世界に復讐を誓った少年
51.剣の向く先
「……私はどうすれば」
私は当てもなく街の中を歩く。護衛など誰も付けずにただ1人で。城にいても何も案が思いつかずに気分を変えようと思って外に出たが、あまり変わらない。それどころか、余計にいらない事を考えてしまう。
今の私の主人であるハルトから例の提案をされてから今日で3日が経った。当然答えなんて出ていない。
どうすればこの国のために良いのか……か。私はその事をずっと考えていた。はっきり言ってハルトは悪だ。これは紛れもなく断言出来る。そもそも、ハルトがこの国を攻めて来なければこんな事にはならなかったのだから。
だけど、言いたくは無いけどハルトたちがやって来てこの国の中が良くなった部分もある。それは、近くの町から犯罪者が消えていった事だ。
理由はわかっている。ハルトたちが死霊系の兵を集めるのに殺して行っているのだ。どのような基準でどのくらい殺しているかはわからないが、そのおかげでかなり治安が良くなっているとの報告もある。
そのせいで、余計にわからなくなった。現に大臣たちの中では必要悪として、手を取っていこうという者まで出てきている。
私はため息を吐きながらも歩いていると、気が付けば王都の中心広場まで来ていたようだ。王城ではあんな事があったが、街の中は平穏そのものだ。
ハルトが言っていた通り私の願いを守ってくれているのだろう。その事が胸をほんの少し熱くする。彼の配下でいる限りは約束を守ってくれる。
「ねこちゃん! 降りて来て! そんなところ危ないよ!」
「馬鹿、大きい声を出すなよ! 猫がびっくりして逃げるだろ」
「お兄ちゃんも大きい声出してるよ。でも、降りて来ないなぁ」
1人でぼんやりと考えていると、そんな声が聞こえて来た。声の方を見ると、広場に植えられている木々の1つに子供たちが集まっていた。
子供たちの視線の先には木の枝の上に乗る猫がいた。高さは3メートル近く上で、どうやら自分で登ってから降りられなくなった子猫のようだ。怖いのかか細くにゃ〜と鳴いている。
子供たちは色々と考えて子猫を降ろそうとしているが、上手くいかないのかみんなで話し合っている。微笑ましい光景だ。私はそんな子供たちの元へと近寄る。
「私が助けてやろう」
「ほんとっ!?」
「えー、姉ちゃんには無理だろ〜?」
私の言葉にそれぞれ反応する子供たち。ふふ、この程度の高さなら造作もないぞ。私は軽くその場で何度か跳ねて、一気に跳ぶ。木を何度か蹴って駆け上がると、目の前には私を見る子猫の姿が。
傷付けないように優しく両手で抱き抱えて、そのまま地面へと落ちる。腕の中で子猫が悲壮な叫びを上げているが少し我慢してくれ。ストンと地面に着地すると、子供たちが集まって来る。
「ほら」
「うわぁ〜、ありがとう、お姉ちゃん!」
うんうん、やっぱり子供たちの笑顔は良いものだ。この子たちの笑顔を守るためならなんでも出来る。
手を振りながら去っていく子供たちを見ていると、少し落ち込んでいた気分も少し楽になった。
「一旦帰ろうか」
どうしたいかはまだ決まっていない。いないがどのような結果となっても考えるのは国民の事だ。
このまま、父上たちがハルトの事を排除しようとするのなら、ハルトも我慢はしないだろう。必ずこの国は消される。
そうならないようにハルトの言った通りにすれば、この国は残るけど、父上たちに私は剣を向かなければならない。それに、ハルトの目的にこの国は利用されるのは目に見えている。その結果この国が戦火に見舞われる事も……
