黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

246話 新たな問題と楽しい夜

「……魔天装」

 俺はいつものようにシュバルツを右手に持ち、魔力を流そうとする。しかし、何かがせき止めているかのように、途中で詰まったような感覚があり、体に上手い事魔力が流れない。

 ……やっぱり、あれが原因だよなぁ。俺は星が輝く夜空を眺めながら、頭をガシガシとかいていた。

 死竜を討伐してから5日、俺たちアルバスト軍は、レグナント殿下とフローゼ様、その護衛のトルネス軍と共に王都に向けて帰還していた。

 アルバスト軍を全員は連れて行かなかったため、怪我人は残して、動ける者を半分に分けて、半分は死竜の瘴気に誘われてやってきた魔獣を倒す班と、俺たちと共に王都に向かう班に分かれた。

 今日は王都の手前の町で止まり、明日の昼頃には王都に着く予定となっている。俺はその町の宿屋の屋根の上に登っていた。

 理由は、今行っていた事だ。死竜を倒したあの日から、魔力の流れが悪くなったのだ。まるで何かが詰まっているかのように流れがせき止められて。

 原因として考えられるのが、姉上の魔力をもらった事だ。確か、合わなければ、その後の魔力操作に影響が出るって姉上は言っていたよな。うーん、あの時は合うと思っていたし、最後はあれのおかげで死竜を倒す事が出来た。

 あの行為を行う事に全く後悔はしていない。もう一度あの状況になれば、俺は迷う事なくお願いすると思うし。

 しかし、どうしたもんかねぇ。普通の纏は出来る。魔闘装、魔闘眼、魔闘拳、魔闘脚も出来る。だけど、それ以上の力を出そうとしたら詰まってしまうのだ。

 魔天装は勿論の事、魔闘装をして魔剣たちの力を引き出す事も出来なくなった。普通のゴロツキや魔獣相手なら何とかなるが、それ以上になると厳しくなる。

 何とかしたいものだが、どうすればいいのか全くわからん。俺が1人でうんうんと考えていると

「レディウスしゃま〜、どこでしゅか〜?」

 と、俺の部屋からふにゃふにゃした声が聞こえて来た。この声はロナだが……えらくふにゃふにゃしているな。俺はシュバルツを鞘に戻して、窓から部屋へと戻る。俺の部屋が3階だから出来る事だな。

 部屋に戻ると、酒瓶を持ったロナが顔を赤くしてニコニコと立っていた。その後ろには同じように顔を赤くしたクルトと確かアルテナだったか、彼女がいて、そして

「……お邪魔するわね?」

 と、姉上もいたのだ。ここのところずっとお酒類は非常時のため禁止されていたのだが、明日には王都に着くという事で、明日に残らない程度には飲んでもいいとレグナント殿下から許可が出たのだ。そのため、みんな飲んでいたのだろう。

「も〜、レディウス様が全く降りて来にゃいから、こっちから来ちゃいましたぁ〜」

 そう言ってふらふらと歩いてくるロナは、ボフっと俺に抱き付いて顔を擦り付けてくる。しかし、すっかり酔ってるな。どれだけ飲んだんだよ?

「済まねえ、兄貴。どうやら俺らと久し振りに話すのが楽しかったようで、飲むのが早くて。それに、俺も注いじゃって」

「……まあ、今から寝かせれば明日の朝には酔いも覚めるだろう。ほら、ロナ。こっちに来い」

「にゃぁ〜、レディウス様のいい匂い〜」

 ふらふらと抱き付いて顔を擦り付けてくるロナを抱き上げて、俺のベッドへと寝かせる。少し俺の服を掴んで離さなかったが、頭を優しく撫でると、嬉しそうに笑みを浮かべて眠ってしまった。ったく、この子は。

「ロナは寝ちまったが、俺たちで飲もうぜ、兄貴!」

「そうだな。久し振りに飲むか」

 俺は部屋にある机に別のところにあった椅子を持って来て、みんなを座らせる。食べ物などはクルトたちが持って来てくれたようなので、俺は食器やグラスを準備。

 殿下がグレードの高い宿屋に泊まらせてくれたおかげで食器などが部屋に常備されている。普通は盗まれたりするから置いていないんだけどな。

 それからみんなでワインやエールを飲みながら様々な話をする。話す内容はやっぱり今までの事が多いな。俺は戦争の事を中心に、クルトは仕官した事を中心に話していく。

「アルノード伯に不躾なお願いがあるのですが、もし良かったら私やクルトが習った烈炎流の道場に来てくれませんか!? アルノード伯程の実力者なら師範も大喜びですよ!」

「そうだぜ、兄貴! でも、あの烈炎流の奥義カッコよかったな!! あのロックドラゴンを一撃だもんな!」

「そうです、そうです! それに、烈炎流だけでなく、他の流派もかなり高段とお見受けいたします! 是非とも来て頂けたら!!」

「……はは、明日の謁見が終わって落ち着いたら向かわせて貰うよ」

 俺の言葉にハイタッチするクルトとアルテナ。よほど嬉しいのか酒の飲むスピードが上がったぞ。

 その後は飲むスピードが上がって酔い潰れたアルテナ……ではなくてクルトを担いでアルテナは部屋を出て行った。ロナ、クルト、2人揃って弱いんだな。

「ふふ、楽しかったわね」

 部屋に残ったのは必然的に俺と姉上だけで、2人で残骸を片している。

「すみません、姉上。片付けを手伝わせてしまって」

「別に構わないわよ。家じゃあ慣れているしね」

 確かに、食器などを片付ける姿は板についている。逆に俺は侍女やロナがしてくれていたから、少し手際が悪い。

 しばらくたわいの無い話をしながら片付けをしていると

「……レディウス、少しいいかしら?」

 と、改まって姉上が話しかけて来た。俺が姉上の方を見ると、俺を見て下を見て俺を見てと繰り返していた。何か迷っているような様子だ。そして

「……時間がある時に会って欲しい子がいるの」

 と、言って来たのだった。

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コメント

  • ハジメ

    早く続きが読みたいです!
    これから更新されるのを楽しみにしてます!
    頑張ってください

    3
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