黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
175話 アルバスト防衛戦(5)
「……そうか。パトリシア王女が囮になって」
「申し訳ございません、アルノード子爵、オスティーン男爵。我々が不甲斐ないばかりに……」
俺たちの前に座る男、ローデンさんは悔し涙を浮かべながらぽつぽつと砦で起きた事を話してくれた。
今俺たちがいるのは、前の戦争の時まで利用していたアルバストとブリタリスの国境の砦だ。無茶をしたが、なんとか夜までに戻ってこられた俺たちは、早速情報交換をし始めたのだ。
休ませたいのは山々なのだが、何より現状がわからない事には対策が取れない。ローデンさんや他の将には申し訳ないが付き合ってもらう事にした。
「パトリシア王女の安否もわからないんですよね?」
「はい、我々は逃げる事が精一杯で……」
パトリシア王女の生死は不明か。アルバストと有利に交渉をしたいのなら生かしているはずだが。だけど、ローデンさんの話に出て来た獣人兵ってのが気になる。
話からしてトルネスでアルフレッドやミネルバが使わされた魔武器と同じものだろう。
「わかった、今日はもう休むといい。明日からはまた働いてもらわぬといけぬからな。他の皆も休むといい。見張りだけしっかりと立てておくのだ」
「……はっ、失礼いたします」
「はっ!」
オスティーン男爵の号令で、ローデンさんを始めたした助け出した将たちに、連れて来た将たちも部屋を出る。部屋に残ったのは俺とオスティーン男爵のみ。
「ふぅ、予想以上に厳しい戦いになりそうですな」
「そうですね。援軍が間に合えば良いのですが」
「しかし、アルノード子爵は良かったのですかな?」
「ん? 何がでしょうか?」
「出産の事ですよ」
……ああ、その事か。初めは物凄く迷ったんだけどな。ああ言われたら行くしか無いだろ。
◇◇◇
「うむぅ、誰か良いか」
誰を将軍として送るかに迷う国王陛下。レイブン将軍などはこれから軍の準備あるため選ぶ事は出来ない。その上、軍の中ばかりから将を選ぶと貴族が煩いってのもあるからな。
そう思い見ていると、
「私が行きましょう」
と、オスティーン男爵が一歩前に出る。その事に周りの貴族はおおっ! と歓声をあげる。貴族たちは好き好きに「オスティーン男爵なら安心だ」や「鬼軍曹が出てくれるのか!」とか言い出す。
だけど、その後ろで悲しげな表情をする夫人とアレスには気が付いていない。
「そうか! オスティーン男爵が行ってくれるか!」
「はっ、我が力の全てを賭けて任務を全うさせていただきます!」
オスティーン男爵の言葉に再び歓声が湧き上がる。その光景を見ていると、後ろから俺の袖が引っ張られる感覚がある。振り返ると、ヴィクトリアが俺の袖を引っ張り、その隣でヘレネーが何故か怒った顔をしていた。俺が2人を見ていると
「レディウスは行かないのですか?」
と、聞いてきた。そしてヘレネーが物凄い剣幕で
「もしかして、私たちの事を気にしているんじゃ無いでしょうね!?」
と、言ってくる。そりゃあ、気にもするだろう。俺の大事な妻たちにお腹の中には大事な子供がいるんだから。そんな事を考えているのがわかるのか、更に怖い顔をするヘレネー。こ、怖いって。
「もし、私たちの事を気にして行かないなんて言うんだったら許さないわよ!」
「落ち着いてください、ヘレネー。でも、ヘレネーの言う通りです。私たちはレディウスの足枷にはなりたくありません。それに、レディウスに頼って生きていくだけの女にもなりたくありません。だから、私たちの事は気にしないで下さい」
2人とも真剣な表情で俺を見てくる……そこまで言われたら俺も覚悟を決めなきゃな。
俺が2人に頷くと、ようやく2人も笑顔になってくれた。そのまま俺は国王陛下の方を見て一歩出る。当然他の貴族たちより前に出れば目立つ。俺はそのまま
「国王陛下、私も出陣いたします。オスティーン男爵の補佐を致しましょう」
こうなったら、何としても勝って早く帰ってくるだけだ。
◇◇◇
「2人にあそこまで言われたら参加しないわけにはいきませんよ。もしかしたら出産に立ち会えないかもしれないし、会えないのも寂しいですが、奴らが攻めてきたせいで安心して出産出来ないのも困りますからね。この戦争を勝利で終わらせたいところです」
「確かに。そのためには明日以降の事を考えねばならぬ」
オスティーン男爵の言葉に俺も頷く。現在の兵の数は今日助けた分を合わせて1万5千。元々この砦にいたのが1万で、オスティーン男爵指示の元やって来た俺たちが3千、今日助けたのが2千ちょっとになる。
敵の数は4万と少しになるとローデンさんから聞いているが、その中には例の獣人部隊とやらがいる。数はそこまで多くはないらしいが、ここぞという時に投入されるだろう。
王都から援軍が来るまでおおよそではあるが、残り1週間ほど。それまで耐えるだけではなく、奴らに打撃を与えたいところだけどな。
◇◇◇
「……うぅっ、こ……こは……?」
私は定まらない焦点で周りを見ます。暗がりの部屋のようですね。どうやら私は生きているようです。しかし、体を動かす事が出来ません。どうやら何かで縛られているようです。
「目が覚めましたかな?」
縛られたままその部屋の中を見ていたら、部屋に男が入って来ました。アタランタ・クリムフォード。まさか『死神将軍』に捕まるとは。
「これはこれは、パトリシア姫、お加減は如何ですかな?」
「あなたの顔を見て最悪になりましたよ」
私が吐き捨てるように言いますが、アタランタ将軍はヘラヘラと笑ったままです。本当に君の悪い男ですね。
「まあ、いいでしょう。それより、下を見て下さい」
下? 下に何が……これは?
