世界に復讐を誓った少年

やま

2.天啓

「……あ〜あ、雨降ってきちゃったね」


「……そうだね」


 村を出て2時間近くが経った頃、隙間から見えていた太陽も雲で隠れてしまい、今は雨が降り始めていた。雨が馬車の屋根に当たる音が馬車の中に響く。


 僕はぼーっと馬車から見える景色を見ながら、ステラの話を軽く返していると、両頬に痛みが走る。何事か! と思い見ると、ステラが睨みながら僕の頬をつねっていた。


「な、何すんだほー!」


「ハルトが私の話を適当に聞いているからでしょ! そんな外ばっかり見ないで、私の方を見なさいよ! 話し相手になりなさいよ!」


 そう言いながらステラは頬をつねっていた両手で両頬を挟み、僕の顔を無理矢理ステラの方へ向けようとしてきた。く、首が痛い。


 僕は抵抗をやめてステラを見る。あまり見ているとドキドキしちゃうから見なかったんだけど。


「やっと見たわね」


 そして僕と目が合うと、ニコッと笑うステラ。僕はすぐに顔を逸らしそうになるけど、それをすると再び無理矢理顔を向けさせられるので我慢する。僕の心臓の音がステラに聞こえないか心配だ。


「そ、それで、話って何話すの?」


「そうね。それじゃあどんな職業が欲しいか話しましょ。私はみんなを助けられるような職業が良いわね。治癒魔法師とか良いと思うわ。村でハルトのお母さんと一緒に店をやるなんて良いと思わない?」


 ステラは微笑みながら尋ねてくるけど、僕は頷けない。その理由が、ステラの向こう側に座るリーグが睨んでくるからだ。


 そして、おもむろに立ち上がって僕の向かいの席に座った。そこでも腕を組んで睨んでくる。なんだって言うんだよ。しばらく睨んでから、ステラへと視線を移すリーグ。その表情はさっきまで僕を睨んでいた時とは大違いだ。


「ステラ、俺は最強の剣士になる。何者にも負けない最強の剣士にな」


 リーグは握りこぶしを作り、ステラに自分の目標を話す。まるでそうなるのが必然だというような、自身がある雰囲気で。


「そう、頑張ってね、リーグ。それで、ハルトは?」


 でも、ステラはそうなんだ、程度でリーグの決意を聞き流した。既にリーグから視線が外れて僕を見ているステラにはわからないかもしれないが、リーグは怒りに顔を赤くしていた。


 それだけではなく、僕を殺すかのように睨んでくる。こ、怖すぎる。なんで僕ばっかり。僕はなるべく視線を合わさないようにして、僕の求める職業を話す。


「ぼ、僕は母さんの手伝いが出来る狩人なんかが良いな。それが無理でも手伝えるやつだったらなんでも良いや」


「ふふ、ハルトらしいわね。ハルトのお母さんも喜ぶでしょうね」


「ふん、情けない夢だ」


 リーグの言葉に腹が立ったけど、僕は無視する。誰になんと言われようとも僕の欲しいものは変わらない。


 それから、色々と話しているうちに目的の町へと辿り着いた。雨が降る中、馬車が列を作っている。天啓は1月に1日だけだから、近くの村の子供は同じ町に集まる。この馬車の列はその列になるらしい。


 30分ぐらい待ってようやく進む馬車。目指すは場所は天啓を与えてくれる女神フィストリアを祀る教会、フィストリア教会だ。


 フィストリア教会は大陸全ての国にあり、その中でも、国教としているフィスランド聖王国に本山があると言われている。ここから、かなり遠い国らしいので詳しくは知らないけど。


 そのフィストリア教会で、神官より女神フィストリアの天啓を与えてもらうと、職業が手に入るらしい。職業は神官と本人だけわかるとか。その職業を神官と確認して、用意された用紙に記入する事で、職業が認められるという。


