黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
203話 過保護
「あ、あの、レ、レディウス?」
「ほら、あーん」
「いえ、その、じ、自分で食べられます。皆さん見ていますし」
「あーん」
「……あ、あーん」
スプーンですくったお粥をヴィクトリアの前まで持って行く。自分で食べると聞かないが、今は病人だ。安静にしてもらうためにこちらも譲れない。有無言わさずに前に出すと、ヴィクトリアは恥ずかしげに食べる。
周りにはマリーやルシーたちがニコニコとした様子でこの光景を見ていた。これが余計にヴィクトリアを恥ずかしく思わせているのだろう。
王都での出来事から2週間が経った。あの後すぐに陛下は国民全員に、貴族たち、隣国に対しても、ウィリアムの事に関する通知を出した。当然王都は大騒ぎだ。
この国の未来の王がいなくなったのだ。当然騒ぎになる。陛下の後を継ぐのは誰になるのか、という話で持ちきりだ。
順番的にはエレアーナ第2王女だろう。第1王女のフローゼ様は嫁ぐ際に放棄しているはようだし。それか生まれた子供たちか。その辺は陛下が決めるだろう。
レイブン将軍たちには色々と小言を言われたけど、無事釈放され、俺はセプテンバーム公爵と共に、領地まで帰って来た。
セプテンバーム公爵は目が覚めたヴィクトリアと少し話したら、戻ってしまったが。旦那がいるのに親が出しゃばる事はないと。ヴィクトリアはセプテンバーム公爵が俺の事を認める発言に驚いていたけど。
俺はというと、今のように彼女の看病をしている。侍女にしか出来ない事は任せているが、俺にでも出来るような事はしてあげたかったから。
ヴィクトリアは恥ずかしそうにする反面、嬉しそうにもしてくれるので、俺もやりがいがある。
何より、俺が彼女の側から離れたくなかった。医者から言われた事が耳に残っているからだ。彼女は母子共に1度生死の境を彷徨った。それが原因で、予定通りに生まれないかもしれないのだそうだ。
あり得るのが、早産。予定より早く生まれる事だ。本当なら母体の中で必要な栄養を貰って、体が出来るのだが、体が出来る前に生まれてしまうかもしれないらしい。体が小さかったり、病気になりやすかったり、体のどこかが不自由になったりと。
それと同時に母体にも負担が大きいらしい。これからは医者も通ってくれるらしいが。
「レディウス。もう大丈夫ですよ。仕事に戻って下さい」
「……だけど、俺がいない間に何かあったら」
「もう、心配し過ぎです。心配して下さるのは嬉しいのですが、ここにはマリーもルシーもいます。レディウスは仕事戻って下さい」
「そうですよ。女性の仕事は子を生む事ですが、男性の仕事は家族が安心して帰れる家を守る事です。ここには私もルシーがいます。必ず目は離しませんので」
……そこまで言うなら、行こうかな。後ろ髪引かれる気持ちだけど、俺は部屋を出る。まあ、俺が側にいると疲れるだろうし。心配だけど、彼女たちに任せるか。
部屋を出て自身の執務室へと向かう途中、中庭ではパトリシアにミネルバ、ロナがおり、日陰のところにはヘレネーとヘレナがいた。
どうやら、ロナを鍛えているようだ。ロナは短剣を2本構えてパトリシアへと攻めるが、パトリシアの鋭い刺突に防戦一方だ。
それでも負けじと攻めるロナ。この半年で動きが良くなっている。ミネルバとも特訓をしていたようだし。その光景を暫く見ていると
「あら、レディウスじゃない。ヴィクトリアはいいの?」
と、俺に気が付いたヘレネーが声をかけてくれた。俺はそのままヘレネーの隣の席に座ると、ヘレナが飲み物を置いてくれる。
「ヴィクトリアには大丈夫だ、と言われて部屋を追い出された」
「やっぱりね。レディウスが側にいてくれるのは嬉しいけど、ずっといられると恥ずかしいもの。ヴィクトリアだって汗とか拭きたいだろうし……まあ、愛する人に見せられない姿っていうのが女にはあるのよ」
そんなもんかねぇ。その辺は男と女の考え方の違いと割り切るしかないのかな。まあ、そこは俺が我慢するしかないか。あんまりわがまま言って困らせても仕方ないしな。
そんな風にゆったりとした日々を過ごしていたある日。クリスチャンから引き継ぎのため領内を回っていたガウェインが俺の元へとやって来た。なぜか慌てた様子のガウェイン。なんかあったのか?
