職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)
第九話 VSゴブリン
 優は今朝はなぜか普段より早く目を覚ました。
 それにより隣で眠っていた雪とシアも起きたようだった。
 「二人ともおはよう。 俺が起きたせいで起こしちゃったか? 眠いならまだ寝ててもいいんだぞ? 訓練までまだ結構時間あるんだし」
 「優君おはよ~それと私はいつもこれぐらいの時間に起きるから気にしなくていいよ~」
 「ううん……私はまだ眠いたいのでもう少し眠っていますね……」
 
 シアはその言葉を最後に再び眠ってしまった。
 因みに今のシアは服をちゃんと着ている。
 当初シアは昨日と同じように裸でベットに入ろうとしたのだがそのことに対し三人が激怒したのだ。
 それによりシアは渋々給仕係の人間が持ってきた寝巻に着替え、 昨日は就寝した。
 シアが再び眠りに落ちた後、 優と雪は久しぶりに二人きりの状態で食事をとっていた。
 食事を食べ終えるころには三人も起きてきたのだが三人は優と雪が仲良く食事をしていたのが気に要らなかったのか今はふてくされていた。
 「なあ。 三人ともなんでそんなに機嫌悪そうな顔してるんだ? 俺何かしたか?」
 「別に~」
 「ただ~」
 「優さんが雪様と二人きりで食事したことに~」
 「腹を立てているわけじゃ~」
 「ないよ~」
 
 ーこいつらめんどくさ。
 そう思う優ではあったがそれを顔に出すとまた詩織たちが機嫌が悪くなりかねなかった。
 「優君。 こんなめんどくさい人達の事とはほっとこうよ」
 
三人とは対照的に雪の機嫌は非常にご機嫌であった。
 
 「雪は逆に機嫌よさそうだけど何かいいことあったのか?」
 「べ、 別に! ただ……」
 -優君と二人きりで食事できたのが嬉しかったんだ。
 なんてことは雪には恥ずかしくて言うことはできなかった。
 
 「まあいいや。 それよりもそろそろ訓練に行く時間が迫ってるんだから早く準備してくれ」
 流石に訓練に送れると今後の生活に差し支えると思ったのか三人はふてくされるのを止め急いで準備を整えた。
 
 「優さん。 これが私の戦闘服です!」
 シアの戦闘用の衣装は、 白と黒の二色が使われており、 頭に大きな帽子をかぶっていた。
 その様子はまるでおとぎ話で出てくる魔女が着ているような服のようであった。
 「優さんどうですか? 私の格好似合っていますか?」
 
 シアの表情は優が褒めてくれるか少々不安そうな顔をしていた。
 「ああ、 とても似合っていると思うよ」
 
 シアのこの衣装は普段のドレス姿とのギャップがいい意味ですさまじく、 優からしたらとても魅力的に映っていた。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 訓練所につくと優以外のクラスメイト達はすでに全員集まっていた。
 「すみません。 遅れました」
 
 優がそう言うと優の元にまだ二十代と思しき青年が近づいてきた。
 「遅刻とはあまり関心できたことではありませんね」
 
 青年は少々棘のある言い方で優の事を責めた。
 そんな様子に優以外の四人は反応しそうになったがそこは優が手で止めるよう制した。
 「本当にすみません。 これからは遅刻しないようにします」
 「まあそこまで反省しているなら私からはこれ以上言いません。 ただしもし次遅刻したら何かしらペナルティを与えることにします。 文句はありませんよね?」
 「無論です」
 すると青年は優の元を離れ、 クラス全員が見える位置へと移動した。
 「まず初めに私の名前はシリウスと言い、 この国の騎士団副団長を務めております。 それで本来なら皆さまの訓練はこの国の騎士団長であるダッチが務めるはずなのですが、 団長は急な用事が入ってしまっため、 しばらくの間は私が皆様の訓練の相手を務めさせていただきます」
 そのシリウスの言葉にクラスの女子は歓喜の声を上げた。
 それもそのはずシリウスの容姿はとても整っていたのだ。
 それに比べダッチはこわもてだ。
 女子がどっちに教わりたいかといったらイケメンの方が選ばれるのは自然の摂理である。
 
