黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
閑話 赤髪の天使
「ほら、エミリー、こっちよ」
「あいっ!」
私が手を伸ばすと、とことこと走って来る私と同じ赤髪の少女。元気に走って来るその姿は、とても愛らしい。
私の手を両手でしっかりと握った少女は私を見上げてにこっと笑う。ふふっ、つい私も笑顔になっちゃうわね。
「エリシア様、エミリー様、こちらですよ」
そんな私たちを呼ぶのは、前を歩くミア。腕には茶髪の男の子が抱かれている。今は気持ちよさそうに眠っている。あの子はミアとクルトとの子供でアルトと名付けられた。
2年前に生んだ私の大切な子、エミリーが生まれた翌年に生まれた2人の子供だ。
そんなアルトを抱きかかえたミアと、エミリーの手を引く私がやって来たのは、トルネス王国の王都だ。
何故王都にやって来たかと言うと、王都で毎年恒例のアルバスト王国との新善戦が行われるからだ。
今年の開催は、アルバスト王国とブリタリス・ゲルテリス王国の連合軍との戦争のせいで、開催が危ぶまれたけど、アルバスト王国が無事に勝利した事により、開催される事になった。
流石にアルバスト国王自らが来る事は出来なかったのだけど、第2王女であるメレアーナ王女が大使として来られているらしい。私も少し面識があるけど、真面目な方だったのを覚えている。
去年はアルバスト王国で行われて、今年はトルネス王国での開催の年になる。2年前はレディウスも参加していたみたいだけど、今年は、トルネス王国の代表として、クルトが参加するのだ。
この2年間、トルネス王国の王子であるフロイスト王子の側にいたクルトは、その実力を認められて、王子の近衛までに昇格していた。
そのため、近衛としての教養を受けるためにトルネス王国の学園に通っていたのだ。そこで、トルネス王国の代表に選ばれたわけ。今日はクルトの勇姿を子供たちに見せに来たの。
「うわぁ、一杯いますねぇ」
「それはそうよ。2年に1回しか行われないのだから。しかも、今年は友好国であるアルバスト王国の戦勝祝いも兼ねているわ。例年に比べて盛り上がるのも当然ね」
「うわぁ、いっぱい!」
ミアの言葉につられてか、ぴょんぴょんと跳ねながら周りを見渡すエミリー。この子もこれだけ人がいるのも珍しいのね。初めての遠出だから余計にかしら。
私たちはそのまま身内用に用意されていた席へと向かう。闘技場がよく見える位置で、ここからならクルトの顔を見えるし、応援も出来るでしょう。
ミアはアルトを、私はエミリーを膝の上に乗せて時間が来るのを待つ。アルトはミアの膝の上に乗せられると、自分が眠りやすいように身動ぎして再び眠ってしまった。本当はクルトの戦う姿を見て欲しいのだけど。
まあ、おっとりとした姿はどことなくミアに似ているから、仕方ないと思う部分もあるのだけどね。それとは反対にエミリーは
「わっ! おおっ! わあっ!」
と、見た事の無い人の数と会場の熱気に当てられてか、興奮しっぱなしだった。エミリーのお腹に手を回して捕まえておかないと、直ぐにでも走り出してしまいそう。好奇心旺盛なのは良いのだけど、一体誰に似たのかしら?
優しく髪の毛を梳いてあげると、私を見上げてにかっと笑うエミリー。この屈託のない笑顔はあの人に似ているわね……レディウス。
今は『黒の英雄』『黒鬼』なんて言われている私の大切な人。噂では戦争でブリタリスの大将を倒したらしくて、新しい領地と伯爵位を貰ったらしい。ミアが嬉しそうに帰って来て教えてくれたのを今でも覚えているわ。
その後の王子の廃嫡なども驚いたけど、やっぱりそれ以上にレディウスが認められている事が嬉しかったわね。黒髪を批判する人もいるけど、吟遊詩人の歌にされるほどだもの。
そんな大切な人との子供であるエミリーだけど、1つだけ困った事がある。それは
「……あっ! パパだぁっ! パパ!」
エミリーは闘技場に向かって大きい声を出しながら体全身を使って自分の場所を示す。勿論レディウスに言っているわけではない。この子にはレディウスの事は話していないから。
それなら、誰に向かって叫んでいるかというと、闘技場の方から手を振る男性、ミアの大切な人でアルトの父親であるクルトにだった。
元気に手を振る姿を見て、ミアも私もつい困ったような表情を浮かべてしまう。
これはエミリーが悪い訳じゃない。本当の事を話していない私が悪いのだ。私たちは追放されてアルバストに戻る事は出来ない。
それなのに、父親であるレディウスの事を話したら、エミリーは必ず会いに行きたいと言うに決まっている。
この子に会いに行けない辛さを味合わせたくないと思い伝えなかったけど、その結果、クルトの事を父親と慕うようになった。
それも当然かもしれない。子供からしたら、母親の近くにいる男性の事を父親だと思うでしょう。クルトはエミリーの事も大切にしてくれているし。
「……いつか話さないとね」
今すぐに本当の事を話すべきか。それとも、もう少し大きくなって理解が出来るようになってからか。
「ママっ! おうえん! おうえん!」
「そうね、応援しましょう」
今はクルトの応援に専念しましょう。いつかは話す事になっても、エミリーが辛い思いしないようにしないと。
私の膝の上ではしゃぐエミリーの頭を撫でながらそう思うのだった。
