世界に復讐を誓った少年

やま

18.まず1つ目

「第1部隊は住民を逃せ! 第2部隊は奴らを食い止めるんだ! 第3部隊は町長の元へ向かうのだ!」


「くそっ! なんでこんな町中に魔物が現れるんだよ!」


「誰か! 誰か私の娘を見ませんでしたか!? 娘を知りませんか!?」


「どけぇ! 邪魔なんだよ!」


 悲鳴、怒号、懇願、様々な叫び声が聞こえてくる。逃げる者、はぐれた者を探す者、逃げ惑う者を押し退けて、自分が先に逃げようとする者。様々な者がいる。


「やっぱり、人間、危険になったら自分が大切だよな」


「ん? 何か言ったか、マスター?」


「いや、何でもない。それよりも行くよ。目的の場所は町長がいる場所だ」


 僕とリーシャは向かってくる人の波に逆らってこの町で1番大きな屋敷へと向かう。僕の配下は町長が町から逃げ出さないように囲みながら攻めているから、まだ、逃げきれていないはずだ。


 まあ、僕も別に無差別に襲っているわけじゃない。今回も殺さないようには指示しているし。偶然当たりどころが悪くて死ぬ奴はいるかもしれないが。


 かといって、慈悲をかける事もない。僕自身もう壊れている事はわかっている。僕の目的のためならいくら犠牲になろうと、もう心は痛まない。


「おっ、やってるぞ」


 リーシャが指差す先には、この町の兵士たちと僕の配下である死霊たちが争っていた。だけど、戦いにはなっていなかった。


 理由は、僕が常に暗黒魔術を発動しているからだ。僕の魔力を与えると、傷付いた死霊たちを癒す事が出来、能力が上がるのだ。更に、こちらが殺した兵士たちは、僕の魔力により汚染されて配下の仲間入りをする。


 つまり、僕の魔力が尽きない限り増え続けるのだ。しかも、僕が付けている吸魂のネックレスは、配下である死霊たちが殺しても吸収するので減らないのだ。


「くそっ! こいつら、切っても切っても動くぞ!」


「頭だ! 頭を狙え! 頭を切り落とせば動きが止まるぞ!」


 まあ、完全な不死の軍隊ってわけじゃないのだけど。普通の死霊系の魔物より倒しにくいってだけだからな。それでも十分に脅威だ。弱点を狙わなければ切っても切っても起き上がってくるのだから。


「お前らどけぇ! 魔法を放つ!」


 そんな光景を眺めていると、兵士たちの後ろからローブを着た男がやって来た。手には杖を持っている。典型的な魔法師の姿をしている。


 男が杖をかざすと、杖に魔力が集まって行く。そして杖の先端が赤く輝き魔法が放たれた。放たれたは魔法は火魔法で、真っ直ぐゾンビたちへと向かい爆発する。


 ゾンビたちの体は焼けていき、次第に動きが鈍くなる。そこを兵士たちが首を切り落としていく。ふむ、弱点の火対策を何か考えないといけないな。まあ、今は隣でウズウズとしている奴に頼むか。


「リーシャ、行っていいぞ」


「! 心得た!」


 フルフェイスの中から聞こえる喜びの声。元からなのか、甦らしたからなのかわからないが、リーシャは戦うのが好きだ。暇があれば体を動かし、ダルクスや僕に頼んで死霊を相手に訓練をしている。


 ただ、彼女ほどの実力があると、そうそう相手出来る者がいないので、彼女も不完全燃焼といった形で終わるのだが。


 リーシャは腰にある剣を抜きながら嬉々として魔法師の方へと向かう。かなりの速さだけど、まだ本気は出していない。だって、魔法師が気が付いてリーシャに魔法を放てる隙があるからだ。


 リーシャは剣に魔力を纏わせ、向かってくる魔法を危なげなく切る。そして、兵士たちへ近づいた瞬間、一気に速度を上げた。


 兵士たちは気づいていないが、既にリーシャは兵士たちをすり抜けて別の兵士へと向かっていた。そして時間差で首から血を吹き出す兵士たち。魔法師も同じように切られていた。


 すれ違い様に切ったのだ。僕も普段からリーシャの速さに慣れていなかったらわからなかっただろう。


 そんな彼らに僕は魔力を流す。同じようにゾンビへと変えていく。兵士たちは新たに乱入したリーシャに戸惑っている。その隙が命取りになるんだが。


 気が付けば、兵士の3分の1はリーシャが片付けていた。既に戦いの音は無くなっている。リーシャが加わった時点で、こちらの勝ちは決まっていたのだ。とっておきを出す事なく終わったな。


 僕は少しつまらなさそうな雰囲気を出しているリーシャを連れて、屋敷に入る。扉を開けた瞬間


「死ね!」


 と、剣を振り下ろしてくる兵士。だが、その事に当然リーシャは気が付いているため、籠手で兵士の剣を弾き、兵士の喉元に剣を突き刺していた。


 その光景を見た部屋の奥にいた人物が悲鳴を上げる。僕たちは気にせず中へと入る。


 屋敷の中には兵士が5人、小太りの男が1人、似たような小太りの女が2人、この屋敷の侍女が3人だった。小太りの男が町長だろう。女の方は妻と子供のはずだ。事前な調べた通りなら。


「な、何者だ貴様たちは! こんな事をしてタダで済むと思っているのか!」


 小太りの男は気丈にも僕たちを怒鳴りつけてくる。それに、何処かで聞いたことのある台詞だ。まあ、そんなものは無視するのだけど。


 そして、確認する間も無く暗黒魔術を発動する。今回は死霊たちではなくて、洗脳系の魔術だ。魔法耐性が高いと効きづらいのだが、こいつら程度なら問題無いだろう。


 僕の魔術が効いてきたのか、次第にぼーっとし始める町長たち。これで、僕たちのいう事を聞く傀儡の出来上がりだ。


 この町を使って色々と準備をしたいからね。まだ、彼には生きてもらわなければ。ここからしばらくは再び死霊の数を増やさないと。


「ふふっ、これで魚料理は食べ放題だな、マスター!」


 1人的外れな事を考えているけど、まあいいか。リーシャも戦ったしね。


 さて、今後の事を考えると、まずこの事が領主に知られて兵士、あるいは冒険者が派遣されるはずだ。そいつらをどんどん魔物に変えていこう。


 向こうから材料を送ってくれるのだから、こちらとしては助かる以外に無い。わざわざ村を移動しなくてすむし。その上、こっちは減るものといえば魔力ぐらいだし。目標は2千かな。それだけあれば、領主領も落とせるだろう。


 国が危険視する頃には、もう死霊の軍で囲んで逃げ場が無くなっているのが理想かな。

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