黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

243話 死竜討伐戦(5)

「ギィガァ!」


 死竜の咆哮と共に伸びてくる触手。1本の触手が先端で枝分かれし、幾多にも増えて俺へと向かって来た。だが、俺はそれに対して何かをしようと動く事は無く、真っ直ぐと死竜へと向かう。


 その理由は、後ろから俺の周りを守る様に飛ぶ火球を操ってくれている姉上がいるからだ。俺に向かって伸びてくる触手に向かって動かされる火球。10はある火球を姉上は器用に動かして、迫る触手を焼き払っていく。


 そのおかげで俺は触手を気にする事なく進めるのだが、死竜からすれば自分の思う通りに行かず腹が立つことだろう。現に触手が焼かれる度に唸り声を上げて睨んでくる。


 しかし、死竜は姉上に向けて触手を伸ばす事は無かった。理由は目の前に俺が辿り着いたからだ。死竜は俺から目を離す事なく睨んで来て、巨大な腕を振り下ろして来た。


 人間なんか容易く踏み潰せるほど大きな前足が俺目掛けて振り下ろされてくる。俺はその前足に向かって風切を放つ。魔天装した風切でも微かに死竜の前足を傷付けるだけで、怯ませるどころか、勢いを減らす事も出来ない。


 まあ、それは予想出来ていたので、振り下ろされる前足を避ける様に横に飛ぶ。ズドォン! と、音を立てて振り下ろされる右前足を避けた俺は、その前足に向かってシュバルツを振り下ろす。


 消滅の効果を付与されているシュバルツの剣身は、死竜の鱗を殆ど抵抗感じる事なく切り裂いた。腕の半ばまで切り裂いたシュバルツを、切り返す形で下から切り上げる。


 振り下ろした際に出来た傷と斜め十字に交差させる様に切り上げたシュバルツは、再び死竜の前足を傷付けた。


 普通の相手ならこの大怪我をすれば痛みに叫び怯むのだが、相手はアンデッド、痛覚が無く痛みを感じる事がないため、死竜をそのまま前足を俺の方へと横に振って来た。


 せっかく作った傷も直ぐに治っていく。もうアンデッドを食べてはいないのだが、自身の体につけたアンデッドの肉片を傷を治すのに使っている様だ。


 横に振られる前足を避けながら、その傷を眺めていると、死竜に向かって炎の槍が飛んで行く。姉上が放った物だろう。火球とは別に放たれた炎の槍は、器用に叩き落とそうとする触手を避けて死竜の顔や首の辺りへと被弾する。


 痛みは無くとも煩わしいのか吼える死竜。姉上が放った炎の槍はかなりの高温を誇っているのか、死竜の傷が治っていかない。元々弱点っていうのもあるのだろう、かなり効いている。


 死竜は早く俺を殺して、姉上の元へと向かおうと翼をはためかせ、風の刃を放ってくる。瘴気で黒く染まった風の刃が幾つも放たれるが、俺は相殺させる様に風切を放つ。


 同時に触手とは別に三尾に増えた尻尾も俺に向かって伸びて来た。姉上が同じように火球を動かすが、触手よりも強度が高いのか、吹き飛ぶ事なく逆に火球を貫いてしまった。


「ちっ、明水流、矢流」


 俺は迫る風の刃を避けながら、突き刺そうと伸びてくる尻尾を魔力を使い上手く逸らす。しかし、明水流が苦手な俺は、他の流派を使うよりも集中しなければなくなり、魔力の消費も増える。


 姉上の援護があるが、死竜は自身の質量に物を言わせて突っ込んでくる。くそ、1番やられたくない事だ。ただでさえ巨大な竜なのに、傷を恐れずに突っ込んでくるのだから。


 俺は尻尾を避けながら距離を取るために、死竜の周りを右側へと回り込む。死竜は俺を追うように右側へと体を向けながら突っ込んでくる。


 姉上はかなりの速さで走る死竜の足元目掛けて火球を幾つも放つ。何故そんな場所に放つのか? 少し疑問に思ったが、次の瞬間、死竜が体勢を崩して横転した姿を見て納得した。


 馬車でもかなりの速さで右回りしながら走っている途中に躓いたり、溝にはまったりすれば横転する。それに似たような事をしたのだろう。


 勢い良く横に横転した死竜を見ながら俺は距離を取った。今の内に近付こうと思ったのだが、死竜の触手が自分の体を守るように辺りに不規則に振り下ろしていたため近づく事が出来なかった。


