黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

220話 魔獣狩り

「これは、会員番号13番ではないか!」


 俺がアルバスト王国に帰るために、村の周りを魔獣の危険を減らすために討伐を始めてから数日が経ったある頃。


 これから毎日の日課である準備運動をしてから、結界の外の魔獣たちを倒しに行こうとしているところに、この村に来た初日に襲って来た会長たちがやって来た。あの時は4人だったが、今は人数が増えてやがる。しかも、聞き捨てならない言葉を言ったぞ。


「……なあ、今なんて?」


「ん? まだ何も言っていないぞ、会員番号13番よ」


「いやいや、その会員番号だよ。俺がいつの間に会員になったんだよ?」


 あまりにも突然すぎてびっくりしたぞ、おい。しかも、俺が尋ねるとなんで全員不思議そうな顔をするんだよ。


「な、何を言っているんだ、同志よ! ここに来てからずっと女神と一緒にいるではないか! くっ、羨ましすぎる! 我々は遠くから眺める事しか出来ないのに、同志は一緒の屋根の下で暮らしているのだから! あわよくばあの神秘のまな板を眺めているのだろ! ……どんな感じだった?」


 ……こいつら、危な過ぎる。それにどんなだったか聞こうと俺を囲むんじゃない! そして感じる殺気。会長たちの後ろを見るとそこにはいつも通り矢を構えるミレイヤの姿が。会長たちはまだ気が付いていない。


「そ、それでどうだったんだ? どんな感じの崖だったんだ?」


「馬鹿野郎、崖じゃなくて絶壁だろ? そこを間違えるんじゃねえ!」


「馬鹿はお前だ。聞くならどれぐらい痛そうだったか、だろうが。ああ、俺も女神様の胸で擦り下ろされたい!」


 ……や、やめろ、お前ら。俺を巻き込むんじゃねえ。て言うか、こいつら本当に無乳が好きなのか? 明らかに褒めているようには聞こえないのだけど。


 そして、会員の1人がミレイヤに気が付いた。その時のミレイヤの瞳には光が消えていた。そして何も言わないまま会長たちへと矢を放ち始める。


 会長たちは女神様! と、目をキラキラさせているけど……矢、刺さってないか? どうやら、好きなものの前では痛みすら超越するらしい。


 俺は会長たちをミレイヤに任せて結界の外に出る。あの感じだと矢が刺さっても死ななそうだしな。ミレイヤのストレス発散にもなるだろう。


 さてと、結界の外に出て今日もやっていくのだけど、この辺りはまあまあ狩ったからな。少し離れた場所を攻めてもいいと思う。


 しかし、何度も思うがこの結界は凄いな。この森の中を跋扈する魔獣たちを寄せ付けないのだから。これを維持するために発動者は結界の外に出られないという制限があるにしても、それでも十分凄い。


 そんな結界をながめていると


「何、村をジッとを見ているのよ」


 少しスッキリとした様子でミレイヤが結界から出て来た。少し右頬に血が飛びついているのが怖い。俺が無言で近づくと


「えっ? ちょっ、な、何!?」


 と、突然慌てる。ちょっと、動くなよ。拭けないだろうが。俺は動かないように右手で左頬に触れて、左手で頰についた血を拭う。顔を赤くして目を瞑っていたミレイヤがえっ? と不思議そうな声を出す。


「ほら、頰についた血が取れたぞ。全く、確かにあんな事を言う会長たちも悪いが、少しやり過ぎな気もするな」


 血が出るほどだからな。しかも、飛び散るほど。俺が苦笑いしていると、恐る恐る目を開けたミレイヤはぷるぷると震え出して何故か腹を殴ってくる。何故?


