職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第十一話 ブラックマンティス

 ダンジョンに入る際、 一定数の人数でパーティを組むのはユグドラシルにおいて非常に常識的なことである。
 その例に優も漏れず、 優は雪、 詩織、 胡桃、 シアと何時ものメンバーでパーティーを組んでいた。


 「ついにこの時が来たわね……」
 「そうだな」
 「お兄ちゃんは緊張とかしてないの?」
 「いや。 多少はしているよ。 でも今更考えたところでどうしようもないだろう」
 「優さんは中々肝が据わっていますね」
 「そうか?」
 「そうです」
 「優君どうやら騎士団の人達動き出したみたいだよ?」
 

 今回のダンジョン対策においては特別に騎士団の面々も同行することになっている。
 ただし剣神であるジークと副団長であるシリウスは王が竜人族のトップと会談をする都合で、 王の護衛として同行している為この場にはいなかった。
 

 「では今からダンジョンに入る。 基本は、 全体で移動し、 絶対にパーティーメンバーと離れないようにしろ!」


 ダッチのその激励を合図に優たちはダンジョンへと足を踏みいれた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「ここがダンジョンの中か……」


 ダンジョンの中には木や草が生い茂っており、 日が出ていないのにも関わらず明るかった。
 雪と優はそんなダンジョンの光景に見惚れていた。


 「優君。 不思議な光景だね」
 「そうだな。 まさかダンジョンがこんな構造だとは知らなかったよ」
 「優さん。 気を引き締めてください。 ここはダンジョンの中なんですよ? いつ命の危険があるかわからないんですから」
 「ここは赤髪女の言う意見が正しいわね。 それとダンジョンに見とれるんじゃなくて私に見とれて欲しいな」
 「お姉ちゃん。 気持ち悪いからもう喋らないで。 てか息もしないで」
 「何? 姉に逆らうとはいい度胸してるわね 。 支援だけで直接戦闘もできないくせに」
 「そっちだって影からこそこそ戦ってるだけじゃない」
 「言ったわね!」
 「お姉ちゃんさっき自分で言ったこともう忘れたの? ここは、 ダンジョンの中なんだからもっと気を引き締めてよ」
 「二人ともいい加減にしろ」
 「「ごめんなさい」」


 優に怒られたことが余程聞いたのか二人は終始無言で歩いていた。
 そんあ様子に雪とシアは笑いをこらえるのに必死の様子であった。


 「にしてもここのモンスター虫型の奴が多いな……」 


そう言うと優の目の前に虫型のモンスターが飛び出てきたため優は指に括り付けた糸を器用に使い、  屠った。
 

 「……なんか気分悪くなってきたかも」
 「優君って虫嫌いだったっけ?」
 「別に嫌いじゃないけれどあまり好きではないかな。 雪はどうなんだ?」
 「私は嫌いかな。 でもあそこまでではないよ」


 雪はレイピアを使い、 モンスターを屠りながら、 悲鳴を上げているクラスメイトの女子一同を指さした。


 「まあ近くにあそこまで取り乱してるやつがいると逆に冷静になっちゃうよな」
 「そうだね」
 「優ちゃん優ちゃん。 もし怖いなら私に抱き着いてもいいのよ?」
 「姉さん普通それ逆じゃないか?」 
 「お兄ちゃん! 胡桃怖い!」


 胡桃は震えた様子で優に抱き着いた。


 「おい。 大丈夫か?」
 「うん。 大丈夫だよ。 でもしばらくこうさせて?」
 「はぁ……仕方ないな」
 

 -うふふ。 計画通り
 今しがた胡桃が言った言葉はすべて嘘である。
 胡桃の目的は元々優に抱き着くことであり、 その為に虫が嫌いなかよわい女子を演じたのだ。


 「優さん危ない!」
 

 シアは初級魔法であるファイアを優の胸元にへばりついている胡桃へ放った。
 優はその攻撃を間一髪で回避することには成功したが服が少々焦げていた。


 「おいシア! お前いきなり何するんだ!」
 「あ、 すいません。 てっきり優さんが寄生虫型のモンスターに寄生されてると思ってしまいまして……」
 「お兄ちゃん騙されちゃダメ! この女嘘ついてるよ! 私に攻撃たのは確信犯だよ!」
 「何を証拠にそんな事を言うのか私にはわかりませんね」
 「ぐぬぬぬぬ!」
 「はぁ全くお前らは……」


 優はそんな二人の様子に呆れる他なかった。
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 あれから時が立ち優たちは危うげなく、 このダンジョンの最深層に到達していた。


 「では今からこの扉を開ける。 中に入るとワープホールと呼ばれるものがある。 その上に乗るとこのダンジョンの入り口まで戻ることができる。それにて今回の最終訓練は終了となる! では進むぞ!」
 

