黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

237話 再会

「ここに、フローゼがいるんだな?」


「はい。ここを死竜を迎え撃つための場所と定めて準備をしております」


俺たちがトルネス王国へ入って3日が経った頃。最前線で死竜を見る事が出来、そこで戦っていた軍を助け出す事が出来た俺たちは、その軍と共にある街へとやって来た。


この軍を率いる隊長、エレオン子爵が指差す先には、かなりの馬車の出入りのある街があり、そこで死竜たちを撃退するという。その街の中にはフローゼ様もいらっしゃるようだ。


ここは、王都や周辺の地域で万が一魔獣の反乱や、戦争になった場合の時の前線の基地になるよう作られた街だそうだ。これが東西南北に1箇所ずつあるようで、今回はこの街が選ばれている。


街というよりは砦に近く、外壁は二重になっており、投石機やバリスタなどが設置されている。それに矢や非常食などの備蓄もされているようで、かなり長い間戦えるようだ。相手が普通なら。


今回はその普通に当てはまらない死竜が相手だ。空飛ぶ死竜に投石を当てる事は難しいので、地上を歩く魔獣を狙う事になるだろうし、バリスタが死竜の鱗を貫けるかどうかだ。


対峙しただけでとてつもない圧を感じた死竜。あのレベルの魔獣は戦った事がないな。ロックドラゴンでもあそこまでじゃなかった。


……そういえば、ゼファー将軍もドラゴンの魔石を使って獣人になっていたな。あの時の圧に似ていた。人型のドラゴンのようなゼファー将軍相手でかなり苦戦したのに、体長が10メートルを越す死竜だと、どうなる事か。


大きさがそのまま強さになるわけじゃないが、下手すればあの時のゼファー将軍以上の強さを持っているかもしれない。あの時でもギリギリだったが……


「それではアルノード伯爵、入ろうか」


「はい」


俺が死竜について考えていると、子爵からの説明が終わったのか、レグナント殿下がそう言って来た。兵士全員を入れる事は難しいかもしれないが、1枚目の外壁の中には入れる。アルバスト軍の体長に進む準備を指示して、俺とロナはレグナント殿下の後に続く。


ここに集まっている兵士は7千ってところか。他の国境などを減らすわけには行かないからな、これが限界だろう。それにアルバスト軍を合わせても1万2千ほど。


魔獣の数は3日前の時で5千程だろう。数はこちらより少ないと言っても、結局は死竜に左右されてしまう。あいつをどうにかしない事には今回の勝ちは無い。


「レディウス様、考え事ですか?」


そんな俺にロナが話しかけてくる。前を見ると大きな屋敷に着いた。かなりの兵士が出入りしているから、ここにフローゼ様がいるのだろう。


「あの竜について少しな。ここにフローゼ様がいらっしゃるのか?」


「そのようです。さあ、行きましょう」


ロナに促され俺も屋敷へと向かう。馬をブリタリス兵に預けて、レグナント殿下の後に続く。周りの視線は俺を値踏みするようなものばかり。中には敵意を向けてくるものもあった。まあ、黒髪の俺とロナがいれば、仕方ないのかもしれないが。


そんな視線を無視してレグナント殿下と進んでいると、話し合う声が聞こえてくる。男性だけでなく女性の声もだ。声のする部屋へと入ると、一斉にこっちを見てくる。そして


「どうして、あなたがいるの!?」


と、驚いた声を上げてレグナント殿下へと詰め寄るフローゼ様。服装は前に見たドレスではなく、純白のローブを纏って、手には杖が握られており、魔法師の格好をしていた。パトリシアもそうだが、この方も戦闘が出来るのだろう。


「私だけ避難しているなんて出来なかった。だから、アルバスト陛下に頼んで援軍を出してもらったのだ。君には悪いと思っているが、許してほしい」


頭を下げるレグナント殿下を見て、これ以上言っても聞かないと感じたフローゼ様は頭に手を置いて溜息を吐く。そして次に俺を見てくるフローゼ様。


「あなたにも迷惑をかけます。ヴィクトリアからの手紙で子供が生まれたのは知っているわ。それなのにこんな危険な事に巻き込んでごめんなさい」


「気にしないでください。ヴィクトリアだけでなく、パトリシアの姉であるフローゼ様を助けに来る事は当然です」


「……ありがとう。それじゃあ、時間も無いからこのまま作戦会議を始めても良いかしら? 死竜をどうやって倒すか話さないと」


◇◇◇


「……さて、レディウス様たちのお話が終わるまでどうしましょうか」


レディウス様たちが死竜に対する対策について話し合っている間、私は待っていなければなりません。ただ、ここには私の他に知り合いはいません。それに、髪の色のせいで周りから疎まれているようですし、あまり動かない方がいいでしょう。


しばらく、レディウス様たちが話し合いを行なっている部屋の近くで待っていると


「黒髪の女がどうしてこんなところにいる?」


「誰かが呼んだ娼婦じゃ無いんですかねえ?」


と、2人の男が私を見て絡んで来ます。娼婦と言われた時にイラッとしましたが、話すのも面倒なので無視します。すると、それが苛立ったのか私の手を掴もうとして来たので、逆に掴んで捻ってやりました。


「ぐっ、いててて!」


「き、貴様!」


「女性に勝手に触れようとするからです。それに私はアルバスト王国軍を率いるレディウス・アルノード伯爵の補佐をしています。その私に剣を向けますか?」


私の言葉に戸惑う男たち。腕を掴んでいる男の手を離すと、慌てて私から離れます。男たちは悪態をつきながら去って行ってしまいました。


はぁ、ここに来て早速絡まれるなんて。早く会議終わってレディウス様戻ってこないかなぁ。そんな事を考えていたら


「……ロナか?」


と、私の名前を呼ぶ声が聞こえて来ました。この国で私の名前を知っている人なんていたっけ? と、思いながら、声のした方を向くとそこには


「クルト?」


3年ほど前にわかれたクルトが立っていました。

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