 「さてまず初めに皆様には今からモンスターを狩ってもらいます」
 
 シリウスのその言葉にクラスの人間は動揺を露わにした。
 
 「今日皆様に狩ってもらうモンスターはゴブリンと呼ばれるモンスターです」
 ゴブリンと言えばゲームの世界でスライムと並ぶほど有名な雑魚キャラである。
 
 「まず初めに言います。 皆様のステータスなら油断でもしない限り、 必ずゴブリンに勝つことができます。 ゴブリンはそれほどにステータスが低いのです。 仮に殺されそうになったとしても騎士団が必ずお助けします。 ですので皆さまは安心して訓練に望んて下さい」
 その言葉にクラスの人間は安心したのか先ほどまでの騒音が嘘のように止んだ。
 
 「さてまずゴブリンを退治するにあたり二人組のパーティーを作ってもらいます。 そして二人の力を合わせゴブリン一体を飼ってください。この訓練には当然意味があります。 それは生き物の命を奪うという行為に慣れるといったものです。 そのため皆さんにはこの訓練を一か月続けてもらいます」
 
 優はこの言葉に一人納得していた。
 優たちの世界では生き物の命を奪うことは基本禁忌とされている。
 そのためシリウスはまずは命を奪う行為に慣れさせようとしたのだ。
 またモンスターを狩ることによって自身のレベルを上げることが可能なのである。
 一応対人戦でもあげることは可能なのだがモンスターを殺すのに比べれば圧倒的に容量が悪かった。
 だがそんな優とは対照的にクラスメイトは全員黙り込んでしまっていた。
 
「さて質問もないようですし、 早速皆様にはパーティーを作ってもらいましょうか。 作り終えたら私の元に来てください。 その後希望順にゴブリンと相手をしてもらいます」
実は優はすでにパーティの相手を決めていた。
 その相手とは……
 「胡桃俺とパーティー組まないか?」
 胡桃である。
 胡桃は直接戦闘が基本できない完全支援型。
 そんな相手にペアを頼むような人間は少ないと思ったからだ。
 また胡桃はクラスの中で人間以外に仲がよい人間がいない。
 そのためもし自分が組まなかったら組む相手はいないのではないのかと胡桃の兄なりに心配したのだ。
 「うん! いいよお兄ちゃん! こちらこそよろしくね!」
 
 そんな様子を陰から見ていた三人は優のもとに詰め寄った。
「ちょっと優ちゃん! なんで私とじゃなくて胡桃と組むのよ!」
「優さん理由をちゃんと説明して下さい」
「私も説明して欲しいかな?」
「そんなのお兄ちゃんが私の事を選んだからに決まってるじゃん!」
「おい胡桃! お前は少し黙ってろ! それと姉さん包丁を取り出すな!」
 そこから優は自分が胡桃とペアを組もうと思った理由について三人に包み隠さず話した。
 それにより雪の理解を得ることは成功し、 雪は自分の友人と組むと言ってくれたのだがシアと詩織に関しては頑なに譲ろうとしなかった。
 だがそうは言ってもどうしようもなく、 結果詩織とシアの二人はペアを組むことになった。
 
 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」」
 「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき……」
 「な、 なああの二人さっきからこっち見てすごい物騒なこと言ってるんだけど?」
 「気にしちゃだめだよお兄ちゃん」
 胡桃はそんな二人の姿が非常に心地よく、 たびたび二人の方向を見ては鼻で笑っていた。
 「どうやら皆様ペアは組み終えたようですね。 では今からゴブリンを狩ってもらいます。 初めにやりたい人はいますか?」
 すると照山の奴が勢いよく手を挙げた。
 照山のペアの名前は佐倉朋美。
 彼女はクラス委員長を務めており、 メガネが特徴的な少女である。
 そんな彼女は昔照山に助けてもらったことがあり、 それ以来ゾッコンであった。 
 「わかりました。 それでは照山様と佐倉様はこちらについて来てください」
 シリウスは照山たちを連れて行くと優たちによく見えるよう檻の中に入ったゴブリンを見せた。
 ゴブリンは緑色の肌に、 醜い顔をしており、 その姿に気分を悪くするものは後を絶たなかった。
 「今からゴブリンを開放します。 照山様と佐倉様には、 昨日選んでもらった武器を渡します。 そして武器が渡されてから一分後に檻からゴブリンを開放します。 宜しいですか?」
 「「わかりました」」
 2人の返事を返事を聞くとシリウスはハンドサインを使って、 照山と佐倉の使う武器を持ち込ませた。
 照山の使用する武器は直剣なのだが唯の直剣ではなく、 この国の国宝である聖剣と噂になっていた。
 聖剣は職業が勇者の者にしか装備が出来ず、 その剣の効果は絶大である。
 ただそんな照山とは対照的にサクラの武器は何の変哲もない弓であった。
 