何が良いのかわからないまま私は城へと戻ってきた。取り敢えず、今の父上たちの考えを聞こう。教会をどうするか話し合っていたはずだ。ぼんやりと考えながら歩いていたら、見慣れないものがいた。
「……なんでこんなところにペガサスが?」
「ぶるるぅ」
なんだよ、とでも言いたそうな顔で私を見て来る2頭のペガサス。私も絵師が描いたペガサスしか見た事がなかったが、翼を持った馬なんてそう見間違える事もないだろう。
この近辺では生息しない魔物だ。という事は誰かが乗って来たのだろう。しかし、ペガサスはかなり貴重な生物だ。このような魔物を足代わりにするなど……
私は急いで父上の元へと向かう。なんだか嫌な予感がする。いつも話し合いで使う会議室に行くと、丁度部屋から父上たちが出て来た。その後ろには、見た事のない男が2人いる。
1人は20代半ばぐらいの男でボサボサとした金髪をしており、全身黒く焼けた肌をしている。それにジャラジャラとネックレスや指輪をつけており、あまり好きにはなれない。
その隣には、年は40代ほどの男性が立っている。金髪を短く切り揃えており、身長が隣の男より頭一つ分ほど大きい。かなり筋骨隆々としている。
この2人が外にいたペガサスに乗って来たのだろう。明らかにこの辺りの人間ではない。それに、2人が着ている服。金色の十字架が背に刺繍された白い服。私も噂程度でしか聞いた事なかったが、彼らは……
「おお、フィア、帰って来たか!」
私の姿を見つけた父上が嬉しそうに声をかけて来た。その後ろにいる大臣やヘンリルたちもだ。
「……ただいま戻りました、父上。それでこの方たちは?」
「ああ、この方たちは大国、フィスランド聖王国から来られたかの有名な十二聖天のお2人だ。蟹座様、牡牛座様、この者は私の娘でアークフィアと申します。ほら、フィアも挨拶を!」
「……アークフィア・メストアです」
初めて見る十二聖天だが、見ただけでわかる。この者たちの実力が。この前のハルトの配下であるリーシャと呼ばれていた騎士と対峙した時に似ている。
「へぇ〜、こんな辺境なところにも綺麗な子いるじゃん! ねえ君、これから俺と遊ばねえか?」
そんな2人を見ていたら、若い方の男、蟹座と呼ばれた方が私の方に近寄りながらそんな事を言ってきた。そして、私の肩に腕を回してそのまま胸を……
「や、やめろ!」
触る前に払いのけてしまった。私は直ぐに蟹座から距離を取って警戒する。蟹座はボリボリと髪をかきながらはぁとため息を吐き私を見て来る。
「あーあ、振られちゃった」
「何を馬鹿な事をしている。さっさと目的を果たすぞ」
「へいへい」
男は更に声をかけようとして来たが、屈強な男、牡牛座と呼ばれた男が止めてくれた。
「喜べフィア。もうすぐお前も解放される」
「……それはどういう事ですか?」
我が物顔で城の中を歩く2人の後ろ姿を見ていると、突然そんな事を言ってくる父上。一体どういう事だ?
「彼らは『精霊魔術師』という職業を持った者を探しに来たようでね。その職業を持つ者といえば、あいつに渡した中にいただろう。それであいつの事も一緒に話したら、何とあのお二方があいつを排除してくれることになったのだ!」
嬉しそうにそう話す父上。という事は今は地下に向かっているのか。だけど、そう簡単にいう事を聞くのか?
