悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

24.朝食の話し合い

「うふふ、ほら、旦那様、あーん」


「あ、あーん」


 衝撃の事実を教えてもらった翌日の朝。朝食の準備が出来たと言われて言われた席に座ると、隣には甲斐甲斐しく俺を世話しようとするクロエが座っていた。


 俺が自分で食べられると言っても、頑なに諦めなかったので俺の方が折れる形となった。夕食の時は何も無かったのだが、翌朝からこうなるとは。


 昨日のうちにメルティアたちには俺に婚約者が出来た事は既に話していたけど、まさか、向こうがこれほど積極的だとは思わなかったのだろう。今も目を丸くして俺を見ていた。


「……これは、本当にグルディス殿下たちとは正反対ですな」


「昔からこうなのですよ。好きになった相手にはああして尽くそうとするのですが……それがいつも行き過ぎるのですよね。昨日のように。それのせいで、いつも婚約は解消されて」


「それはまた……」


 容姿端麗で尽くしてくれる女の子なんて早々いないだろうけど、昨日の様子を見ると、確かに普通の子だと耐えられないかも。俺は前世のおかげでこういう人がいるのを知っているから大丈夫だけど。


「旦那様ぁ」


「な、なんだ、クロエ」


「私、子供は女の子2人、男の子が1人欲しいですわ」


「ぶほっ!?」


「旦那様はこのまま公爵としてお義兄様をお助けになると思います。私は子供たちと旦那様のお帰りを待ちながら、子供たちには色々と教えたいのです。何が良いでしょうか? やっぱりこのご時世戦えるのは必須ですから武術は当然ですね。私は勿論の事、旦那様も戦えると聞きます。2人で子供たちを楽しく教えたいです。あっ、旦那様は魔法も得意で魔導書も読めると聞きました。もしよろしければ子供たちには読み方を教えてあげて欲しいです。それから……」


「ま、まって、待つんだ、クロエ」


「……? どうされたのですか、旦那様?」


 ……あー、さ、先の事を考えるのは良い事だが、今は今の事を考えよう」


「それもそうですね。旦那様と愛を育みませんと」


 ニコニコと笑みを浮かべるクロエ。笑顔は可愛い。可愛いのだけど……中々の子だな。チラッと宰相の方を見ると、苦笑いで俺を見ていた。宰相ですら、驚かせるクロエ。とんでも無いな。


「全くクロエは少しは落ち着きなさいよ」


「ごめんなさい、叔母様。旦那様が良い人すぎてつい」


 頬に手を当てながら照れるクロエ……ん? 叔母様?


「あの、ミエーラ叔母さん。叔母様って?」


「ああ、殿下には説明していませんでしたね。クロエは私の旦那の妹さんの娘になるので、本当の私の子では無いのですよ。勿論クロエも知っている事です。私の旦那や旦那の妹夫婦は数年前に起きた魔物の氾濫で命を落としました」


「あれは酷いものでしたな。あまりにも突然の事でどの領地も対応が遅れてしまい被害がかなりのものになってしまいました」


 ミエーラ叔母さんと宰相の言葉に顔を暗くさせるエンフィ。まさか、エンフィのお母さんが亡くなったのってその氾濫のせいか。


 そういえば、ゲームの中でも僅かにだけど話になったな。確かその氾濫って


「獣系の魔物が多かった事から『ビーストアウト』と言われるその氾濫は10近くの領地を襲い甚大な被害を出しました。それを抑えるために軍を派遣してようやく収まったのが氾濫が起きてから半年後の事でした」


 ビーストアウト……そうだ。そんな名前だった。そして、その時生まれて経験値を貯めた魔物が未来の魔王になるんだった。くそ、なんでこんな重要な事を忘れてたんだよ、俺は。


「そんな事もあって、私は旦那の跡を継いで伯爵になって、独り身になってしまったクロエを私の子として育てる事にしたのです。私の旦那の妹夫婦は私たちと同じ伯爵家だったので、血筋は大丈夫なのですが、あの性格が……」


 ミエーラ叔母さんの言葉に不安そうに俺を見てくるクロエ。


「そんな事はどうでも良い。彼女が俺に尽くしてくれるのなら、俺の持つ力で彼女を守るだけだ。それよりも、その氾濫の後って調べたりしたのか?」


「ええ、調べましたが、何処から発生したのかもわからず、偶発的なものだと判断されました」


 ゲームの中でも同じような回答だったな。少しでも情報がわかれば数年後の氾濫に対応出来るのだけど。氾濫の事について考えていると、俺の両頬を掴まれて、無理矢理首を動かされた。


 首がへし折れるかと思ったが、それを考える暇もなく次の展開が。俺へと迫るクロエの顔が。そして


「んちゅっ……れろ……あむぅ……」


 と、前世でも経験した事の無い情熱的なキスをされてしまった。またしてもあまりにも突然過ぎる事に俺も宰相も動く事が出来ずに、数十秒後ようやく動き出したエンフィによって、キスは止められたが、顔を紅潮させて、しな垂れてくるクロエを引き剥がす事は出来なかった。


「うふふ、もうもうっ、旦那様ったら! 私今世も来世もまた来世も、未来永劫旦那様に私は尽くします!」


 俺に抱き付いて頭をスリスリと擦り付けてくるクロエ。あれ? こんな好かれる事したっけ、俺?

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品