世界に復讐を誓った少年

やま

23.とある冒険者の話(5)

 ……ピチャン……ピチャン


 水が滴る音。その音だけが鳴り響く中、私は重たい瞼をあげます。まだ、開けたばかりで視界がぼやける中、私は辺りを見回します。周りは、岩肌の壁に囲まれた、まるで洞窟のような場所。ジメジメとした空気が漂っています。


 私は腕を動かそうとしましたが、全く動きません。どうやら、頭の上で縛られているようです。魔法を放とうにも魔力が吸い上げられて放つ事が出来ません。


 体を見ると……な、何ですかこれは! 胸元を強調するようにした縛られ方。わざわざ谷間のところで交差するような難しい縛り方で縛って……どう言う意図があってこんな縛り方を!?


 訳がわからずに他に変なところはないか体をよく見てみると、服装は変わっていないので、何かされた様子はなく安心はできました。しかし、この胸を突き出すような姿勢は少し辛いです。


 足も、逃げられないように重りがつけられているので、この場から逃げる事も叶いません。


「目ガ覚メタカ?」


 どうにか逃げ出せないか、と考えていたら、突然目の前に現れるローブの人物。私は心だけは負けないようにローブの人物を睨み付けると、ローブの人物は「フン」と鼻で笑いながら私の顔を覗き込んできました。


 近くでローブの奥を見た私は思わず叫びそうになりました。ローブの中にあったのは、人の顔……ではなく、骸骨の顔だったから。という事はこの骸骨は魔物という事ですね。ゾンビなど死霊系の魔物を操り、魔法を得意とする魔物……ネクロマンサーですね。


 目の部分に輝く赤い光が私の目と合う。暗闇の奥ある赤い光に意識が吸い込まれそうになりますが、私は意識を強く持ちます。


「ホウ、ヤハリシスターニハ洗脳ガ効カヌカ」


「私は何をされようとも負けません! 必ずリンクたちが助けに来てくれます! あなたなんかには負けません!」


 私の強気な発言を聞いたネクロマンサーは、黙り込んでしまいましたが、次には笑い出します。


「面白イ事ヲ言ウ娘ダ。私程度ニスラ敵ワヌ貴様ノ仲間ニ、何ガ出来ル?」


「彼らは私なんかより強いです。リンクたちを甘く見ないで下さい!」


「ソウカ。ナラ、楽シミニ観ルトシヨウカ」


 ネクロマンサーはそう言うと指を鳴らします。すると、岩肌の壁に何かが浮かび上がって……あれは!?


「イマ、町ノ中デ、オ前ノ仲間ガ、オ前ヲ助ケルタメニ、町ノ人間ドモト私ノ配下ガ戦ッテイル。無事ニコノ場所マデ、辿リ着ケルカナ?」


 突然岩肌の壁に映ったのは、リンクたちが町の人たちやゾンビたちに襲われている光景でした。どのようにして映しているのかわかりませんが、村人やゾンビたちと戦う光景が鮮明に映っていました。


 リンクたちはなるべく町人たちを傷付けないように気絶させるだけにして、ゾンビたちは倒していく。しかし、3人が疲労しているのはこの映像からでもわかります。


 今は何とか耐えていますが、これ以上攻められては皆さんは……


「奴ラハ、ココニ辿リ着キソウニナイナ」


 骸骨の顔なのにまるで笑ったかのように話すネクロマンサー。私は何て無力なのでしょう。自分のミスで敵に捕まり、自分のせいでチームの皆さんをこんな危険な目に合わせて……


「ムッ? 奴ラハ……」


 悔しさと自分の無力さに顔を逸らしていると、ネクロマンサーが訝しむ声をあげます。その声につられて再び映像を見ると、10人ほどの兵士がリンクたちを守るように町人たちと対峙していました。まさか、まだ操られていない方たちがいたなんて。


「町ノ外ニイタ奴ラカ。フム、マアイイ。殺サレル人数ガ少シ増エタダケダ」


 ネクロマンサーの言葉と同時に、町人とゾンビたちの攻撃は、勢いを増す。リンクたちはこのままではマズイと感じたのでしょう、突然現れた兵士たちに何かを叫びながら下がっていきます。それに、付いていくマリエさんやガンドさん、兵士の人たちもです。


 兵士の方が1人……2人……と、犠牲になっていく中、何とかリンクたちは町から逃げ出す事に成功しました。


「逃ゲ切ッタカ。残忍ナ奴ラメ」


「戦略的撤退です。負けるとわかっているのに、無理して戦う必要はありませんからね」


 私がそう言うと、ネクロマンサーはカタカタと骨を鳴らしながら笑い始めました。何がおかしいのです!


「奴ラハ、今逃ゲテモ、オ前ヲ助ケラレルト思ッテイル。ソノ事ガ可笑シクテ可笑シクテ。今回モソウダガ、ナゼ生キテイルト確信出来ルノダ? ナゼ助ケヨウト動ケルノダ? モウ殺サレテイルカモシレナイノニ?」


 ……そうです。何が助けに来てくれる、ですか。私は何を甘い事を。今ここで捕らえられて生きている事自体が奇跡だというのに、私自身、助けられると思っている。この目の前のネクロマンサーに殺されないと思っている。そんな事はあり得ないのに。


 自分に降りかかる死が実感した途端、体の震えが止まらなくなりました。今までも何度も死線というものはくぐり抜けて来たつもりでした。しかし、ここまでもうどうしようもない事にはなった事がありません。


 今までは、何度危ない目にあってもリンクたち皆さんが側にいてくれましたから。でも今は1人。目の前には敵のネクロマンサーがいて、指を私に向けるだけ、それだけで私を殺せる位置にいる。明確な死が目の前にある。


「ククッ、良イゾソノ表情。絶望ニ染マルソノ表情。ソレコソガ、私ノ力トナル。ソンナオ前ニモット絶望スルコトヲ教エテヤロウ」


「……えっ?」


 ……これ以上何があると言うのですか。目の前にいる私にいつでも死をもたらす事な出来るネクロマンサー
 操られた町人たちとゾンビの大群に、助けに来る事が出来ないリンクたち。


 もう、殺されるのを待つしかないこの状況で、これ以上の事があるのですか?


「私ニハマダ、町ノ人間ドモヲ操ル力ハナイ。コノ意味ガワカルカ?」


 このネクロマンサーには町人を操る力は無い? でも、現に町の人たちは操られて


「……まさか」


 私はネクロマンサーの骸骨の顔を見る。考えたく無い。絶対に信じたく無い。だけど今のネクロマンサーの言葉を聞くとそれしか考えられない。そして、ネクロマンサーはまるで答え合わせをするかのように


「町ノ人間ドモヲ操ッテイルノハ私ヲ蘇ラセシ創造主ダ。私ナド、創造主ヤリーシャ様ノ前デハ、足元ニモ及バヌ。残念ダッタナシスターヨ。イクラ命ヲ賭ケテ私ヲ倒シタトシテモ、私ナド駒ノ1ツデシカナイ」


 私の想像以上の答えを述べたのだった。それと同時に


「少し喋りすぎだぞ、ネロ」


 ネクロマンサーの後ろから現れた男の人。白髪で赤目の私より年下の少年が、現れたのでした。

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