世界に復讐を誓った少年

やま

49.とある家族の話(7)

「言わなくて良かったのですか、ハルト様?」


「何を?」


 新しく配下になったマルスの用事を済まして城へと帰る途中、腕に抱き付いてくるミレーヌが突然そんな事を尋ねてきた。ミレーヌは下から僕の顔を覗き込むようにして微笑みながら続ける。


「ダルと呼ばれた彼が、家族を貴族に売った本当の理由ですよ」


「ああ、あれか。あれは伝える必要が無いと思ったからだよ」


 僕は正直に思った事を話す。ダルがマルスたちを売った本当の理由。それは、マルスが助けた少女、ティエラを守りたかったからだ。


 あの貴族はティエラの事が欲しくてダルを脅したのだ。家族を生かすためにティエラを差し出すか、家族を暴漢たち襲わせて殺させ、ティエラを無理矢理連れて来させるか。


 貴族の権力抗う事が出来ないダルは、全員が生きられる道を選んだ。それが今回の事になる。それに合わせて僕の要望も合わさって、ティエラ以外の全員が僕に渡される……はずだった。


 そこで、貴族に雇われていた奴らが欲をかいた。スラムの奴らなんか人数ははっきりしていないと考え、売れる女の子たちをいなかった事にして奴隷商に売ったのだ。


 まあ、彼らは運が悪かった。これが普通に王家に渡すだけなら減っていても良かっただろうけど、彼らは僕の物になる物を勝手に売り払ったのだ。当然報いを受けてもらう。今頃、クリムゾンリーパーの下位種であるレッドリーパーが向かって殺しているところだろう。


「ハルト様?」


「ああ、結局言おうが言わまいが、ティエラを助けるためにダルが他の家族を売ったのは同じだ。それなら、言ってダルの事を同情させるよりかは、言わなかった方がマルスもバッサリと未練を断ち切れると思ったんだよ」


 結局はダルが家族を売ったのには変わりがない。それによってマルスの殺意が鈍るようなら言わない方がスッキリとするだろう。


「ふーん、そう言う事にしておきますよ」


 そう言ってクスクスと笑ってくるミレーヌ。こんにゃろう


「最近少し調子に乗っているな、ミレーヌ」


「へ? そ、そんな事無いですよ!?」


「問答無用! これは少しお仕置きが必要だな」


「きゃあっ!?」


 僕はミレーヌの細い腰を掴んで担いで城まで戻る。ミレーヌが叫んでいるが無視だ。僕は自分たちの部屋に戻ってからは、ミレーヌの事をにゅるにゅるとろとろとお仕置きをするのだった。


 ◇◇◇


「おら、ガキども、飯だ」


 大きい男の人はそう言うと、私たちが閉じ込められている檻の中に2つの黒パンを放ってくる。ここに連れて来られて奴隷にされてからは1日1回のこれが唯一の食事。


 檻の中には私とミント、それより小さい子たち合わせても7人いる。当然そんな黒パン2個だけだと足りないのだけど、私たちはそれを小さく千切ってみんなで分ける。


 小さい子たちには大きく千切って、私やミントは我慢する。家族でいる時も偶に食べられない時があったけど、今ほど辛くなかった。多分、マルス兄ちゃんやティエラ姉ちゃんたちが今の私たちみたいに分けてくれていたからだと思う。


 ……会いたいなぁ。思わず泣きそうになるけど、目をぎゅっとつむって我慢する。私が泣いちゃうとみんなに移っちゃうから。


 そんな風に少ない食事をみんなで分けて食べていると、扉の向こうで話し声が聞こえてきた。そして扉が開かれてやって来たのが、この店の店長だった。


 しかも、私たちに対しては怒鳴り散らすような店長が、ニコニコと手もみをしながら人を連れて来た。よっぽど金払いの良い人なのかな?


 連れて来た人は、年が50代ぐらいの白髪のおじさんだった。右手に黒い杖を持っていて、普通なら優しそうなのだけど、今は睨みつけるように私達を見てくる。


「こちらが、お客様のご希望の商品となっております」


「全部で7人か?」


「はい、少し体力は少ないかもしれませんが、楽しめると思いますよ」


 ぐふふ、と気味の悪い笑みを浮かべる店長。それを気にした様子も無く、私たちの事を見てくるおじさん。そして、他の奴隷たちを見向きする事なく


「買おう」


 と、決めてしまった。その言葉を聞いて破顔する店長は、嬉しそうな声で他の店員を呼んで私たちを檻から出す。


 檻から出された私たちは、最低限の清潔が保たれた服を着させられ、おじさんのいる部屋へと連れられた。それからはあっという間で私たちは店から出て行く事になって、今はおじさんの後ろをついて行く。


 一体どこへ連れて行かれるのか不安で、下の子たちは私やミントの服を握って離さない。おじさんは何も言わずに歩くだけ。


 しばらくおじさんの後について行くと、どこかの屋敷に辿り着いた。今まで入ったことの無い大きさに私たちは驚いたけど、おじさんは気にせずに進む。


 慌てて私たちも後をついて行く。大きな屋敷にあっち見たり、こっちを見たりとせわしなく顔を動かしていると、大きな広間に出た。


 その中心でおじさんが杖をコツンと床を叩くと、床が突然動いて穴が空く。私たちは驚いて声も出せずにいると


「ついて来い」


 と、一言だけ言って穴の中へと入っていった。私たちも慌てて穴に近づくと、穴の中は階段になっていて、おじさんはこの階段を降りて行ったみたい。少し怖いけど、私が先頭になって穴の中へと入って行く。


 それからしばらく歩くと、ようやく階段が終わって、地下のようなところに出た。かなり広い空間が目の前に広がっている。ただ、それ以上に驚いたのが、本当ならこんなところにはいないはずの魔物がいたことだった。


 初めて見るスケルトンにゾンビ。みたことの無いものもいて、私たちは怖くて泣きそうだった。小さい子たちは私やミントの体に顔を埋めて見ないようにしている。ああ、私たちはここで死んじゃうんだ。そう諦めていたら


「エマ! ミント!」


 私たちを呼ぶ声が聞こえて来た。声のする方を見るとそこには手を振るマルス兄ちゃんやティエラ姉ちゃんたちの姿があった。


 その姿を見たらもう我慢なんて出来なかった。止めどなく溢れる涙。気がついたら兄ちゃんたちの方へと走っていた。


 勢い良くぶつかる私を優しく、でももう離さないというような風に力強く抱きしめてくれる。えへへ、暖かいや。


「ごめんな。怖かっただろ?」


「うん、物凄く怖かった! だからもっとギュッとして!」


「ったく、いつもは子供扱いするなって言う癖に」


 そんな事知らないもん! 私は兄ちゃんの言葉を無視してより強く引っ付く。しばらくそうしていると


「お疲れ様、ネロ」


「別に大丈夫だ、創造主よ。ソレヨリ、ミレーヌガイナイガ?」


 兄ちゃんたちとあまり年の変わらない人がやって来た。そして、私たちを買ったおじさんと話を……えっ? さっきまで普通のおじさんだったのに、途中で骸骨に……この人も魔物なの?


「俺たちと年の変わらない方が俺たちの主人になるハルト様だ。それでみんなを買ってくれた人がネロ様だ。これからお世話になる人だからみんな失礼の無いようにな」


 ……私たちは生きていけるのでしょうか?

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