「レディウス、大変だ! 色々と大変だ!」
「落ち着けよ、ガウェイン。それから屋敷の中で叫ぶな。ヴィクトリアとヘレネーに迷惑だろうが」
今の時間帯は自室で休んでいるはずだ。そんな時に大声で叫ぶなよ。ガウェインも申し訳ないと思ったのか口元を手で押さえる、
「それで、何があったんだよ?」
「あ、ああ。まずはこれを見てくれよ」
そう言い手渡されたのは1通の手紙だった。これ読んでいいのか? ガウェイン宛だったんだろ? ガウェインに視線を向けると、ガウェインは頷く。なら見てみるか。
手紙を読んでいくと……なるほど、ガウェインが慌てるわけだ。手紙の内容は隣国の友好国トルネス王国からシャルンがこちらに来るそうだ。父親から正式に許可を貰って、ガウェインの父親にも連絡済み……って事はレイヴン将軍も認めているって事か。
「……知らない間に固められていた」
「これでガウェインも結婚か。でも、よくシャルンの父親が認めたな。確か侯爵家の令嬢だったよな?」
「自国の貴族と縁を結ぶより、友好国の将軍の家の方が良いと思ったんじゃねえのか? まあ、シャルンが押し通したような気もするが」
確かに、あの押しの強さならあり得るかも。でも、なんだかんだ言いながら満更でもなさそうなガウェイン。こいつは帰ってきてからも手紙は続けていたから、好意はあるんだと思う。まあ、良い事だ。
「っと、それだけじゃねえんだ。レディウスに伝えに来たのは」
「ん? まだなんかあるのか?」
「ああ、さっき領地を見回っていたんだけど……ロナが男と歩いてたんだよ!」
「うるさいぞ」
「あっ、すまん」
「ほら、あーん」
「いえ、その、じ、自分で食べられます。皆さん見ていますし」
「あーん」
「……あ、あーん」
スプーンですくったお粥をヴィクトリアの前まで持って行く。自分で食べると聞かないが、今は病人だ。安静にしてもらうためにこちらも譲れない。有無言わさずに前に出すと、ヴィクトリアは恥ずかしげに食べる。
周りにはマリーやルシーたちがニコニコとした様子でこの光景を見ていた。これが余計にヴィクトリアを恥ずかしく思わせているのだろう。
王都での出来事から2週間が経った。あの後すぐに陛下は国民全員に、貴族たち、隣国に対しても、ウィリアムの事に関する通知を出した。当然王都は大騒ぎだ。
この国の未来の王がいなくなったのだ。当然騒ぎになる。陛下の後を継ぐのは誰になるのか、という話で持ちきりだ。
順番的にはエレアーナ第2王女だろう。第1王女のフローゼ様は嫁ぐ際に放棄しているはようだし。それか生まれた子供たちか。その辺は陛下が決めるだろう。
レイブン将軍たちには色々と小言を言われたけど、無事釈放され、俺はセプテンバーム公爵と共に、領地まで帰って来た。
セプテンバーム公爵は目が覚めたヴィクトリアと少し話したら、戻ってしまったが。旦那がいるのに親が出しゃばる事はないと。ヴィクトリアはセプテンバーム公爵が俺の事を認める発言に驚いていたけど。
俺はというと、今のように彼女の看病をしている。侍女にしか出来ない事は任せているが、俺にでも出来るような事はしてあげたかったから。
ヴィクトリアは恥ずかしそうにする反面、嬉しそうにもしてくれるので、俺もやりがいがある。
何より、俺が彼女の側から離れたくなかった。医者から言われた事が耳に残っているからだ。彼女は母子共に1度生死の境を彷徨った。それが原因で、予定通りに生まれないかもしれないのだそうだ。
あり得るのが、早産。予定より早く生まれる事だ。本当なら母体の中で必要な栄養を貰って、体が出来るのだが、体が出来る前に生まれてしまうかもしれないらしい。体が小さかったり、病気になりやすかったり、体のどこかが不自由になったりと。