「父上、それに条件などは無かったのですか? 彼らは無償でそれを受けて?」
「そんなわけないだろう。しかしこれは喜ばしい事だ。メストア王国は解体で、フィスランド聖王国の飛び地となる。ここはメストア伯爵領地となるのだ! あの大国の1部となる事が出来るのだ! 数千の奴隷と納税義務が発生するが、あの大国から守られるのなら安いものだろう!」
……どうしてそんな嬉しそうに話せるのだ? 私は何故か父上たちの事が恐ろしく見えて距離を取ってしまう。
別に私は王族に未練があるわけでは無い。無いが先祖代々受け継がれて来た国をどうしてそう簡単に……いや、それなら私も同じか。国のためと言いながらハルトに隷属されているのだから。
私は何もいう事が出来ずに父上たちの後ろをついて行くしかなかった。しばらく歩くと地下へ続く階段へと辿り着く。
十二聖天の2人は怯むことなく階段を降りて行く。いつもなら行くのを嫌がる父上ですら嬉しそうに降りて行った。
私は降りる度に重く感じる足を動かしながらも何故かこの前の言葉を思い出していた。
『取り返しのつかない事になった時に後悔しても遅いから』
という言葉を。何が正しいのかはわからない。私の行う行動は間違っているのかもしれない。けれど……
「ここか。これはまた広く作ったものだ」
「おっ、ガキ見つけ! 男だから死……うおっ!?」
気が付けば私は腰の剣を抜き蟹座へと切りかかっていた。後ろから狙ったにも関わらず、頭を下げる事で余裕で私の剣を交わす蟹座。私はそのまま走り狙われた男の子の前に立つ。
「何のつもりだ、女?」
「……私は自分の意思で剣を握る。大切な民を守るために。私の目の前で国民を傷つける事は許さない!」
もう私の剣はぶれる事は無い。私の剣はいつだって民のためにある。
私は当てもなく街の中を歩く。護衛など誰も付けずにただ1人で。城にいても何も案が思いつかずに気分を変えようと思って外に出たが、あまり変わらない。それどころか、余計にいらない事を考えてしまう。
今の私の主人であるハルトから例の提案をされてから今日で3日が経った。当然答えなんて出ていない。
どうすればこの国のために良いのか……か。私はその事をずっと考えていた。はっきり言ってハルトは悪だ。これは紛れもなく断言出来る。そもそも、ハルトがこの国を攻めて来なければこんな事にはならなかったのだから。
だけど、言いたくは無いけどハルトたちがやって来てこの国の中が良くなった部分もある。それは、近くの町から犯罪者が消えていった事だ。
理由はわかっている。ハルトたちが死霊系の兵を集めるのに殺して行っているのだ。どのような基準でどのくらい殺しているかはわからないが、そのおかげでかなり治安が良くなっているとの報告もある。
そのせいで、余計にわからなくなった。現に大臣たちの中では必要悪として、手を取っていこうという者まで出てきている。
私はため息を吐きながらも歩いていると、気が付けば王都の中心広場まで来ていたようだ。王城ではあんな事があったが、街の中は平穏そのものだ。
ハルトが言っていた通り私の願いを守ってくれているのだろう。その事が胸をほんの少し熱くする。彼の配下でいる限りは約束を守ってくれる。
「ねこちゃん! 降りて来て! そんなところ危ないよ!」
「馬鹿、大きい声を出すなよ! 猫がびっくりして逃げるだろ」
「お兄ちゃんも大きい声出してるよ。でも、降りて来ないなぁ」
1人でぼんやりと考えていると、そんな声が聞こえて来た。声の方を見ると、広場に植えられている木々の1つに子供たちが集まっていた。
子供たちの視線の先には木の枝の上に乗る猫がいた。高さは3メートル近く上で、どうやら自分で登ってから降りられなくなった子猫のようだ。怖いのかか細くにゃ〜と鳴いている。
子供たちは色々と考えて子猫を降ろそうとしているが、上手くいかないのかみんなで話し合っている。微笑ましい光景だ。私はそんな子供たちの元へと近寄る。
「私が助けてやろう」
「ほんとっ!?」
「えー、姉ちゃんには無理だろ〜?」
私の言葉にそれぞれ反応する子供たち。ふふ、この程度の高さなら造作もないぞ。私は軽くその場で何度か跳ねて、一気に跳ぶ。木を何度か蹴って駆け上がると、目の前には私を見る子猫の姿が。
傷付けないように優しく両手で抱き抱えて、そのまま地面へと落ちる。腕の中で子猫が悲壮な叫びを上げているが少し我慢してくれ。ストンと地面に着地すると、子供たちが集まって来る。
「ほら」
「うわぁ〜、ありがとう、お姉ちゃん!」
