悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

5.国について

「これがこの国の歴史の本で、こちらが周辺諸国が簡単に書かれた本、そして魔法の初級の本に、今年作成された貴族名鑑です」


 俺は渡された国の歴史の本をパラパラっとめくって読んでいく。……よかった。内容はゲームで知った内容と変わらない。周辺諸国の方も変わりがないようだ。


 アルフォール王国は建国してから400年近く経つ王国だ。周辺諸国の中では大きい方で、人口が400万近くの国になる。


 この国は国王をトップに武官のトップの将軍に文官のトップの宰相が置かれている。どちらも侯爵家であり、そこに後3つの侯爵家と1つの辺境伯家を合わせた六大貴族が国王である父上の次に実権を持っている貴族になる。


 そして、その六大貴族のうち、悪役令嬢が生まれる家、バレンタイン侯爵家以外の貴族たちに加えて、兄上であるグルディスを含めた6人が、乙女ゲーム『マジカルサーガ』の攻略対象になる。


 ちゃんと攻略対象たちがいるか確認するため、貴族名鑑をパラパラと見ていくと、俺の名前や兄上の名前は当然載っており、他の攻略対象たちの名前も載っている。そして、彼女の名前も。


 ただ、彼女の名前がちゃんと載っている事にホッとしたけど、それも後9年ほどしかない。『マジカルサーガ』のストーリーが始まるのは学園の入学式からで、入学は12歳になる。そして、4年間の学園生活を経て、最後の断罪へとストーリーは向かっていく。


 その断罪イベントの後に、新たに生まれた魔王の進撃が始まるのが、彼女が卒業した年、17歳の年に始まるため、後9年ほどしか無いのだ。こう考えると前世で30近くまで生きた俺としては、あっという間だと感じてしまう。


「ジーク様、何かわからないところはありますか?」


『マジカルサーガ』のストーリーを軽く思い出していると、考え込んでいると思ったのかメルティアが尋ねてくる。


「この六大貴族の子息たちってみんな兄上や俺と同い年なんだよね?」


「ええ、その通りです。この国が始まって以来、どうやら六大貴族と王家のお子様が同じ年に生まれるのは初めてらしくて、それはもう大きく、盛大に祝われました。今後のアルフォール王国を背負っていく黄金時代の始まりだと。ただ……」


「ただ?」


「同じ年に生まれるなんて、そう遠く無い未来何かが起きるのでは? と、心配している方もいらっしゃいます」


「魔王が現れると言う話ですねぇ。ここ200年近くは、魔物の進化体である魔王は現れていないのも、そう言われる理由の1つです」


 メルティアの話に補足するようにンディバさんが教えてくれた。ここで魔王の話が出て来るのか。


 歴史を見ていくと、過去に現れた魔王はオークという人型の豚で、体長が2メートル近くある魔物で、その進化であるオークキングが王国を襲った時か。オークの数は10万近くになり、かなりの被害が出たようだ。


 その時、王家に六大貴族、そして、ある力を持つ1人の女性が力を合わせてオークキングを倒したっていうのが記録に残っている。まさに『マジカルサーガ』のような展開だ。


 そういえば、ヒロインの別の呼び名が『聖女』だったな。自分と攻略対象たちの持つ力を合わせることが出来、それによって魔王が倒せるんだっけ。


 ヒロインの名前は貴族名鑑には当然無い。それどころかどんな名前をしているのかもわからない。その理由は……主人公であるヒロインの名前は自分で設定しなければいけなかったからだ。


 ゲームをしている人の中には、自分を『マジカルサーガ』の中に投影したいっていう人もいるかもしれないという事で、ヒロインの名前は自由に変える事が出来るんだったな。


 聖奈がやっていたと思われるセーブデータには『セイナ』ってなっていたし。プレイ時間1時間も無かったしょぼいセーブデータだったけど。


 確か、何も決めずに進めようとしたらオートで『マリア』ってなるはずだったけど、よくよく考えれば、孤児院出身のヒロインがこの名鑑に載っているわけがなく。


 俺は読んでいた本を閉じて机の上に置く。色々と考える事はあるけど、概ねゲームのストーリーと変わらない事がわかったのは、中々の収穫だ。


 後残った本は魔法の本だけど、これは正直俺には役に立たないものだ。その理由が、俺には魔法適性が初歩的な生活魔法と強化魔法しかなかったためだ。兄上を妬んだ理由の1つだな。


 兄上は特別な魔法で雷魔法が使える。皆から賛辞される中で、俺の魔法適性はその生活魔法と強化魔法しかなかったのだ。


 流石に今はあまり気にはならないが、かなり兄上と比べられて来た俺は、この結果が起爆剤となって爆発してしまったんだったな。その結果、何もしなくなったんだった。今となっては後悔しかないけど。


 一応どのような魔法が今あるかを確認するために中を見ていくが、ゲームで出て来た魔法と変わらない。ゲーム内で出て来る初級の魔法が載っていた。


 せっかくファンタジーの世界に来たのだから魔法を使って見たいという気持ちはあるが、使えないものを強請っても仕方ない。生活魔法などが使えるだけで十分だ。


 取り敢えず、俺が欲しかった簡単な情報は手に入れる事が出来た。この世界がゲームの内容と殆ど変わらない事が確認出来ただけでも大収穫だ。これで、この世界で俺が生きていく目標が出来た。


 まずは、学園入学序盤、ゲーム序盤辺りで消えないようにしないと。ゲームの中だと兄上に負けた後は一度もストーリーに出て来ないとなると、一生王宮に幽閉されているか殺されたかのどちらかだろう。そうならないようにするためにも上手く立ち回らないと。


 ……こんな事ならゲームの人物相関を見ているんだった。あれにはゲーム後の話なども載っていたから、俺がどうなったのかも書かれていたのに。


 それから、この弛んだ体をどうにかしないと。ゲームの中だとこの倍ぐらいに肥えていて悲惨なものだったからな。それに、最終目標を達成するためにも強くならないと。


 最終目標、悪役令嬢を死なせない事を達成するためにも。でも、これはまだ確定じゃない。まだ、彼女に実際に会っていないからだ。ゲームの画面では見たけど、実際に会って話して見ないと感じ方が変わるかもしれない。ただ、俺は必ず悪役令嬢を助けるだろうと確信があった。どうしてかはわからないけど。

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