 これで振り出しに戻ってしまったのだが、このままじゃあジリ貧だ。どうすれば……そう考えていると、姉上が俺へと近づいて来た。


「このままじゃあ押し切られるわね」


「ええ、どうにかして突破口を見つけなければいけないのですが、このままでは俺の魔力が先に尽きてしまいますね」


 やはり、魔天装の魔力の消費は激しい。以前よりはかなり時間は伸びているのだが、今日はかなりの時間使っている。このまま長引くようなら、俺は一旦ここから離れなければならない。魔天装無しではこの瘴気には耐えられないからな。


「……そう。それなら、1つ試してみない?」


 そんな事を考えていたら姉上がそう言って来た。俺は分からずに姉上を見ていると


「私の魔力をレディウス、あなたに渡すわ。その魔力を使って頂戴」


 と、言って来たのだ。しかし、俺は眉を顰める事しか出来なかった。今まで魔力の受け渡しが出来るなんて聞いた事が無かったからだ。


「全く出来ないわけじゃないのよ。これには相性があってね、合わなかったら毒になってしまうの。少しでも合わなければ、その後の魔力操作に支障をきたすから、やる人がいなかったの。でも」


「今はそんな事を言っている暇はないか」


 このままやっても、さっきと同じようになってしまうのだろう。それなら少しでも可能性がある方にかけた方がいいのか?


「それに、私はレディウスとの相性は悪いとは思えないわ。半分とはいえ血の繋がった姉弟。私は合うと確信している」


 真剣な瞳で俺を見つめてくる姉上。……そこまで言われたら俺も迷っていられないな。何より、俺だって姉上との相性が悪いとは思えない。


 俺がニヤリと笑みを浮かべて頷くと、姉上は頷くと同時に俺の手を握る。そして、姉上の柔らかい手から暖かい魔力が流れてきた。初めは俺の魔力と反発をしたが、混ぜるように合わせていくうちに、俺の体へと馴染んでいく。


 暖かく、燃えるような魔力が俺の魔力と混ざっていく。俺の心配をよそに呆気なく受け渡された魔力は、俺の魔天装と混ざって、黒く燃え上がる炎へと変わっていった。


「はぁ……はぁ……ほらね?」


 急激に魔力が減ったせいか、顔を青くする姉上。しかし、見惚れるほど綺麗な笑みを見せてくれて俺も笑みが浮かぶ。


「ありがとう、姉上。後は任せてくれ」


 俺の言葉に頷く姉上。俺はそのまま振り返り、暴れようとする炎を押さえつける。辺りを焦がしていた炎は元の魔力の持ち主である姉上を燃やす事なく、俺の意志で鎧と変わる。


 この姿、どこかで見た事あると思えば、師匠が俺に見せてくれた魔天装が火属性の魔天装だったな。まあ、あれは俺の黒い炎とは違って、炎らしい炎だったが。あれから名前を貰って黒炎帝と名付けよう。


 ただ、慣れないせいかそこまで長くは持たないと思う。一撃で決めるしかない。黒炎をシュバルツに纏わせて、死竜へと向かう。


 横転から立ち上がった死竜も先程も同じように俺へと迫って来た。同時に伸びてくる触手は、体へと纏わせている黒炎で燃やし尽くす。


「旋風流奥義……」


 そして、シュバルツの先端に黒炎を集める。死竜は俺を叩き潰そうと前足を振り下ろしてくるが、その前足毎、貫く!


「死突黒豪!」


 神速の突きで放たれた黒炎は、死竜の前足を貫き、そのまま死竜の頭を貫いた。それと同時に貫いた箇所から黒炎が発火し、死竜の体を燃やしていく。


 俺はそのまま、魔力の限る限り、黒炎で大地を焼いていく。瘴気をこのままにはしておかないからだ。しばらくは焼け野原になってしまうが、瘴気によってアンデッドが現れる土地になるよりはいいだろう。


 俺は一気に体を襲う疲労感でその場に座り込む。遠くから鳴り響く歓声を背に受けながら、燃える死竜を眺めるのだった。

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    《告。エクストラスキル、黒炎を獲得、成功しました。》

    2
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