漆黒王の英雄譚

黒鉄やまと

第48話 親友

アルトは目を覚ますと大きく伸びをした。
身体のだるい感覚が抜けていく。

「ふぁぁ・・・なんか?変な夢を見た感じがする。」

どこか悲しく、どこか懐かしいそんな感覚の夢だったことは覚えていた。

「さて!今日も一日頑張りますか!」

俺は寝巻きから着替えて部屋を出た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


今日は王城に呼ばれていて・・・・・・つか、最近は毎日王城に行ってるよ?一昨日ハドルフさんの弟カザルフさんが完全なる失脚をして、王家から追放され、牢屋に捕えられた。王家からは謝礼として金貨10枚とカザルフの家の財産の5分の1が与えられた。
これでカザルフ一派は解散。次期国王はハドルフさんにほぼ確定した。

このことに現国王アレクドル王は悲しみの言葉と謝罪をしてきた。特に何ももらっていないが。

今日はハドラー達と遊ぶ予定なのだ。
少しハドルフさんと話さなくては行けない事があるがそれは帰り際でもいいと思っている。

俺は馬車で王城まで来る。
既に門番の人も顔見知りの仲になってきてしまってはいるが、一応ハドルフさんから渡されている通行証を見せて王城前に入る。

セバスさんが出迎えてくれたので俺はいつも通り挨拶してハドラー達のいる場所に向かう。

「皆様、アルベルト様がいらっしゃりました。」

着いたのは城にある庭園の一角。そこにハドラーとペルシア、レイチェルともう1人5歳の女の子がいた。

この子はリュシュトベルト帝国第三皇女エミリア・リュシュトベルト様だ。エミリア様はどうやら極度の人見知りらしく未だに俺と目を合わせてくれない。

「それでは私はこれで」

そう言ってセバスさんは去ろうとしたので俺は一声かけた。

「あ、帰りに王太子殿下とお話をさせて頂きたいのですが、今日はお時間ありますか?」

「かしこまりました。殿下に確認を取っておきます」

「ありがとうございます」

そう言ってセバスさんは仕事に戻って行った。

「こんにちは、エミリア様」

俺がそう言うとエミリア様はペルシアの後ろに隠れてしまった。

「あはは、まだ慣れてくれないね。アルト」

そう言ってくるのはこの国の第二王子ハドラーだ。

「うっせ、それよりも今日は何して遊ぶ?」

「僕はなんでもいいよ?3人は?」

そう言ってハドラーはペルシア、レイチェル、エミリアの方をむく。

「私はなんでもいいわ。」

「そうですね。私もなんでもいいです。せっかくですからエミリア様も楽しめる遊びをしましょう」

「それならこの前のでいいんじゃない?」

「この前?」

ペルシアはハドラーの提案にはてなマークを浮かべる。

「あれだよ、アルト以外の全員でアルトを捕まえる追いかけっこ」

「げ、あれかよ」

「それなら賛成よ!」

元気よく手を上げるペルシア。

「はぁ、仕方がねぇか。よし、範囲はこの庭の中だけな。時間は最初は10分でいいか。よーい、ドン!」

そして俺VSその他4人の追いかけっこが始まった。
この追いかけっこのルールは簡単だ。俺が逃げる人、ハドラー達4人が俺を追いかける鬼である。制限時間内に俺を捕まえるだけの鬼ごっこと言われるものである。違う点があるとすればそれは人数差がおかしいくらいだろうか?それでも今まで1度も捕まったことは無いがな!!

始まった瞬間ハドラーが俺に向かって走り出す。

「今日こそ捕まえるよ!」

「やれるもんならやってみな!」

俺は後ろを向いたまま走り出す。
もちろん全力でなんてやらない。相手は5歳児だが俺と違って基礎能力はFのものもある程度だ。それでもこれをやっているうちに基礎能力は上がっている。遊びながら鍛える。いい事だ。

その後も勇気をだして捕まえに来たエミリア様を避けてペルシアが捕まえに来たところをジャンプして避けたり、レイチェルが魔法を使ってきたので殴って消滅させたりとあらゆる手段を使ってくる4人から俺は逃げていったのだった。



遊びを始めて2時間ほど経った。10分間の鬼ごっこを10分間休憩を挟みながら6回ほどやった。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、なんで、捕まら、ないのよ、はぁ」

