悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

48.解決後の問題

「くそっ! ガキどもだけじゃなくて血濡れ狂人ブラッディバーサーカーもだと!? この女、話しやがったな!」


 俺たちが現れた事にキレるリーダーのような冒険者の男。男が指示して他の冒険者たちは森から現れたレイチェルさんたちに対抗しようとする。


 だが、普通の冒険者たちに、レイチェルさんの相手は厳し過ぎだった。レイチェルさんの大剣は、防ごうとする冒険者の剣や盾ごと切り裂いていくのだ。


 それに、クロエやエレネにエンフィも強い。クロエが宙に舞う刀を自由自在に動かして冒険者を倒し、エンフィが弓でサポートをする。その2人を守るようにエレネが絵で描いた犬を自分たちの周りに数頭置いている。冒険者の中を走り回っている犬もいるが。


 テルマとバールはセシリアとシスターたちの元へと向かった。まずは彼女たちを保護しなければならないからな。側にはシェイラさんもいるから大丈夫だろう。


 少し出遅れた俺は、指示を出す冒険者たちのリーダーの元へと向かう。冒険者たちは少しずつ数が減っていっているが、リーダーがいる限り折れないだろう。


 森を囲うように配置していた影たちの半分を消してリーダーの男の周りに再度発動させる。リーダーの男は突然現れた俺の影に、驚きながらも剣を抜き対応していく。そこに俺も混ざる。


 影の相手をしている男の横腹へと剣を振り下ろすと、男は慌てて剣で防いで対応してくる。反応は速い。オーバードライブ、オーバーソウルをしている俺の速度に反応するのだから。こんなくだらない事をしなくても、冒険者として稼げる実力があるのに。馬鹿な奴だ。


「くそっ、今回の依頼は簡単だと言っていたはずなのに!」


 リーダーの男は怒りながらそんな事を叫ぶ。依頼だと? この男じゃなくて、誰かが今回の誘拐を企てたのか? その事を俺が尋ねようとした瞬間、影の剣がリーダーの男を貫いた。


 男は痛みに顔を顰めながらも、体を貫いた影の首を切り落とす。しかし、別の影が背後から男の背中を切り裂き、横から脇腹へと剣を突き刺す。


 ……しまった。男に尋ねようとする前に、影たちへの命令を変えるべきだった。男は血反吐を吐きながらその場に倒れてしまった。既に事切れてしまっている。


 ……仕方ない。当初の目的は果たせたんだ。周りを見れば既に半数近くの冒険者が死に、もう半数は武器を地面に放って降伏していた。今は1箇所に集めて、周りを絵の犬たちで囲んでいる。俺も残りの影をそこへと向かわせる。


 シスターたちの方も大きな傷も無く、大丈夫なようだ。子供たちは誘拐されてから何も食べさせられていないらしく腹を空かせていたが。


 ただ、ここで1つ失敗した事に気が付いてしまった。子供たちを街に連れて帰るまでの足が無いのだ。


 俺たちは森から離れたところに気が付かれないように馬車を置いているが、当然子供たち全員は乗せられない。ましてや、捕まえた冒険者たちもいるのだ。彼らは歩かせても良いとしても、足りない。どうしたものかと悩んでいると


「ジーク様、ここはお任せ下さい」


 と、シェイラさんが言ってくれたのだ。どういう事なのかと思ったら、シェイラさんの魔法、結界魔法で子供たちや冒険者たちを囲ってくれるという。そうすれび、魔物の危険は無いと言う。


 食事も冒険者たちの保存食があるので、それを子供たちに食べさせれば良いと言う。


 それじゃあ、シェイラさんに寝ずの番をさせる事になってしまうのでは? と、尋ねると、シェイラさんは数日寝なくても大丈夫な訓練をしているため、大丈夫です、と。どんな訓練だよ、と思わなくもないが、聞くのが怖い。


 本当なら俺たちも残るべきなのだろうが、当然今日も授業がある。森にはシェイラさんとレイチェルさんが残ってくれる事になったので、テルマの御者で、俺たちは帰る事にした。テルマにはそのまま馬車と兵士を連れて森に戻ってもらう事になっている。


「……ジーク様、ありがとうございました」


 馬車の中の帰り道。みんな、疲れて寝静まった中で、セシリアが俺を見てそんな事を言ってくる。


「……今回は運が良かった。シェイラさんがいたおかげで戦うときも、その後も無事に行けたけど、一歩間違えれば、セシリアやシスターたちは死んでいたし、終わった後も、未だに森の中だっただろうし。俺の考えが甘かったよ」


「それでも、シェイラ様を連れて来てくださったのは、ジーク様です。ジーク様でなければ誰も助からなかったです。本当にありがとうございます」


 セシリアは、自虐的に笑う俺の手を握って、笑みを浮かべながら礼を言ってくれた。その笑顔を見た俺はドキッとしてしまったが、俺は素っ気なく返す。


 今回は特別とはいえ、兄上の婚約者であるセシリアと一緒の馬車に乗っているのだ。馬車の中は俺たちだけだが、誰がどこで聞いているかわからない。


 まあ、その事に気が付いているセシリアは、文句を言う事なく、笑みを浮かべてくれるのだが。俺はこの笑顔を守れただけでも良い。そんな事を思いながら馬車に揺られて帰るのだった。


 ……ただ、それで、話は終わりではなかった。学園の中で、今回の事件についての噂が流れたのだ。それも、セシリアが悪いように。


 今回の誘拐の事件が起きたのは、セシリアが関わったせいだと。そのような噂が学園中に広まったのだ。それに反して、俺に対する評価は上がったのだが、俺は納得出来ないまま、日々が過ぎるのだった。

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