黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

186話 アルバスト防衛戦(15)

「ガァッ!」


 パトリシア王女が吠えると、辺りに炎を纏った暴風が吹き荒れる。それだけであ 雑草は燃えて大地は土色に変わっていく。


 体に炎の暴風を纏わせたパトリシア王女は俺に向かって向かってくる。彼女が纏う暴風から放たれるかまいたち。方向など関係なく全方位に放たれるかまいたちは、大地を削り、テントを切り、全てを切り裂く。


 雨のように降り注ぐかまいたちを、シュバルツで切り裂く。しかし、ただのかまいたちではなく炎が乗ったかまいたちだ。防いだとしても熱は防げない。直ぐに俺の周りの温度が上がり、息苦しくなってくる。


 俺は直ぐにその場から離れると、狙ったかのようにパトリシア王女が剣を振り下ろしてきた。


 振り下ろされる剣を横へと避けるが、地面にぶつかった瞬間炎が吹き荒れる剣だ。普通に避けるより距離を取らなければならない。


 だけど、そんな事をしていればいつまで経ってもパトリシア王女を捉える事が出来ない。俺は怪我覚悟で左手を伸ばす。伸ばした手は、パトリシア王女の服を掴む。


 魔天装をして防御力もかなり上がっているはずなのに、俺の左手のひらは焼けて爛れていく。付け焼き刃の魔天装では、パトリシア王女が純粋に纏っている炎は防げないか。


 けど、ここで手を離すわけにはいかない。このまま押し切る。俺は手から伝わる痛みに歯を食いしばり、シュバルツを振り下ろす。


 パトリシア王女は、五尾の内の一尾でシュバルツを防ぐが、直ぐ様下から切り上げる。王女は魔剣を振り下ろす形で俺の剣を弾き、そのまま首めがけて横薙ぎに振ってくる。


 咄嗟に頭を下げて避けるが、目の前には突くように放たれる尻尾。俺の顔めがけて迫る。俺は避ける為に下がらず、逆に前に出る。


 迫る尻尾は左手で弾く。その際にザラザラとした尻尾の表面に削られるが、意識せずに突き進む。尻尾を抜けて目の前にはパトリシア王女が。そのまま勢いを落とす事なく体をぶつける。


 パトリシア王女は後ろへ飛ぶ事で勢いを逃すが、それでも衝撃はある。俺から距離を取っているが体がよろめいているのがわかる。


 その隙を突くように俺は再び迫る。シュバルツに今まで以上の魔力を注ぎ。単発で攻撃をしても尻尾で塞がれるだけ。それなら、尻尾で防ぎ切れないほどの連撃を加えるまでだ。


 俺はシュバルツを両手で握り上段から真っ直ぐと振り下ろす。ただそれだけ。それだけだが、1番力が入る技だ。パトリシア王女は魔剣で防ぐが、直ぐに耐え切れないと感じると尻尾で魔剣を押し上げるように出してくる。


 しかし、それでも耐え切れなくなったパトリシア王女は片膝をつく。俺はパトリシア王女の首を狙い回し蹴りを放つ。


 王女は左手で防ぐが、耐え切れずに地面を何度も転がるら、それと同時に彼女は俺を近寄らせないために火の玉を放ってきたが、俺は火の玉を避けるそぶりを見せずに真っ直ぐに突っ込む。


「明水流、魔返し」


 明水流の中級である魔返しを使う。これは魔流しの応用になる。相手の魔法を逸らすだけではなく、こちらの技として相手に返す技だ。言うのは簡単だが、実際に返すのは難しい。


 俺自身も今の状態になってようやく出来た技だ。普通の時では10回に1回しか出来ないと思う。


 まさか、自分の技を返されるなんて思ってなかったパトリシア王女は、放ってきた火の玉を全て受けた。パトリシア王女は炎に包まれて見えなくなるが、魔力に殆どの変化がないため、あまりダメージは食らってないだろう。