 ダッチのその言葉にクラスメイトたちは続いて歩いた。


 「何もないな」


 部屋の中は巨大な空洞になっており、 ワープホールらしきものはなかった。
 この様子にはクラスの面々だけでなく、 騎士団員全員首を傾げていた。
 

 「なぜここにワープホールがない! 一か月前我々だけで来たときはあったではないか!」
 

 ダッチはこの様子にたいそう腹を立てているようだった。
 だが次の瞬間ダッチの首は何者かの手により吹き飛ばされた。


 「キャァァァァァァァァァァ!」


 ダッチの近くにいた女子生徒は恐怖のあまり叫んだ。
 その悲鳴がトリガーになり、 優たちと照山を除いて皆入り口へと向かって走り始めた。


 「皆落ち着くんだ!」
 

 照山はクラスメイトに必死に落ち着く様に呼びかけた。
 だが普段なら耳に届くはずの照山の声も混乱している今誰一人耳を傾ける者はいなかった。


 「優君どうしよう!」
 「落ち着け雪」


 優はひとまずダッチの首を飛ばした犯人を探るため、 レベルを上げ獲得した索敵スキルを発動した。
 これは名前の通り敵の居場所を確認するためのスキルだ。 
 俺はダッチの首がとんだあと、 すぐに索敵スキルを発動した。
 

 「上だ!」


 優が叫ぶと四人は上を見上げ、 驚愕の表情を露わにした。
 何せ天井には今まで戦ってきたモンスターとはくらべものにならない程巨大な黒色の外見をしたカマキリがいたのだ。


 「皆上だ!」


 照山もカマキリの存在に気づき、 クラスメイトに伝えようとした。
 だがすでに手遅れであり、 恐怖に支配されたクラスメイトは次々に殺されていった。
 

 「騎士団の皆さん! お願いします! 皆を助けてください!」
 「む、 無理だ。 あ、 あんな奴に勝てるわけない」


 騎士団員はそう言うとクラスメイトと同じように逃げ出していた。
 実は今回の演習で派遣された騎士は騎士になったばかりのひよっこばかりだったのだ。
 その為実践も碌に経験したことのない彼らが恐怖に呑み込まれるのは早かった。


 「あの野郎! やりやがったな!」
 

 優は騎士団の面々の様子を見て自分たちが嵌められていたことに気が付いた。
 王は弱い者をここで間引き、 実力がない者以外勇者と認める気はなかったのだ。
 

 「ゆ、 優君?」


 今の優は王への怒りと雪達を危険に晒してしまった自分の甘さに腸が煮えくり返りそうな思いであった。
 ー冷静になるんだ俺。
 ーもしこの状況で俺までも冷静さを失ったら雪達の命を危険に晒すだけではないか。
 優はそう思うことで何とか怒りを鎮め、 この状況に対処しようと動き始めた。
 

 「おい照山! あのカマキリ野郎を天井から地面に落とせるか!」
 「可能だよ! 僕の聖剣エクスダスは、 斬撃を飛ばせるようになる力がある。 それを使えば多分可能だと思う。 だけど五分間のチャージ時間がいるんだ」
 「わかった。 それなら俺がしばらくの間奴を引き付ける」
 「わかった!」
 「優君私たちは何をすればいい?」
 「雪とシアと姉さんは、 照山の近くで魔法で攻撃してくれ! 胡桃は、 スピードソングを使って俺の速さを挙げてくれ!」
 「「「「わかった!」」」」


 優は四人に指示を出すと自身は囮になるためカマキリにとって見えやすい位置に移動した。


 「こっちだクソ虫!」


 優のその挑発は功を奏し、 ターゲットをクラスメイトから優に変更することには成功した。
 カマキリの攻撃は巨体であるため攻撃をよけるのは速さに特化した優からしたら造作もないことであった。


 「時坂君! チャージが終わった! だから一旦そこから離れるんだ!」
 「了解した!」


 優は逃げ出すためにスモークを使い、 後ろに下がった。


 「くらえ化け物!」


 照山の放った一撃は見事命中し、 地面に叩き落とすことに成功した。
 ただ照山の攻撃によってカマキリの左の鎌をり落としたためか地上に落ちた際ひどく怒っていた。 


 「時坂君。 あとは僕に任せてくれないか? あいつは僕が仕留める」


 照山は自分のクラスメイトを無残に殺した相手に怒りをあらわにしていた。


 「わかった」
 「ありがとう」


 優は照山を止めることはしなかった。
 優は照山の実力に関していえば信用していた。
 その為満身創痍の敵をもしかしたら一人倒してくれるのではないかと少々期待したからだ。
 

 「くらえ! ホーリーセイバー!」
 

 だが現実は非情である。


 「キシャァァァ!」


 照山の放った一撃はかなりの物ではあった
 だがそんな一撃も相手には全く効いていなかった。


 「ゴメン……皆……」


 実は照山には先ほどの攻撃でほとんどの力を使い果たしていたのだ。
 その為照山は今持てる全力の一撃で仕留めようとしのだ。
 そして照山はその言葉を最後に魔力切れを起こし、 気絶した。