「それは、パトリシア姫のために用意させて頂きました魔法陣ととある魔獣の力がある魔武器になります。ふふ、アルバスト軍も驚くでしょうね。自国の姫が異形へと変身して襲って来るのですから」
「なっ!? まさか、あれを!」
「ええ、普通には使ってくれないでしょうから、無理矢理使わせて頂きます」
ニタリと笑みを浮かべるアタランタ将軍。私は震えが止まりませんでした。戦場で死ぬには構いません。今まで覚悟を持って生きてきましたから。
しかし、人間としてではなく魔獣として、しかも私の大切な国民を殺す化け物になんて絶対になりたくありません!
「くくくっ、良い表情ですよ、パトリシア姫。まだ、この魔法陣を発動するまで時間があります。それまで人間としての最後の時間を楽しんで下さい」
アタランタ将軍はそれだけ言うと部屋から出て行きました。私はその後ろ姿を震えながら見ている事しか出来ませんでした……。
「申し訳ございません、アルノード子爵、オスティーン男爵。我々が不甲斐ないばかりに……」
俺たちの前に座る男、ローデンさんは悔し涙を浮かべながらぽつぽつと砦で起きた事を話してくれた。
今俺たちがいるのは、前の戦争の時まで利用していたアルバストとブリタリスの国境の砦だ。無茶をしたが、なんとか夜までに戻ってこられた俺たちは、早速情報交換をし始めたのだ。
休ませたいのは山々なのだが、何より現状がわからない事には対策が取れない。ローデンさんや他の将には申し訳ないが付き合ってもらう事にした。
「パトリシア王女の安否もわからないんですよね?」
「はい、我々は逃げる事が精一杯で……」
パトリシア王女の生死は不明か。アルバストと有利に交渉をしたいのなら生かしているはずだが。だけど、ローデンさんの話に出て来た獣人兵ってのが気になる。
話からしてトルネスでアルフレッドやミネルバが使わされた魔武器と同じものだろう。
「わかった、今日はもう休むといい。明日からはまた働いてもらわぬといけぬからな。他の皆も休むといい。見張りだけしっかりと立てておくのだ」
「……はっ、失礼いたします」
「はっ!」
オスティーン男爵の号令で、ローデンさんを始めたした助け出した将たちに、連れて来た将たちも部屋を出る。部屋に残ったのは俺とオスティーン男爵のみ。
「ふぅ、予想以上に厳しい戦いになりそうですな」
「そうですね。援軍が間に合えば良いのですが」
「しかし、アルノード子爵は良かったのですかな?」
「ん? 何がでしょうか?」
「出産の事ですよ」
……ああ、その事か。初めは物凄く迷ったんだけどな。ああ言われたら行くしか無いだろ。
◇◇◇
「うむぅ、誰か良いか」
誰を将軍として送るかに迷う国王陛下。レイブン将軍などはこれから軍の準備あるため選ぶ事は出来ない。その上、軍の中ばかりから将を選ぶと貴族が煩いってのもあるからな。
そう思い見ていると、
「私が行きましょう」
と、オスティーン男爵が一歩前に出る。その事に周りの貴族はおおっ! と歓声をあげる。貴族たちは好き好きに「オスティーン男爵なら安心だ」や「鬼軍曹が出てくれるのか!」とか言い出す。
だけど、その後ろで悲しげな表情をする夫人とアレスには気が付いていない。
「そうか! オスティーン男爵が行ってくれるか!」
「はっ、我が力の全てを賭けて任務を全うさせていただきます!」
オスティーン男爵の言葉に再び歓声が湧き上がる。その光景を見ていると、後ろから俺の袖が引っ張られる感覚がある。振り返ると、ヴィクトリアが俺の袖を引っ張り、その隣でヘレネーが何故か怒った顔をしていた。俺が2人を見ていると
「レディウスは行かないのですか?」
と、聞いてきた。そしてヘレネーが物凄い剣幕で
「もしかして、私たちの事を気にしているんじゃ無いでしょうね!?」
