世界に復讐を誓った少年

やま

103.後処理……そして

「くははっ、やはり、聖都全体を見渡せる聖宮のテラスは良い。大陸一の国の都を見渡していると、まるで世界を見渡しているようだ。そうだろ、お前たち?」


 肥え太った豚の言葉に頷く女ども。あーあ、可哀想に。こんな豚の相手をしねえといけねえなんてよ。今も、豚に胸を触られて頰を引きつらせていたし。これで、反抗でもすれば、女だけでなく、その身内全員が死ぬ事になる。この豚はそれが出来る権力を持っている。


「くくっ、ここにフィストリア殿もいれば尚良かったのだがな」


 そう言い酒を飲む豚。ここに女神が来るわけねえだろうが。馬鹿か、この豚は。はぁ、なんでこんな奴の護衛を俺がしないといけねえんだか。メルト姉も嫌な仕事を押し付けて来るもんだ。


 これも十二聖天の仕事だ、と言いながら俺に押し付けやがって。早く帰りたいと思いながら町を眺めていると、何処からここに飛んでくる魔力を感じた。それも、途轍もなく巨大な。ふと空を見上げると、そこには巨大な黒い球体が、聖都を覆っていた。


 あまりの大きさに太陽は隠れ、聖都に影を落とす。そして、その黒い球体は聖都を覆う結界とぶつかった。その衝撃が聖都に降り注ぐ。


「なな、何だあれは!?」


 空から降り注ぐ圧にようやく気が付いた豚は、周りの女どもを突き飛ばし慌てふためく。少しは落ち着きやがれ。それでも聖王かよ。


 表向きは女神がこの聖都を守るために張ったと言われている結界、本当は罪人どもを使って無理矢理張っている結界は、既に悲鳴をあげていた。


「はぁ、面倒だな」


 今回の当番は俺だから他の奴らは出て来ねえだろう。メルト姉も今は聖都にいねえし。俺の首輪が光ると同時に、体が動く。奴隷紋の施された首輪が聖都を守るように強制的に体を動かそうとする。


 わかってるからやめろ。俺が聖都を守るために魔力を練り上げると、首輪からの強制力は無くなった。


「本当はこんな聖都守りたくはねえが、命令なら仕方ねえ」


 俺は両手に魔力を流すと、両腕が燃え上がる。腕から体体から全身へと行き渡った炎は、俺の体を覆い尽くす。そして、右手には一振りの剣を握る。


「貫け、炎轟魔術、神滅ノ炎魔剣レーヴァテイン!」


 天目掛けて放った突きは、一筋の火柱となって黒い球体目掛けて伸びていく。結界を破った球体へと突き刺さり、中から全てを焼き払う。黒い球体は消え去り、空には燃えかすだけが飛び散る。


 ったく、こんなことする奴はだれだよ。魔国の奴らじゃねえよな? それか、最近女神が騒いでいる俺と同じ魔術師か? わからねえが……退屈しなさそうですむぜ。


 ◇◇◇


「おー、本当に便利だな、スケルトンって」


「スケルトンノ中デモ、建設関係ノ仕事ニ従事シテイタ者ヲ選ビマシタカラナ。ソレラガ休ム必要無ク働クノデスカラ、コレクライハ当然デス」


 僕の目の前には、5日前には半壊していた皇城が、元どおりになっている光景が映っていた。


 まあ、材料はそこら辺の瓦礫を魔法で弄って使って、2千もの眠らず疲れない作業員が昼夜問わずに直せば、直るのだろう。死霊を操る事が出来るネロがいるお陰だね。


「ソレデ、創造主様ノ方ハ?」


「ん? ああ、今回の内乱で漁夫の利を得ようとした隣国は全て追い返したよ。途中で天使から逃げた癖に、戦いが終われば協力したから領地を寄越せなんてね。だから、この戦争で手に入れた天使たちの死体から作った新たな部隊を各国に送った。そうすると、どの国も帝国に服従してくれたよ。エリーゼもこれで統治し易くなるだろうね」


「ソノ天使タチハドウスルノデ?」


「天使たちは監視を含めて帝国に置いていくよ。僕が持って行った後に、周りが騒ぎ始めても面倒だし。エリーゼの指示を従うようにね」


 僕の言葉に頷くネロ。帝都は天使の出した被害以外は特に問題は無かった。僕たちが直した皇城ぐらいか。それも、落ち着いたし。


 皇子を排斥しエリーゼが女帝として君臨する事になっても反対する者はいなかった。まあ、味方だった者たちは後ろに僕がいるのをしっているし、敵だった者たちの大半は死んでいるしね。


 四獣家も、唯一宝が残っている青龍家のみ残した。後の宝は皇子と一緒に消滅してしまったし。スザクとかは歯向かってきたけど、宝の持たない彼らはそこら辺の兵士と変わらなかったため、殺してしまった。


 唯一、玄武家の女当主だけは青龍家の配下になるのを納得したが。彼女は第2皇子の側にいれたらいいんだとか。側に見張り役として悪魔の影ドッペルゲンガーを置いているから、万が一謀反を考えてもいつでも殺せるから認めてあげた。まあ、今のところ、本当に第2皇子の側にいるだけなんだけど。


 後は中立派を宣言していた貴族や隣国をどうにかしないといけないのだが、それは僕の出る幕じゃないだろう。エリーゼがなんとかするはずだ。戦いとなれば、貸している天使をいいわけだし。まあ、あの天使を見れば貴族や隣国程度なら戦意も湧かないだろうけど。


「コレデ次ハイヨイヨ?」


 帝国の事やらを色々と考えていると、ネロが尋ねてきた。僕はネロの言葉に笑みを浮かべながら頷く。そう、いよいよ僕の目的の1つを行う事が出来るのだ。


 ここまで来るのに1年近くはかかってしまったが、ついにだ。ついに帰る事が出来る。奴らの顔を思い出すと憎悪と共に笑みも浮かんでしまう。


「ああ、あと少し帝国が落ち着いたら向かうよ。僕の故郷にね」


 母さんの墓標を立てて上げないと。奴らの血に染まった大きな墓標をね。

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