 「では開始!」
 シリウスのその号令を合図にゴブリンは折から解き放たれた。
 優は照山の実力に元々非常に興味があり、 どのような戦闘スタイルを見せてくれるのか期待していたのだが照山はゴブリンが解放されてからわずか五秒でゴブリンの首を切り落とした。
 そのあまりの速さに優は驚きのあまり声を少し漏らした。
 ゴブリンを殺すのが速すぎて驚いたのではない。
 照山は命を奪うことにためらいがなかったのだ。
 ただ優の声は照山のファンの女子によってかき消されたため、 その声を聴いているものは誰一人いなかった。 
 「そこまで。 照山様お見事です。 正直そこまでの速さをレベル1の人間が持っているとは思っていませんでした。 さすがは勇者と言ったところですね。 でも明日は、 佐倉様にとどめを刺させてくださいね。 そうでないとこの訓練は意味がないので」
 「わかりました」
 
 照山は笑顔でシリウスにお礼を言うと優たちの元へと戻ってきた。
 
 「では次の方! 誰か立候補者はいませんか!」
 
 するとクラスメイト達は我先にと続々と手を挙げた。
 「全く都合のいい奴らだ」
 彼らが手を挙げる理由など先ほどの照山がかっこよく、 もしかしたら自分も照山と同じくらい力があるのかもしれないと思っているからだ。
 優はそんなクラスの人間をひどく滑稽に思いながら、 最後になるまで手を挙げることはしなかった。
 「では最後に時坂優様と時坂胡桃様お願いします」
 「わかった。 じゃあ胡桃行こうか」
 「うん!」
 優は武器を受け取ると腰を少し低くし、 短剣を一本だけ右手に握った。
 優はゴブリンを殺すこと程度に躊躇いはなかった。
 その為今日は自分でゴブリンの息の根を止めず、 止めは胡桃に刺させようと思い立った。
 「胡桃。 俺は今からゴブリンをナイフで刺して死にかけまで追い詰める。 もし俺がそれに成功したら胡桃は俺が刺したナイフを拳で殴って絶命させてくれ。 できるか?」
 「うん! 任せといてお兄ちゃん!」
 
 ちょうどいいタイミングでゴブリンは放たれた。
 
「ギャギャギャギャ!」
「さてとまずは近づかなきゃな」
優はゆっくりとゴブリンの元へと歩み始めた。
 そんな様子にゴブリンは優の事を自分に怯えている腰抜けだと勘違いし、 襲い掛かってきた。
 だが優はゴブリンの拳を危うげなくよけると流れるような動きでゴブリンの首に短剣を突きさした。
 「グギャグググギャ……」
 「よし胡桃! 今だ!」
 「これで死んで!」
 胡桃の放った拳は見事優が突き刺した短剣に命中した。
 その結果ナイフは、 完全にゴブリンの喉を貫通し、 ゴブリンの命をたやすく絶命させた。
 「やった! 私できたよ! ねぇねぇお兄ちゃん! 胡桃偉い?」
 「ああ、 よくできたな!」
 優はご褒美の意味を兼ねて血だらけの手で胡桃の頭を撫でてやった。。
 そんな光景にクラスの人間はドン引きしていたが、 雪とシアと詩織だけは胡桃に対し嫉妬の目線を向けていた。
 
 「お見事です。 でも優様。 今の本気でやっていませんでしたよね?」
 「文句あるのか?」
 「文句ではなく忠告です。 人間慢心したときが一番危険なのです。 でないといずれ致命的なミスを犯しますよ?」
 「忠告はありがたいけど俺は別に慢心なんかしていないぞ?」
 「それはどういった意味でしょうか?」
 「そのままの意味だよ。 胡桃の職業って完全支援型なんだよ。 だから俺が元々ギリギリまで弱らせないとコイツには止めが刺せないんだ」
 そう言うと優は胡桃のおでこをつついた。
 「そういうことでしたか」
 「納得してくれて何よりだ。 それと明日は俺がちゃんと止めを刺すから安心しろ」
 