「さすが、アルトだね」

「魔法を殴って相殺するって・・・おかしいですよ」

「・・・・・・・・・」

ペルシア達は地面に寝転がって息を荒くしている。
エミリア様は黙って息を整えている。

「汗かいたわ。お風呂に入りましょう」

「賛成です。髪の毛がベトベトです」

エミリア様も賛成なのかコクリと無言で頷いた。

「僕も入りたい。服が肌に張り付いて気持ち悪いや」

そう言ってハドラーも立ち上がる。
俺達はそれぞれ別れて風呂場に向かった。



〜〜〜お風呂にて〜〜〜


「なぁ、ハドラー。」

「何?」

俺は湯船に浸かりながらハドラーに言った。

「俺さ、旅に出ようかと思う」

「ふーん・・・・・・へ?え?!」

俺の突然の告白に驚くハドラー。

「どういうこと?!いつから!」

「まあまあ、落ち着けって」

俺は驚いているハドラーを落ち着かせて話を戻す。

「俺が旅に出ようと思った理由は幾つかある。聞くか?」

「もちろんだよ。どうして?」

「1つ目はこの前、犯罪者達の脱獄事件があったよな?」

「うん。アルトが活躍したやつでしょ?」

「あれの犯人はまだ捕まってない。けど、半分もないが、俺のせいでそうなったってこともあるんだと思うんだ。」

「どうして?アルトには全く関係ないじゃん。逆にアルトは鎮圧してくれた英雄でしょ?」

「英雄は言い過ぎだよ。けど、その理由としては俺が神の使徒だってことは知ってるよな?」

「うん。前に聞いた」

「俺にはいくつか称号があるんだが、その中に困難に立ち向かう者っていう称号があるんだ」

「凄いね。アルトのことを指してるようなものじゃん」

「だろ?それで、その称号には珍しいことに称号効果ってやつが着いてるんだ」

称号効果というのは数多くある称号の中でも特殊な称号にのみ発動する効果のことである。

「それでその効果ってのが、『称号の保持者には度重なる困難が訪れる。それを乗り越える事に力は強くなっていく』っていう効果なんだ」

「それは・・・凄いね」

「だろ?けどもう分かっただろ?この称号のせいで俺だけじゃない。俺の周りまで影響が出ちまう。」

「だから、国を離れて旅をするの?」

「それもある。けど、そんなのは嫌だ。それって所謂運命ってやつだろ?その運命のせいで大切な人達と一緒にいられないのは嫌なんだ。けど、俺のせいでその人達を失うのも嫌なんだ。」

「アルト・・・・・・」

「だから、強くなる。どんな敵でも簡単に倒せるくらいに強くなって戻ってくる。たとえそれが魔王であろうと、魔物であろうと、犯罪者であろうと、神の使徒であろうと、神であろうとだ。俺は決めたんだ。全てを守ろうとしても、守ることは出来ない。必ず犠牲は出てしまう。今の俺の手じゃ足りない。だから、俺がもっと強くなれば助けられるはずなんだ。」

「けどそれはアルトがやらなくたって・・・」

「ダメだ。俺じゃなくちゃダメなんだ、力を持つものはそれを行使し、責任を果たす義務がある。俺は力あるものとし、その責任を果たさなくちゃならない。そのためにはまだ力が足りない。」

「アルト・・・」

「なんか辛気臭くなっちゃったな。まあ、本当の目的は他にあるんだ。そろそろ魔力を使えるようになりたくてな。さすがに魔力無しの生活は厳しいもんがあるみたいでな。だから、俺の魔力回路を治しに行く旅でもあるんだ」

「そっか・・・ペルシア達には言うのかい?」

「いや、言うつもりはねぇよ。ハドルフさんには多少の資金を出してもらいたいから言うけどな。今この話を知ってるのは俺の契約精霊と、お前だけだ」

「どうして僕に?」

「さぁ?なんでだろうな。けど言っておいた方がいい気がしたんだ。俺はお前を信じてる。お前は絶対に強くなれる。ペルシア達を頼んだぜ。もちろんアシュレイもな」

俺は湯船から立ち上がり脱衣所に戻る。
途中ハドラーは聞いてきた。

「姉様には言わないの?」

「・・・言ったら着いてきちゃうだろ?どれくらいになるかわからねぇ旅だ。もしかしたら何年もかかるかもしれない。王女様がそんなに長い間国を留守にしてちゃダメだろ?それにまだ学生なんだ。学生の本分は勉強と遊びだぜ?」

「そう・・・だね。」

「誰にも言うなよ?こっそり出てくつもりだし。」

「わかった。言わないよ。だから、必ず約束してくれ、絶対に戻ってくるって」

「おう。絶対だ。なぁに、そんな時間はかかんねぇよ。戻ってくる時は今よりずっと強くなってきてるさ」

「楽しみにしてるよ。あ、けど旅先で女の人作っちゃダメだよ?姉様が悲しんじゃうから」

「分かってるよ。そんなつもりはねぇよ」

「ならいいさ」

俺達は笑いながら脱衣所を出た。




「ーー大丈夫だ。絶対に戻ってくるさ。親友・・・・・・」

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