黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

204話 お守り

「それで、ロナがなんだって?」


「ああ、そうだ。ロナが知らない男と歩いてたんだよ。髪の毛は金髪の何処にでもいるような男だった」


「何気に酷い事言ってるぞ、お前」


「それでよ、それがたった1回なら特に気にしなかったんだけど、それが何日も続くと気になってよ。レディウスも気になるだろ?」


「さっきのは無視かよ……まあいいけど。確かに気にならないと言えば嘘になるけど、彼女も16歳で大人だし、その男も別に怪しくなかったんだろ? もしかしたらただの知り合いかもしれないし」


「うーん、どうだろなぁ……おい、レディウス、今度ついて行こうぜ!」


 ……突然何言い出すんだよ、こいつは。ガウェインは言いたい事だけ言って部屋を出て行ってしまった。ポツンと1人部屋に残される俺。ったく。


 それにしても……ロナが男とか。今までは俺とずっといたから男の影なんて見えてこなかったけど、離れている間に何かあったのかな。


 うーん


 ……


 …………


 ……………………


「くくっ、結局きてんじゃねえか、レディウス。しかも、そんなローブまで被って」


「うるせえよ。ちょっと気になっただけだ。ローブは黒髪を隠すためだ。街中では目立つからな。それに今回はちょっと見るだけだ。男がちゃんと信用に値するなら認める」


「お前はロナの父親かよ……っと、来たぜ」


 俺の顔を見て馬鹿笑いしていたガウェインが真剣な表情に変わる。ロナが屋敷からやって来たのだ。お前、対抗戦の時でもそんな真剣な表情してなかっただろ!


 俺の気持ちを他所にガウェインはロナの後を追いかけていた。あの野郎。俺はガウェインの後頭部を殴りたくなる気持ちを抑えて後をついて行く。


 ロナが歩く先は、町の中央広場になる。小さな公園ではあるが、屋台があったり、子供達が遊んだりと、自然と人が集まるようになっている。待ち合わせ場所に使われたりもする。


「そういえば、前も広場で待ち合わせていたな」


「まあ、この町でわかりやすいところといえば、ここぐらいだからな」


 そんな話をしながらしばらく歩くと、広場へと辿り着いた。ロナは広場の中で辺りを見回すようにきょろきょろとする。そして、誰かを見つけたのかそちらの方へと迷い無く歩き出す。そのロナの向かう先には……確かに金髪の男が立っていた。


 金髪の男も向かってくるロナに気が付いたのか、ヒラヒラと手を振ってロナを迎える。ロナは男の前に立つと頭を下げて挨拶をしていた。


 雰囲気からして知り合いではあるが、そこまで親しくは無さそうだ。ここからじゃ何を話しているかわからなくて、その程度しかわからないが。


「あっ、どっかに歩いて行くぜ」


 ガウェインの言う通りロナと男は少し話してから歩き始める。その後を再びついて行く俺たち。気付かれれば怪しさしかないが、ガウェインの奴、妙に慣れてやがる。訓練のせいだよな? 日頃からこんな風につけて回ってないよな?


 俺が少しガウェインの背に疑問の視線を向ける中、手慣れた風に一定の距離を保ちながらついて行くガウェイン。今度問い正そうと心に決め、そのままついて行くと


「あれ? ここって……」


 ロナと男が入ったのは、この町にある商店の1つだった。物凄く大きいというわけじゃないが、品揃えは豊富なところだ。その中に入ったという事は……


「何か買いに来たのか」


「商人の男と関係があるのか!」


 俺は思わずガウェインの頭を叩いてしまった。どうしてお前はそっちに話を持って行きたがるんだよ。ガウェインも流石に言い過ぎだと思ったのか謝ってくる。仕方ないから許してやる。


 それからしばらくロナが店から出て来るのを待っていると、ロナと男が出て来た。ロナの手には何も持っていないが、腰のポーチに入れているのかもしれない。


「ここなら、声が聞こえるぞ」


 ガウェインがそういうので耳を澄ましてみると……


「今回は有難うございました。良いものが買えました」


「いえ、僕は店長にお願いしただけですから……それでロナさん」


「何ですか?」


「もしよろしければ、今度食事でも……」


「ごめんなさい。夕食は皆様と食べる事になっていますので。それでは」


 ロナは食事の話が出た瞬間、笑みが消えて真顔になって答えていた。あんな顔、レイグ以外に見た事がないな。そのまま颯爽と去って行くロナ。店の前にはポツンと男だけが残された。


「……なんか、悪かったな」


「別に良いさ。さてと、帰ろうか。今日の夕食は豪華にしてもらわないと」


 ほんの少しだけ心配していた心が軽くなった俺は、同じように軽くなった足取りで屋敷へと戻るのだった。


 その日の夜


「レディウス様、いらっしゃいますか?」


「ん、いるぞ」


 昼間出ていたツケで残った書類に目を通していると、ロナがやって来た。俺の返事を聞いたロナは失礼します、と部屋に入ってくる。そういえば、さっきまでヴィクトリアの湯浴みの手伝いをしていたので、一緒に入ったのかロナの髪が濡れている。


 本来なら従者や使用人と入る事なんてないが、まあ、ヴィクトリアだしな。彼女が頼んだのだろう。


「こんな夜にどうした? 夜這いか?」


「よよよ、夜這い!?? ちちち、違いますよぉ!!」


 顔を赤くして手をブンブンと振るロナ。少しからかい過ぎたか。ロナが落ち着くのを待っていると、落ち着いたロナが小包を渡して来た。


 開けてください、と言うので小包を開けてみると、中からは黒色に近い紺色のお守りだった。


「それは厄除けのお守りらしくて、身に付けていると厄が来た時に代わりに守ってくれるそうなのです。前、あんな事があったので、レディウス様を守ってくださるように。ヘレネー様は青色、ヴィクトリア様は緑色、パトリシア様は黄色をお渡ししました」


 そう嬉しそうに報告してくれるロナ。全くこの子は。


「有難うな、ロナ。付けさせてもらうよ。それで、ロナは何色を買ったんだ?」


「えっ? いえ、私は買っていませんよ。レディウス様たち家族の皆様に買いましたので」


 首を傾げながらそんな事を言ってくるが、今更何を言っているんだよ。ロナだって家族なのに。


「それじゃあ、明日買いに行こう。ロナも守ってもらわないとな」


「え、で、ですが、これはレディウス様とその奥様にと……」


「なら、ロナは要らないのか?」


「い、いや、それは欲しいですが……」


「なら、買いに行こう。ロナにはこれからも一緒にいてもらわないといけないしな。俺を側で支えてくれよ」


 俺の言葉に恥ずかしそうにするロナ。次の日は約束通り俺とロナで商会までやって来て、ロナのお守りを買った。その時、裏から俺を見てくる昨日の男がいたけど、無視して楽しんだ。


 その後、ヴィクトリアの部屋に呼び出しを食らったが。申し訳なさそうに座るロナに、俺を囲むヴィクトリア、ヘレネー、苦笑いするパトリシア。まあ、ロナは暖かく迎えられたが、俺が正座させられたのが解せぬ。

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