要があるんじゃないの?」
 「その通りだ」
 「それなら貴方の話は矛盾しているじゃない。 だってあの時あなたは魔法陣を書くことなんてしていなかったもの」
 「お前の言う通り俺は紋様を書いてはいない。 何せ初めから魔法陣は書かれていたんだからな」
 

 ルシファーは優の言葉の意味を理解できず、 遂には首を傾げてしまった。
 

「実は俺には刻印魔術というスキルがあってな。 そのスキルは、 禁呪の魔法陣を物体とかに書くことによって、 自分の任意のタイミングで発動ができるようになるスキルなんだよ。 そして俺はその魔法陣をお前に放った銃弾に書き込んでいたって寸法だよ」
 「ああ! そういうことだったのね!」


 ルシファーは、そう言うと手の平を合わせ、 「パン!」 と音を鳴らした。


 「ちなみにあの刻印魔術の発生のトリガーだが俺が指で音を鳴らすことだ。 だからあの場合俺はお前に殺される前に両腕を切り落とされていたら負けだったんだよ。  いや~お前が馬鹿で本当に助かったよ」
 「な! わ、 私は馬鹿じゃない! そんなことよりも! そんな理由だけじゃまだあなたが私の契約者になれた理由がわからないわ!」


 優はルシファーのリアクションに呆れたのか首を竦めた。
  

 「ちょ、 ちょっと! そのリアクションはないんじゃない!」
 「だってねぇ……」
 「ぐぬぬぬぬ……」 
 「はぁ。 仕方ないから教えてやるよ」


 優はそう言うと人差し指で銃の形を作り、 自身の頭を指さした。


 「俺が撃った銃弾には対象が悪魔だった場合強制的に相手と契約させるといった禁呪が書かれていたんだよ」
 「ちょっと待ちなさい! そんな禁呪私は今まで聞いたことないわよ!」
 「そうだろうな。 だってあれ俺のオリジナルだし」
 「まさかその年で禁呪を作ったっていうの!」
 「ああ。 実は俺って魔眼も保持していてな。 その魔眼の効果は、 ありとあらゆる武器や防具。 そして魔法の構造を一度見ただけで瞬時に理解できるんだよ。 だから俺は、 ここに来る前徹底的に禁呪のことについて調べ上げ、 構造を理解し、 新しく禁呪を作ったというわけだ」
 「そんな馬鹿な……」


 ルシファーは脱帽するほか無かった。
 禁呪は普通一人の生涯を全て使いやっと一つ生まれるかどういった代物なのである。
 そんな者をいくら魔法の構造を理解したからと言って一か月で作り上げてしまうのは紛れもない天才と言えるのだ。


 「まあ期間が一か月しかなかったからかなり雑な出来で、 相手の頭が空っぽの状態で撃ち込まないと意味なかったんだけどな」
 「私は、 そんなのに負けたの」


 ルシファーはショックを禁じえなかった。


 「いや。 あんなの勝利とは言えない。 せめて引き分けと言ったところだな」
 「……その言葉は同情で言っているのかしら?」
 「そんなわけないだろう」


 ーこいつは慰めているつもりなのかしら? もしそうだとしたらコイツ相当不器用な男ね
 -それになんでさっきまで自分を殺しかけてきた相手の事を慰めているのか理解に苦しむわ
 優の事を否定しているとも思えることを考えているルシファーだが顔はそんな思いとは裏腹に笑顔であった。
 

 「なあ少し質問してもいいか?」
 「別に構わないわよ」
 「この世界って、 時の流れってどうなってるんだ?」
 「時の流れなんてないわよ。 だからここにあなたが何時間いようが本来の世界には何ら影響されないわ」
 「じゃあ次に、 俺は一体いつになったらこの世界から出れるんだ?」
 「それは契約の儀式を終えてからよ」
 「契約の儀式?  いったい何すればいいんだ?」
 「そんなの簡単よ」


 ルシファーは優に近づくと優の唇にキスをした。


  「……ん。 これで終わりよ」


 ルシファーは頬は少し赤く染まっていた。
 だが優の方はルシファーとは比べ物にならないほど真っ赤であった。
 

 「お、 お前! いきなり何するんだよ!」 
 「何って契約の儀式よ。 これをしないとあなたは一生この世界から出れないんだから仕方ないじゃない」
 「俺初めてだったんだぞ!」
 「男の癖に女々しいこと言ってるんじゃないわよ! それに私だってキスは初めてなんだからお相子でしょう!」
 「マジかよ……」
 