「もう、あいつらが悪いんだからいいでしょ。ちゃんと治療して来たし。それより! さっさと行きましょ!」


 慌てるようにして離れて行き、先に森へと進むミレイヤ。まあ、確かにあいつらが悪いから同情はしないが。俺もシュバルツを抜き、ミレイヤの後について行く。


「今日はどのあたりまで行く? 反対側とかは他の村のみんなが部隊を組んで減らしていってくれているから、もう少し奥に進んで見る?」


 いつでも矢を放てるように構えながら尋ねてくるミレイヤ。ミレイヤの装備は弓矢に矢筒、腰に短剣を差している。俺と同じ黒髪のため、魔法は使えないが、それでも十分強い。村の中で単独で結界の外に出られる数少ない戦士なんだとか。


「そうだな。少し進んでから、右回りに結界の周りを回っていこう。あまり奥に進んでも今度はこっちが危なくなるし。結界の効果が薄まる少しの間だけ大丈夫ならいいわけだから、そこまで進まなくてもいいんじゃないかな?」


「それもそうね……っと、早速お出ましよ」


 俺とミレイヤがどうするか話し合っていると、姿を現したのは、鋭い牙と爪を持つ魔獣、オルドロンだ。体調は3メートルほどで、虎のような姿をしているが、体に纏う風が厄介な奴だ。しかも、それが3体。


「オルドロンね。わかっているとは思うけど、風の爪には気を付けてね。触れるとあっという間に切り裂かれるから」


「わかっているさ。ミレイヤも気をつけろよ」


 俺はシュバルツを構えながら纏を発動する。3体のオルドロンは俺たちを囲むようにジリジリと迫ってくる。先手必勝だ。魔闘脚を発動し、真ん中のオルドロンへと迫る。


 左右のオルドロンは真ん中を走り抜けた俺に注意を引かれているうちに、ミレイヤが魔闘装した矢を放つ。風を纏っているため、刺さりは浅かったが、それでもオルドロンを傷付ける事が出来た。普通の矢だと、風に阻まれて刺さらないからな。


 真ん中のオルドロンは慌てる様子もなく腕を振るう。すると、爪からさっき注意を受けた風の爪を放って来た。


 俺は魔闘装したシュバルツで迫る風の爪を切り落とす。地面に叩きつけたため、地面に切り傷が残る。それを見る事なく俺はオルドロンへと迫り、シュバルツを振り下ろす。


 ガキンとオルドロンの牙で阻まれたが、左足で回し蹴りを放つと、オルドロンの右頬へとモロに入った。メキメキと音がしているため、オルドロンの歯が折れたのだろう。木を何本か薙ぎ倒していく。


 俺はその間にもう1体の方へと向かう。残りの1体を相手しているミレイヤに向かおうとしているからな。


「旋風流、風切!」


 風切を放つと、オルドロンは避けるために後ろへと下がる。そして、俺から距離を取ると風の爪を放ってくる。俺は爪の嵐を掻い潜ってオルドロンへと迫る。後ろで木が倒れる音が鳴り響くがそのまま進む。


 斜め下からシュバルツを振り上げると、オルドロンは頭を低く下げ、シュバルツを避けた。そしてそのまま噛み付こうと口を開けて跳んでくるが、右膝を振り上げる。


 グゥッ、と呻き声を上げるオルドロンにそのままシュバルツを振り下ろす。頭を左右に切り裂き、オルドロンを倒す。


 ミレイヤの方を見ると、ミレイヤは強化した矢と短剣を持ち、接近戦を行なっていた。オルドロンの右足はズタボロで、ミレイヤはそこを集中して攻撃したようだ。歩くのも辛そうだな、あれ。


 左目には矢が刺さり、既に満身創痍だ。あれならもう直ぐで倒せるだろう……と、思っていると、離れたところでオルドロンの悲鳴が聞こえる。さっき蹴り飛ばした奴だ。


 そこを見ると、新たに魔獣が現れており、傷を負ったオルドロンを襲い、捕食していた。あれは、ベアモンキーだな。見た目は猿なのに熊のように獰猛で力を持つ猿だ。


 1体1体が熊と同じぐらいの力を持つのに、小型で素早く、何より群れで襲ってくるから討伐ランクはAランク。個体でもBはくだらない。


 本当に、この森はいろんな魔獣がいるな。 

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