 シリウスはその優の言葉に納得したのか優の元を離れた。
 それにより隣で眠っていた雪とシアも起きたようだった。
 「二人ともおはよう。 俺が起きたせいで起こしちゃったか? 眠いならまだ寝ててもいいんだぞ? 訓練までまだ結構時間あるんだし」
 「優君おはよ~それと私はいつもこれぐらいの時間に起きるから気にしなくていいよ~」
 「ううん……私はまだ眠いたいのでもう少し眠っていますね……」
 
 シアはその言葉を最後に再び眠ってしまった。
 因みに今のシアは服をちゃんと着ている。
 当初シアは昨日と同じように裸でベットに入ろうとしたのだがそのことに対し三人が激怒したのだ。
 それによりシアは渋々給仕係の人間が持ってきた寝巻に着替え、 昨日は就寝した。
 シアが再び眠りに落ちた後、 優と雪は久しぶりに二人きりの状態で食事をとっていた。
 食事を食べ終えるころには三人も起きてきたのだが三人は優と雪が仲良く食事をしていたのが気に要らなかったのか今はふてくされていた。
 「なあ。 三人ともなんでそんなに機嫌悪そうな顔してるんだ? 俺何かしたか?」
 「別に~」
 「ただ~」
 「優さんが雪様と二人きりで食事したことに~」
 「腹を立てているわけじゃ~」
 「ないよ~」
 
 ーこいつらめんどくさ。
 そう思う優ではあったがそれを顔に出すとまた詩織たちが機嫌が悪くなりかねなかった。
 「優君。 こんなめんどくさい人達の事とはほっとこうよ」
 
三人とは対照的に雪の機嫌は非常にご機嫌であった。
 
 「雪は逆に機嫌よさそうだけど何かいいことあったのか?」
 「べ、 別に! ただ……」
 -優君と二人きりで食事できたのが嬉しかったんだ。
 なんてことは雪には恥ずかしくて言うことはできなかった。
 
 「まあいいや。 それよりもそろそろ訓練に行く時間が迫ってるんだから早く準備してくれ」
 流石に訓練に送れると今後の生活に差し支えると思ったのか三人はふてくされるのを止め急いで準備を整えた。
 
 「優さん。 これが私の戦闘服です!」
 シアの戦闘用の衣装は、 白と黒の二色が使われており、 頭に大きな帽子をかぶっていた。
 その様子はまるでおとぎ話で出てくる魔女が着ているような服のようであった。
 「優さんどうですか? 私の格好似合っていますか?」
 
 シアの表情は優が褒めてくれるか少々不安そうな顔をしていた。
 「ああ、 とても似合っていると思うよ」
 
 シアのこの衣装は普段のドレス姿とのギャップがいい意味ですさまじく、 優からしたらとても魅力的に映っていた。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 訓練所につくと優以外のクラスメイト達はすでに全員集まっていた。
 「すみません。 遅れました」
 
 優がそう言うと優の元にまだ二十代と思しき青年が近づいてきた。
 「遅刻とはあまり関心できたことではありませんね」
 
 青年は少々棘のある言い方で優の事を責めた。
 そんな様子に優以外の四人は反応しそうになったがそこは優が手で止めるよう制した。
 「本当にすみません。 これからは遅刻しないようにします」
 「まあそこまで反省しているなら私からはこれ以上言いません。 ただしもし次遅刻したら何かしらペナルティを与えることにします。 文句はありませんよね?」
 「無論です」
 すると青年は優の元を離れ、 クラス全員が見える位置へと移動した。
 「まず初めに私の名前はシリウスと言い、 この国の騎士団副団長を務めております。 それで本来なら皆さまの訓練はこの国の騎士団長であるダッチが務めるはずなのですが、 団長は急な用事が入ってしまっため、 しばらくの間は私が皆様の訓練の相手を務めさせていただきます」
 そのシリウスの言葉にクラスの女子は歓喜の声を上げた。
 それもそのはずシリウスの容姿はとても整っていたのだ。
 それに比べダッチはこわもてだ。
 女子がどっちに教わりたいかといったらイケメンの方が選ばれるのは自然の摂理である。
 