 ルシファーの見た目は優が見た限り二十程度に見えた。
 それにも関わらずキスの経験すらないことに優は唖然とした。
  

 「な、 何よ! 悪い!」
 「いや。 そういうわけじゃないけれど……」
 「ならもうこの問題は終わり! 分かった!」
 「分かったよ。 それで契約はこれで終わりか?」
 「そうよ」
 「ということは俺って不死の存在になったのか?」
 「そうよ。 それと自分の右手を見なさい」


 優はルシファーにそう言われ自身の右手を見た。
 そこには、 不思議な紋様が浮かび上がっており、 六枚の漆黒の翼が象徴的なデザインをしていた。


 「それは契約紋と呼ばれるものよ」 
 「契約紋?」
 「悪魔か天使と契約したとき人間側にその紋様が現れるのよ。 因みにその紋様の翼の枚数が契約した天使や悪魔の強さを表しているわ」
 

 優の紋様に移る翼の枚数は六枚。
 それは紛れもなく優の契約した悪魔が最上級であると証明していた。


 「全く。 この私が人間する日が来るなんてね……」


 -まあでもこいつとならいいかしら
 そう思うとルシファーの顔からは自然と笑みが零れた。


 「なあ俺はお前と契約したことによってどんな恩恵があるんだ?」
 「まずステータスが、 基本プラス50000くらいされるわね」
 「5、 50000だと!?」


 これは人間が達するには一生かけても到達しうる数字ではなかった。
 

 「この程度で驚くのはまだはやいわよ!」
 「他にもあるのか!」
 「当然よ!」
 「早く教えてくれ!」


 先ほどと立場が逆転した様子にルシファーは内心気持ちよかった。


 「消失魔法が使えるようになるわ」
 「消失魔法ってなんだ?」
 「消失魔法というのは、 私のユニーク魔法の一つよ。 効果としてはありとあらゆるものを消すことができるわ」


 優はこの言葉に「ほう……」 と感嘆するほかなかった。


 「しかもこの魔法の強みは発動する際魔力を消費しないの。 でも一つだけ注意してね。 この魔法は生きている者に使うとその生き物の大きさによるけどそれに応じた自身の記憶を失うことになるの。 これが消失魔法についての全てよ」
 「よく分かったよ。 ありがとう
 「ふふふ。 それは何より」
 「これでお前と契約した恩恵は終わりか?」
 「ステータス面のことはこれ以上ないわね。 他にはまだ少しだけあって、 まず夜になると目が赤色になるわ」
 「ふむふむ」
 「あとはこの装備をあげるわ」


 するとルシファーは手元に漆黒の巨大な体験とそれに似合うように作られた見た目は革製の防具一式を出現させた。


 「これはなんだ?」
 「これらの装備は反逆シリーズと言われ私の契約者専用の武器と防具よ」
 

  大剣の名前は、 反逆の大剣ルシファー。
 筋力をプラス50000する効果があり 神聖な生物と戦う場合、 この武器の効果が二倍になる効果を持った大剣だ。
 防具の効果は、 この装備を一式着ることにより神聖攻撃を完全に無効化し、 自身のステータスを三倍にする性能を持っていた。
 どちらの性能も破格と言っても過言ではなく、 そよ風シリーズなどこれらの装備に比べれば完全にゴミと言えた。
 また優は防具の色が黒だということを非常に気にいっていた。


 「どう満足した?」
 「満足も満足。 大満足だよ」
 「それはよかったわ。 ああ。 それと私もこれからあなたに一生連れ添うからよろしくね。 旦那様」
 「は?  ちょっと待て! 今お前俺の事旦那様とか言わなかったか!」
 「あれ? 契約の意味を知らなかったの? あれは天使や悪魔が自身の結婚相手を見つけるためにしていて、 自身の気に入った相手を不老不死にさせて一生一緒にいてもらうためにするものなのよ?」
 「な、 なんですと!?」