「あっ、着いたわよ!」


 僕がフィストリア教会の事について少し思い出していると、肩を揺らしてくるステラ。どうやら目的の教会まで着いたみたい。既に馬車は止まっていた。リーグ、ステラ、僕の順に馬車から降りて、教会へと向かう。


 教会への入り口を開けると、中は僕たちと同年代の男女でごった返していた。はあ〜、これはかなりの人数だなぁ。結構待たないといけないかもしれない。


「うわぁ〜、やっぱり多いね。この辺りの村の子供たちが集まっているからかな?」


「そうだろうね。あっ、あそこから並んでいるみたいだから行こうよ」


 僕たちは列の最後尾に並ぶ。先に入っていたレグルたちは少し先の方まで進んでいた。流石のレグルもこの中では暴れないみたいだ。


 教会の中の子供の数は80人ほど。神官1人でするには大変な人数だ。それも、僕たちの前にも同じぐらいいただろうから余計に。


「よっし! 拳術士だ!」


「私は司書? だったわ」


「し、飼育員って……」


 列を眺めていると、職業を貰い終えた子供たちが、それぞれの職業を自慢していた。望み通りの物が貰えた子もいれば、思っていた物と違っていて落ち込んでいる子もいる。


 そんな姿を見ていたら、僕も物凄く緊張してきた。僕はそこまで高望みはしないけど、それでも少しは、と期待してしまう。女神フィストリア様、どうか良い職業を与えてください! お願いします!


 ……よし、何となく良い職業が貰えそうな気がする。こういうのは気持ちが大事だからね。


 1人で納得しながら、次々と子供たちが天啓を貰っていく。レグルも終わっており、貰った職業は重戦士らしい。大きな盾を持って前線に立つ戦士で、その職業を持っていると、筋力が上がりやすいと言われている。物凄く喜んでいたな。


 そして、次はリーグの番だった。堂々とした立ち振る舞いで、女の子たちは頬を赤くして見つめて、神官の人はほぉ〜と感心していた。


 そして、一筋の光がリーグに射すと、リーグはニヤリと笑みを浮かべ、神官の人は驚きの表情を浮かべていた。


聖騎士パラディンか。悪くない」


 何と、リーグは世界でも2人しかいない聖騎士になったようだ。その事に周りは騒つく。まさか同じ村からそんな伝説に近い職業を持った人が現れるなんて。


 リーグは笑みを浮かべながら堂々とその場から離れる。興奮が冷めない中、次はステラの番になった。ステラは少し緊張しているようだけど、これもまた堂々と神官の前まで歩く。


 そして、さっきのリーグと同じように一筋の光がステラへと射し込む。そして今度も神官は驚きの表情を浮かべていた。ステラも何か特殊な職業になったのかな?


「ま、まさか、生きている内に出会えるなんて! 女神の化身……聖女様!」


 神官が膝をつき祈るような姿勢で放った言葉に、先程まで興奮していた子供たちは固まる。理由は、どんな子供でも知っている職業が出たからだ。


 有名度で言えば、さっきのリーグの聖騎士よりも有名。様々な物語にも出て来る職業『聖女』だったからだ。


 ステラは困惑としているが、教会の奥から出て来た神官よりも豪華な服を着た男の人と女の人が、ステラの元にやって来て何かを話している。


 どんな話をしているのか物凄く気になったのだけど、神官が早く来るようにと急かすので僕も神官の前まで向かう。彼は早くこの仕事を終わらせて、ステラと話したいようだ。


 気持ちはわかるけど態度に出さないでほしい。鈍感な僕でもわかるものはわかるんだから。


 そして、何度目かになる光が僕の体を覆うように射し込む。これで僕にも職業が。そう思ったのだが、次の瞬間地面から黒い影が吹き出して来た。まるで光を遮るかのように。


 僕は訳もわからずに固まっていると、頭の中で響く声。無機質な男でも女でもない声が頭の中で響いた。でも、この声が職業を教えてくれると、本能でわかる。そして僕に与えられたの……『暗黒魔術師』という聞いたことのない職業だった。

コメント

  • seabolt

    すごい天啓でした

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