 「さてまず初めに皆様には今からモンスターを狩ってもらいます」
 
 シリウスのその言葉にクラスの人間は動揺を露わにした。
 
 「今日皆様に狩ってもらうモンスターはゴブリンと呼ばれるモンスターです」
 ゴブリンと言えばゲームの世界でスライムと並ぶほど有名な雑魚キャラである。
 
 「まず初めに言います。 皆様のステータスなら油断でもしない限り、 必ずゴブリンに勝つことができます。 ゴブリンはそれほどにステータスが低いのです。 仮に殺されそうになったとしても騎士団が必ずお助けします。 ですので皆さまは安心して訓練に望んて下さい」
 その言葉にクラスの人間は安心したのか先ほどまでの騒音が嘘のように止んだ。
 
 「さてまずゴブリンを退治するにあたり二人組のパーティーを作ってもらいます。 そして二人の力を合わせゴブリン一体を飼ってください。この訓練には当然意味があります。 それは生き物の命を奪うという行為に慣れるといったものです。 そのため皆さんにはこの訓練を一か月続けてもらいます」
 
 優はこの言葉に一人納得していた。
 優たちの世界では生き物の命を奪うことは基本禁忌とされている。
 そのためシリウスはまずは命を奪う行為に慣れさせようとしたのだ。
 またモンスターを狩ることによって自身のレベルを上げることが可能なのである。
 一応対人戦でもあげることは可能なのだがモンスターを殺すのに比べれば圧倒的に容量が悪かった。
 だがそんな優とは対照的にクラスメイトは全員黙り込んでしまっていた。
 
「さて質問もないようですし、 早速皆様にはパーティーを作ってもらいましょうか。 作り終えたら私の元に来てください。 その後希望順にゴブリンと相手をしてもらいます」
実は優はすでにパーティの相手を決めていた。
 その相手とは……
 「胡桃俺とパーティー組まないか?」
 胡桃である。
 胡桃は直接戦闘が基本できない完全支援型。
 そんな相手にペアを頼むような人間は少ないと思ったからだ。
 また胡桃はクラスの中で人間以外に仲がよい人間がいない。
 そのためもし自分が組まなかったら組む相手はいないのではないのかと胡桃の兄なりに心配したのだ。
 「うん! いいよお兄ちゃん! こちらこそよろしくね!」
 
 そんな様子を陰から見ていた三人は優のもとに詰め寄った。
「ちょっと優ちゃん! なんで私とじゃなくて胡桃と組むのよ!」
「優さん理由をちゃんと説明して下さい」
「私も説明して欲しいかな?」
「そんなのお兄ちゃんが私の事を選んだからに決まってるじゃん!」
「おい胡桃! お前は少し黙ってろ! それと姉さん包丁を取り出すな!」
 そこから優は自分が胡桃とペアを組もうと思った理由について三人に包み隠さず話した。
 それにより雪の理解を得ることは成功し、 雪は自分の友人と組むと言ってくれたのだがシアと詩織に関しては頑なに譲ろうとしなかった。
 だがそうは言ってもどうしようもなく、 結果詩織とシアの二人はペアを組むことになった。
 
 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」」
 「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき……」
 「な、 なああの二人さっきからこっち見てすごい物騒なこと言ってるんだけど?」
 「気にしちゃだめだよお兄ちゃん」
 胡桃はそんな二人の姿が非常に心地よく、 たびたび二人の方向を見ては鼻で笑っていた。
 「どうやら皆様ペアは組み終えたようですね。 では今からゴブリンを狩ってもらいます。 初めにやりたい人はいますか?」
 すると照山の奴が勢いよく手を挙げた。
 照山のペアの名前は佐倉朋美。
 彼女はクラス委員長を務めており、 メガネが特徴的な少女である。
 そんな彼女は昔照山に助けてもらったことがあり、 それ以来ゾッコンであった。 
 「わかりました。 それでは照山様と佐倉様はこちらについて来てください」
 シリウスは照山たちを連れて行くと優たちによく見えるよう檻の中に入ったゴブリンを見せた。
 ゴブリンは緑色の肌に、 醜い顔をしており、 その姿に気分を悪くするものは後を絶たなかった。
 「今からゴブリンを開放します。 照山様と佐倉様には、 昨日選んでもらった武器を渡します。 そして武器が渡されてから一分後に檻からゴブリンを開放します。 宜しいですか?」
 「「わかりました」」
 2人の返事を返事を聞くとシリウスはハンドサインを使って、 照山と佐倉の使う武器を持ち込ませた。
 照山の使用する武器は直剣なのだが唯の直剣ではなく、 この国の国宝である聖剣と噂になっていた。
 聖剣は職業が勇者の者にしか装備が出来ず、 その剣の効果は絶大である。
 ただそんな照山とは対照的にサクラの武器は何の変哲もない弓であった。
 
