世界に復讐を誓った少年
89.乗っ取られた天使
「……な……ミレー……ヌ?」
「何を不思議そうな顔をしているのですか、ハルト様? 私があなたを恨んで無いとでもお思いだったのですか?」
「がっ!」
ミレーヌはそう言うと、ナイフを抜くと同時に、僕を思いっきり蹴り飛ばした。僕は部屋の棚へとぶつかり、その場に座り込んだ。
顔を上げると、ゆらりと近くミレーヌ。そのまま僕の上に乗り、ナイフを何度も何度も振り下ろして来る。
「ふふっ、ふふふふっ!! 死ね死ね死ね! あなたなんか死んじゃえ! 私の敵になるあなたはこの世に必要ないの! だから死ね!」
◇◇◇
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ、ふふっ、これでようやく面倒な男を殺せたわ。それにしても、この女。この私を手間取らせるなんて」
私は赤く血に染まった暗黒魔術師、ハルトから退く。何度もナイフで刺したせいで顔もズタズタで原型を留めていない。私もこの汚い男の血で汚れてしまったけど、必要な事だと思って我慢しましょう。
でも、ハルトが帰って来る前に間に合って良かったわ。まさか、あそこまで抵抗されるなんて。普通の女だとあの快楽には敵わないのに。
でも、その代わりに良い素材が手に入ったわ。私の力で天使にしたこの体は、他の天使たちより強力だわ。天使長には劣るけど、それでも強い。
「ふふっ、これは良い拾い物をしたわ。それに忌々しい男も殺せたし。今日は良い日ね……あら?」
私が喜んでいると、右頬が濡れているのに気が付く。これは……涙? 私が泣いているわけじゃないのに、右目からは涙が止まらない。
まさか、まだ落ち切っていないのね。本当にしぶといわね。耳を澄ませば、中で叫んでいるのがわかるわ。ふん、こんな男のどこが良いのかしら。
まあ、どうでも良いわね。後は確実に死んでもらうために首でも切り落としましょうか。それでこの女が住む部屋にでも飾っておけば、嫌でも死んだ事を認めるでしょうしね。
私は再びハルトの上に乗る。ああ、どうしてこんな面倒な事を私がしなきゃいけないのかしらね。いつもなら天使たちにさせるのに。連れて来ればよかったかしら?
でもまあ、この男とダルクスは自分の手で殺すって決めていたし。ある程度諦めるしかないわね。側に置いたナイフを取って、首を切りやすいようにハルトの顔を上げる。私は切る首元を見ようとハルトの顔を見ると
「えっ?」
思わず驚きの声を上げてしまった。だってさっきまではハルトの顔があったのに、今はのっぺらとしていて目も鼻も当然口も無いのだから。
私は慌てて離れようとした時、ハルトだった体から飛び出す腕。腕は真っ直ぐと私の喉元へと伸びてきて、私を掴んだ。そして力一杯放り投げられ壁へと激突する。
私は背中を強く打ち咳き込みながらも顔を上げると、そこには、刺し殺したはずのハルトが現れたのだった。
◇◇◇
「ったく、こんなにグサグサと刺しやがって。危ないじゃないか、フィストリア。悪魔の影じゃなかったら大怪我だったよ」
さっきまで僕と同じ格好をしていた悪魔の影はグニャグニャと形を変えながら僕の影に戻って行く。その光景を信じられないような表情でこちらを見て来るフィストリア。
顔はミレーヌなのだけど、あの愛らしさや気品も何も無い。中身が違うだけで印象も全然違うね。ただの醜い女にしか見えない。
「いつの間に入れ替わって……いや、いつから気が付いていたの?」
「いつからって? そんなの当然初めからだよ」
「なっ!?」
くははっ! 良い表情だよ、フィストリア。君のそういう顔が見たかったんだ。
「まず、ミレーヌは僕が他に女を抱いたところであそこまで嫉妬はしない。彼女には他にも女を抱く事があるのは伝えているからね。ずるいとかいう話はするかもしれないけど、あんなに怒ったりはしない。
それから、会議中に驚き過ぎ。あんなのバレるに決まってるじゃ無いか。
そして何より……僕がミレーヌが変わっている事に気が付かないとでも思った? フィストリアの気持ち悪い魔力に気配。それだけでも十分だけど、毎日ずっといたミレーヌの違いには直ぐに気がつくよ。僕を舐め過ぎだ、駄女神」
僕はそう言いながら、フィストリアの周りに短剣を準備する。何か変な動きをすれば放てるように。ミレーヌの体はあまり傷付けたくはないけど、フィストリアに深傷を負わせるためだ。後で謝ろう。そのためにもあの体を取り返さなければ。
「……あーあ、せっかく力を使って天使も作ってあなたを殺そうと思ったのに。はぁ、面倒ねぇ」
フィストリアは怠そうに立ち上がりながらそう言ってくる。そして溜息を吐くと、一気に膨れ上がる魔力。これはミレーヌのものではないな。
膨れ上がった魔力と同時にミレーヌの背からパサッと生える純白の翼。僕がその姿を見て1番に思ったのが……気持ち悪い、だった。ただでさえ気持ちの悪い女神の力が、今はミレーヌの体の中を巡っているんだ。僕の物を汚しやがって。
「腹が立って早くあなたを殺したいけど、この体じゃあ無理ね。悪いけど、ここは引かせてもらうわね」
フィストリアは体に魔力を纏うと翼を広げてはためかせ、天井を突き破って飛び出した。逃すか!
