世界に復讐を誓った少年

やま

67.新たな配下

「帰ったぞ、マスター」


「ワフゥ!」


 僕が1人で大神木を眺めていると、ロウの背に乗ったリーシャが帰って来た。ロウというのは元は神獣だったフェンリルで、僕の配下にして名前を付けた。今は犬っころみたいに懐いてくる。現に、今も花を擦り付けて甘えて来た。僕はロウの頭を撫でながらリーシャを見ると


「うむ、マスターの想像通り上手くいったぞ。上手く行きすぎて少し怖かったくらいだ」


 腕を組んで眉間にしわを寄せて、難しい顔をするリーシャ。そんなに上手くいったのか。ほんの種を仕込んだだけなんだけどな。


 僕がやったのは前の帝国との戦いの時に、中々の腕を持っていた女弓兵に付く剣士に呪いをかけたのだ。時間が経つにつれて黒い痣が広がり、全身に広がると死に至るという呪いを。


 女弓兵は何万という隊を率いていた。ここにくる途中で帝国軍が数万単位の軍に分かれて攻めているのは聞いていたので、少し考えていたのだ。


 元々は夜暗くなった頃に、奴らが滞在している街の中に死霊たちを解き放って襲わせるつもりだった。


 そして、その中で呪いを受けた女弓兵の部下だけが、死霊たちから襲われない光景を見せれば、奴らは疑心暗鬼になるだろうと。もしかしたら誰かが手引きしたのではないかと。


 だけど、今回は何とか神獣を配下にする事が出来た。かなりの強さを持ち、リーシャでも辛い相手だ。そんなものが街を攻めれば当然釘付けになるし、そんな相手が何故か手を出さずに帰った。目の前まで現れたのにも関わらず、と思わせれば、自然と疑われるのは目に見えている。


 それをこれから1人2人と増やしていけば、勝手に奴らは割れるだろう。まあ、今回はそれをする前に、女弓兵の部下が疑われて捕らえられたようだけど。


「元々、関係が悪かったのだろう。軍に限らずだけど、男である自分より力、権力が上の女を妬む男は多い。リーシャもそれが原因で死んだのだからわかるだろ?」


「むっ、それはそうだな。しかし、そうなのなら帝国にイライラして来たぞ! マスター! もう一回攻めてもいいか!?」


「ガウッ!」


 僕の話を聞いて、1人でやる気を出してしまったリーシャ。それにつられてロウを目をキラキラとさせて僕を見てくる。どれだけ暴れたいんだよ。


「まあ待て。僕の準備もそろそろ終わる」


 そう言って最後の仕上げをする。僕の右手には黒い魔力の紐が握られていて、その先は大神木へ巻き付いている。そして左手は地面に手をついており、地面へと魔力を流している。


 しかし、流しているのはただの魔力ではなく、大神木の中に流れる力を混ぜた特製の魔力だ。


 この大神木は女神が創ったものではなく、その前の男神が創ったもののようだ。これは長い年月を生きるエルフ族に聞いた。まだ、女神が崇められる前からこの木はあったようだ。


 そのせいなのかわからないけど、この大神木の力をほんの少しだけにはなるけど、体内に取り込む事が出来た。僕の体が耐えられるほんの少しだけ。


 それだけでも、かなりの力があるのはわかったため、それで配下を作ったら強いのが出来るのでは? と思い作ってみたのだが、それは失敗してしまった。


 大神木の力だけで作ったのが失敗だったようで、蘇らせたものは僕の制御下から離れて暴れたのだ。勿論僕にも襲いかかって来た。


 そいつを倒してから、試行錯誤して出来た方法が、大神木の力に僕の魔力を混ぜたもので作る方法だった。この方法なら、大神木だけの力よりは劣るが、それでも、かなりの強さを持つ死霊を作る事が出来た。


 それを今度はかなりの数を作るつもりだ。それが今僕のやっているやつ。魔力を流し始めてから結構な時間が経って、地面にかなり大きな魔法陣が完成する。


 今回は死体を使うのではなく、魂を使う。リーシャやクロノを呼ぶ時は2人だけで魔力が限界だったか、今は大神木の力がある。かなりの人数を呼べるだろう。


 黒色の魔法陣が光り輝くと、次々と姿を現わす。亜人国にいるせいか、僕の呼び掛けに反応したのは亜人ばかりだった。


「あなたが我らの主ですか?」


「へぇ、強そうじゃねえか! 俺と勝負しようぜ、旦那!」


 何百と召喚した内、意思がある2人が話しかけて来た。1人は金の長髪に、長い耳の男のエルフで、もう1人はエルフのように長い髪だけど、癖があるのかあちこちに跳ねている赤髪をしており、どうしても目がいってしまう大きな胸をサラシを巻いているだけという格好をしている。


 その他に頭から一本の角が生えて、腰からは硬そうな鱗に覆われた尻尾が生えていた。彼女はドラゴニュート族の女のようだ、


「私の名前はエルフィオン・メルキューア。まだ、英雄神ナルガミ様の時代に生きたエルフです」


「俺はレルシェンド・ドラギオン。死ぬ前は鮮血竜とか言われたぜ!」

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