 だけど、爆風により砂煙が舞いパトリシア王女の視界を奪う事が出来た。俺はシュバルツを右手で強く握りしめ突きの構えを取る。俺が1番得意で最強の技だ。


 魔闘眼でパトリシア王女の位置を把握して一気に駆け出す。左手を前に出し右手を限界まで引く。弓を放つように体を反らしながら走る。


 砂煙へと突っ込みパトリシア王女へと一直線へと向かう。その時パトリシア王女の魔力が膨れ上がるのがわかった。


 そして、辺り一面がパトリシア王女の魔力に包まれた。砂煙を吹き飛ばすために自分を中心に爆発させたのだ。当然爆発に巻き込まれる俺。


 だが、爆発が当たる瞬間に全身の闇属性の魔天装に消滅の効果を発動させる。魔力を大量に持っていかれて体が重くなるのがわかるが、ここで怯む訳にはいかない。


 爆発を抜けると、向こうには既に俺に気づいていたのか、待ち構えるパトリシア王女の姿があった。パトリシア王女もこの一撃で決めるかのように魔剣に風と炎の竜巻を纏わせて、俺と同じように突きの構えを取っていた。


 俺は思わず笑みを浮かべてしまう。この時ばかりのパトリシア王女の目は、獣の目ではなく、剣士としての本気の目をしていたからだ。それだけで彼女の心はまだ残っているのだと、確信を持つ事が出来た。だからこそ、俺は迷わずに突き進む。


 距離は既に3メートルほど。俺もパトリシア王女も相手を殺せる間合いに入った瞬間、引き絞った右腕を解放する。


「ガァァ!」


「旋風流亜種、死突黒撃!」


 同時に放たれた突きは、剣先同士がぶつかり合う。魔力がぶつかり、その余波が辺りへと散って行き大地を削っていく。風は切り裂き炎は燃やし闇は消し去る。


 だけど、パトリシア王女の魔剣と俺のシュバルツは互いにせめぎ合いながら拮抗してしまった。パトリシア王女もここで一歩でも引いてしまえば負けてしまうとわかっているのだろう。より前へと進もうとする。


 その間に俺は剣先に消滅の力を集中させる。この一点、この一点だけでいい。これが最後の切り札となるのだから。


 しばらくせめぎ合う中、ついにその時がやってきた。俺のシュバルツがパトリシア王女の魔剣を吹き飛ばし、彼女の胸元へと突き進む。


 せめぎ合う魔力をシュバルツの力によって消す事が出来た。その分、もう俺自身も限界で魔天装は解けてしまったが。だけど、まだ剣先の消滅の力は残っている。この力を最後に魔石へと使う。


 最後の抵抗とばかりに左右から尻尾が迫るが、もう気にも留めない。俺の腹と脇腹に突き刺さるが、そのまま俺はパトリシア王女の胸元にある魔石へと死突を放つ。


 口が血で濡れる中、吸い込まれるようにシュバルツはパトリシア王女の魔石へと突き刺さる。その瞬間、魔石を俺の黒い魔力が包む。その瞬間、パトリシア王女がビクンッ、と、震えた瞬間、叫び始めて胸元を押さえながら膝をつく。


 俺は倒れそうになる彼女を抱き締める。だけど、俺も既に限界に達していたのか、彼女を抱き締めたままその場に倒れてしまった。まだ、彼女の確認もしていないし、敵もまだいる。だが、もう心身共に限界が来ていた。


 薄っすらと視界がぼやける中、こちらに走ってくるローデンさんと、獣人たちの姿が視界に入った。それだけなら構わないのだが、何故か彼らは何かを言い合いながら走っていたのだ。


 俺は疑問を持ち彼らを問いただしたかったが、彼らに尋ねる前に俺の意識は限界を来てしまった。


 今は眠っている場合ではないのだが、体が言う事を聞いてくれない。そのまま俺は、パトリシア王女を抱き締めたまま気を失ってしまったのだった。


 ……足に触れる柔らかい毛を感じながら。

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