「あいっ!」
私が手を伸ばすと、とことこと走って来る私と同じ赤髪の少女。元気に走って来るその姿は、とても愛らしい。
私の手を両手でしっかりと握った少女は私を見上げてにこっと笑う。ふふっ、つい私も笑顔になっちゃうわね。
「エリシア様、エミリー様、こちらですよ」
そんな私たちを呼ぶのは、前を歩くミア。腕には茶髪の男の子が抱かれている。今は気持ちよさそうに眠っている。あの子はミアとクルトとの子供でアルトと名付けられた。
2年前に生んだ私の大切な子、エミリーが生まれた翌年に生まれた2人の子供だ。
そんなアルトを抱きかかえたミアと、エミリーの手を引く私がやって来たのは、トルネス王国の王都だ。
何故王都にやって来たかと言うと、王都で毎年恒例のアルバスト王国との新善戦が行われるからだ。
今年の開催は、アルバスト王国とブリタリス・ゲルテリス王国の連合軍との戦争のせいで、開催が危ぶまれたけど、アルバスト王国が無事に勝利した事により、開催される事になった。
流石にアルバスト国王自らが来る事は出来なかったのだけど、第2王女であるメレアーナ王女が大使として来られているらしい。私も少し面識があるけど、真面目な方だったのを覚えている。
去年はアルバスト王国で行われて、今年はトルネス王国での開催の年になる。2年前はレディウスも参加していたみたいだけど、今年は、トルネス王国の代表として、クルトが参加するのだ。
この2年間、トルネス王国の王子であるフロイスト王子の側にいたクルトは、その実力を認められて、王子の近衛までに昇格していた。
そのため、近衛としての教養を受けるためにトルネス王国の学園に通っていたのだ。そこで、トルネス王国の代表に選ばれたわけ。今日はクルトの勇姿を子供たちに見せに来たの。
「うわぁ、一杯いますねぇ」
「それはそうよ。2年に1回しか行われないのだから。しかも、今年は友好国であるアルバスト王国の戦勝祝いも兼ねているわ。例年に比べて盛り上がるのも当然ね」
「うわぁ、いっぱい!」
ミアの言葉につられてか、ぴょんぴょんと跳ねながら周りを見渡すエミリー。この子もこれだけ人がいるのも珍しいのね。初めての遠出だから余計にかしら。
私たちはそのまま身内用に用意されていた席へと向かう。闘技場がよく見える位置で、ここからならクルトの顔を見えるし、応援も出来るでしょう。
ミアはアルトを、私はエミリーを膝の上に乗せて時間が来るのを待つ。アルトはミアの膝の上に乗せられると、自分が眠りやすいように身動ぎして再び眠ってしまった。本当はクルトの戦う姿を見て欲しいのだけど。
まあ、おっとりとした姿はどことなくミアに似ているから、仕方ないと思う部分もあるのだけどね。それとは反対にエミリーは
「わっ! おおっ! わあっ!」
と、見た事の無い人の数と会場の熱気に当てられてか、興奮しっぱなしだった。エミリーのお腹に手を回して捕まえておかないと、直ぐにでも走り出してしまいそう。好奇心旺盛なのは良いのだけど、一体誰に似たのかしら?
優しく髪の毛を梳いてあげると、私を見上げてにかっと笑うエミリー。この屈託のない笑顔はあの人に似ているわね……レディウス。
今は『黒の英雄』『黒鬼』なんて言われている私の大切な人。噂では戦争でブリタリスの大将を倒したらしくて、新しい領地と伯爵位を貰ったらしい。ミアが嬉しそうに帰って来て教えてくれたのを今でも覚えているわ。
その後の王子の廃嫡なども驚いたけど、やっぱりそれ以上にレディウスが認められている事が嬉しかったわね。黒髪を批判する人もいるけど、吟遊詩人の歌にされるほどだもの。
そんな大切な人との子供であるエミリーだけど、1つだけ困った事がある。それは
「……あっ! パパだぁっ! パパ!」
エミリーは闘技場に向かって大きい声を出しながら体全身を使って自分の場所を示す。勿論レディウスに言っているわけではない。この子にはレディウスの事は話していないから。
それなら、誰に向かって叫んでいるかというと、闘技場の方から手を振る男性、ミアの大切な人でアルトの父親であるクルトにだった。
元気に手を振る姿を見て、ミアも私もつい困ったような表情を浮かべてしまう。
これはエミリーが悪い訳じゃない。本当の事を話していない私が悪いのだ。私たちは追放されてアルバストに戻る事は出来ない。
それなのに、父親であるレディウスの事を話したら、エミリーは必ず会いに行きたいと言うに決まっている。
この子に会いに行けない辛さを味合わせたくないと思い伝えなかったけど、その結果、クルトの事を父親と慕うようになった。
それも当然かもしれない。子供からしたら、母親の近くにいる男性の事を父親だと思うでしょう。クルトはエミリーの事も大切にしてくれているし。
「……いつか話さないとね」
今すぐに本当の事を話すべきか。それとも、もう少し大きくなって理解が出来るようになってからか。
「ママっ! おうえん! おうえん!」
「そうね、応援しましょう」
今はクルトの応援に専念しましょう。いつかは話す事になっても、エミリーが辛い思いしないようにしないと。
私の膝の上ではしゃぐエミリーの頭を撫でながらそう思うのだった。
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