それと同時に母体にも負担が大きいらしい。これからは医者も通ってくれるらしいが。
「レディウス。もう大丈夫ですよ。仕事に戻って下さい」
「……だけど、俺がいない間に何かあったら」
「もう、心配し過ぎです。心配して下さるのは嬉しいのですが、ここにはマリーもルシーもいます。レディウスは仕事戻って下さい」
「そうですよ。女性の仕事は子を生む事ですが、男性の仕事は家族が安心して帰れる家を守る事です。ここには私もルシーがいます。必ず目は離しませんので」
……そこまで言うなら、行こうかな。後ろ髪引かれる気持ちだけど、俺は部屋を出る。まあ、俺が側にいると疲れるだろうし。心配だけど、彼女たちに任せるか。
部屋を出て自身の執務室へと向かう途中、中庭ではパトリシアにミネルバ、ロナがおり、日陰のところにはヘレネーとヘレナがいた。
どうやら、ロナを鍛えているようだ。ロナは短剣を2本構えてパトリシアへと攻めるが、パトリシアの鋭い刺突に防戦一方だ。
それでも負けじと攻めるロナ。この半年で動きが良くなっている。ミネルバとも特訓をしていたようだし。その光景を暫く見ていると
「あら、レディウスじゃない。ヴィクトリアはいいの?」
と、俺に気が付いたヘレネーが声をかけてくれた。俺はそのままヘレネーの隣の席に座ると、ヘレナが飲み物を置いてくれる。
「ヴィクトリアには大丈夫だ、と言われて部屋を追い出された」
「やっぱりね。レディウスが側にいてくれるのは嬉しいけど、ずっといられると恥ずかしいもの。ヴィクトリアだって汗とか拭きたいだろうし……まあ、愛する人に見せられない姿っていうのが女にはあるのよ」
そんなもんかねぇ。その辺は男と女の考え方の違いと割り切るしかないのかな。まあ、そこは俺が我慢するしかないか。あんまりわがまま言って困らせても仕方ないしな。
そんな風にゆったりとした日々を過ごしていたある日。クリスチャンから引き継ぎのため領内を回っていたガウェインが俺の元へとやって来た。なぜか慌てた様子のガウェイン。なんかあったのか?
「レディウス、大変だ! 色々と大変だ!」
「落ち着けよ、ガウェイン。それから屋敷の中で叫ぶな。ヴィクトリアとヘレネーに迷惑だろうが」
今の時間帯は自室で休んでいるはずだ。そんな時に大声で叫ぶなよ。ガウェインも申し訳ないと思ったのか口元を手で押さえる、
「それで、何があったんだよ?」
「あ、ああ。まずはこれを見てくれよ」
そう言い手渡されたのは1通の手紙だった。これ読んでいいのか? ガウェイン宛だったんだろ? ガウェインに視線を向けると、ガウェインは頷く。なら見てみるか。
手紙を読んでいくと……なるほど、ガウェインが慌てるわけだ。手紙の内容は隣国の友好国トルネス王国からシャルンがこちらに来るそうだ。父親から正式に許可を貰って、ガウェインの父親にも連絡済み……って事はレイヴン将軍も認めているって事か。
「……知らない間に固められていた」
「これでガウェインも結婚か。でも、よくシャルンの父親が認めたな。確か侯爵家の令嬢だったよな?」
「自国の貴族と縁を結ぶより、友好国の将軍の家の方が良いと思ったんじゃねえのか? まあ、シャルンが押し通したような気もするが」
確かに、あの押しの強さならあり得るかも。でも、なんだかんだ言いながら満更でもなさそうなガウェイン。こいつは帰ってきてからも手紙は続けていたから、好意はあるんだと思う。まあ、良い事だ。
「っと、それだけじゃねえんだ。レディウスに伝えに来たのは」
「ん? まだなんかあるのか?」
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