と、言ってくる。そりゃあ、気にもするだろう。俺の大事な妻たちにお腹の中には大事な子供がいるんだから。そんな事を考えているのがわかるのか、更に怖い顔をするヘレネー。こ、怖いって。
「もし、私たちの事を気にして行かないなんて言うんだったら許さないわよ!」
「落ち着いてください、ヘレネー。でも、ヘレネーの言う通りです。私たちはレディウスの足枷にはなりたくありません。それに、レディウスに頼って生きていくだけの女にもなりたくありません。だから、私たちの事は気にしないで下さい」
2人とも真剣な表情で俺を見てくる……そこまで言われたら俺も覚悟を決めなきゃな。
俺が2人に頷くと、ようやく2人も笑顔になってくれた。そのまま俺は国王陛下の方を見て一歩出る。当然他の貴族たちより前に出れば目立つ。俺はそのまま
「国王陛下、私も出陣いたします。オスティーン男爵の補佐を致しましょう」
こうなったら、何としても勝って早く帰ってくるだけだ。
◇◇◇
「2人にあそこまで言われたら参加しないわけにはいきませんよ。もしかしたら出産に立ち会えないかもしれないし、会えないのも寂しいですが、奴らが攻めてきたせいで安心して出産出来ないのも困りますからね。この戦争を勝利で終わらせたいところです」
「確かに。そのためには明日以降の事を考えねばならぬ」
オスティーン男爵の言葉に俺も頷く。現在の兵の数は今日助けた分を合わせて1万5千。元々この砦にいたのが1万で、オスティーン男爵指示の元やって来た俺たちが3千、今日助けたのが2千ちょっとになる。
敵の数は4万と少しになるとローデンさんから聞いているが、その中には例の獣人部隊とやらがいる。数はそこまで多くはないらしいが、ここぞという時に投入されるだろう。
王都から援軍が来るまでおおよそではあるが、残り1週間ほど。それまで耐えるだけではなく、奴らに打撃を与えたいところだけどな。
◇◇◇
「……うぅっ、こ……こは……?」
私は定まらない焦点で周りを見ます。暗がりの部屋のようですね。どうやら私は生きているようです。しかし、体を動かす事が出来ません。どうやら何かで縛られているようです。
「目が覚めましたかな?」
縛られたままその部屋の中を見ていたら、部屋に男が入って来ました。アタランタ・クリムフォード。まさか『死神将軍』に捕まるとは。
「これはこれは、パトリシア姫、お加減は如何ですかな?」
「あなたの顔を見て最悪になりましたよ」
私が吐き捨てるように言いますが、アタランタ将軍はヘラヘラと笑ったままです。本当に君の悪い男ですね。
「まあ、いいでしょう。それより、下を見て下さい」
下? 下に何が……これは?
「それは、パトリシア姫のために用意させて頂きました魔法陣ととある魔獣の力がある魔武器になります。ふふ、アルバスト軍も驚くでしょうね。自国の姫が異形へと変身して襲って来るのですから」
「なっ!? まさか、あれを!」
「ええ、普通には使ってくれないでしょうから、無理矢理使わせて頂きます」
ニタリと笑みを浮かべるアタランタ将軍。私は震えが止まりませんでした。戦場で死ぬには構いません。今まで覚悟を持って生きてきましたから。
しかし、人間としてではなく魔獣として、しかも私の大切な国民を殺す化け物になんて絶対になりたくありません!
「くくくっ、良い表情ですよ、パトリシア姫。まだ、この魔法陣を発動するまで時間があります。それまで人間としての最後の時間を楽しんで下さい」
アタランタ将軍はそれだけ言うと部屋から出て行きました。私はその後ろ姿を震えながら見ている事しか出来ませんでした……。
コメント
ペンギン
個人的に出来れば...レディウスに助けて欲しい...いいのかは分からないけれど...