黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

閑話 黒色の番兎

 吾輩の名前はロポである。人間も名前を聞けば恐るファントムラビットであり、現在の飼い主であるレディウスの屋敷を守る番犬ならぬ番兎である。ただ今は


「あー、きゃははっ!」


「あうっ、あうっ」


 吾輩の両隣に寝転ぶ赤子たち。この子たちを見守る子守兎でもある。


 右側で吾輩の麗しいヒゲを引っ張るのは、母親と同じように透き通るような水色の髪を持つ少女。死にかけていたところ、この吾輩を助けて下さった方の孫娘である、ヘレネーの娘であるヘレスティアである。


 母親に似たのか好奇心旺盛で、吾輩が近づく度に吾輩のヒゲを引っ張る。そして、ヘレスティアは吾輩のヒゲを引っ張るのが嬉しいのか、笑みを浮かべる。ふむ、このような笑顔も母親にそっくりだ。


 そして反対側に寝転ぶのは吾輩をいつも極上に柔らかい胸元で抱きかかえてくれるヴィクトリアの息子で、セシルだ。あの胸は良い。どのように寝転んでも吾輩の体に合わせるかのように形を変えるのだ。ヘレネーでは少し足りぬからの。


 セシルはヘレスティア程では無いようだが、吾輩に興味があるようで、一定のリズムで吾輩の背を叩く。


 そして、2人ともそれが楽しいのか、きゃあきゃあと喜びの声を上げる。ふふっ、吾輩の素晴らしいヒゲと艶やかな毛に魅力されているのだろう。見る目があるぞ。


 ただ、遊びというのはやられっぱなしではいけない。吾輩も楽しまなければ。吾輩は右足を上げてヘレスティアの前へと持っていく。くくくっ、吾輩のもふもふの餌食にしてやる!


 ぽふっ


「うんきゃ!?」


 きゃあきゃあとはしゃいでいるヘレスティアの顔に吾輩のもふもふの足を置いてやった。くくっ、吾輩の足の毛はそれはもうもふもふだ。もふもふの前足でヴィクトリアの胸を何度踏んだことか。何度胸を踏んでももふもふのおかげで喜ばれるほどだ。これを味わってしまえば……


「あむっ!」


 ぬわっ!? なんだ、この生暖かい感触は!? 吾輩は謎の感触覆われる右足を見てみると、ヘレスティアが吾輩の右足を咥えていた。確かに赤ん坊の口でも入らない事は無いが、それでも咥えられるとは思わなかった。しかも噛んで来る。


 早く抜かなければ。そう思い腕を引き抜こうとした時、何故が体が宙に浮いた。その時に吾輩の足は抜けたのだが、下からは不満げに手を伸ばすヘレスティアが見える。そして


「おい、なに人の大切な可愛いヘレスティアの口に足突っ込んでるんだよ、この駄兎」


 吾輩の首根っこを掴んで睨んで来る、吾輩の飼い主レディウス。吾輩の事を駄兎と? よろしい、戦争だな? 受けて立とうではないか。そう思いレディウスを見ると、放り投げられた。吾輩は地面にスチャと降り立つ。その間にレディウスはヘレスティアを抱きかかえて、口元にある吾輩の毛を取っていた。


「ヘレスティア、ダメだぞ、何でも口に入れたら。ばっちいからな」


 なにをぉぅ! 吾輩の足は毎朝、寝る前と水で洗っているというのに。吾輩は異議ありと、レディウスの足下まで行き、もふっもふっと足を叩く。くっ、この状態ではレディウスにダメージを与える事が出来ない。かと言って、この場で大きすればヘレスティアたちが泣き出してしまう。


「こら、俺の指もしゃぶるな。お腹空いてんのかなぁ? セシル、そんな腕を伸ばさなくても抱いてやるから、ほら」


 レディウスはそう言いながら右手にヘレスティア、左手にセシルを抱きかかえてあやす。うむ、2人とも嬉しそうだ。


 レディウスは2人を抱きかかえたまま椅子に座る。こやつ、仕事をサボって来たな。この時間帯は部屋に篭っているはずなのに。


 吾輩がじーっとレディウスたちを見ていると、レディウスの腕の中は落ち着くのか、ヘレスティアたちは次第にウトウトし始める。レディウスは暫くあやすと、眠りについた2人をベッドへと戻す。そして、吾輩について来るように手を振って来る。


 本当は2人の側にいたかったのだが、呼ばれたのなら仕方ない。そう思いレディウスの後をとことことついて行くと、中庭に出た。レディウスはそこであぐらをかき吾輩を見て来る。


「ロポ、お前にお願いがある」


 真剣な表情でそんな事を言ってくるレディウス。そのままじっと見ていると、レディウスは話を続ける。


「俺たちはもうすぐしたらこの屋敷から出てしまう。だけど、ヘレネーや子供たちがここに残るのは知っているな?」


「グゥ」


 勿論だとも。ヴィクトリアよりは小さいが、それでも平均以上あって柔らかいヘレネーの胸の上で聞かされたからな。


「ヘレネーやロナがいるし、ガウェインもいるから安全だとは思うのだが……ロポにも残って欲しい。そして子供たちを守って欲しいんだ。頼めるか?」


 ふっ、なにを今更。吾輩は子供たちの守護兎。そんな事、言われるまでもない。吾輩は任せろという意味を込めて地面をもふもふと叩く。


「お前がいてくれるなら安心だよ。頼んだぞ、ロポ」


 ふん、任せるがいい。吾輩の名はロポ、誇り高きファントムラビットであり、子供たちの番兎なのだからな!


「後で侍女たちにニンジンを食べさせるように言っておくからな」


 ……えっ、ニンジン? ……ヤッホォッーーー!! 大好きなニンジンだぁぁぉっ!!

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