悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!
56.力の代償
「やっぱり、侯爵家ともなれば屋敷もでかいなぁ」
俺は目の前に建つ屋敷を見て1人で呟く。その声が聞こえたのか、侍女として付いてきたメルティアが首を傾げる。そして
「……はぁ、来たくなかった」
そのメルティアの隣で溜息を吐くのはレイチェルさんだ。今日俺が行くところを伝えると、物凄く嫌そうな顔をしながらも付いては来てくれたけど、物凄く嫌そうだね。それほど嫌なのか……ハーデンベルツ侯爵家に来るのは。
どうして俺たちがハーデンベルツ侯爵家に訪れたか。その理由は、昨日のハーデンベルツ夫人と出会いまで戻る。
◇◇◇
「……ど、どうしてハーデンベルツ夫人が……痛っ!」
廊下の壁際にへたり込んでいる俺の前に突然姿を現したハーデンベルツ夫人。このまま座り込んでいるのは失礼だと思い、慌てて立ち上がろうとするが、無理に体を動かしたため、体中に痛みが走る。
そのまま倒れそうになるが、倒れる事はなかった。ハーデンベルツ夫人に抱きかかえられたからだ。程よい大きさの柔らかいものが顔に当たる。慌てて離れようとするが、がっちりと掴まれているために自分から離れられない。
「あまり暴れないでください、殿下。ご自身で感じていると思いますが、外見以上に体内はボロボロなのですから。筋肉は当然ながらボロボロ、魔力回路も無理に魔法を使用したせいで同じくボロボロ。かなりの痛みが体を巡っている筈なのに、気を失っていないのが不思議なぐらいです」
ハーデンベルツ夫人は、そう言いながら壁にもたれさせるようにゆっくりと座らせてくれた。そして俺の肩に手を置きながら魔法を使ってくれた。これは回復の魔法か? 痛みが少し和らいだ。
「残念ですが私にはこの程度が限界です。かなり優秀な回復魔法が扱える魔法師に頼むか、自然治癒に任せるしかありません」
ハーデンベルツ夫人はそう言うが、そのおかげで立ち上がれる程度まで回復出来た。最悪このまま気を失ってしまうと思ったのに比べれば大分マシだ。
「いや、助かったよ。さっきの状態で座ってしまってさ。もう立ち上がるのも億劫だったんだよ」
あのまま気を失ってしまいそうな勢いだったからな。さっきまでの状態に苦笑いしていると、ハーデンベルツ夫人は真剣な表情を浮かべて俺を見てくる。そして
「……殿下の今の体では、今回のような限界近くの魔法の発動は後3回が限界でしょう。1回目は今回と同等程度の疲労で済みますが、2回目で手足が痺れて体に違和感を感じるはずです。そして3回目で体のどこかの機能が止まるでしょう。四肢のどれか、五感のどれかならまだいい方でしょう。しかし、臓器の機能、それが心臓ならばまずは助かりません。
殿下。悪い事は言いません。二度と今回のような使い方をしないと誓ってください」
有無を言わさない雰囲気のハーデンベルツ夫人。この人は兄上との確執など関係無く、国の貴族の1人として真剣に心配してくれている。未だに昔からの評価があまり変わっていない俺に対してだ。その事を嬉しく思うが、夫人に対する答えは決まっていた。
「それは絶対に誓えない」
俺は真っ直ぐに夫人の目を見てそう言った。夫人の表情は変わらないが、身に纏う雰囲気が変わった。肌を刺すような圧が俺に降り注ぐ。
「何を馬鹿な事を言っているのです? このまま使い続ければあなたは死ぬかもしれない。それなのにまだ使うと言うのですか!?」
「それがどうした? 目の前で仲間が危険な目に遭っているのを助ける力を持っているのに使わないわけないだろう。それでいくら自分の体を酷使しようともな」
