漆黒王の英雄譚

黒鉄やまと

第39話 奴隷商

俺は今とある場所に来ている。
一緒にいるのはリリスとウェンティスとリヒトだ。他のメンバーは俺に任せると言って屋敷でグータラしている。

そして今俺がいるのは奴隷を売っている商会。つまり奴隷商人の元を訪れているのだ。

リリスから出た案というのは奴隷を購入するというものだった。
奴隷ならば一部の奴隷以外は金を定期的に払う必要も無いし、裏切ることは出来ないので良いのではないか、ということだった。

「それでここが奴隷商?」

「はい。前に冒険者の先輩に教えて貰って、ここは奴隷の管理の質も高いし、信用出来る奴隷商人らしいんです。」

「ふーん。ガルテン商会ね。」

外装もしっかりと掃除されていて綺麗に整っている。

「てっきり奴隷を扱うから酷いところだと思ってたよ」

「そうですね。違法奴隷などを扱っている奴隷商なんかはあんまり良くないところが多いみたいですね。」

俺達はリヒトを主体にリリスとウェンティスがそのメイドのようにして入っていく。
俺は神眼の能力の1つ幻想眼で姿を見えなくして潜り込む。

え?なんでそんなことをしているのかって?

大抵のラノベでも幼い子供が奴隷商に行ったところで馬鹿にするなと追い返されてしまうだけだし、リリスが信用出来ると言ってもリリスに教えた人がどうかは分からないから、あくまで今回はリヒトとそのメイド2人という名目で行き、俺は隠れた状態で潜り込む。
神眼の能力が鑑定以外にもあることを知ってから少し調べてみたところ、リヒト達から出てきた神眼の種類の中に幻想眼はあった。

幻想眼の効果は簡単で相手に夢や幻を見せることが出来るというものだ。ただし、使用者が解除しなければ解除できないという強力な力を持っている。発動には相手に1度触れなければならないが、覡神鳴流古歩術【隠し脚】を使えばなんの問題も無く触れることが出来る。

【隠し脚】とは覡神鳴流の武術の1つ古歩術の技のひとつだ。相手の視界の死角に身体を刷り込ませ相手に近づくのだ。他にも独特な足使いで相手を翻弄する【神楽】だったり、スピードの緩急を付けて相手に錯覚を起こさせる【ミズチ】という技もあったりする。

見事上手く潜り込めた俺は店員の接客の様子を見ながら他の店員に幻想眼を使ったりとしていた。

「今回はどのようなご用事で」

「何人か奴隷を買いたくてな。」

「かしこまりました。それではご要望を聞いてもよろしいですか?」

「まず条件として掃除洗濯などの家事ができる奴隷を5人と戦闘ができる奴隷を2人欲しい」

おお、なかなかいい威厳が出る主様をやっているではないか笑

「なるほど。かしこまりました。まずはお部屋にご案内致します。そちらにこちらで選んだ奴隷を連れて行きましょうか?」

「いや、他にも気に入る者がいるかもしれないからな。見学も兼ねて見回ってみたい」

「かしこまりました。それではご案内させていただきます」


どうやらちゃんとした奴隷商のようだ。掃除も隅から隅まで行き渡っていて、接客の仕方もこっちの機嫌を損なわない。

たまにいるんだよね。上から目線で態度悪い奴。


その後案内された部屋で詳しいことを聞かれそれに言っておいた通り答えるリヒト。

「かしこまりました。それでは何人か候補がありますので、ご案内させて頂きたいのですが、よろしいですか?」

「わかった。」

部屋を出ると商店の奥に連れていかれ、着いた扉を開けると中には檻に入った奴隷達がいる。


「ここは主に人族の借金奴隷が多いです。村の飢饉や借金を我が商会で肩代わりする代わりにここで借金奴隷として働くのです。借金奴隷ですと定期的な料金の振込が必要になりますのでお客様の御要望にはあまり答えられそうにないものばかりです。」

檻に入った奴隷達はある程度の食事や風呂にちゃんと入れられているのか綺麗な状態の者が多かった。

リヒトがアルトの考えに気がついたのか案内している店員に尋ねる。

「随分と綺麗な状態ですね。てっきり環境が良くない場所かと思ってました」

「まあ、あまり良くない奴隷商だと管理を怠っているところが多いですが、我が商会はそんなことはしません。まず見栄えが良くなければ売れるはずがないのでそこはちゃんとしているのですよ。」

「なるほど。」

なるほど。確かに汚くてボロッボロの奴隷なんて買う気には余りならないからな。

「気になった奴隷はおりましたか?」

俺はリヒトと念話で話す

通常の念話では魔力を使用するのだが、契約した精霊とは無条件で念話ができる。
これは話すことの出来る精霊と契約した者の特権だな。

『どうでしたか?』

『ステータスは中々の人がいたけどそこまでじゃなかった。他にも部屋があるから見せてもらおう』

『分かりました』

「他にも見てみたいので次に案内してもらってもいいですか?」

「分かりました」

1度入ってきた扉を出て次は別の扉に向かう。

「次の場所は獣人やエルフなどの人族以外の他種族の奴隷がいる場所です。もちろん犯罪奴隷はいません。借金奴隷と完全に自分を売ったり、養えなくなった家族に売られたりしたもの達が多いですね」

「なるほど。」

「次の部屋にはお客様がご提示された条件に合う奴隷が2人ほどおります」

「他種族ということでしたが、その2人はなんの種族なんですか?」

「1人目は猫人族の女性の奴隷で、潰れてしまった商会の娘だったので、文字の読み書き、簡単な計算などが出来るのと礼儀作法も出来るのでメイド向けだと思います。」

なるほど。確かにそれならメイドにピッタリだな。

「2人目はドワーフの女性の奴隷で、こちらはドワーフの国の元貴族でしたが家が落ちぶれ奴隷落ちしてしまったのです。元々貴族だったためある程度の礼儀作法も出来ますし、もちろんのこと文字の読み書きなども出来ます」

どっちもメイド向けだな。

案内された部屋に入り、店員のあとに従って二人の奴隷の元へ向かう。

俺はステータスを見たあと、特に問題は無かったのでリヒトに許可を出し、二人の奴隷を購入することに決めた。

「ありがとうございます。後ほど風呂に入らせ、新しい服を着せて契約の際に連れて参ります」

「よろしく頼む。それでは次の・・・・・・」

場所にお願いします。とリヒトが言いかけたところで言葉を止めた。

「どうかなさいましたか?」

リヒトは端の方にある扉をじっと見つめている。

「あそこの中には何が?」

「ああ、あそこにはあまりオススメは出来ませんよ。犯罪奴隷以外の呪い持ち、病気持ち、肉体の欠損などを抱えてしまっていたり、精神崩壊を起こしてしまっている奴隷達がいます。できるだけ治療などをして上げたいのですが、呪いは教会に頼むと高くつきますし、病気持ちは不治の病と言われているものも多く、欠損に至っては回復魔法で回復できないレベルの怪我が多いのです。それよりも次の場所に向かいましょう」

「いや、あそこの中を見せて欲しい。」

「しかし・・・」

「ダメか?」

リヒトの願う姿勢に店員は折れた。

「分かりました。その代わり病気などを貰っても私達は保証致しません」

「わかった」

突然の行動にアルトは驚きながら念話を繋げる。

『どうしたんだ?』

『申し訳ございません。ただ少し気になる気配というか、なんというか・・・とても弱っているのですが、アルト様と似たような感覚がある気がしたのです』

『俺と似た?』

よく分からないが俺はついて行くことにした。

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