悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

20.拾い物

「ここなら誰もいないから安心してくれ……あっ、誰もいないからって何もしないからな。レイチェルさんもいるから大丈夫だ」


 俺は不安そうにする少女を王宮の中で母上が良くお茶会をするのに使う庭園へと連れて来た。他にはドレス姿のレイチェルさんとメルティアも一緒だ。


 周りは様々な色をした花が咲いている。貴族令嬢や夫人たちはこの周りの花々に目を奪われるが、少女は不安でそれどころでは無いようだ。


「あ、あの、わ、私をどうしてここに……」


「ん? 大した理由じゃ無いよ。君が他の令嬢たちに囲まれていたのを見たから助けただけだ。誕生会が落ち着くまでここにいるといいよ。ほら、座って」


 俺がそう言いながら椅子を引いて座らせると、少女は少し顔を赤くしながら座る。照れなくても良いのに……いや、怒っているのかもしれない。兄上みたいなイケメンじゃなくてフツメンにされて。


 少女を椅子に座らせてから次はレイチェルさんを座らせる。俺が椅子を引いてあげると、いつもと違って照れたように座る姿は中々のものだった。


 メルティアも同じようにしようとしたら、自分は侍女だから良いと断られてしまった。別にここだと誰も見ていないから良いと思うのだけど。


 いつの間にかわからないけど、メルティアが準備した紅茶とクッキーがみんなの前に置かれて行く。その頃にはようやく落ち着いた少女は、ようやく周りの花々ぬ目を向けられるようになっていた。


「あっ、そういえば君の名前は?」


 ここに来るのに意識し過ぎてすっかり名前を聞くのを忘れていた。だから、レイチェルさん、そんな呆れたような目で見ないで下さい。忘れていただけなんですよ。


「あっ、し、失礼しましたジークレント殿下。わ、私の名前はエンフィーラ・リンドークです。父が男爵の地位にいます。年齢は同じ9歳になります」


「エンフィーラね。エンフィって呼ぶね。君のお父さん……リンドーク男爵は?」


「お父様は、寄親の貴族の方のところへと行っています。私は行っても邪魔にしかならないので待っていたところ、他の方に囲まれてしまって」


「なるほど。お母さんは?」


「……お母様は私とお父様を魔物から守るために亡くなりました。そんなお母様をあの人たちは……私とお父様を守るために勇敢に戦ったお母さまの事をっ!」


「……辛い事を思い出させてしまったな。ごめん」


「いえ。こちらこそ大きな声を出して申し訳ございません」


 一気に静かになり気不味い空気が俺たちの中に流れる。こ、これは失敗した。この辺が俺が前世でもモテなかった理由なのかもしれない。だから、レイチェルさん、そんな睨まないでって。俺が悪いから。


「そ、それよりも殿下はこんなところにいてよろしいのですか? 誕生会を抜け出して」


「少しぐらい構わないよ。どうせ今日の主役は兄上とセシリア嬢だ。みんながそっちに注目しているだろうしね」


 とは言ったものの、この子をどうしようか。このまま戻ってもさっきと同じように囲まれて終わりだ。


「……エンフィーラといったかい。あなた、精霊魔法が使えるね?」


 どうしようと考えていたら突然レイチェルさんがそんな事を言ってきた。その事にビクッと震えるエンフィ。精霊魔法って確かエルフの中でも特別に精霊の声が聞こえる人しか使えないやつだっけ?


「あなたの魔力には2つの魔力があるのがわかる。昔エルフの者も争った時にも似た魔力を持った者と出会った事がある」


 へぇ、そんな経験があるんだ。精霊魔法か。一体どんなものなんだろう? どんなのか想像していたら、暗い声が聞こえて来た。


「……レイチェル様の言う通り私は精霊魔法を使えますが、私はハーフだからかエルフほどは使えません。私は中途半端です。エルフにもなり切れずエルフの村には入れてもらえず、人間にもなり切れず、私のせいでお母様が蔑まれて……」


 あらら、また暗い雰囲気に。今度は俺がジトっとレイチェルさんを見ると、レイチェルさんはバツが悪そうに顔を背ける。へへ、やり返してやったぜ。


 だけど、誰からも認められない女の子か。そこだけは俺と似ているな。俺も記憶が戻って2ヶ月、頑張っているつもりだが、まだまだ蔑まれたままだ。どうしたものか……あっ、そうだ。


「エンフィは字読める?」


「えっ? 字ですか? 字はあまり得意ではなくて。今も勉強しているのですが、家があまり裕福でなく先生も雇えないので独学なのですが……」


 おおっ、これは教えるチャンスじゃないのか! 俺の字の読み方はメルティアには教える事が出来なかったからな。もしこれでエンフィが読み方を覚えられたら、未来のための投資になる。


「それなら、俺が教えてあげるよ。勿論2人っきりってわけじゃなくてメルティアもいるから安心して。レイチェルさんもいるときはあるし。その代わり、俺の侍女として働いてもらう。勿論賃金は出るから。いける、メルティア?」


「はい、王妃様よりジーク様の侍女については私が一任されていますので大丈夫です」


「それは良かった。それでどうする?」


「……お願いします! 私、字を読めるようになったら魔導書を読みたいのです! 我が家に伝わる魔導書を読んで完璧な精霊魔法を使えるように!」


 ……ほう、それは益々教えるべきだな。そして、俺も魔導書を見せてもらおう。


「なら、決定だな。よろしくエンフィ」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして、俺の侍女にエンフィが加わる事になった。誕生会は母上に途中で抜け出した事をバレて怒られてしまったが、それを差し引いても良い拾い物をした。

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