目の前で起きている仲間の危険を助けられずに、未来のセシリアの命を救う事なんて出来るかよ。俺は視線を逸らす事無くハーデンベルツ夫人と視線を交わす。
暫く見合う俺とハーデンベルツ夫人だったが、ハーデンベルツ夫人は、はぁ、と溜息を吐きながら首を横に振る。
「……そういう頑固なところはメリセからしっかりと受け継いでいるのですね」
呆れたように呟くハーデンベルツ夫人。年齢的に母上と近いか同じぐらいなので知り合いなのだろう。どうやら俺は母上と同じぐらい頑固らしい。
「……わかりました。殿下に何度言っても意味は無さそうなので、別の案を考えます。明日、私の屋敷へと来てもらえますか?」
そして唐突にハーデンベルツ侯爵家の屋敷に招待された。まあ、模擬戦の次の日は休みで明日から3連休だから問題は無いのだが。
「構わないけど、どうして?」
「殿下はいざとなれば先ほどのように限界近くまで力を使う。その意志は変わりませんね?」
「もちろんだ。必要になった時は躊躇わず使うつもりだ」
俺は躊躇いなく答える。この事に一々戸惑ってなんかいられないからな。そして、その言葉を聞いたハーデンベルツ夫人は困ったような、それでいて少し嬉しそうに笑みを浮かべる。
「しかし、今のままでは先ほど私が言ったように、殿下の体が使い物にならなくなってしまいます。ですので……ある程度魔法に耐えれるようになるまで私が鍛えましょう」
「剣聖と言われている夫人自ら? 俺としては有り難いのだが、迷惑では無いのか?」
ゲームの中でもハーデンベルツ夫人は弟子を取らない事で有名だった。息子であるリグレットに教えている以外では、弟子が1人だけのはずだ。その人はゲームでは性別も名前も出てこないのでわからないが。
「大丈夫です。それよりも殿下の体に障りがある方が問題です」
「……わかった。それならよろしく頼む、ハーデンベルツ夫人」
こうして、俺はハーデンベルツ夫人に師事する事となった。リークレットが物凄く嫌そうな顔をするのが目に見えているな。
俺は目の前に建つ屋敷を見て1人で呟く。その声が聞こえたのか、侍女として付いてきたメルティアが首を傾げる。そして
「……はぁ、来たくなかった」
そのメルティアの隣で溜息を吐くのはレイチェルさんだ。今日俺が行くところを伝えると、物凄く嫌そうな顔をしながらも付いては来てくれたけど、物凄く嫌そうだね。それほど嫌なのか……ハーデンベルツ侯爵家に来るのは。
どうして俺たちがハーデンベルツ侯爵家に訪れたか。その理由は、昨日のハーデンベルツ夫人と出会いまで戻る。
◇◇◇
「……ど、どうしてハーデンベルツ夫人が……痛っ!」
廊下の壁際にへたり込んでいる俺の前に突然姿を現したハーデンベルツ夫人。このまま座り込んでいるのは失礼だと思い、慌てて立ち上がろうとするが、無理に体を動かしたため、体中に痛みが走る。
そのまま倒れそうになるが、倒れる事はなかった。ハーデンベルツ夫人に抱きかかえられたからだ。程よい大きさの柔らかいものが顔に当たる。慌てて離れようとするが、がっちりと掴まれているために自分から離れられない。
「あまり暴れないでください、殿下。ご自身で感じていると思いますが、外見以上に体内はボロボロなのですから。筋肉は当然ながらボロボロ、魔力回路も無理に魔法を使用したせいで同じくボロボロ。かなりの痛みが体を巡っている筈なのに、気を失っていないのが不思議なぐらいです」
ハーデンベルツ夫人は、そう言いながら壁にもたれさせるようにゆっくりと座らせてくれた。そして俺の肩に手を置きながら魔法を使ってくれた。これは回復の魔法か? 痛みが少し和らいだ。
「残念ですが私にはこの程度が限界です。かなり優秀な回復魔法が扱える魔法師に頼むか、自然治癒に任せるしかありません」