うんうん、やっぱり子供たちの笑顔は良いものだ。この子たちの笑顔を守るためならなんでも出来る。
手を振りながら去っていく子供たちを見ていると、少し落ち込んでいた気分も少し楽になった。
「一旦帰ろうか」
どうしたいかはまだ決まっていない。いないがどのような結果となっても考えるのは国民の事だ。
このまま、父上たちがハルトの事を排除しようとするのなら、ハルトも我慢はしないだろう。必ずこの国は消される。
そうならないようにハルトの言った通りにすれば、この国は残るけど、父上たちに私は剣を向かなければならない。それに、ハルトの目的にこの国は利用されるのは目に見えている。その結果この国が戦火に見舞われる事も……
何が良いのかわからないまま私は城へと戻ってきた。取り敢えず、今の父上たちの考えを聞こう。教会をどうするか話し合っていたはずだ。ぼんやりと考えながら歩いていたら、見慣れないものがいた。
「……なんでこんなところにペガサスが?」
「ぶるるぅ」
なんだよ、とでも言いたそうな顔で私を見て来る2頭のペガサス。私も絵師が描いたペガサスしか見た事がなかったが、翼を持った馬なんてそう見間違える事もないだろう。
この近辺では生息しない魔物だ。という事は誰かが乗って来たのだろう。しかし、ペガサスはかなり貴重な生物だ。このような魔物を足代わりにするなど……
私は急いで父上の元へと向かう。なんだか嫌な予感がする。いつも話し合いで使う会議室に行くと、丁度部屋から父上たちが出て来た。その後ろには、見た事のない男が2人いる。
1人は20代半ばぐらいの男でボサボサとした金髪をしており、全身黒く焼けた肌をしている。それにジャラジャラとネックレスや指輪をつけており、あまり好きにはなれない。
その隣には、年は40代ほどの男性が立っている。金髪を短く切り揃えており、身長が隣の男より頭一つ分ほど大きい。かなり筋骨隆々としている。
この2人が外にいたペガサスに乗って来たのだろう。明らかにこの辺りの人間ではない。それに、2人が着ている服。金色の十字架が背に刺繍された白い服。私も噂程度でしか聞いた事なかったが、彼らは……
「おお、フィア、帰って来たか!」
私の姿を見つけた父上が嬉しそうに声をかけて来た。その後ろにいる大臣やヘンリルたちもだ。
「……ただいま戻りました、父上。それでこの方たちは?」
「ああ、この方たちは大国、フィスランド聖王国から来られたかの有名な十二聖天のお2人だ。蟹座様、牡牛座様、この者は私の娘でアークフィアと申します。ほら、フィアも挨拶を!」
「……アークフィア・メストアです」
初めて見る十二聖天だが、見ただけでわかる。この者たちの実力が。この前のハルトの配下であるリーシャと呼ばれていた騎士と対峙した時に似ている。
「へぇ〜、こんな辺境なところにも綺麗な子いるじゃん! ねえ君、これから俺と遊ばねえか?」
そんな2人を見ていたら、若い方の男、蟹座と呼ばれた方が私の方に近寄りながらそんな事を言ってきた。そして、私の肩に腕を回してそのまま胸を……
「や、やめろ!」
触る前に払いのけてしまった。私は直ぐに蟹座から距離を取って警戒する。蟹座はボリボリと髪をかきながらはぁとため息を吐き私を見て来る。
「あーあ、振られちゃった」
「何を馬鹿な事をしている。さっさと目的を果たすぞ」
「へいへい」
男は更に声をかけようとして来たが、屈強な男、牡牛座と呼ばれた男が止めてくれた。
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「……それはどういう事ですか?」
我が物顔で城の中を歩く2人の後ろ姿を見ていると、突然そんな事を言ってくる父上。一体どういう事だ?
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嬉しそうにそう話す父上。という事は今は地下に向かっているのか。だけど、そう簡単にいう事を聞くのか?
「父上、それに条件などは無かったのですか? 彼らは無償でそれを受けて?」
「そんなわけないだろう。しかしこれは喜ばしい事だ。メストア王国は解体で、フィスランド聖王国の飛び地となる。ここはメストア伯爵領地となるのだ! あの大国の1部となる事が出来るのだ! 数千の奴隷と納税義務が発生するが、あの大国から守られるのなら安いものだろう!」
……どうしてそんな嬉しそうに話せるのだ? 私は何故か父上たちの事が恐ろしく見えて距離を取ってしまう。
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