 「先ほどまでの奴なら確実に照山の一撃でやられていた。 それなのにも効果がないということは……」
 「優ちゃん何かわかったの?「」
 「ああ。 あいつは怒ると体が固くなるんだ」
 「そんなのチートだよ!」
 「まあ胡桃のその意見には同意だが嘆いても死ぬだけだ」
 「ということは何か作戦がおありなんですか?」
 「まあ一応な。 とりあえず俺は今から奴の右側から突っ込む。 その際姉さんは左側を。 雪は正面から攻撃をしてくれ」
 「「「了解!」」」
  「私と王女様はどうすればいい?」
 「胡桃はアタックソングを使用して全員の攻撃力を上げてくれ。 シアは胡桃の隣から魔法攻撃を頼む!」
 「「了解です!」」
 「それじゃあ行くぞ!」


 優のその言葉を合図に胡桃とシア以外の三人はカマキリめがけて突っ込んだ。
 優の一撃はあまり高くはない。
 その為優が相手の装甲を貫通するのは確実に不可能である。
 そのため今回優は自身は相手の攻撃を受け流すのに専念し、 その隙に詩織たちに攻撃してもらおうと考えた。
 

 「キシャャャャャャ!!!!!!!」


 カマキリは優に狙いを定め鎌を振ってきた。
 優はそれに対し腰を低くし、 短剣二本を構え、 攻撃を受け流す体制に入った。


 「グッ……」


 相手の力は優が初めて受け流した相手であるジークの物より遥かに凄まじかった。
  そんな攻撃を前よりレベルが上がっているとはいえ、 普段の優の力なら到底受け流すことはできない。
 だが今の優には胡桃のアタックソングによって攻撃力が上がっている。
 その為優は半分賭けだが受け流して、 大きな隙を作る作戦を立てたのだ。


 「ウォォォォォォォォォォォォ!」


 優は吠えた。
 -もしここで自分が失敗したら皆死んでしまう。
 ーそんな状況絶対に求めるわけにはいかない!
 そう思うと優は吠えずにはいられなかったのだ。


 「キシャッ!」
 「いまだ三人とも!!!」


 優の受け流しは何とか成功した。
 だが左右に握っていた短剣は砕け散ってしまった。


 「わかった!」
 「優ちゃん! 後はお姉ちゃんに任せなさい!」
 「わかりました!」


 詩織はカマキリの右目を自身の愛刀で思い切り突き刺し、 雪はカマキリの左目を潰した後、 氷魔法で強大な槍を作り出し、 串刺しにした。


 「王女様後は任せたよ!」
 「紅蓮の炎よ! 汝が意思のままに我が対象の者の命を燃やし尽くせ! プロミネンス!」
 「キシャァ……」


 カマキリはシア攻撃に苦痛の叫びをあげ、 必死に火から逃れようとした。


 「頼むからこれで死んでくれ……」


 優だけでなく、 この場にいるすべての者がそう願っていた。
 そんな思いが通じたのかカマキリは動かなくなり、 絶命した。


 「な、 何とか生き残った……」


 カマキリの放った被害は甚大であり、 生き残っているのは優たちのパーティ以外では照山ただ一人であった。
 

 「優君お疲れ様。 どこもケガしてない?」
 「ああ、 大丈夫だよ。 それと雪もお疲れ様」
 「私も頑張ったわ! だから褒めて褒めて!」
 「はいはい。 姉さんも頑張った頑張った」
 

 優が詩織の頭を撫でていると優の元にシア達が近づいてきた。


 「お疲れ様です。 優さん。 でも金輪際あんな自分の命を危険にさらすような戦い方はやめてください」


 シアは優の自身の命を危険に晒す戦い方に怒っていた。
 ただあの時誰かが相手の攻撃を受け流し、 隙を作っていなかれば絶命するに至る攻撃を放つことはできなかった。
 その為シアは優にあまり強く言えなかった。


 「胡桃も支援ありがとな。 正直胡桃の支援がなかったら俺は死んでたかもな」
 「そうかな~」


 胡桃は自身の顔を両手でおおい、 喜びを隠せなかったのかニヤニヤしていた。


 「さてとはやくダンジョンから出ようぜ。 正直かなりつらい」
 

 皆その意見に賛成の様でダンジョンから抜け出そうちしたのだがその瞬間優以外の全員が地面に倒れた。


 「な!?」
 -これは一体どういうことだ!?


 優は動揺を隠せなかった。
 すると部屋の真ん中の空間がゆがみ小さな穴ができ、 そこから金髪碧眼の一人の美しい女性が出てきた。
 

 「お、 お前は……」


 女性の背中からは六枚の黒色の羽が生えており、 頭からは二本の角が生えており、 この時点で彼女が人間ではないことは歴然であった。

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