 優は驚愕のあまり腰が抜けそうになった。


 「大丈夫?」
 「ああ。 大丈……って違う!」
 「何よせわしない人ね」
 「仕方ないだろう! だって結婚だぞ! 結婚! 大体本には、 そんなこと書いてなかったぞ!」
 「本に書かれていることがすべて正しいというわけないじゃない」
 「それもそうだが……」
 「何? 貴方は私の事が不満なの?」
 「いや。 そういうわけじゃないけれど。 お前と俺って俺の禁呪によって無理やり契約したわけじゃないか。 だからそんな無理やりなのは流石にお前にも悪いかなって……」
 「そんなの気にしなくてもいいわよ。 大体今回私が、 あのダンジョンに来たのは、 あなたを試すためだったわけだし。  それに私あなたの事好きよ。 それはもう一生人間なんか結婚しないと思っていた私の決心を打ち砕くほどにはね」
 「ちょっと待て。 なぜそうなる」
 「さぁ私にもよくわからないのだけれどなぜかあなたは一目見たときいいかなって思ったのよね」
 「一目って俺達が殺し合いをする直前の事を指しているのか?」
 「いいえ。 実は私。 あなたがこちらの世界に来た時から知っていたのよ。 それで私はそんなあなたの様子をずっと観察していたの。  まあ見ていたと言っても新しい禁呪を作ってるとは、 知らなかったけれど」


 -なるほど。 この女からはヤバい匂いしかしない
 だが今更どうすることもできず優には諦めるといった選択肢以外存在しなかった。
 

 「それと先に言っておくけれど私浮気は、 絶対に許さないから」


 そういうルシファーの目からは殺気が迸っていた。


 「も、 もし俺が浮気をしたらどうなるんだ?」
 「さあ、 どうなるでしょう?」
 

 そのルシファーの笑みは不気味であり、 優はそんな笑顔に体の震えが止まらなかった。
 

 「そう言えばお前四六時中俺についてくるとか言てるけどそれにはその翼と角何とかしないと不味くないか?」」
 「貴方はこの姿嫌い?」
 「いや。 ただ人間の世界でそれは目立つからさ」
 「それもそうね」
 

 ルシファーは魔法を使い、 自身の翼と角を隠した。


 「どう? 似合うかしら?」
 「う~ん。 俺はお前の本来の姿の方が好きかな」
 「そ、 そう……」


 -もう! 嬉しいこと言ってくれるじゃない!
 ルシファーは嬉しさの顔のにやけを抑えることはできず、優にばれないよう必死に顔を隠した。


 「急に顔なんて隠してどうかしたのか?」
 「別に何でもないわ!」
 「お、 おう。 それならいいんだ」
 「他には何か要望あるかしら?」
 「ああ。 お前って自分の姿も消せるか?」
 「消せるわよ」
 「ふむ。 それならあの四人の前では、 絶対に姿を見せないでくれ」
 「なんで? もしかしてあの四人って全員奥さんなの? なら消さなくちゃ」
 

 そういうルシファーの瞳には光がなかった。
 優はそんなルシファーの様子に慌てて弁明をした。


 「違う!違う! とにかくあの四人の前でだけは絶対に姿を現すな! そしたら結婚でもなんでもしてやる!」
 「本当! ならその条件守るわ!」
 

 ーうふふふ。 やったわ! ああ!  今夜が本当に楽しみだわ!
 ルシファーの顔からは欲望が滲み出ており、 優は早くも自身の言葉に後悔し始めた。
 

 「それともう一つ。 俺のことは、 旦那様ではなく優と呼べ。 これを守らないなら即離婚!」
 「わかったわ! よろしくね優!」
 「お、 おう。 こちらこそよろしく。 あとルシファーの名前の事だけどやっぱりこの世界でも有名名前なのか?」
 「当然よ!」


 ルシファーは腰に自分の手を当て自身満々にそう言った。


 「なら名前を変えなきゃな。 正直女の子でルシファーって呼ぶとお前の正体がバレかねない。
 だからお前の名前は今日からルーだ。 あ、 でも嫌なら……」
 「ルーね。 わかったわ! これから私は、 悪魔の王ルシファーとしてではなく、 優の妻であるルーとして生きていくわ!」


 -こいつ見た目はクール系美人なのに実際はかなりポンコツだけど本当に大丈夫かな?
 そんな優の不安にも気づかず、 ルーは優に名前を付けてもらったことが余程嬉しかったのかぴょんぴょん地面を跳ね回っていた。  


 「おい。 ルー少しいいか?」
 「何優?」
 「ああ。 実は俺はある計画を実行しようと思っているんだ」
 「計画?」
 「そうだ。 俺が元々悪魔と契約できる弾丸を作ったのだってその為なんだからな。 だからお前には、 俺の共犯者になってもらう」
 「わかったわ。 それでまず優は何をするつもりなの?」
 「そうだな。 まず手始めに人間の国で最も大きい国であるアーククラフトを奪う」

「職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ヒナキ

    あのー、名前決める前からルーって読んでますけど

    1
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