黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

202話 誘い

「うわっ! くっ、お前たち! 王子である私に何をする!」


 門の前に放り投げられる私。私を掴んでいた兵士たちはやれやれといった風な表情を浮かべている。


「陛下からご命令がありましたからね。あなたは、もうこの国の王子ではありません。これ以上ここからはただの平民です。暴れると言うのなら捕らえさせてもらいますが?」


「おい、口調がそのままだぜ。悪いが、これも命令でな。さっさと立ち去ってくれ。前からあんたの事、気に食わなかったんだよ」


「なっ、なっ、きき、貴様ぁ!」


 私はふざけた事を言う兵士へと殴りかかる。しかし、兵士は私の拳を避けて、逆に殴ってきた。まさか、殴られると思わなかった私はモロに受けてしまい、その場に倒れる。


「本当は、今ので切られても仕方がないが、今回は見逃してやる。すでに宰相様が通達を出される準備をしていたので、貴族、平民問わずにあなたが王子でなくなったのを知られるだろう。その時に同じような事をすれば、殺されても仕方がないぞ」


 そう言いながら、威嚇するように剣に手をかける兵士たち。くそ、くそ、くそ! 本当に、本当に私を捨てると言うのですか、父上! 


「これ以上ここにいないでくれ。職務妨害で捕らえないといけなくなる」


 兵士たちが私を見る目は王子に対してではなく、邪魔な者をみるような視線だった。どうしてこんな目をされなければいけないのだ! 私の心に悔しさと羞恥と、何より、怒りが沸き上がってきた。


 しかし、今ここで何かをしても意味がない事はわかっている。悔しい気持ちや怒りを胸に込めて、王宮の門の前から離れる。


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 それから、どれくらい経ったかはわからない。私がいるのは、王都の裏町だ。私自身金を持っていなかったため、自身が持っていた装飾品を売り、上着なども売り、何とか金を使った。今あるのは護身用の短剣ぐらいだろう。


「くっ、体が痒い!」


 あまり金を使えないため、安宿に泊まったが、不衛生なため、咳が止まらずに全身が痒い。全身が痒いため、夜も眠れずに、掻きむしった後からは血が出ていた。


 くそくそくそくそ! どうしてこんな目に合わなければならないのだ! どうして私が! これも、全部あの男とヴィクトリアのせいだ! あいつらがいなければ! あいつらさえいなければ!


 もしかしたら間違えかもしれない。もしかしたら、呼びに来るかもしれない。そう思って王都から出ずに父上からの使者を待っていたが、一向に現れない。本当に私を捨てたのだな。


 怒りがおさまらないが、このままこんな安宿にいるわけにもいかない。何か手立てを考えなければ。そう考えていると、ドンドンドン! ドアを叩きつけるような音が聞こえて来る。私は咄嗟に短剣を取り近づいて開けると、いたのはこの安宿の店主だった。その後ろには見知らぬ男が2人立っていた。


「おっ、こいつか? 捨てられた王子様ってのは?」


「ええ、こいつが元王子のウィリアムですよ。ほら、売ったのだから金を」


「へいへい。ほれ」


「くくっ、有り難え!」


 男たちは訳の分からないやり取りをして、店主は部屋から出て行き、残ったのは見知らぬ男たちだった。


「な、何の用だ! わ、私が王子だと知っての事か!」


「当たり前だろ? あんたは今王都で1番有名だからな。そんなあんたを奴隷として買いたいと言う物好きがいてな。若い男が好きな男商人や、男の叫び声が好きな変態夫人なんかがな。早く見つけられて良かったぜ。捕まえろ」


「はっ」


 男はもう1人の男に指示を出すと、もう1人の男が殴りかかって来た。あまりの速さに咄嗟に後ろに下がったが、後ろは窓で、私はそこから落ちた。下がゴミ箱でゴミが入っていたため助かったが、直ぐに逃げなければ。