僕は空いた穴を抜けて地上へ出る。フィストリアは余裕がに空を飛ぼうとするが
「きゃっ! 何!?」
バチっと音がすると同時に弾かれたように後退するフィストリア。フィストリアの視線の先には薄紫色をした結界が張られていた。
この結界はネロに頼んで作ってもらった結界で、発動中は誰も外からも中からも入ったり出たりする事が出来なくなるというデメリットはあるが、強度が高い結界になる。それにフィストリアは弾かれたのだ。そして
「一剣・疾風ノ大剣」
フィストリアが出て来るのを待っていたリーシャが、フィストリアへと切りかかる。フィストリアは自身の周りに障壁を張り攻撃を防ぎ、更には弾いた。フィストリアから距離を取るリーシャ。更にそこに
「燃やして、サラマンダー!」
火柱が立ち込める。同じように障壁で防がれたが、その場にフィストリアを止める事が出来た。技を放ったティエラの側にはマルスが守るように立つ。
「悪いがフィストリア。ミレーヌは僕の大切なものなんだよ。その体は返してもらうぞ」
ミレーヌの体を使ったフィストリアは絶対に許さないけど。彼女の体を使って楽しんで良いのは僕だけだ。
「何を不思議そうな顔をしているのですか、ハルト様? 私があなたを恨んで無いとでもお思いだったのですか?」
「がっ!」
ミレーヌはそう言うと、ナイフを抜くと同時に、僕を思いっきり蹴り飛ばした。僕は部屋の棚へとぶつかり、その場に座り込んだ。
顔を上げると、ゆらりと近くミレーヌ。そのまま僕の上に乗り、ナイフを何度も何度も振り下ろして来る。
「ふふっ、ふふふふっ!! 死ね死ね死ね! あなたなんか死んじゃえ! 私の敵になるあなたはこの世に必要ないの! だから死ね!」
◇◇◇
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ、ふふっ、これでようやく面倒な男を殺せたわ。それにしても、この女。この私を手間取らせるなんて」
私は赤く血に染まった暗黒魔術師、ハルトから退く。何度もナイフで刺したせいで顔もズタズタで原型を留めていない。私もこの汚い男の血で汚れてしまったけど、必要な事だと思って我慢しましょう。
でも、ハルトが帰って来る前に間に合って良かったわ。まさか、あそこまで抵抗されるなんて。普通の女だとあの快楽には敵わないのに。
でも、その代わりに良い素材が手に入ったわ。私の力で天使にしたこの体は、他の天使たちより強力だわ。天使長には劣るけど、それでも強い。
「ふふっ、これは良い拾い物をしたわ。それに忌々しい男も殺せたし。今日は良い日ね……あら?」
私が喜んでいると、右頬が濡れているのに気が付く。これは……涙? 私が泣いているわけじゃないのに、右目からは涙が止まらない。
まさか、まだ落ち切っていないのね。本当にしぶといわね。耳を澄ませば、中で叫んでいるのがわかるわ。ふん、こんな男のどこが良いのかしら。
まあ、どうでも良いわね。後は確実に死んでもらうために首でも切り落としましょうか。それでこの女が住む部屋にでも飾っておけば、嫌でも死んだ事を認めるでしょうしね。
私は再びハルトの上に乗る。ああ、どうしてこんな面倒な事を私がしなきゃいけないのかしらね。いつもなら天使たちにさせるのに。連れて来ればよかったかしら?