ハーデンベルツ夫人はそう言うが、そのおかげで立ち上がれる程度まで回復出来た。最悪このまま気を失ってしまうと思ったのに比べれば大分マシだ。
「いや、助かったよ。さっきの状態で座ってしまってさ。もう立ち上がるのも億劫だったんだよ」
あのまま気を失ってしまいそうな勢いだったからな。さっきまでの状態に苦笑いしていると、ハーデンベルツ夫人は真剣な表情を浮かべて俺を見てくる。そして
「……殿下の今の体では、今回のような限界近くの魔法の発動は後3回が限界でしょう。1回目は今回と同等程度の疲労で済みますが、2回目で手足が痺れて体に違和感を感じるはずです。そして3回目で体のどこかの機能が止まるでしょう。四肢のどれか、五感のどれかならまだいい方でしょう。しかし、臓器の機能、それが心臓ならばまずは助かりません。
殿下。悪い事は言いません。二度と今回のような使い方をしないと誓ってください」
有無を言わさない雰囲気のハーデンベルツ夫人。この人は兄上との確執など関係無く、国の貴族の1人として真剣に心配してくれている。未だに昔からの評価があまり変わっていない俺に対してだ。その事を嬉しく思うが、夫人に対する答えは決まっていた。
「それは絶対に誓えない」
俺は真っ直ぐに夫人の目を見てそう言った。夫人の表情は変わらないが、身に纏う雰囲気が変わった。肌を刺すような圧が俺に降り注ぐ。
「何を馬鹿な事を言っているのです? このまま使い続ければあなたは死ぬかもしれない。それなのにまだ使うと言うのですか!?」
「それがどうした? 目の前で仲間が危険な目に遭っているのを助ける力を持っているのに使わないわけないだろう。それでいくら自分の体を酷使しようともな」
目の前で起きている仲間の危険を助けられずに、未来のセシリアの命を救う事なんて出来るかよ。俺は視線を逸らす事無くハーデンベルツ夫人と視線を交わす。
暫く見合う俺とハーデンベルツ夫人だったが、ハーデンベルツ夫人は、はぁ、と溜息を吐きながら首を横に振る。
「……そういう頑固なところはメリセからしっかりと受け継いでいるのですね」
呆れたように呟くハーデンベルツ夫人。年齢的に母上と近いか同じぐらいなので知り合いなのだろう。どうやら俺は母上と同じぐらい頑固らしい。
「……わかりました。殿下に何度言っても意味は無さそうなので、別の案を考えます。明日、私の屋敷へと来てもらえますか?」
そして唐突にハーデンベルツ侯爵家の屋敷に招待された。まあ、模擬戦の次の日は休みで明日から3連休だから問題は無いのだが。
「構わないけど、どうして?」
「殿下はいざとなれば先ほどのように限界近くまで力を使う。その意志は変わりませんね?」
「もちろんだ。必要になった時は躊躇わず使うつもりだ」
俺は躊躇いなく答える。この事に一々戸惑ってなんかいられないからな。そして、その言葉を聞いたハーデンベルツ夫人は困ったような、それでいて少し嬉しそうに笑みを浮かべる。
「しかし、今のままでは先ほど私が言ったように、殿下の体が使い物にならなくなってしまいます。ですので……ある程度魔法に耐えれるようになるまで私が鍛えましょう」
「剣聖と言われている夫人自ら? 俺としては有り難いのだが、迷惑では無いのか?」
ゲームの中でもハーデンベルツ夫人は弟子を取らない事で有名だった。息子であるリグレットに教えている以外では、弟子が1人だけのはずだ。その人はゲームでは性別も名前も出てこないのでわからないが。
「大丈夫です。それよりも殿下の体に障りがある方が問題です」
「……わかった。それならよろしく頼む、ハーデンベルツ夫人」
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