 そこからは一心不乱に私は逃げた。奴隷なんかにされてたまるか! 私は王宮に戻るのだ。戻って父上たちを……


「待ちやがれ!」


「がっ!?」


 突然の背中の衝撃に、私は地面に倒れこむ。地面に顔をぶつけたのか、頰から血が流れる。額も切っていた。


「ぜぇ……ぜぇ……ったく、手間を取らせやがって。おい、さっさと縛って持っていくぞ」


「はい」


「くっ、くそっ、近寄るな!」


 私は男を近寄らせないために短剣を振るが、短剣を持っていた手を蹴り飛ばされ、短剣が手元から離れる。そして、私を縛り上げようと男が近づいて……胸元から剣が突き出ていた。


 縄を持った男はそのまま倒れて、現れたのは全身黒装束を来た者たちだった。奴隷商人の男も剣で貫かれて死んでいた。


 訳もわからずにその光景を見ていると、また、見覚えの無い男が黒装束の者たちを伴って近づいて来る。


「はじめまして、ウィリアム王子。我が主人の命によりお迎えに上がりました」


 その男はそのまま私を豪華な馬車まで案内される。それからあっという間だった。馬車に乗せられて、王都を出て、訳がわからないまま連れて来られたのは、見覚えのある領地だった。


「お待ちしておりました、ウィリアム殿下」


 私を出迎えた人物も見覚えのある人物で……リストニック侯爵だった。私の現状を知ったリストニック侯爵は、私を探してくれたそうだ。


 その事に礼を言おうとしたが、それよりもまずに私が休む方が先だと、1週間ぶりぐらいの暖かいお風呂に、上手い食事、ふかふかで柔らかいベッドを与えてくれた。私も疲れ切っていたので、その日は直ぐに眠りについてしまった。


 次の日、起きた私はリストニック侯爵に呼び出された。なんでも、話したい事があるらしい。私は呼びに来た侍女について行き、案内された部屋へと入ると、中にはリストニック侯爵に、傘下の貴族たち。それから、笑みを浮かべる知らない男がいた。


「おお、これは殿下。良く休めましたかな?」


「ああ、リストニック侯爵のお陰でな。助かった」


「いえいえ、助ける事が出来て良かったです。それではお座りください」


 私は侯爵に促されるまま椅子へと座る。リストニック侯爵は全員を見渡すと


「ウィリアム殿下。国王についてどう思いますか?」


「どう……とは?」


「息子であるあなたを無視して、あのような黒髪の男を認める陛下にですよ。本来であればあのような下賎な男が貴族になる事自体がおかしいというのに。正直に言いますとね。私は今の国王を認めていないのですよ」


「なっ、何を言いだすのだ、リストニック侯爵!」


 あまりの言葉に私は声を張り上げてしまった。


「私はウィリアム殿下、あなたこそが王に相応しいと思っております。そのために我々はあなたを助ける事にしたのです」


「……リストニック侯爵。それは」


「ある程度は準備は出来ておりますが、あと数年は隠れていただかなければなりません。しかし、隣国のゲルテリウス王国は前の戦争の際に逃げる手伝いをしたので、協力を約束し、ここにおられる方、ケインズ殿も協力してくれる」


「はじめまして、ウィリアム殿下。私の名前はケインズ。ベルギルス帝国より参りました商人です。この度は我が商会もお手伝いしましょう」


「ウィリアム殿下よ。我々があなたを王へと誘いましょう。ウィリアム殿下を捨てた国王を、このような現状にした貴族たちを、そして、あの黒髪の男を見返すのです!」


 ……父上を……貴族たちを……あの男も……くく……くくくっ! 私を舐めたヴィクトリアも!!


「わかった。皆、よろしく頼むぞ!」


 必ず戻ってやる!

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    レイディスが、この場合だと次期国王?タイトルに黒髪の王ってあるしプロローグにもあったから

    2
  • ペンギン

    もう諦めてくれよ...いい加減...
    悪いのは全て自分だろうが...

    2
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