 「では開始!」
 シリウスのその号令を合図にゴブリンは折から解き放たれた。
 優は照山の実力に元々非常に興味があり、 どのような戦闘スタイルを見せてくれるのか期待していたのだが照山はゴブリンが解放されてからわずか五秒でゴブリンの首を切り落とした。
 そのあまりの速さに優は驚きのあまり声を少し漏らした。
 ゴブリンを殺すのが速すぎて驚いたのではない。
 照山は命を奪うことにためらいがなかったのだ。
 ただ優の声は照山のファンの女子によってかき消されたため、 その声を聴いているものは誰一人いなかった。 
 「そこまで。 照山様お見事です。 正直そこまでの速さをレベル1の人間が持っているとは思っていませんでした。 さすがは勇者と言ったところですね。 でも明日は、 佐倉様にとどめを刺させてくださいね。 そうでないとこの訓練は意味がないので」
 「わかりました」
 
 照山は笑顔でシリウスにお礼を言うと優たちの元へと戻ってきた。
 
 「では次の方! 誰か立候補者はいませんか!」
 
 するとクラスメイト達は我先にと続々と手を挙げた。
 「全く都合のいい奴らだ」
 彼らが手を挙げる理由など先ほどの照山がかっこよく、 もしかしたら自分も照山と同じくらい力があるのかもしれないと思っているからだ。
 優はそんなクラスの人間をひどく滑稽に思いながら、 最後になるまで手を挙げることはしなかった。
 「では最後に時坂優様と時坂胡桃様お願いします」
 「わかった。 じゃあ胡桃行こうか」
 「うん!」
 優は武器を受け取ると腰を少し低くし、 短剣を一本だけ右手に握った。
 優はゴブリンを殺すこと程度に躊躇いはなかった。
 その為今日は自分でゴブリンの息の根を止めず、 止めは胡桃に刺させようと思い立った。
 「胡桃。 俺は今からゴブリンをナイフで刺して死にかけまで追い詰める。 もし俺がそれに成功したら胡桃は俺が刺したナイフを拳で殴って絶命させてくれ。 できるか?」
 「うん! 任せといてお兄ちゃん!」
 
 ちょうどいいタイミングでゴブリンは放たれた。
 
「ギャギャギャギャ!」
「さてとまずは近づかなきゃな」
優はゆっくりとゴブリンの元へと歩み始めた。
 そんな様子にゴブリンは優の事を自分に怯えている腰抜けだと勘違いし、 襲い掛かってきた。
 だが優はゴブリンの拳を危うげなくよけると流れるような動きでゴブリンの首に短剣を突きさした。
 「グギャグググギャ……」
 「よし胡桃! 今だ!」
 「これで死んで!」
 胡桃の放った拳は見事優が突き刺した短剣に命中した。
 その結果ナイフは、 完全にゴブリンの喉を貫通し、 ゴブリンの命をたやすく絶命させた。
 「やった! 私できたよ! ねぇねぇお兄ちゃん! 胡桃偉い?」
 「ああ、 よくできたな!」
 優はご褒美の意味を兼ねて血だらけの手で胡桃の頭を撫でてやった。。
 そんな光景にクラスの人間はドン引きしていたが、 雪とシアと詩織だけは胡桃に対し嫉妬の目線を向けていた。
 
 「お見事です。 でも優様。 今の本気でやっていませんでしたよね?」
 「文句あるのか?」
 「文句ではなく忠告です。 人間慢心したときが一番危険なのです。 でないといずれ致命的なミスを犯しますよ?」
 「忠告はありがたいけど俺は別に慢心なんかしていないぞ?」
 「それはどういった意味でしょうか?」
 「そのままの意味だよ。 胡桃の職業って完全支援型なんだよ。 だから俺が元々ギリギリまで弱らせないとコイツには止めが刺せないんだ」
 そう言うと優は胡桃のおでこをつついた。
 「そういうことでしたか」
 「納得してくれて何よりだ。 それと明日は俺がちゃんと止めを刺すから安心しろ」
 
 シリウスはその優の言葉に納得したのか優の元を離れた。
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