でもまあ、この男とダルクスは自分の手で殺すって決めていたし。ある程度諦めるしかないわね。側に置いたナイフを取って、首を切りやすいようにハルトの顔を上げる。私は切る首元を見ようとハルトの顔を見ると
「えっ?」
思わず驚きの声を上げてしまった。だってさっきまではハルトの顔があったのに、今はのっぺらとしていて目も鼻も当然口も無いのだから。
私は慌てて離れようとした時、ハルトだった体から飛び出す腕。腕は真っ直ぐと私の喉元へと伸びてきて、私を掴んだ。そして力一杯放り投げられ壁へと激突する。
私は背中を強く打ち咳き込みながらも顔を上げると、そこには、刺し殺したはずのハルトが現れたのだった。
◇◇◇
「ったく、こんなにグサグサと刺しやがって。危ないじゃないか、フィストリア。悪魔の影じゃなかったら大怪我だったよ」
さっきまで僕と同じ格好をしていた悪魔の影はグニャグニャと形を変えながら僕の影に戻って行く。その光景を信じられないような表情でこちらを見て来るフィストリア。
顔はミレーヌなのだけど、あの愛らしさや気品も何も無い。中身が違うだけで印象も全然違うね。ただの醜い女にしか見えない。
「いつの間に入れ替わって……いや、いつから気が付いていたの?」
「いつからって? そんなの当然初めからだよ」
「なっ!?」
くははっ! 良い表情だよ、フィストリア。君のそういう顔が見たかったんだ。
「まず、ミレーヌは僕が他に女を抱いたところであそこまで嫉妬はしない。彼女には他にも女を抱く事があるのは伝えているからね。ずるいとかいう話はするかもしれないけど、あんなに怒ったりはしない。
それから、会議中に驚き過ぎ。あんなのバレるに決まってるじゃ無いか。
そして何より……僕がミレーヌが変わっている事に気が付かないとでも思った? フィストリアの気持ち悪い魔力に気配。それだけでも十分だけど、毎日ずっといたミレーヌの違いには直ぐに気がつくよ。僕を舐め過ぎだ、駄女神」
僕はそう言いながら、フィストリアの周りに短剣を準備する。何か変な動きをすれば放てるように。ミレーヌの体はあまり傷付けたくはないけど、フィストリアに深傷を負わせるためだ。後で謝ろう。そのためにもあの体を取り返さなければ。
「……あーあ、せっかく力を使って天使も作ってあなたを殺そうと思ったのに。はぁ、面倒ねぇ」
フィストリアは怠そうに立ち上がりながらそう言ってくる。そして溜息を吐くと、一気に膨れ上がる魔力。これはミレーヌのものではないな。
膨れ上がった魔力と同時にミレーヌの背からパサッと生える純白の翼。僕がその姿を見て1番に思ったのが……気持ち悪い、だった。ただでさえ気持ちの悪い女神の力が、今はミレーヌの体の中を巡っているんだ。僕の物を汚しやがって。
「腹が立って早くあなたを殺したいけど、この体じゃあ無理ね。悪いけど、ここは引かせてもらうわね」
フィストリアは体に魔力を纏うと翼を広げてはためかせ、天井を突き破って飛び出した。逃すか!
僕は空いた穴を抜けて地上へ出る。フィストリアは余裕がに空を飛ぼうとするが
「きゃっ! 何!?」
バチっと音がすると同時に弾かれたように後退するフィストリア。フィストリアの視線の先には薄紫色をした結界が張られていた。
この結界はネロに頼んで作ってもらった結界で、発動中は誰も外からも中からも入ったり出たりする事が出来なくなるというデメリットはあるが、強度が高い結界になる。それにフィストリアは弾かれたのだ。そして
「一剣・疾風ノ大剣」
フィストリアが出て来るのを待っていたリーシャが、フィストリアへと切りかかる。フィストリアは自身の周りに障壁を張り攻撃を防ぎ、更には弾いた。フィストリアから距離を取るリーシャ。更にそこに
「燃やして、サラマンダー!」
火柱が立ち込める。同じように障壁で防がれたが、その場にフィストリアを止める事が出来た。技を放ったティエラの側にはマルスが守るように立つ。
「悪いがフィストリア。ミレーヌは僕の大切なものなんだよ。その体は返してもらうぞ」
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